パラスポーツを通して障がい者理解を広める活動『パラリング』。誰もが情熱を持ってチャレンジできる世界を目指して

パラスポーツを通して障がい者理解を広める活動『パラリング』。誰もが情熱を持ってチャレンジできる世界を目指して

リクルートでは、社会全体の障がい者理解を広めていくために『パラリング』という活動を行っています。パラスポーツのVR体験や講演会、学習のための教材提供などを通して社会にアプローチするこのプロジェクトは、どんな未来を描いているのでしょうか。『パラリング』を担当するサステナビリティ推進室の佐々木綾香と、パラアスリートとして活動し、パラリングの活動にも関わっているリクルートオフィスサポート社員の菅野浩二に、プロジェクトの道のりや今後の展望を聞きました。

情熱や好奇心を原動力に挑戦する、パラアスリートの姿に共鳴

『パラリング』を担当するサステナビリティ推進室の佐々木綾香
『パラリング』を担当するサステナビリティ推進室の佐々木綾香

― 『パラリング』とは、どのような活動なのでしょうか。

佐々木綾香(以下、佐々木):『パラリング』とは、パラスポーツを通して障がい者理解を広めていくためのリクルートの活動です。名称は「パラダイムシフト」と「リング」を掛け合わせた造語。社会全体で障がいの捉え方を変え、理解の輪を広げることで、障がいの有無に関わらず一人ひとりが活躍できる社会の実現を目指していこうというメッセージが込められています。

― なぜリクルートが障がい者理解を広げる取り組みを行っているのですか。

佐々木:リクルートが目指す世界観「Follow Your Heart」には、「一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生」というメッセージが込められています。それはつまり、多様な個人が尊重される世界。アプローチのひとつとして障がい者の理解促進に取り組むことは、経営理念にも通じるものだと捉えています。

― 「パラスポーツを通じた活動」という手法を取っているのはなぜですか。

佐々木:リクルートグループの特例子会社である、株式会社リクルートオフィスサポート(以下、ROS)には、今隣にいる菅野浩二さん(車いすテニスプレイヤー、東京2020パラリンピック 銅メダリスト)をはじめ、仕事と並行してパラスポーツに取り組むパラアスリートが所属しています。スポーツは多くの人にとってイメージしやすく、障がいのある方を身近に感じやすくなるのではないかと考えました。

また、もうひとつの理由は、パラアスリートがスポーツに情熱を傾けるなかで競技者としても人間的にも成長し、目標を実現していく姿が、リクルートが大切にしている価値観のひとつである「個の尊重(Bet on Passion)」と共通点があるからです。パラアスリートのみなさんを通じて、好奇心や情熱を原動力にチャレンジすることの素晴らしさを発信していくことは、リクルートの価値観を伝えることでもあると捉えています。

障がいの有無による“違い”よりも、“同じ”に気づいてほしい

― 具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか。

佐々木:もともとは、小中学校を対象にした出張授業や講演会、パラスポーツ体験会の開催などからスタートしています。ただ、パラアスリートをはじめとした講師を派遣する形だけでは、実施できる回数に限界があります。もっと気軽に、たくさんの人に機会を届けていきたい。そんな思いから踏み出した次なるチャレンジが、障がい者理解のための学校向け教材の製作です。ROSに在籍する社員の事例を交えて障がいのある人たちの日常やパラアスリートの生活を紹介し、誰もが暮らしやすい社会にするためのあり方を考えるコンテンツを提供しています。

また、教育という枠を超えてさらに多くの人に届けるために開発したのが、パラスポーツのVR動画。これは、新型コロナウイルス感染症の影響によって、予定していた講演会や体験会が行えなくなったことも影響しています。リアルイベントが実施できないなかで、オンラインならではの伝え方を模索した結果、アスリート視点で競技を疑似体験できる動画コンテンツを開発。動画はYouTubeでも公開しているため、VRスコープとスマートフォンがあれば誰でも手軽に閲覧でき、「講演会」と「教材」と共に『パラリング』の活動を象徴する三本柱となっています。

― 障がい者の理解を促進するうえで、リクルート流のこだわりはありますか。

佐々木:“違い”にフォーカスするのではなく、“同じ”に気づくようなコンテンツを心かけています。もちろん、"違い"を理解し、必要な配慮を考えることも大切なのですが、少なくとも「パラリング」の活動のなかでは、「障がいの有無に関係なく、私とあなたは同じところもある」という発見をして、障がいのある人に対する捉え方を変えるきっかけにしてほしいのです。

その意味で、パラアスリートのみなさんがスポーツに向き合う姿は、『パラリング』に参加してくださる方々が勉強や趣味、仕事などに夢中になっている姿と、何も変わらないんだと思ってもらえることを意識していますね。

― どれくらいの方々が『パラリング』を体験しているのでしょうか。

佐々木:学校や自治体から毎年100件弱のご依頼をいただいており、2023年度は年間約3,000人が授業や講演会に参加。VR動画は1年間で約7万人が視聴しています。特に学校では、「総合的な学習時間」の授業に取り入れてくださるケースが多いですね。「共生社会について学ぼう」といったテーマで教材や講演会のご要望をいただいています。

伝えたいのは、自分だけの夢や目標を持って人生を突き進む楽しさ

パラアスリートとして活動し、パラリングの活動にも関わっているリクルートグループ社員の菅野浩二
パラアスリートとして活動し、パラリングの活動にも関わっているリクルートグループ社員の菅野浩二

― ここからは、『パラリング』の講師を務める菅野さんにもお話を聞かせてください。講演では、どんな話をしているのですか。

菅野浩二(以下、菅野):自分の障がいのことや、車いすテニスを始めることになった経緯、競技者としての活動などについて話しています。そうした自分のストーリーを通じて子どもたちに一番伝えたいのは、夢に向かって挑戦を続けることの大切さですね。

私は子どもの頃はサッカー少年で、交通事故に遭うまではサッカー選手に憧れていたんです。けれど事故で夢が絶たれてからは、無難で安全な生き方をするように。それが、車いすテニスとの出会いによって段々と自分の生き方が変わっていきました。東京2020パラリンピックでメダルが獲ることができたのも、夢をあきらめずにチャレンジしたから。自分のなかにある情熱に従って行動することが、いろいろな機会や出会いを引き寄せてくれるはずだと話しています。

― 菅野さん自身は、やりたいこと(=スポーツ)に夢中になることで、どんな機会を得られたと感じていますか。

菅野:仕事だけをしていたら、住んでいる東京から出る機会もないし、職場の外の人と出会うこともほとんどなかったと思います。でも、パラアスリートとして活動をするようになったことで、試合で全国各地に行くようになり、日本中に知り合いが増えていきました。また、世界大会で海外にも遠征しますし、海外選手と対戦するのはもちろん、ダブルスで海外選手とペアを組んだこともあるんです。

もし車いすテニスに夢中になっていなかったら、はたまた世界を目指そうと向上心を持ってチャレンジしていなかったら、ここまで自分の世界が広がることはなかった。今はオンラインでも世界中とつながれる時代ですが、リアルに交流してきた友人たちが世界中にいるのは、スポーツで夢を叶えようとしたおかげです。

『パラリング』を担当するサステナビリティ推進室の佐々木綾香
『パラリング』を担当するサステナビリティ推進室の佐々木綾香

― 菅野さんのようにスポーツを通して自分の世界を広げていく姿は、同じような車いすユーザーだけでなく誰にとっても刺激になるし、まさしく「障がいの有無に拠らないこと」だと感じました。

佐々木:そうなんです。講演会中でもパラアスリートの経験談を聞くうちに会場の空気が徐々に変わっていくのを感じます。最初のうちは、自分とは違う特別な人の話だと一歩引いていた子どもたちが、「あれ? 好きなことに夢中になって頑張る気持ちは一緒かも」と目の色が変わっていくんです。

象徴的なのは、子どもたちの質問の中身も変わること。障がいについての質問ではなく、「部活や勉強をやりたくない気分のときは、どうやって乗り越えたらいいですか」といった質問が増えていきます。パラアスリートのことを同じ社会に生きるひとりの先輩として見て、フラットにアドバイスを求めているのだと感じました。

社内外の多様なプレイヤーと連携し、協働の輪を社会全体に広げたい

― 社会に障がい者理解を広げる上でこだわってきたこと、これからこだわりたいことを教えてください。

佐々木:参加された方々の意見を聞きながらプログラムやツールの改善にこだわってきました。例えば学校向けの教材。多忙な先生方の準備負担を少なくするために、ツールだけでなく指導案も一緒に提供するようになりました。

また、授業や講演会に参加した生徒・先生からは、「『パラリング』の体験自体は有意義だが、日常に戻ると身近に障がいのある方がいないため、考え方がなかなか定着しない」という声も寄せられています。受講者の立場で考えてみれば、『パラリング』はあくまでもひとつの接点。同じような志を持つ様々な企業・団体と協働しながら、連続性を持った活動にしていくことが必要だと感じています。

― 社会全体で協働の輪を広げていくには、どのようなことが考えられるでしょうか。

佐々木:個人的には、リクルートが持つ顧客接点を活かしたいですね。あらゆる企業・産業にとってDEIは非常に関心の高いテーマになっています。同じ志をお持ちのクライアントと協働することや、私たちのノウハウを活かして支援をしていくことは、リクルートらしいアプローチだと思います。また、『パラリング』で得られる知見をリクルートの事業に還元していくことも大切な観点。各事業のサービスやプロダクトへと反映させることで、障がいを持つユーザーの方も使いやすいよう進化させることにもチャレンジしたいです。

― 最後に、『パラリング』担当のふたりが目指すこれからの社会の姿を教えてください。

菅野:真の共生社会を実現するには、DEIの取り組みがブームや流行ではなく社会全体で持続的に発展していくことが必要だと思っています。だからこそ、パラアスリートとして私が目指したいのは、パラスポーツを誰もが一緒に楽しんでいる世界。競技スポーツとしては様々なカテゴリー分けや参加資格があるものの、もともとのパラスポーツは、誰もが参加できるという発想で生まれたスポーツです。

障がいのある人もない人も、男女も年齢も関係なくみんなで楽しめる世界が真に目指したい姿。『パラリング』のような活動を通して社会の理解を広げ、パラスポーツと他のスポーツの境目をなくしていくことが私の目標です。

佐々木:今、世の中でサステナビリティが重視されているのは、多様な強みや視点の掛け合わせが世の中をより良くするという期待も大きいのだと思っています。同質な集団の中では当たり前で疑問にも思っていないことが、実は他の人たちにとっての不便になっていると気づかせてくれたり、そこから新たなアイデアが生まれたりといった可能性を秘めている。

だからこそ、障がいのある人はもちろんあらゆる人の存在や一人ひとりの意見が尊重される社会になってほしいと思います。そのためにも、自分たち自身がリクルートのなかに閉じず、社会の様々な人たちと手を取り合って一緒に活動を続けていきたいです。

『パラリング』を担当するサステナビリティ推進室の佐々木綾香と、パラアスリートとして活動し、パラリングの活動にも関わっているリクルートグループ社員の菅野浩二

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

佐々木綾香(ささき・あやか)
株式会社リクルート サステナビリティ推進室 ソーシャルバリュー戦略部 社会共創グループ

大学卒業後の2008年、リクルートに入社。マンション領域の営業を経て、編集部へ。『SUUMO新築マンション』『都心に住む』『SUUMOマガジン』などを担当。2022年よりサステナビリティ推進室を兼務し、2024年より専任。現在は、非営利活動全般と、従業員の社会課題解決のアクションを支援するインナーコミュニケーションを担当している

菅野浩二(すげの・こうじ)
株式会社リクルートオフィスサポート 経営企画部 広報グループ

20歳から趣味で始めた車いすテニスで頭角を現し、本格的なアスリート活動を開始。アパレル勤務を経て、2006年リクルートオフィスサポートに入社。現在は広報業務をメインに、パラスポーツにまつわる業務を担当している

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