新規事業、思いついたらいつでもサポート! リクルート「AIかべうち君」開発秘話

新規事業、思いついたらいつでもサポート! リクルート「AIかべうち君」開発秘話

『ゼクシィ』や『スタディサプリ』を生み出した、リクルートで40年以上続く新規事業提案制度「Ring」。年次・経験・職種・所属拠点に関係なく全従業員が起案できるものの、起案経験のない従業員が新規事業をいきなり提案するには高いハードルがあります。そこでRing事務局は、2023年から生成AIを活用した起案支援を開始。背景には、どのような課題感や思いがあったのか。Ring事務局の笹子真未に聞きました。

業務の課題に向き合うなかで、頭をよぎった「生成AI活用」

私が所属するRing事務局は、従業員に対して「Ring Meet」という相談の場を提供しています。これは、「Ring」で起案したいと考えている従業員が、新規事業開発経験者などに自身の案を相談できる仕組みです。しかし、相談相手は忙しいことが多く予定の調整が難しかったり、「ゆるいアイデアをぶつけるのが失礼にならないか」などと相談する側が気兼ねしてしまったり、なかなか「Ring Meet」が実現しないこともあります。

リクルート Ring事務局 笹子真未

起案者の思いに寄り添い、必要な時に必要な観点でフィードバック機会を提供するのが私たちのするべきことなのに、それができていない、という葛藤。起案者のためにこの課題を解決できないか…と悩んでいた時、「生成AIを活用できるのでは?」という考えがふと頭をよぎりました。

もしAIが相談相手の役割を担えるならば、起案者は24時間いつでも気軽に相談し、アイデアをブラッシュアップできるでしょう。その後、人間相手の相談に持ち込む際には既に論点が整理されている状態のため、短時間でシャープなフィードバックが受けられる場になるのではないか。考えれば考えるほど「全ての人がハッピーになるには、AI活用だ!」という思いが募りました。

インプット習慣が生んだ「AIかべうち君」

私自身、日々の業務で新規事業開発に携わるなか、トレンドを意識して生成AI関連の利用事例や最新ニュースを、SNSを通じて意識的に収集・ストックすることを習慣にしていました。その日々の積み重ねのおかげで、AIを使った業務負荷軽減のアイデアはどんどん浮かびました。

早速、生成AIに入力するプロンプト(指示文)を用意して自分のアイデアを具体化し、課題解決用AIツールのプロトタイプ(試作品)を作成。粗くてもいいからまず自分で作ってみることが、早期実現につなげられると考えました。それを上司に持ち込み直談判。今抱えている課題を生成AIで解決できるかもしれない。不便を解消して起案者の力になりたい。そんな自分の思いのたけをぶつけました。

すると上司は「そこまで言うならやってみたら?」と可能性に賭けて背中を押してくれたんです。どの部署に声をかけて進めるべきか、そもそも誰が開発するのかなど全て手探りの状態でしたが、アイデアを面白がってくれたことが自信となり、開発の意義を丁寧に説明しながら関係各所をどんどん巻き込んでいきました。こうして着想から約3ヶ月でリリースしたのが、「AIかべうち君」です。

恐れず挑戦することで、想像以上の価値を生み出せる

「AIかべうち君」とは、事務局に提出するフォーマットに沿い、対話形式で事業アイデアをブラッシュアップできるツールです。対話を通じてアイデアの質を高めていく「壁打ち」のように、チャットでアイデアを投げかけると話し言葉でリアクションが返ってきます。リリースから社内でも少しずつ浸透してきており、2024年度のエントリー期間には昨年比で3倍以上の方が利用してくれました。起案者の満足度も高く、「自分では気付かなかった観点を提示してくれたり、行き詰まっていた点についてヒントを提供してくれた」「頭の中を言語化してくれるので、自身の考えを整理できた」といった声もいただいています。

リクルート社内で使用できる「AIかべうち君」と「AIしらべる君」
リクルート社内で使用できる「AIかべうち君」と「AIしらべる君」
リクルート社内で使用できる「AIかべうち君」と「AIしらべる君」

また、「AIかべうち君」の反響を受け、起案初心者の不便を生成AIでもっと解消できると確信した私は、「AIかべうち君」リリースから約10ヶ月後に「AIしらべる君」もリリース。事業アイデアを入力すると類似の既存サービスの有無を調べてくれるツールです。「既にこのようなサービスが現存するので、これらのポイントをブラッシュアップしましょう」といったコメントも表示されるため、提案の改善に活かせます。とにかく徹底的に、初心者に伴走することを心掛けました。結果として、2024年の起案者のうち、「AIかべうち君」は4人にひとり、「AIしらべる君」は3.5人にひとりが利用。現在は「起案初心者がアイデアを完成させるためのサポート」に閉じたツール提供になっていますが、今後はもっと広く価値提供できるよう、一歩先に進んだ、「形になったアイデアの質を高めるためのサポート」にも着目しています。「案の提出期限までに審査員からフィードバックをもらえる機会があれば、ビジネスアイデアをさらに磨きこむことができるのではないか」という仮説のもと、審査員のコメントや観点を学習させた「AIみなおしさん」というツールを開発中。2025年のリリースを目指しています。

日々の業務で感じた不便や、ちょっとでも興味が湧いたことをストックしておき、「これ使えるんじゃない?」と思ったら、粗いアイデアでも具現化に向けて恐れずトライしてみる。生成AI活用は「すごい技術だな。自分の仕事に使えたらなぁ」と思ったまま、立ち止まってしまう方も多いテーマです。しかし、イメージが固まっていなくても一度相談してみると、周りの仲間は案外面白がってくれますし、さらにアイデアを面白くしてくれる人が現れることもあります。小さくても自ら動き出すことが、自分の想像を超えた価値の創造につながるのではないでしょうか。

リクルート Ring事務局 笹子真未

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

笹子真未(ささこ・まみ)
株式会社リクルート 経営企画 リクルート経営コンピタンス研究所 RING事務局 RING統括グループ

2015年に入社。小規模新規事業プロダクトのディレクター、プロダクトオーナーを経験後、2回の産休・育休を経て現職。自身も「Ring」の起案を行いながら、新規事業の審査・伴走を担当している

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