Air ビジネスツールズ統括プロデューサーが語る、店舗型ビジネスのニューノーマル

Air ビジネスツールズ統括プロデューサーが語る、店舗型ビジネスのニューノーマル

文:森田 大理

新たな生活様式への移行は、中小店舗の商いをどう変えるのか。『Airレジ』『Airペイ』をはじめとする業務・経営支援サービス「Air ビジネスツールズ」の統括プロデューサーに、変化の兆しを聞く。

飲食、宿、美容、小売、観光など、人によるおもてなしを提供しているホスピタリティ産業は、2020年に大きな打撃を受けた業界のひとつだろう。緊急事態宣言下では多くの事業者で営業時間の短縮や休業を余儀なくされ、その後も3密を避けるための対策として店舗運営やサービスを変更せざる得ない場合も多い。

既存のビジネスモデルを続けるだけでは苦しい状況の中で、これら産業が持続・発展していくためには、何が必要なのだろうか。リクルートの業務・経営業務支援サービス「Airビジネスツールズ」統括プロデューサーの林裕大に、『Airレジ』『Airペイ』などで店舗を支援してきた立場から、ウィズコロナ・アフターコロナのヒントを聞いた。

店舗の煩雑な業務を減らすサービスへの問合せが、コロナ禍で急増

――まずは、「Air ビジネスツールズ」についてご紹介をお願いします。

「Air ビジネスツールズ」は、2013年11月にリリースした、0円でカンタンに使えるPOSレジアプリ『Airレジ』をはじめとする業務支援サービスの総称です。たとえば『Airレジ』であれば、日々の会計やレジ締め作業にかかっている時間を効率化。お店の決済サービスである『Airペイ』は、これひとつでクレジットカードや電子マネー・QR・ポイントなど35種(2020年9月現在)の決済手段に対応できるので、導入の手間はもちろん、スタッフ教育の時間も抑えられます。

このように、お店を運営するみなさんを悩ませる"煩わしい業務"を減らして、本来やりたいはずのサービスの質向上や、新商品開発などに集中していただこうというのが、「Air ビジネスツールズ」のサービスに共通する想い。「商うを、自由に。」をブランドビジョンとしています。

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「Air ビジネスツールズ]のサービス一覧

――新型コロナウィルスの感染拡大は「Air ビジネスツールズ」の顧客層である店舗型のビジネスにも大きく影響を与えたと言われています。提供するサービスにも影響がありましたか。

新しい生活様式を前提とした店舗運営が求められる中で、席数を間引いてソーシャルディスタンスを保つなど、「3密」対策や非接触へのニーズは高まりを見せています。

さまざまなお店で感染対策と経営改善双方に効果のある手立てを模索されており、手段のひとつとして「Air ビジネスツールズ」の問い合わせをいただくケースが急激に増加しました。

――具体的にはどのような問い合わせでしょうか。

多いのは、人との接触をできるだけ避けたいというニーズです。たとえば、現金の受け渡しを減らして、感染予防と作業の効率化をおこないたいというもの。「手渡しをしない運用をしているが、おつりをトレイに置いて渡すのはお客様に失礼な気がする。それならキャッシュレスの方がお互いに気持ちよく会計ができる」というお声もいただいており、おもてなしの観点でもキャッシュレスが好まれるようになったのは、大きな変化です。

また、飲食店のスタッフがオーダーを受ける際に使う『Airレジ ハンディ』が7月より提供を開始した「セルフオーダー」にも多くのお問い合わせをいただいています。これはお客様のスマホから直接料理やドリンクを注文していただくもので、もともとは2020年冬以降のリリースを計画していました。それが実証実験店舗などから、「なるべく接触しないで済むから、お客様の安心に繋がる」とご意見をいただき、一刻も早く提供を開始しようと7月に前倒してリリースしています。

アフターコロナは、ただ集客するのではなく集め方が問われる時代

――接触機会を減らしたいという世の中のニーズが、結果的に店舗業務のデジタル化を進めているのですね。他に新しい生活様式として変化の兆しを感じるものはありますか。

「店頭に行列をつくること」への感覚です。コロナ前であれば、順番待ちの列ができることは繁盛店の証だった側面もありました。しかし、今は密を避ける意味でこれまで以上にお客様が集中することを避けたいというニーズが高まっており、受付管理ができる『Airウェイト』や予約管理の『Airリザーブ』で来店タイミングや来店客数をコントロール・分散させたいという問い合わせが増えています。

特に『Airウェイト』は、お客様のスマホでオンラインで受付でき、お店にいなくても待ち状況を確認できるという利便性から、飲食業やサービス業だけでなく、調剤薬局やクリニック、自治体の受付などにも導入が進んでいますね。幅広い業種でお使いいただいているのは、私たちの想定以上の広がりです。

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『Airウェイト』は受付管理アプリ。顧客は待ち状況を手元のスマホでも確認できるため、待合室の混雑や順番待ちの行列を解消できる。

また、ある老舗の銭湯では『Airレジ』で集計できる来店数のグラフをお客様に開示して、時間帯別の混雑状況の目安を紹介するというユニークな使い方をしている事例もあります。そもそも感染対策が必要かどうかに関わらず、順番待ちや混雑は来店されるお客様にとっては不満の種ですから。デジタルの活用によってお客様をお待たせしないようにしたり、混雑を解消するのが、今後のスタンダードになっていくかもしれません。

――これからはただお客様に来てもらうのではなく、受付や集客の工夫によって、いかにスムーズな体験を実現するかが問われるということですね。

そうです。逆に考えると、これまでのやり方が機会損失になっていたかもしれないと見直す時代に来ているとも言えるでしょう。というのも、さきほどご紹介したお客様がスマホで料理を注文する「セルフオーダー」の検証をした際、ほとんどの店舗で客単価が上がったんです。詳しくデータを見てみると、スタッフが注文を受けるよりもオーダー回数が増えており、なかでもドリンクの注文が増加していました。

実際に居酒屋などで注文するシーンを思い浮かべてもらえると分かりやすいのですが、「あと一杯だけ飲もう」と思っても、スタッフが近くにいなかったり、少し待ち時間ができてしまううちに、「やっぱりもう帰ろうか」とお開きになった経験はないですか。

これはお店側からすれば大きな機会損失。従来の店舗オペレーションによってはお客様が欲しいと思った瞬間を逃していた可能性があります。感染予防やコストの抑制だけでなく売上アップも期待できるとしたら、コロナをきっかけにこの業界のデジタルトランスフォーメーションは更に加速するのではないでしょうか。

事前予約・決済、テイクアウトなど、店外での体験価値を高められるか

――4~5月の緊急事態宣言中と比べれば、街中には人がかなり増えてきていますよね。今後、店舗運営はどうなっていくのでしょうか。

たしかに人の動きは戻りつつありますが、かつての賑わいにはまだ届いていませんし、お客様もできる限りの感染予防をしながら来店する人がほとんどです。お客様が安心・安全を求めている以上、3密対策やスタッフの健康管理、お客様の入店制限など、引き続き万全の対策をしていくことが大前提であることは変わらないでしょう。

また、売上が100%には戻ってない以上、減少分をどう補っていくかは喫緊の課題。テイクアウトをはじめる飲食店が増えたことを筆頭に、調理前の食材を販売する飲食店や、ECサイトをスタートさせた小売店など、新たなサービスにも挑戦していくのが一つの流れになっています。

――新しい生活様式への移行によって、接客のあり方や店舗での過ごし方もかなり変わっていきそうですね。

少なくとも、「お客様をたくさん集めて、スタッフが人海戦術でべた付きの接客をする」ようなスタイルは好まれないでしょう。そうなると、必然的にスタッフがお客様に商品・サービスをおすすめする機会が減ってしまいます。また、入店数が制限され、来店に事前予約が必要な現状では、お客様も気軽なウィンドウショッピングがしづらい。「ついで買い」や「ながら買い」が少なくなり、明確な目的を持って来店する人が増えるはずです。

洋服を買うことにたとえるなら、これまでは複数のお店を見てまわってお気に入りの一着を見つけていたのが、これからはオンラインで比較検討をしてあたりをつけ、試着のために店舗へ行くような購買行動の変化が起こる。でもこれは、コロナをきっかけにはじまったのではなく、以前から徐々に起きていた変化です。従来からO2Oやオムニチャネルと言われていた変化がさらに加速するのではないでしょうか。

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このインタビューは、密を避ける目的でリモートにて実施した。

――たしかに、ファストフード店などでも来店前に注文・決済まで行えるモバイルオーダーの導入が進んでいますよね。そう考えると、店内のサービス品質だけでなく、お店の外での接点づくりや体験価値の向上が大切な時代になるのかもしれませんね。

それは店舗型ビジネスが進化していく新たな可能性が期待できる一方で、お店としてはやるべきこと・考えるべきことが増えてしまう側面もあります。だからこそ、これまで以上に煩雑な業務は効率化していく必要がある。たとえば飲食店なら、店内飲食だけでなく持ち帰り、モバイルオーダー、宅配サービス...と入り乱れてオーダーされる注文にどうやってミスなく対応するか。おまけにイートインとテイクアウトでは消費税の税率も変わり、会計も煩雑になりますから。

そういう意味でも「Air ビジネスツールズ」は店舗の業務をシンプル・カンタン・スマートにしていきたい。特に中小事業者ほど人力でアナログなオペレーションが残っていますから、ニューノーマルへ移行していくうえでは、いかに業務を効率化して、その分のリソースを新たな価値づくりに充てるかが鍵になると思います。そうした変化を推し進めるには、やらなければならないことが膨大に存在する。私たちも、これからまだまだ挑戦を続けていきます。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

林 裕大(はやし・ゆうだい)

株式会社リクルート SaaS領域プロダクトマネジメント室 Airプロダクトマネジメントユニット ユニット長 「Air ビジネスツールズ」プロデューサー
2006年、株式会社リクルートホールディングスに新卒入社。株式会社リクルートライフスタイル『ホットペッパーグルメ』に配属となり、札幌営業を担当。 2011 年にネットビジネス本部に異動し、新規事業や UX などを担当したのち、 2017 年 4 月より Air 事業ユニットに移籍 。

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