人気ポッドキャスト番組「Off Topic」と考える、これからのワークスタイル
米国を中心としたテックニュースやビジネストレンドを発信するポッドキャスト番組「Off Topic」を運営する宮武徹郎さん・草野美木さんと共に、最新事例を交えながら新しい時代の働き方を考える
2020年以降、多くの人たちがウイルス感染拡大防止という共通の目的を持ち、新たな働き方を実践してきた。オフィス通勤を控えて自宅で仕事をしたり、オンラインの会議システムやチャットツールを駆使して離れた場所にいる人と協業したり…。そんな日常を経て、いま社会はコロナ後に向けた動きが活発化している。コロナ禍で従来とは異なる働き方を経験した私たちは、その学びを今後の世界でどう活かすと良いのだろうか。
そこで今回話をうかがったのは、米国の最新テックニュースやスタートアップ、ビジネス情報などを解説するポッドキャスト番組「Off Topic」の宮武徹郎さんと草野美木さん。お二人をリクルートが新たなオフィス・ワークスタイルの実験場と位置付ける東京 九段坂上KSビルオフィスにお招きし、米国企業の事例やお二人自身のワークスタイルについてもお話いただきながら、これからの働き方について考えた。
アメリカでも企業によって対応は様々。まだ誰も正解は見えていない
―― はじめに、コロナ後の暮らしが先行しているアメリカの状況について教えてください。アメリカではコロナに関連した制限が解除されるに従って、GoogleやAppleのように一定の出社を義務付けるようなオフィス回帰の動きも表れています。自由な働き方は見直されつつあるのでしょうか。
宮武 一概にそうとは言い切れないと思います。もちろん、電気自動車を作るテスラのように物理的なモノを扱う会社の場合は、人が同じ場所に集まって働く明確な必然性がある。出社を義務付けるのはやむを得ない事情があります。それに比べてソフトサービスを扱う業種は様々な働き方が可能。とはいえ、何がベストかはまだ誰も正解が見えていないのが現状ではないでしょうか。
例えば、今はリアルとオンラインが共存する「ハイブリッドワーク」の動きが活発ですが、目的に応じた使い分けや環境の整備はまだこれから。また、リモートワークで生産性は上がったとしても、同僚とのコミュニケーションが減ったことで孤独を感じる人が増え、メンタルヘルスのリスクが上がっている可能性を指摘する声もあります。アメリカでもまだ成功事例と呼べるほどの成果は出てきておらず、「各社がいろんなワークスタイルを試している」のが実態と言えるかもしれません。
―― 働き方に関して、お二人が注目している企業の取り組みはありますか。
草野 私が気になっているのは、Airbnbの新しい働き方。働く場所や居住地を自由に選択でき、1ヶ国で年間最大90日間は旅先で生活をしながら仕事をすることも可能になるそうです。この働き方は、Airbnbの企業ビジョンやサービスとも非常にマッチしており、彼らが世の中で実現したいことを従業員が実践するという動きにすごく納得感がありました。一方で、同社は従業員同士が同じ場所で働く機会も必要だと述べており、新しい働き方と対面コミュニケーションをどう両立していくかに注目しています。
宮武 Salesforceでは、リモートワークを前提とした働き方を継続する上で、従業員のオンボーディングやメンタルヘルスケアを目的とした、新しい施設をオフィスとは別に設けています。普段離れた場所で働くチームメンバーの関係性を深めることを目的に、わざわざ特別な場所をつくったのが面白いなと思いました。
―― 個人はこれからの働き方をどう考えているのでしょうか。
宮武 ロックダウンによって家で長い時間を過ごし、働き方を見直す人が増えています。よりプライベートを重視するようになった人もいますし、サイドビジネスとしてYouTubeやTikTok、Instagramのようなクリエイターエコノミーを始め、キャリアの軸足をシフトした人も。そんな風に会社以外の時間を大切にする人ほど、リモートワークを好んでいますね。
複数の仕事をする上では、働く時間や場所の自由度が高いほど有利ですから。また、特にスタートアップで働く人にとっては、一つの会社に所属するよりも、プロジェクト単位で複数のビジネスに参画するような働き方の人が増えた印象があります。
草野 投資に例えるなら、バランスのよいポートフォリオを組んでリスク分散をするような考え方ですよね。ここまで社会が激しく変化した不安定な時代だからなのかもしれません。一つの会社だけに自分のリソースを100%割くことはリスクだと捉える人が増えていることも、これからの働き方の動向に影響するかもしれませんね。
オフィスから解放されると、ビジネスはより柔軟になるかもしれない
―― お二人自身の働き方についても教えてください。ポッドキャストの番組内で、「Off Topicは基本的にフルリモートで運営している」とお話されていました。どうしてこのスタイルなのですか。
宮武 Off Topicはコロナ禍に法人化したため、2人ともすでにリモートワークが当たり前になっていて、わざわざオフィスを必要としていなかったんですよね。それに、スタートアップにとってオフィス賃料は負担が重いですから。オフィスにコストをかけなくても良いのは、立ち上げたばかりの会社にとって大きなメリットです。
草野 ポッドキャストをつくる上でもリモートってメリットがあるんですよ。別々に音声を録音した方が、一本のマイクで収録するよりもあとで編集しやすいんです。一ヶ所に集まった方がコミュニケーションは取りやすいんですけど、収録場所の確保や機材セッティングの手間もかかりますし、オンラインで実施した方が断然便利ですね。
―― リモートワークをしていて困ること、デメリットを感じることはありますか。
宮武 一般的にもよく言われることですが、カジュアルな会話は圧倒的に減りました。業務上の必然性がないとコミュニケーションを取らないので、雑談や世間話がないんですよね。でも、そうした他愛もない話の中から、斬新なアイデアが生まれることもあるじゃないですか。セレンディピティ(偶然の産物)がなくなるのはリモートワークのデメリットだと感じます。
草野 私もそう思います。だから、意図的に雑談するためのミーティングを設定したことがあるんですよ。でも、わざわざ時間をつくって集まると、いつの間にか雑談レベルの話ではなく業務の進捗報告になってしまって…。もう少しゆるく、余白のあるコミュニケーションを生み出す工夫が必要だなとは思います。
―― 逆に、柔軟な働き方を活用してトライしてみたいことはありますか。
草野 Off Topicを運営していく上で、私たち2人が日本にいなければならない理由はあるんだろうかって思うんです。むしろ、アメリカのテックニュースやスタートアップのトレンドを扱うのだから、現地で暮らしたり一定期間滞在したりして、最新の情報に触れることも必要ですよね。あとは、Off Topicがより多様性のあるチームになるためにも、自由な働き方は重要だと思います。働く場所が限定されなければ、国境を越えていろんな人とチームになれますから。
宮武 草野さんが言うようにみんなが同じ国にいる必要はないですし、チームメンバーがもっと多様になれば、Off Topicのコンテンツは日本向けに留まらないかもしれないです。どこかにオフィスを構えていれば、オフィスのある地域を中心にサービスを考えがちですが、私たちはオフィスを持たず働く場所も自由だからこそ、地理的な制約に縛られず海外を視野に入れた発想にもなりやすい側面はあると思います。
働き方・評価制度・企業カルチャーの切っても切れない関係
―― 日本のリモートワーク実施率は、最新の調査で16.2%(注:公益財団法人 日本生産性本部・2022年7月実施)。働き方の柔軟性はさほど高まっていない様子がうかがえます。この現状をどう感じますか。
宮武 日本でリモートワークが進まないのは、ある程度は仕方のないことだと思っています。というのも、働き方というテーマには文化や人事制度が密接に関わっているからです。例えばリモートワークになると、仕事のプロセスが見えづらいため、必然的にアウトプットで従業員を評価する「成果主義」の色が強くなります。しかし日本企業は、成果だけでなく勤務態度や仕事に取り組む姿勢を重んじる傾向が強い。日本型の評価制度を前提にしてリモートワークをすると、不具合を感じるケースが多いから浸透しづらいのだと思います。
また、リモートワークには世界中から優秀な人材を募れるという大きなメリットがありますが、日本ではこの利点を上手く活用しきれていません。なぜなら、人口の98%が日本人というこの国において、言語や文化が非常に高いハードルになっているから。英語圏と比較するとグローバルに人材を採用しにくい事情があることも、リモートワークが加速しづらい一因のように感じます。
―― 単に働き方を変えようとしても上手くいかず、評価制度やカルチャーとセットで考える必要があるのかもしれませんね。
草野 特にカルチャーが働き方に影響している部分は大きいと感じます。上司が率先して新しい働き方にチャレンジする人であれば、自分もやってみようと思える。制度としては可能でも、自分一人では上司や同僚の反応が気になって踏み出しづらいのが日本のカルチャーですよね。失敗しても良いからやってみようと、上の人が率先したり声をかけたりしてくれることが重要な気がします。
宮武 トップダウンでカルチャーをつくる・変えていくのは、アメリカのスタートアップでも非常に重視していることです。そもそもアメリカは雇用の流動性が高いので、優秀な人材にとって働きやすく魅力的な会社にしていくことを、経営上の重要事項だと捉えている人が多いですね。
草野 私が面白いと思ったトップダウンでカルチャーをつくる手法は、「トップが組織向けにポッドキャスト番組をつくり、メンバーからの質問に回答する」というもの。遊び心があるし、自分がぶつけた質問に上司がちゃんと答えてくれることでメンバーの意欲も上がる良さがあると思いました。
―― お2人の主戦場でもあるポッドキャストは、社内の関係性向上にも活用できる、と。
宮武 従来のメールマガジンのようなテキストコミュニケ―ションには、受け手が情報を素早くインプットできる良さがあると思います。一方で、ポッドキャストや動画は人となりや温度感を伝えやすく、親近感が湧きますよね。これは社長や経営陣だけでなく、社内の全員で活用できますよ。
例えば各自が自己紹介の音声や動画を録っておき、従業員同士アクセスできるようにしておけば、リモートワークが前提の環境に入社する人でも、同僚たちのことがよりリアルに感じられて安心できると思いませんか。そんな風に会社の仕組みやカルチャーを変えていくことで、多様な働き方は少しずつ広がっていくのかもしれません。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 宮武徹郎(みやたけ・てつろう)
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バブソン大学卒。事業会社の投資部門で主に北米スタートアップ投資に従事。Off Topic株式会社を2021年に立ち上げ、コンテンツ制作などを担当。
- 草野美木(くさの・みき)
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東京都出身。慶應義塾大学在学中にスタートアップに興味を持ち、オフィス訪問ブログをスタート。その後、新卒でベンチャーキャピタルに入社。現在、米国スタートアップやビジネストレンドを発信するメディア『Off Topic』を運営。またD2Cやリテールテックを発信するメディア『CEREAL TALK』もスタートする。