配属関係なくスキルアップ!リクルートのナレッジ共有イベント『FORUM』
リクルートグループ横断で開催されるナレッジ共有イベント『FORUM』。リクルートのナレッジ共有文化の象徴ともいえるこのイベントは、動画としてアーカイブもされており、過去から現在までに公開された500件を超えるコンテンツを、いつでも誰でもどこでも学ぶことができる。ナレッジ創出の支援から共有の場づくりまでをプロデュースする島 雄輝に、FORUMで得られる機会を聞いた。
イノベーションには“CROSS”が必要。あらゆる制限を無くし、誰もが何もかも学べる場に
—リクルートグループ横断のナレッジ共有イベント『FORUM』ですが、そもそもどんな場なんでしょうか?
島:FORUMはナレッジ共有を大目的としたイベントです。よくある表彰式のような、受賞者が感謝のスピーチをする、という場ではありません。登壇者に語ってもらうのは、「どんなナレッジをどのように生み出したのか」。ストーリー仕立てでプレゼンをしてもらいます。
島:毎年約30案件の発表があり、それを聞いている審議員や社外ゲストの質疑応答、視聴している従業員同士の議論が行われます。その質疑応答や議論を通して、ナレッジの転用可能性がさまざまな事業へ広がっていき、一人ひとりのアイデアや能力が磨かれ、より社会に価値を還元できるようになっていくことを企図しています。経営側から見れば「戦略推進の見本市」ですし、従業員からすると日々の仕事に役立つ「スキルアップの場」として機能しているんです。
—従業員からすると、貴重なナレッジを学べるだけでなく、名前の通り「FORUM=公開討論」して刺激をもらう場なんですね。このイベントはいつから始まったんですか?
島:昔からリクルートには大小さまざまなナレッジ共有の場がありましたが、この形の原型が作られたのは2008年。営業職が担当事業や領域を超えてプレゼン形式でナレッジシェアを行う『TOPGUN AWARD』がルーツになります。職種の多様化も進み、15年からは、エンジニア職、経営スタッフ職、プロダクト担当・事業開発職も加え、『FORUM』として4部門制に拡大しました。約1万7000名の従業員のなかから、毎年各部門約10組が選出され、ベストプラクティスの裏側にあるナレッジをシェアしています。最近は「CROSS」をテーマに職種にこだわらず、あらゆる部門のナレッジを横断して共有するようになっています。
—私が営業でも、経営スタッフやエンジニアの発表を見ることができるんですか?
島:そうです。多様な考えや能力を持った人が混ざり合うことでイノベーションが生まれると考え、職種による視聴制限をなくし、領域の垣根を越えられるような場に仕立てています。例えば、リクルートの経営スタッフによって生み出されたベストプラクティスを営業が見ていれば、お客様の経営課題解決のお手伝いができますよね。逆にエンジニアは普段接することの少ない領域のお客様の課題をより深く知ることにより、新しいソリューションを提案できるかもしれない、などです。
—どの部署に配属になったとしてもベストプラクティスを知る機会があることで自分の成長にもつながりそうですね。コロナ禍以降はイベントの在り方なども変化したと思うのですが、どのように変わったのでしょうか?
島:コロナ禍をきっかけにリアルイベントをオンラインに切り替え、いつでもどこでも視聴できる形になりました。2022年5月には「FORUM WEEK」という4日間の配信イベントとして開催したのですが、自由参加のイベントでありながら、2022年の視聴数は13,000を記録。リアルな場としての開催だと、どうしても会場キャパシティに限界があり、参加人数も限られていましたからより多くの従業員に機会を提供できるようになりました。オンラインで見た時に見やすい映像を心掛けて設計しており、プレゼンテーションは全てアーカイブ配信もしているため、好きな時に過去のナレッジも遡って視聴することができます。
ナレッジは賞味期限の長い、考え方の武器。でも、独り占めするのは“格好悪い”
—そもそもナレッジとは何だと考えていますか? いわゆるノウハウとは違うのでしょうか?
島:そうですね、私はノウハウとは同職種や同じ事業など領域ですぐに使えるものと位置づけています。高い即効性の反面、その効果の範囲や賞味期限は限られがちです。一方でナレッジはその限りではなく、事業特性に縛られず、長く使用できる“考え方の武器”です。グループや職種を横断しても使えるように昇華することにこだわっています。
—汎用性の高いナレッジを抽出したり、選んだりすることは一朝一夕では難しいと思うのですが、どのようなプロセスで最終の約30案件が決まるのでしょうか?
島:まず、各事業部で事業内の選抜が行われます。そこから事務局に毎年応募が約160件あります。部門ごとに社内外の審議員が侃侃諤諤の議論を経て30~40件が決定します。そこからがいよいよ「ナレッジ化」のスタート。このプロセスに私たち、リクルート経営コンピタンス研究所のメンバーが深く介在します。ナレッジの練度を上げるために徹底サポートしていくのですが、その際リクルートの長い歴史におけるナレッジとの相対感や事業をまたいだ横断性を鑑みる必要がありますね。そのために、審議会などの場で経営陣とも議論して、リクルートが今後どのような進化をしていくのかを見据えて、ナレッジ化のサポートをしていきます。経営陣・審議員も熱量を持って取り組んでくれていて、審議員によっては80本くらいのエントリーシートを読み込むことも…。それでも、会社の未来の価値創造につながるナレッジということもあり、多忙ながら本腰を入れて関わっています。
—ところで不思議なのは、従業員が自分から進んで秘密のナレッジを明かすことです。わざわざ言わなければ自分だけが突出した成果を出せるのに、なぜでしょうか?
島:それはナレッジを共有するほうが格好いい、という企業文化に尽きると思います。リクルートは個人成果主義なイメージを持たれることが多いですが、私の感覚としては、組織成果主義だと思います。高い業績を上げた個人は、翌年その人だけが再び高い成果を出すよりも、自分の成功パターンを横展開して翌年チーム全体の成果につなげている人のほうが称えられる。だから皆、ナレッジを生み出したら、ベストプラクティスを型化して再現性を高めよう、という思考回路になるんです。FORUMも仲間からの称賛の場として、ナレッジ創出をしたプレゼンターにきちんと光が当たり、見た人が「自分もいつかこの場に立ちたい」と思えるような場づくりに心を砕いています。
学びやすい・使いやすい・協働しやすい仕掛けとは?
—プレゼンテーションを見ると、「自分も何かやろう!」という気持ちが高まると思うのですが、ナレッジを実践に移すのは難しくないんでしょうか?
島:共有するナレッジはさまざまな事業に取り入れやすいよう、抽象化されているので実践にハードルを感じる人も少なからずいるかもしれません。なので、近年力を入れているのはアフタープログラムです。いくつかのプレゼンや過去のナレッジを含めて特定テーマとして編集し、社内でセミナーや研修を催しています。例えば「プロダクト領域におけるプロジェクトマネジメント」というスキルテーマを設定。多くのプロジェクトが長期化かつ複雑化する傾向にあるなかで、スピーディな価値提供方法について各ナレッジから要諦を抽出し、ひとつのオリジナルセミナーに仕立てています。「ナレッジは使ってなんぼ」なので支援は惜しみません。
— セミナーまであるとは手厚いですね。自分の仕事に活かそうと思うと、「実際どうやったんだろう?」と具体的なHowが知りたくなると思うのですが、皆さん登壇者に直接連絡するんですか?
島:それでも全然構わないのですが、登壇者に対して全体公開で質問ができるオンラインの「FORUM ROOM」という場があります。社内ツール上でチャネルを立ち上げており、誰でも参加でき、他の人の質問からも学べる場です。イベント当日に話されたプレゼンについてもう一段深く質問をすることで、事業横断の協働案件も生まれています。例えば、警備業界との協働ベストプラクティスの発表をした際、プレゼンターの語った新たなアイデアを聞いた総務の担当者が、すぐに「FORUM ROOM」で連絡を取り、翌々日にはリクルートのオフィスビルでその取り組みが実現しました。他にも発表内容に関する参考資料が共有されたり、個別のミーティングに発展したりと、様々な機会が生まれています。こうやって気軽に人を巻き込みやすくなったのは、オンラインが組み合わさった良さでもありますね。
—FORUMは学ぶだけではなく、自分次第でナレッジの実践や、人とのつながりにも発展する機会なんですね。今後はどうなっていくのでしょうか?
島:さまざまな領域でマッチングビジネスを展開するリクルートにとって、横断的に使えるナレッジを提供することで、素早く、異なる領域のクライアント企業やカスタマーにも新たな価値が届けられます。一方で変化の激しい環境なので、それぞれの事業や社会が5年後どうなるかは分からない。だからこそ、その時々のリクルートにとってベストなナレッジ共有、そして従業員への機会提供の在り方を見出せるよう、この仕組み自体を進化させていきたいと思います。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 島 雄輝(しま・ゆうき)
- 株式会社リクルート リクルート経営コンピタンス研究所 コンピタンスマネジメント推進部 部長
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大学卒業後リクルートに2007年入社。事業開発室の『R25』編集部に配属。10年株式会社Media Shakersに出向し『R25』関連メディアの立ち上げやプロモーションに携わり、『R25』編集長、メディアプランニング部長、営業部長、事業開発室長などを歴任。17年よりリクルート経営コンピタンス研究所に異動し、ナレッジマネジメントに携わる。兼業でインフォグラフィックメディアZUNNY代表を務める