「多様性」はサービスの形をどう変える?ゼクシィ×ホットペッパービューティー対談

「多様性」はサービスの形をどう変える?ゼクシィ×ホットペッパービューティー対談

文:森田 大理 写真:須古 恵 (写真は左から平山、千葉)

『ゼクシィ』編集部長 平山彩子と、『ホットペッパービューティーアカデミー』アカデミー長 千葉智之が語る、多様性の時代。十人十色のニーズに、サービスの担い手はどう応えていくべきか。

過去10年を振り返ってみると、それ以前と比較しても多様な価値観・志向が尊重される方向へ社会は大きく動いている。2016年の女性活躍推進法施行、2018年の働き方改革関連法成立など法整備も後押しして、働く時間や場所に制約があっても仕事が続けられる選択肢が広まった。また、ICT総研によれば、日本国内におけるSNS普及率は2019年には78.2%にのぼるなど、個人が気軽に意見を発信するのは当たり前になり、さまざまな価値観を知る機会も圧倒的に増えた。

画一的な価値観を強いられず、個が尊重される時代。それは喜ばしい反面、サービス提供者にとっては、千差万別のニーズを満たさねばならないという難しさも意味する。多様化する社会のなかで企業やビジネスパーソンは、どうこの"多様さ"と向き合うべきか。今回は、その問いをリクルートが有する2つの事業領域に投げかけた。『ゼクシィ』編集部長 平山彩子と『ホットペッパービューティーアカデミー』 アカデミー長の千葉智之の対談をお届けする。

2010年の常識は、もはや通用しなくなっている

──まずはそれぞれが今感じている時代の変化を教えてください。平山さんのブライダル業界はいかがでしょうか。

平山 目に見えて感じるのは、結婚式の形式が多種多様になってきたこと。その背景にあるのは"結婚観"の変化です。世の中の結婚に対する意識が変わっている。10年前は「結婚をすることが当たり前、それが幸せの大前提」という考え方がまだ色濃かったのに対し、「結婚することは幸せのための絶対条件ではなく、選択肢のひとつ」だと考える人がじわじわと増えてきた印象ですね。

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『ゼクシィ』編集部長 平山彩子

千葉 その意味では、『ゼクシィ』が2017年のCMで、「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」とメッセージしたのも時代を反映していましたよね。

平山 そうですね。あれは世の中がそうなってきたよねというムードを感じるなかで生まれたコピーです。幸せの形は人それぞれ。だからこそ、ふたりにとっての結婚の意味を式で表現したいカップルも増えています。

特徴的なのは、結婚式という一大イベントによってふたりが夫婦になると考えるのではなく、そこに至るまでの過程を大切にしていること。式の準備も花嫁任せにするのではなく、ふたりで一緒に進めていくプロセスが重要だと考えている。結婚や結婚式までの道のりで育まれる自分たちだけの"ストーリー"も大切にしているのも、結婚式が多様化している一因です。

──千葉さんの美容業界ではどのような変化を感じますか。

千葉 『ホットペッパービューティー』は、エステやリラクゼーション、ネイルなどさまざまな領域をカバーしていますが、領域によって市場構造が少しずつ異なるため、今日のこの場では一番市場規模が大きいヘアサロンにフォーカスしてお話しますね。ヘアサロンを取り巻く環境として大きな変化の象徴は、やはりスマートフォンとSNSの登場です。今は一人ひとりが自分のスマホでそれぞれが好きな情報を得ている時代。かつての"聖子ちゃんカット"のように、みんなが同じテレビ番組を観てアイドルの髪型に憧れるようなことは起こりにくいんです。

かわりに、SNSで共通の趣味趣向を持つ人たちがつながることで、そのコミュニティの中でブームが起きたり、人気店が生まれたりしている。小さな流行の山が無数にあるような市場環境に変わってきています。

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『ホットペッパービューティーアカデミー』アカデミー長 千葉智之

平山 一時期、"カリスマ美容師"がブームになりましたよね。こういったブームもSNS時代より前の動きなんでしょうか?

千葉 カリスマ美容師は2000年代頃の話ですね。これも今の話と同じ構造で、当時の美容師は、テレビや雑誌に取り上げられることで人気に火がついていたんですよ。でも、今人気がある美容師は、やっぱりSNS。今のカスタマー心理は「多くの人が知る有名な美容師」に髪を切ってもらいたいのではなく、「自分の好みに合う人」に出会いたい。だからこそ、現代の美のカリスマたちがSNSに比重を置いているのは、当然の流れなんです。

サービスそのものだけでなく、周辺にどこまで目を配れるか

──カスタマーニーズが多様化すると、それだけ幅広いサービスが求められますよね。結婚式場やヘアサロンはどう対応しているのでしょうか。

平山 結婚式場の場合、「いくつかのプランを提示して、その中から選ぶ」という従来のやり方ではカスタマーの期待に応えきれないケースが増えています。今のカップルはネットで事前に情報収集ができるので、結婚式に対するそれぞれの理想を持ってディテールまでこだわる人や、イチからオリジナルの式をつくりあげたいと考える人も珍しくなくなってきました。だから、ウェディングプランナーもその想いに寄り添えないといけない。「式を素敵に具現化する人」から、「ふたりにとっての結婚の意味や結婚式の意義を一緒に言葉にして、テーマやコンセプトから考える人」へと役割が変わってきています。

千葉 ヘアサロンの場合は、もともとお客様にあわせてスタイリングするフルオーダーメイドが基本なので、美容師の仕事が大きく変化したという印象ではありません。でも、ニーズが細分化したことでより顕著になったのは、カスタマーがお店ではなく美容師個人に付くこと。これは先ほどのSNSの影響も大きいですね。

美容師は全国に50万人いると言われており、主なサービスは「カット」「カラー」「パーマ」の3つですから、実は差別化が難しくコモディティ化しやすいんです。だからこそ、人気の美容師はSNSで自分の個性や特色を発信して、そこに共感してくれるカスタマーをファン化している。その意味で、いかに来店前からカスタマーとつながれるか、魅力を発信できるかが重要になってきていますね。

平山 たしかに、今の時代の"つながり方"をちゃんと意識しないといけないですよね。私が思うに、SNSで美容師さんを新たに知るきっかけって「インスタグラムでフォローしている人が髪を切ってもらっている」だと思うんですよ。女優やモデルが通う店に行くのは敷居が高いけれど、"インスタで憧れている一般の人"がお願いしている美容師さんだったら、「私もあの人みたいになれるかな」と行ってみたくなるなと。

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千葉 まさしくその通り。だから、SNSの発信が上手い美容師は自分のアカウントで宣伝するのはもちろん、お客さんが写真を投稿しやすいように工夫をするなど上手く巻き込んでいるんです。髪を切ること以外のことにどれだけ目を配れるかが大切になってきていますね。

──では、『ゼクシィ』や『ホットペッパービューティー』はこのようなマーケット変化にどう向き合っているのでしょうか。

千葉 たとえば、SNSでリーチしたカスタマーを、実際の来店までつなげること。私たちがサロン向けに提供している予約管理システム『SALON BOARD』は、『ホットペッパービューティー』のネット予約機能と連携しています。そのため、この機能を上手く使っているサロンでは、SNSの投稿に「予約はこちら」と『ホットペッパービューティー』をリンクさせ、集客から予約受付までの業務を効率化しているんです。こんな風に、周辺業務の改善につながるような支援を通して、本業に集中しやすい環境をつくっていますね。

また、私がアカデミー長を務める『ホットペッパービューティーアカデミー』の設立もそのひとつです。美容師は独立・開業を目指す人が多いのに対し、経営について学ぶ機会がとても少ないんです。手薄になりがちな部分を私たちがサポートして、美容師のみなさんが一人ひとりのお客様にしっかり向き合えるようになれば、美容師のみなさんのためになることはもちろん、様々なカスタマーニーズを満たすことにもつながると考えています。

平山 ブライダル領域でも企業に向けた業務支援は戦略のひとつ。ウェディングプランナーの難易度が上がっている分、提案をサポートするツールの導入検討やスキルアップを支援する取り組みなどが広がっています。加えて、カスタマーに向けては様々な結婚式のバリエーションを提示するのはもちろん、今のカップルの結婚観にあわせて、結婚そのものについて考えるようなコンテンツを意識していますね。

『ゼクシィ』のヒットコンテンツとして度々話題になっているオリジナルデザインの婚姻届は、まさしくこの方針に基づいて企画したもの。また、結婚式をつくる過程を大切にしているのが今のカップルの特徴ですから、準備に役立つコンテンツも重視しています。結婚式の形から入るのではなく、その前のプロセスを充実させることで、ふたりらしい結婚式にしてほしいという考えですね。

千葉 「前のプロセス」と言えば、『ゼクシィ』ブランドでは婚活サービス『ゼクシィ縁結び』も手掛けていますよね。「出会い」の価値観も多様化しているのではないですか。

平山 たしかにマッチングアプリがきっかけというカップルは珍しくなくなっている一方、オンラインで出会えるからこそ直接会うことのハードルが上がっている、という方もいます。まずは会って話をしたいというニーズもあれば、オンラインでじっくりお互いのことを知ってから会いたいという人もいる。そうしたニーズにサービスとしてどう応えていくかもこれからの大切な観点ですね。

豊富な選択肢がある時代には、最後に背中を押してあげる存在も必要

──この10年の変化を踏まえ、今後のマーケットはどうなっていきそうでしょうか。

千葉 どんなにテクノロジーが発達しても、美容は直接会って人に施すサービス。むしろ、多くのコミュニケーションがオンラインに置き換わるなかで、リアルな接点を持つことが価値として際立ってくるはずです。すると、カスタマーとの関係性がこれまで以上に深くなり、ブライダル業界のウェディングプランナーと同じように、徐々に美容師の立ち位置も変わってくるのかもしれません。

単に美容師としての技術だけではなく、SNSでの発信によって、その人の服やライフスタイル、発信内容や交友関係まで可視化されるし、価値になりうる。例えるなら、「髪を切る人」から「最も身近に憧れられるオシャレなお兄さん・お姉さん」へ。ライフスタイルコーディネーターのような役割を期待される世界に近づいていく気がします。

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平山 まさに今感じるのは、自分にとっての「大切な人の範囲」が多様になっていること。従来、結婚式の招待客と言えば「親族・会社・(学生時代からの)友人」が定番でしたが、最近はこの常識が変わりつつあります。たとえば、本名を知らない人ばかりが集まる披露宴が行われたこともあるんです。オンラインで知り合ったご夫婦の結婚式だったのですが、参列したのは全員オンライン上の知り合いで、席次表や席札もすべてハンドルネームを表記。かなりユニークな事例かもしれませんが、「大切な人」の概念や捉え方が変化していることを象徴するようなエピソードでした。

奇しくも今、私たちは新型コロナウイルスの影響で簡単には人に会えない日常を過ごしていますが、これを契機に人間関係を見直す動きは加速し、「誰を結婚式に呼びたいか」をより柔軟に考えるカップルが増えていくはず。結婚式は社会に向けたお披露目という公的な意味よりも、プライベートな側面が重視されるようになり、それによってますます結婚式の形も多様になると思います。

──マーケットが更に複雑になっていく未来において、これからのリクルートに何が必要だと思いますか。

千葉 美容師の役割が高度化・複雑化していくのだとすれば、「これってどう対応したらいい?」と様々な疑問・悩みにぶつかるケースが益々増えていくのだと思います。『ホットペッパービューティーアカデミー』では動画セミナーや参加型セミナーなどを通して学びを提供しており、サロン経営のあらゆる疑問にお答えできるような存在を目指しています。「困ったときにはここにくれば大体のことは解決できる」と感じられるような存在がいれば、サロンのみなさんも安心して前に進めるのではないでしょうか。

平山 選択肢が昔よりも広がり、カスタマーそれぞれが自分に合ったものを選べる自由度が上がることは喜ばしい反面、「これで本当に良いのかな」と不安になっているカスタマーもいらっしゃいます。ネットの口コミやSNSで膨大な情報を収集できる時代、私たち『ゼクシィ』のようなメディアに求められるのは、キラキラとした世界を紹介して夢を膨らませることだけでなく、「その選択で大丈夫だよ」と応援してあげられること。そっと背中を押すようなことかもしれません。

また、結婚に限らずどんなパートナーシップの形であっても、"大切な人とともに生きていく"ためのものであることは変わらないはず。だからこそ『ゼクシィ』はカスタマーそれぞれの生き方に寄り添える存在でありたいですね。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

千葉智之(ちば・ともゆき)

2005年リクルート入社。前職では、大手建設会社にて大規模プロジェクトを手掛ける。2006年より『ホットペッパービューティー』各事業部を歴任。戦略企画担当、アーバン美容2グループ、東名阪センターグループ責任者を経て、ホットペッパービューティーアカデミー設立に従事。2013年7月よりアカデミー長を務める。

平山彩子(ひらやま・あやこ)

2008年リクルート入社。結婚式情報誌『ゼクシィ』編集部へ配属。2013年よりゼクシィ本誌のデスク職へ異動。本誌制作取りまとめの他、『ゼクシィ』ブランドのPR・プロモーションを担当。2015年10月より『ゼクシィ』西日本エリア版編集長を経て、2016年より同誌首都圏版編集長を務める。2020年4月より現職。

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