レトロな車がEVに?「コンバートEV」の第一人者は語る。「何が最先端になるかわからない、だから面白い」

レトロな車がEVに?「コンバートEV」の第一人者は語る。「何が最先端になるかわからない、だから面白い」
文:松本 友也 写真:須古 恵

ガソリン車をEVに変身させる技術「コンバートEV」。その先駆者・オズモーターズの古川治さんが「『これが面白い』という自分の直感を信じて飛び込んでいくべき」と語る理由とは。

古き良き時代のクルマにもう一度乗りたい。そんな自動車ファンの願いを叶えてくれるのが、「コンバートEV」だ。

エンジンをEV用モーターに換装することで、古い自動車をクリーンな電動自動車として蘇らせるコンバートEV。だが、国内でその技術を持つ事業者はそう多くない。コンバートEV事業「OZ MOTORS(オズモーターズ)」を立ち上げたオズコーポレーション代表・古川治さんはその先駆者として、技術の普及や新たな需要創出にも取り組んでいる。

2021年度にはグッドデザイン賞金賞を受賞するなど、今やコンバートEVの第一人者として知られる古川さん。だが、かつてはガソリン車の排気ガスを減らすために試行錯誤を重ねていたという。そんな古川さんがEV事業に舵を切った理由とその想いを伺った。

古き良きヴィンテージカーを蘇らせたい

─ 早速ですが、「コンバートEV」とはどのようなものなのでしょうか。

コンバートEVとは、もともとガソリン車だった車を、電気自動車(EV)へと「転換(コンバート)」した車を指します。コンバートは、ガソリン車に積まれているエンジンを取り外し、そのスペースにEV用のモーターを取り付けることで行います。やることはシンプルですが、モーターを取り付けるために毎回オーダーメイドで車ごとに異なる図面をCADを使って書き、特注でカスタマイズする必要があるので、それなりの手間と費用がかかります。

─ コンバートEVのメリットや魅力についてお聞かせください。

まず言えるのは、ガソリン車からEVにコンバートすることで、排気ガスが出なくなり、騒音も大幅に削減されることですね。

しかし、やはりコンバートEVのポテンシャルが最も際立つのは「ヴィンテージカーを現代に蘇らせる」ときだと思います。製造から何十年も経過したヴィンテージカーは、修理したくても部品が調達できなかったり、エンジン音や安全面などからも現代の道路で乗り続けるのはなかなか難しいのです。

エンジンが動かなくなったまま、時には数十年間も納屋に眠っている車たちを、もう一度乗り回せるようになる。「こんなに味のあるヴィンテージカーにまた乗れるようになるなんて」と驚く方も多いんですよ。

コンバートEVのメリットや魅力について話す、オズコーポレーション代表・古川治さん

─ ちなみに乗り心地は、通常のヴィンテージカーからどう変わるのでしょうか。

ガソリンで動いていたエンジンが、電気で動くモーターに変わるわけなので、基本的にはとても静かな乗り心地になります。

さらに言えば、EVは車体の寿命が長くなります。普通のガソリン車の場合、エンジン内でガソリンを燃焼させてピストンを動かすので、高温で金属と金属が何千回も擦れ合うわけです。振動と高温の影響を受ける消耗部品もたくさんありますからね。

でも、電気を使ってモーターの回転で走るEVであれば、傷むのは主にゴムなどの部品や足回り部品のため、車体自体はかなり長持ちします。そういう意味でも、「お気に入りの車に長く乗り続けたい」というニーズにはぴったりだと思います。

─ 単に蘇らせるだけでなく、その後も長く乗り続けられるようになると。

もちろん、「エンジン音や振動こそがヴィンテージカーの醍醐味」という意見もあるかもしれません。特に日本の自動車メーカーは、エンジン技術に強いこだわりを持っていて、エンジン音や振動感を車のアイデンティティとして捉えているところがありますから。

しかし、とりわけ古い欧州車は魅力的な外装デザインが人気で、実際に弊社にEV化を希望して持ち込まれる車も、ほとんどがそうした外車です。ただでさえ年季の入った車体を、振動で傷ませないメリットは大きい。50年前の車をコンバートEVとして現代に復活させることで、100年経っても走れる車にできるかもしれない。そんな可能性と魅力があります。

コンバートEV事業の裏側にある、「排気ガスをなくしたい」という想い

─ 「エンジンをモーターに換装する」というコンバートEVの大胆な発想は、どこから生まれたものなのでしょうか。

コンバートEVが生まれたのは90年代のアメリカです。当時ゼネラルモーターズ社(以下、GM)が世界初のEVを開発し、それに刺激を受けた車好きたちが、自前でEVへのコンバートに挑戦し始めたのです。そもそも米国には車を自分たちでカスタマイズする文化があるので、試行錯誤のハードルも高くはなかったのでしょうね。

「量産型のEVは90年代からあった」という事実に驚く方もいますが、当時のEVは現在主流のリチウムイオンバッテリーよりも性能が低い、鉛バッテリーが使われていました。実用的にはまったく見向きもされなかったようです。

─ 古川さんご自身は、どのような経緯でEVに興味を持ったのでしょうか。

私自身はもともと、90年代から車の整備や点検などの事業を立ち上げていました。90年代は自動車にお金をつぎ込む人が今よりも多かったため、海外の車を輸入して、日本の法規制や車検に対応できるように調整するサービスなどを提供していました。

輸入車を日本の法規に適合させる上で、一番苦労するのは排気ガス量の基準をクリアすることだったんです。仮にその改善で30-50万円以上かけて試験場に持ち込んでも、検査に通らなければすべて無駄骨。商売として成り立たなくなってしまいます。なので我々は、排気ガスを削減するためのフィルターの開発などに労力を注いでいました。

この技術開発と規制対応の繰り返しが本当に大変で、「排気ガスの出ない車があればいいのに」と常々思っていたんです。それが電気自動車に興味を持つきっかけでした。

コンバートEVの車体に描かれたOZ MOTORS(オズモーターズ)のロゴ

─ その後、古川さんが本格的にEVに取り組みはじめたのはいつでしたか。

日本で国産EVが誕生し始めたころからです。代表的なものとしては、2009年の三菱「i-MiEV」と2010年の日産「リーフ」でしょうか。90年代のアメリカでGMのEVが登場した時と同じように、私自身も刺激されました。ちょうどその頃、有志のEV団体が生まれて情報交換できる環境が整ったことも後押しとなり、「自分で一台作ってみよう」と思い立ったのです。

─ とはいえ、作ろうと思って作れるものではないように感じられます。どのように学ばれたのですか。

最初にコンバートEVを作っていた90年代のアメリカの人たちが、ちゃんと教科書を書いてくれていたんです。それを日本へ取り寄せて、頑張って読んで勉強しました。当時は他にお手本もなかったですからね。

そこで一台作ったのが思いのほか注目を浴びまして、テレビなどのメディアに取材していただいたり、企業や大学の方々が見学に来られたり。こんなに反響があるのならば、面白いからもう少し続けてみようかなと思いました。

─ 一台は形になったとはいえ、当時のEVは古川さんにとってはおそらくまだまだわからないことの多い世界だったかと思います。にも関わらず、EV事業に舵を切ろうと思われたのはなぜでしょうか。

自分でも、まさかEVの世界にここまでのめり込むとは思っていませんでした(笑)。EVに惹かれた理由をあらためて考えてみると、幼少期に排気ガスへの嫌な思い出があったことが大きかったのかもしれません。

私は東京の下町生まれなんですが、子どもの頃からトラックが家の周りをたくさん走っていたんです。当然空気は汚れていて、空なんかいつも真っ暗でした。その後、車は好きになりましたが、排気ガスだけはどうにかならないかなと思っていたんです。

ただ一方で、実際に自分が排気ガス規制をクリアするための調整を行う立場になると、この問題が一筋縄ではいかないこともわかってきます。技術的な課題や業界慣習など、いろいろな要素が関わってくるからですね。そのなかで「このままでは排気ガスはなくならない」と思ったことも、EV事業に本格的に舵を切るきっかけのひとつでした。

コンバートEVの文化を、日本に残したい

─ その後、EV事業を起こせるほどの技術をどのように学んだのでしょうか。

2014年に、一度アメリカに渡りました。最初に一台EVを作ってみた時に参考にしたのは90年代の書籍なので、やっぱり技術的には古かったんです。もちろん自分なりに試行錯誤もしていましたが、当時の日本にはお手本がいなかったので、自分のやり方が正しいのかどうかもよくわからなかった。そこで、本場アメリカで最先端の技術を学ぼうと決意したんです。

─ 実際にアメリカへ渡ってみていかがでしたか。

実は、そこまで大きな衝撃は感じませんでした。むしろ、自分の考えがそこまでずれていなかったと確認できたのが大きかったですね。

アメリカで得たものとして重要だったのは、部品の取引ルートです。日本の大手自動車メーカーは各社ごとにパーツも規格化しているので、あまり車を自由にカスタマイズできません。一方で、アメリカでは自作や改造の文化が根付いているので、メーカーを越えてパーツが流通しているんです。そうした部品の調達ルートを知れたことが、その後の事業を進める上で大きな財産になりました。

あとは、仲間もたくさん見つかりました。アメリカは90年代からEVの文化がありますから、コンバートEVに取り組む人たちもたくさんいるんです。向こうで出会った仲間たちとは、今でもSNSで情報交換をしていますよ。

─ 帰国後、コンバートEV事業「オズモーターズ」を立ち上げられています。手応えはいかがでしたか。

事業自体は順調でした。ただ、良くも悪くも競合が増えず、コンバートEVという分野自体があまり拡大しなかったんですね。事業として考えると、割に合わないからでしょう。大手メーカー以外の事業者がEVを扱う上で一番大きな障壁は、リチウムイオンバッテリーです。このバッテリーは繊細で、技術がないと火事や故障に繋がってしまう可能性もある。

以前、中小企業でEVを盛り上げようという団体が発足したことがあり、一時期は100社ほどが集まっていました。しかしそこでもリスクの高さが問題となり、結局はほとんどの会社が撤退してしまいました。

コンバートEVの文化を日本に残したい、と話すOZ MOTORSの古川治さん

─ そんななかで、古川さんが続けてこられたのは、なぜだったのでしょうか。

「うちがいなくなったら、文化がなくなってしまう」という使命感が一番大きいかもしれません。正直にいえば、一般顧客向けのコンバートEVは、収益的にはそこまで儲かる事業ではありません。一台一台オリジナルで設計するので、どうしても手間がかかってしまいますから。

ただ、日本にコンバートEVの技術を持つ事業者がほとんどいない以上、やめるわけにもいきません。自分だけでも続けて、なんとかこの文化を残していきたいんです。

「人と同じことはしない」という逆張りの精神

─ 2021年度にはグッドデザイン賞金賞を受賞されるなど、近年コンバートEVは注目が高まっていると感じます。今後の展望についてお聞かせください。

実は最近、コンバートEVの新たな需要創出に力を入れています。現在弊社で扱っているのは、主に趣味性の高いヴィンテージカーですが、コンバートEVという技術自体にはもっと実用的な可能性もあるのです。

たとえば、今構想しているのは、地方の自動車産業にコンバートEVを普及させる活動です。地方ではガソリンスタンドや整備事業者の数がどんどん少なくなっていて、給油するのにも一苦労という現状があるんです。

その解決策として、コンバートEVが使えるのではないかと思っています。EVなら自宅で充電ができるので、ガソリンスタンドが遠い地域ではむしろ便利です。ガソリン車と違って車体の消耗も遅くなるため、今持っている車をより長く使っていけます。

─ 地方の交通事情を考えると、EVならではのメリットもあるということですね。

たまに、エンジンが動かなくなって放置されている軽トラックを見かけたりしますよね。そんな車も、EVにコンバートすればまだまだ使える可能性があります。そうした再利用を支援するために、軽トラ用のEVキットを展開し始めました。

さらにいえば、コンバートEVの技術は自動車以外にも応用できます。たとえば、工事現場で使われるクレーン車。これをEV化すると、排気ガスが出なくなるので室内や地下での作業もしやすくなるんです。

こうした実用的な使い方も含めて、コンバートEVが普及するかどうかは、これからが正念場だと思っています。我々オズモーターズとしても、コンバートEVの技術を用いて試行錯誤したいと考える中小の事業者さんを支援していきたいです。

─ EVの自作から海外渡航、新たな産業への活用まで、常に未知の領域に挑戦する古川さんの原動力は、どこにあるのでしょうか。

「人と同じことはしたくない」という逆張り精神はあるかもしれません。コンバートEVも、もしみんながやっていたらすぐに辞めていたかもしれませんね。あとは、そのつど面白いと感じることを、素直に続けてきただけです。

この仕事を続けていて面白いと感じるのは、「何が最先端になるかわからない」ところ。90年代はEVなんて誰も見向きもしませんでしたし、コンバートEVだって、こんなに注目されるとは思っていませんでした。

流行ってから乗っかるのではなく、「これが面白い」という自分の直感を信じて飛び込んでいく。そんなスタンスでいるからこそ、面白い未来を引き寄せられるんじゃないかなと思います。

現代に蘇ったヴィンテージカーが並ぶ自社のガレージにて 株式会社オズコーポレーション 代表取締役 古川治さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

古川 治(ふるかわ・おさむ)
株式会社オズコーポレーション 代表取締役

カー・エンジニアリング・カンパニー「オズコーポレーション」を1993年に創業。自動車アフターマーケットで長年取り組んできた技術や経験を活かしながら、新たなモビリティソリューションの開発・提案を手がける。EVに特化した事業『OZ Motors』では、ガソリン車を電気自動車に改造する「コンバートEV」を日本国内でいち早く開発。2021年度グッドデザイン賞金賞を受賞。

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