YOASOBIを形作る“出会い”。変わり続けるからこそ、変えたくないものがわかる
唯一無二の体験を届け続ける“小説を音楽にするユニット”。Ayaseさんとikuraさんはどんな“出会い”に影響を受け、支えられてきたのか?
2019年のデビューから5年、今では日本を代表する世界的アーティストとして活躍する音楽ユニット・YOASOBI。「モノコン2023 文藝×monogatary.comコラボ賞(以下「モノコン2023」)」とリクルートとのコラボレーションを通して生まれた新曲『New me』は、モノコン2023の大賞に選ばれた小説『白山通り炎上の件』をもとに生まれた楽曲です。
Ayaseさんとikuraさんは、この新曲にどのような想いを込めたのか。リクルートの「まだ、ここにない、出会い。」とモノコン2023の「KAIKO-邂逅-」に共通する“出会い”をキーワードに、お二人が大切にする考えや経験について聞きました。
「成長できた」と感じたとき、そこには必ず“出会い”がある
― 最初に、お二人にとっての“出会い”について聞かせてください。まずはAyaseさんにお伺いします。いま振り返って、「自分にとって特に大きな出会いだった」と感じる出来事はありますか?
Ayase:まずikuraとの出会いはもちろん、僕の人生にとって非常に大きな出来事でした。それ以外で挙げるとするなら、“音楽”との出会いもすごく大きな影響を受けた出来事の一つだと感じます。
祖母がピアノの先生だったことがきっかけで、子どもの頃にピアノを始めました。いま振り返ると、それが自分と音楽との最初の出会いだったと言えます。
YOASOBIの活動を始める前には、バンド活動をしていました。そのきっかけになったのは、今も敬愛するマキシマム ザ ホルモンとの出会いです。中学生のときに初めて見て、「バンドってかっこいい、自分もやりたい」と強く思いました。本当に大きな出会いでしたね。
僕は、自分がすごく影響を受けやすいタイプの人間だと思っています。何かを見たり聞いたりして、「かっこいい」と思えばすぐに実践したくなるし、「やってみたい」と思えばすぐに行動へ移したくなる。そう思えた経験や出来事の一つひとつが、自分にとってはすべて“出会い”だと感じます。
― Ayaseさんにとって、自分の考えや行動に変化を与える出来事こそが出会いと言えるのかもしれませんね。
Ayase:はい。「自分が成長できたな」と感じる場面を振り返ると、その背景には必ず“出会い”があるんです。だからこそ、出会いの数をどれだけ増やせるかが、自分がより成長するためのカギだと思っています。
一方で、自分がめんどくさがりな人間であるとも自覚していて。誰かに出かけようと誘われても「今日は家でゲームしていたいな」と思うときもあるし、「もう少し寝ていたいな」と思うときもある。腰が重くて、なかなか動けないことも少なくありません。
でも、いざ家の外に出て自分にとって新しい人や作品に出会うと、それだけで自分の表情が生き生きしてくるのがわかるんです。“出会った瞬間”の感覚は、一つひとつが忘れられないものになる。それらは日々の創作に活かされていますし、自分をより高めてくれるものにもなっています。だからこそ、自分から出会いを見つけにいくことも、すごく重要だと感じています。
─ ikuraさんにもお伺いします。「自分にとって特に大きな出会いだった」と感じる出来事はありますか?
ikura:やっぱりYOASOBIを始めたこと自体が、自分の人生のなかでとても大きな、一つの出会いだったと感じています。
たとえば、立ち上げから今まで私たちを支え続けてくれているマネージャーが二人います。彼らとの出会いがなければ、YOASOBIが形作られることはなかったはずです。私たちをYOASOBIという一つの存在にしてくれた、自分にとってなくてはならない出会いだったと思います。
ほかにも、個人的に大きな影響を受けたのが、YOASOBIを始める前からずっと教わっているボイストレーナーの花れん(かれん)さんとの出会いです。“声”は“心”と密接につながっていて、心の状態によって歌声がいつもと変わってしまうことがたくさんあります。花れんさんは、私の声の状態が悪くなったときや心がぐらついたとき、いつも正しい位置に戻してくれる存在なんです。音楽のことを深く理解していて、指摘も常に適格で、心の変化にも寄り添ってくれる。最も尊敬している方であり、「こういう女性になりたい」といつも思っています。
変化のなかにいるから、変わらず大切にすべきものが見えてくる
─ Ayaseさんとikuraさんが出会ったことだけでなく、お二人と活動を共にする色々な方たちとの出会いが重なって、いまのYOASOBIが出来上がっているのですね。
Ayase:そうですね。チームの根幹という意味では、YOASOBIの立ち上げは僕とikura、そしてマネージャーの山本と屋代の4人で始まりました。今はそこに現場マネージャー2人が加わり、6人がYOASOBIの核となるチームを構成しています。
ほかにも、ライブを一緒に作る方々も、YOASOBIにとっては不可欠な存在です。舞台監督、音響、機材、照明、レーザー、衣装、メイクなど、僕たちが作った楽曲を会場で披露するために、必要な役割はたくさんあります。YOASOBIは初めてのライブから、これから始まるドーム公演、海外フェスまで、同じメンバーで一緒に作り上げているんです。
ライブチームの皆さんとは、文字通り深い信頼関係を築けていると感じます。だからこそ、過酷なスケジュールや予期せぬトラブルにも、常に協力して臨機応変な対応ができる。YOASOBIにとって、このライブチームとの出会いは本当に重要な意味を持つ出来事でした。
ikura:立ち上げから1年半ほどはパンデミックの影響もあり、楽曲制作とリリースが活動の中心でした。その後徐々に世の中も落ち着き始め、“ライブ”という私たちにとって新しい挑戦が始まったとき、今のライブチームと出会いました。
特にライブチームの存在の大きさを感じたのは、2023年にアリーナツアーを開催していたときです。私たちにとって初めてのツアーで、チーム一丸となって一つのものを作り上げられたことがすごく印象に残っています。私自身が、精神的に成長できる機会でもありました。この体験を通して、ライブチームとの出会いが単なる出会い以上の意味を持つものだと、改めて実感できました。
─ ライブチームと共に活動をするようになったことで、それまでと比べて、お二人自身のなかで特に変化したと感じる点はありますか?
Ayase:最も大きな変化は“責任感”だと思います。もちろん、それまでもYOASOBIというチームの一員としての責任感はありました。ただ、ライブ活動が本格的に始まってからは責任感の質が大きく変わったと感じます。
会場に足を運んでくれるお客さんへの責任、ライブを支える何百人ものスタッフさんへの責任……自分たちが核となって、大きな現象が起きている。そのことに対する自覚と、それに伴う責任感をより強く持てるようになったことが、自分にとっての大きな変化だと思います。
ikura:ライブ活動を始めるまでは、楽曲にたくさんの反響をいただいても、すごく嬉しい反面なかなか現実味がありませんでした。でも、ライブを開催するようになってからは、プロジェクトに関わるたくさんの方たちの夢や努力が詰まった「船」に乗っているという意識が芽生えました。ボーカリストとして、一緒にライブを作り上げるチームのみんなの想いを背負って、来てくださる観客の一人ひとりに届けていく。その役割を自分が担っているという自覚が生まれ、それが自分にとっての原動力にもなっていきました。
─ ライブ活動を通じて生まれたご自身の変化は、楽曲制作にも新たな影響を与えていると感じますか?
Ayase:細かいところも含め、色々な影響を与えていると思います。ライブでの経験が、新しい創作のアイデアの源になることも少なくありません。
そのうえで大事にしているのは、ライブで披露することを考えすぎてYOASOBIの楽曲の良さである「自由さ」を失わないようにしたいということです。たとえば、「これを演奏しようと思ったらギターは一人でどうやって弾くの」とか「これキーボードで弾こうと思ったらどんな超絶技巧が必要なの」とか。そういったことを考えすぎてしまうと、結果として本来大切にしたいYOASOBIの音楽における自由さが失われてしまうかもしれない。もちろん、バンドで演奏したらどうなるかを想像しながら作りもしますが、土台となるスタンスは常に変えないように意識しています。
ライブを重ねるごとに、何を変えるべきかではなく、何を守るべきかがより明確になっていくような感覚です。変化のなかにいるからこそ、変わらず大切にすべきものが見えてくるのかもしれません。
ikura:私がYOASOBIの活動で最も大切にしているのは、Ayaseさんが思うクオリティをできる限り実現した歌声を生み出すことです。それを突き詰めるうえで、自分の歌唱力が制約になってしまうことがないようにと、いつも心がけています。YOASOBIの楽曲が魅力的であり続けるために、自分なりに大切にしている考えの一つです。
嫌な気持ち、向き合い方、小説の面白さの融合を目指した新曲
─ ここからは、リクルートの「まだ、ここにない、出会い。ここにない、音楽。」第2弾のコラボレーション企画として制作された新曲についてお話を伺いたいと思います。楽曲の原作となった「モノコン2023」受賞作『白山通り炎上の件』を読んで特に印象的だった点や、曲に含めたいと思った点について教えてください。
Ayase:小説を読んで最初に思ったのは、「これは間違いなく作者の実体験なのだろう」ということです。細部までとても鮮明に描写されていて、作者が会社や上司に対して強い想いを持っていることが伝わってきました。
厳しい上司や職場でのしんどい体験などは、さまざまな場面でよく取り上げられる話題の一つだと思います。それだけ、多くの人たちが似たような感情を抱えながら生きているとも言えるかもしれません。
そうした実際の感情をしっかりと捉えながら、小説ならではのコミカルさやSF的な展開も含んでいる。現実と非現実が交錯する面白さを表現している点が印象的な作品でした。楽曲を作るにあたっては、実生活で多くの人が感じているであろう嫌な気持ちとそれへの向き合い方、そして小説ならではの展開の面白さを融合させたいと思いました。
ikura:Ayaseさんも言ったように、会社での出来事が具体的に、細かく描かれているところが印象的でした。怒りや鬱憤のような感情が創作の原点になることは、少なくないと思います。この作品を読んで作者の感情に触れることで、自分のなかで言葉にできずに心の奥底に沈めていた経験や気持ちに対して「それで良いんだ」と思えるような感覚がありました。まさに、感情が揺さぶられるような体験でした。
また、物語の始めから終わりまで展開が止まらず、「次は何が起こるんだろう」とワクワクしながら読み進められたことも印象的な点の一つです。予想できないことの連続で、これがYOASOBIの楽曲になったらそれもまたすごく面白い作品になるだろうと確信しました。
─ 実際に楽曲制作を進めるなかで、特に意識した点や工夫した点はありますか?
Ayase:制作中にイメージしていた楽曲の方向性は、爽やかで可愛らしい曲。原作とのつながりはもちろん、今回タイアップとしてCMでも採用いただいたリクルートさんの「まだ、ここにない、出会い。」というメッセージとの結びつきも意識しながら、音楽としての魅力も追求できた一曲になったと思います。
また、実際にCMで流れたときの印象も大切にしながら制作を進めていきました。短い時間でも、聴いた人の耳に自然と残って、フルバージョンを聴きたくなってもらえるようにこだわりました。
ikura:原作小説の展開や雰囲気を、Ayaseさんが楽曲にどう落とし込もうとしたのか。レコーディングでは、自分なりに想像を巡らせながら歌っていきました。小説は現実と非現実が入り交じった作品なので、その非現実感を歌声の高音部分で表したいと考え、実際に表現できたのではないかと思います。特に楽しみに聞いてもらいたい部分の一つにもなりました。
─ 楽曲のタイトル『New me』にはどのような想いが込められているのでしょうか。
Ayase:「新しく生まれ変わる」「新しい出会い」「自分自身が新しく変わる」といったことを、パッと聞いてすぐに理解できる英語にしたいと考えていました。いくつか案を考えたなかで、「新しい私」という意味がすぐに伝わり、キャッチーで響きが可愛いと感じたのが『New me』だったんです。
「YOASOBIの『New me』良いよね」と友達に曲を紹介したりしてもらえたら嬉しいなと想像できましたし、発音もしやすいと思いました。フィーリングで決めた部分が多いですが、小説の内容や楽曲全体の雰囲気を表現できたタイトルになったと感じています。
YOASOBIと出会う人たちに、届けたいものがある
─ 世界中にYOASOBIの作品と出会い、影響を受けている人たちがたくさんいます。そして、今後もその数はますます増えていくと思います。最後に、お二人が思う「YOASOBIの作品と出会う一人ひとりに感じてほしいこと」があれば、教えてください。
ikura:YOASOBIは小説を音楽にするユニットです。だからこそ、曲が出来上がるまでの過程にも多くの出会いが詰め込まれていると感じます。原作小説があり、そこからAyaseさんが楽曲を作り、私が歌声を乗せていく。この受け渡しの過程で多くの人が携わってくださり、それぞれが自分なりに作品を解釈し、想像力で補いながら一つの曲を作り上げていきます。
そして欠かせないのが、最後に曲を聴いてくれる方たちの存在です。一人ひとりが自分の生活や感情と照らし合わせて受け取ることで、YOASOBIの音楽体験は初めて完成するといつも感じています。このユニークな体験を通して、皆さんの日常に新たな刺激やきっかけを届けたいですし、新たな出会いに寄り添えるような楽曲を届けていきたいと思っています。
Ayase:やっぱりYOASOBIと出会ってくれた人には、小さなことから大きなことまで、何らかの変化が訪れてくれたら良いなと強く思っています。
自分たち自身もデビューから今までの5年間は、色々なことが急激に変わり続ける日々でした。これは、10月26日から開始するドーム公演のタイトルを「超現実」としたことにもつながる話です。5年間で自分たちが予想もしなかった変化や異変がたくさん起こったからこそ、それらすべてをこのタイミングで一度総括したい。そんな意味合いを「超現実」という言葉に込めました。
変化や異変のなかには、もちろん苦しいこともありました。ですが、振り返ってみるとすべて必要で、良い経験だったと思います。今の自分たちを誇らしく思えるのは、そうした数多く経験してきた変化や異変のおかげなんです。
だからこそ、今度は僕たち自身が社会に対して、どのような良い刺激をもたらせるかを常に考えています。YOASOBIと出会ってくれた人たちの生活をどれだけ刺激的で鮮やかなものにできるかを、これからもずっと追求していきたいです。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- YOASOBI(よあそび)
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コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる“小説を音楽にするユニット”。2019年11月に公開したデビュー曲「夜に駆ける」は、公開直後から瞬く間に注目を集め、国内の各種配信チャートでも1位を席巻、現在ストリーミング累計再生回数は史上初となる11億回を突破。2023年4月リリースTVアニメ『【推しの子】』オープニング主題歌「アイドル」は、Billboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で21週連続の総合首位を獲得し、Billboard JAPANの歴代連続首位記録を更新。さらに、米ビルボード・グローバル・チャート首位を獲得するなど国内外のチャートで数多くの記録を打ち立てた。2024年4月には世界最大級のフェスCoachella Valley Music and Arts Festivalへ出演。7月には、放送中のアニメ『〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン』主題歌「UNDEAD」、「NHKスポーツテーマ2024」楽曲「舞台に立って」を続けて配信リリース。8月、アメリカ・シカゴで開催された歴史的なフェス “Lollapalooza 2024”に初出演し、ニューヨークとボストンにてワンマンライブも開催。国内では10月に結成5周年を迎え、10月26日から、初のドーム公演となる「YOASOBI DOME LIVE 2024 “超現実”」が開催される。さらに、12月から2月にかけて日本人アーティスト最大規模となるアジアアリーナツアーの実施が決定するなど、J-POPを代表し世界に打って出ていくアーティストとして、国内外のあらゆる場面で際立った活躍を見せている。