採用支援を通じたDEI推進で、“制約はあるけれど働きたい”を支援。リクルートエージェントの挑戦

採用支援を通じたDEI推進で、“制約はあるけれど働きたい”を支援。リクルートエージェントの挑戦

働きたい人の声と企業の求人ニーズが集まる、転職・採用支援サービス『リクルートエージェント』。出産、子育てや介護、障がいなどを理由に、働き続けることをあきらめてしまう求職者も多い一方で、労働力人口減少を背景に、求人を出しても応募者が集まらず「人材不足」に悩む企業は多いという現状。求職者側と企業側の双方の情報に日々触れるなか、「人材不足」は労働力人口減少だけでなく、働きたいのに就業することをあきらめてしまっている人たちと企業との出会いを創出しきれていないのが課題だと実感することが増えているという。

こうした課題に対して2年前、『リクルートエージェント』や『リクルートダイレクトスカウト』などの人材紹介事業を展開するHRエージェントDivision内で、「私たち一人ひとりができることを始めていきたい」と発足したのが「ダイバーシティプロジェクト」。当初は、自主活動として社内の数人で、日常業務のなかでの気づきや知見を共有し始めたプロジェクトでしたが、この2年で全国のキャリアアドバイザーやリクルーティングアドバイザー数百名の大所帯に。2023年4月、正式に「DEI推進プロジェクト」として組織化。

HR エージェントDivision 顧客ロイヤルティ推進部 DEI推進プロジェクト グループマネジャー 林 素子と、自主活動としてスタートしたダイバーシティプロジェクト発足時から関わってきた、インターネットCAグループ キャリアアドバイザー 吉田智春が、採用支援を通じたDEI(Diversity, Equity & Inclusion)推進とはどのようなものか、現状と未来について語り合いました。

採用支援を通じたDEI推進とは?~「DEIプロジェクト」の目指すこと

『リクルートエージェント』、『リクルートダイレクトスカウト』などを軸としている、HRエージェントDivision内で、2018年「女性活躍支援プロジェクト」を立ち上げ、23年4月「DEI推進プロジェクト」グループマネジャーに着任した林 素子

―2023年4に組織化された「DEI推進プロジェクト」の目指していることを教えてください。

林 素子(以下林):主に、人材紹介業を軸とした事業活動を通じて多様な求職者と企業の出会いを創出し、さらにそこから得られた知見やアクションを社会に還元していくことを目指しています。もちろん、事業組織のダイバーシティ推進にも貢献していこうと考えています。

前身となる「ダイバーシティプロジェクト」が発足したのは2年前の2021年でした。コロナ禍のなか、全国で働くメンバーからの手上げ制でスタートした活動でしたが、メンバーの熱い思いに支えられて、この2年で参加者は数百名を超えました。

また、組織内には、ダイバーシティプロジェクトのほかにも、2018年に立ち上げた、希望の働き方で仕事を探せるサービスを検討する「女性活躍支援プロジェクト」や、「カスタマー面談スキル向上プロジェクト」など複数のプロジェクトがありました。これらの自主活動のうち、社内・外のDEI推進に関するプロジェクト活動を、統合してより推進を加速するため、23年4月に正式に「DEI推進プロジェクト」が組織化されることになりました。

個人的にも、女性活躍支援プロジェクトを通じて求職者の方々や企業の声を聴きながら、年代や性別、スキルや経験などを超えた、一人ひとりの持つ個性や得意を組み合わせた、より柔軟でフラットなチームや組織づくりにこれからの日本の活力向上の鍵があると感じていたので、新たなミッションに、今とてもやりがいを感じています。

―キャリアアドバイザーとして採用支援を通じたDEI推進の数々の事例に伴走されてきた、吉田さんがプロジェクトに参加した理由を教えてください。

吉田智春(以下吉田):私はリクルートエージェントの前身である人材センターに新卒入社して以来、一貫してこの人材紹介領域に携わってきました。たくさんの求職者であるカスタマーと企業人事の声を伺うなかで、人が得意を活かせる場に出会うことで、本当にイキイキと仕事を楽しむことができ、採用した企業や組織もそういった人材を迎えることによって大きく変化したり成長したりする姿を目の当たりにしてきました。

さらに、コロナ禍や労働力人口減少局面において、柔軟な働き方や働く個人の事情に合わせた職務定義と細分化が進み、シニアや女性、障がいを持つ方なども一人ひとりの得意を活かした働き方を実現する事例も増えてきました。まさにダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)に基づいた採用事例が増えることで、組織や社会を優しく柔軟にしていくように感じ、発足以来このプロジェクトに参加してきました。

プロジェクトでは、働くことに制約のある求職者の方々の求職活動のご支援をさせていただいた、採用支援を通じたDEI推進に関する事例やナレッジを全国のメンバーと共有したり、キャリアアドバイザーのスキル向上にも携わってきました。私たちリクルートエージェントや人材紹介事業に携わる一人ひとりが、目の前のカスタマーや企業の変化に寄り添いご支援させていただけたら…という思いで、プロジェクト活動をしています。

DEIを推進するための採用側の一歩とは?~コロナ禍で進化した働き方とロールモデル

リクルート HRエージェントDivision DEI推進プロジェクト 林 素子(左)、キャリアアドバイザー 吉田智春(右)

―コロナ禍も後押しとなって、働き方や企業の人事制度の変化も感じます。働き方に制約がある方でも活躍いただけるように、制度や風土づくりを目指す企業が増えているということでしょうか?

林:そうですね、まさに今、政府の子育て支援策や企業側の働き方改革や、多様な働き方への理解が広がっていると感じます。リモートワークやフル・フレックス制度の導入などにより、子育てや介護、障がいなどがあっても、以前よりも働き続けられる方が増えてきた実感はあります。しかし一方で、働き方に制約が生まれたことによって退職を考えたり、スキルがあっても再就職が困難だったりと、働き続けることをあきらめる方もまだまだ存在するのも事実です。

そんななか、企業側の工夫で、制約条件のある方にご活躍をいただける場を創出した事例や、逆に求職者側がご自身の制約を理由にあきらめていた求職活動を再開した事例、スキルや経験だけに限らないご自身の「得意」や「らしさ」に気づいて「強み」を捉え直したことで、活躍の場を発見された事例がいくつも出始めています。

こうした事例を束ねて、そこから、汎用的な知見を抽出して全国のメンバーに共有しています。リクルートエージェントのメンバー一人ひとりが、こうした事例をどのように拡げていけるか、を日々考え、実践し、知恵を共有し合っていくことで、さらに拡げられるといいなと思っています。

―採用支援を通じた「DEI推進」の実現にはどのようなことが必要なのでしょうか?

吉田:企業様、求職者の双方が、少しだけ今までの条件や思い込みを見直すことで、これまではなかなか難しかった、制約を抱える方々の就業が実現できる例はたくさんあります。例えば、働き方に制約のある求職者の方は、求人票に書かれた条件を見てあきらめてしまう方も多いですが、それは少しもったいないかもしれません。弊社で実施した「半年~1年以内に転職した方 849人に聞いた調査では、入社前に条件交渉をした方のうち 63.1%は希望を叶えているのです。特に働き方に関して制約がある場合は、入社後のミスマッチを防ぐためにも、企業側も率直に要望を伝えて欲しいと考えているケースが多いです。ご自身でお伝えになりにくい場合は、私たちキャリアアドバイザーを通じてご相談いただくこともできます。

一方、人材難に悩む企業様からも、「制約条件がある求職者の方にも応募をいただけるようにするためにはどうしたら良いのか」、といったご相談をいただくことも増えています。

実際には、リモートワークやフレックス制度も一部導入済みにも関わらず、求人情報として明記されていないケースも多く、そういった情報をしっかり表出していただくだけで、新しい人材と出会えることもあるのです。

また、ロールモデルについても同様です。例えば、子育てや介護、ご自身の治療などとお仕事を両立している従業員の方がいらっしゃるのに会社情報には掲載されていない。そんな場合は、ロールモデルとして表出していただくケースもあります。多様な制約条件を持つ方にも、働き続けられるイメージを持っていただける大切な企業情報の一部ですので、表出いただけるようにご相談もさせていただいています。

変化する社会と企業。「自分らしさ」を見つける一歩を~強みは資格や経歴だけにあらず。あきらめる前に一緒に考えたい

リクルートエージェントでキャリアアドバイザーとしてIT領域への求職者の方々に寄り添ってきた吉田智春

―吉田さんは、キャリアアドバイザーとしてたくさんの事例に立ち会われているかと思いますが、印象的だった「採用支援を通じたDEI推進」の事例はありますか?

吉田:日々、目の前の求職者の方々と企業様とのコミュニケーション全てに全力投球で、全部が印象的です(笑)。

最近の事例で印象的だったのは、妊娠中期からの求職者転職活動の例です。第1子出産に伴いエンジニアとして勤めていた会社を退職後、子育てが落ち着いたら社員転換も視野に入れて契約社員として入社。その後、勤務先の業績悪化に伴い、第2子妊娠中に契約終了に。働き続けたいという意志のもと、子どもたちの保育環境維持のためにも、転職活動を開始したという方でした。

当初は、妊娠中期からの求職活動は現実的ではないとあきらめかけていたそうですが、実際調べてみるとオンライン面談が導入されている企業も増えているなど、過去の転職環境との変化に気づき、とても驚かれていました。

最初にご相談を受けた際に、こういった事例が社内でも多くはなく、どの程度採用候補企業が探せるか不安でした。しかし実際には応募先の企業様には「子育てと仕事の両立経験があることや長く働いていきたいという意欲」を高く評価いただけて、いくつかの会社から内定が出て、最終的に「安心して入社してくださいね」と言ってくださった会社に決められました。半年勤務後に産休・育休を取得し、無事復帰してご活躍されていると伺っています。

―長く働き続けられる勤務先が見つかったのですね。「条件」や「スキル」だけでなく、ご本人らしさや「強み」が評価される事例は増えているのでしょうか?

林:今、企業の採用環境は大きく変化しています。人材難の企業も増えていますし、リモートワークやフル・フレックスにも対応できる職種や組織も増え、企業側の採用基準や働き方に関する制度もより柔軟に変化してきているように感じています。

一方で、現職や前職で経験したことの「固定観念」に縛られすぎてしまい、求職者ご自身が転職活動を最初からあきらめているとしたら、とてももったいないと感じることは多いです。

例えば、営業事務を経て子育て中の求職者の方は、社内の営業担当のニーズを引き出して先回りした対応提案をしてきた経験が、対象をサービスのカスタマーに置き換えればご活躍いただけるという評価を受けました。現在は、SaaS系企業のカスタマー・サクセス部門でご活躍されています。

これまで通り、スキルや資格など経験や実力を裏付けるものがあれば、企業側ではどういったお仕事を任せやすいかの目安にはなります。しかし、経験やスキルを棚卸しすることで、応用できる職種や領域の範囲を見直し、新たなフィールドを見つけられることがあります。

また企業側でも、同業界でのスキルや経験がなかったり、働き方に制約がある、新たな人材を受け入れることで組織自体を活性化し、企業成長を目指したいという考え方が増えています。一人ひとりの個性や得意を組み合わせて「総合力」を向上させていくことが重要になっていると思いますし、今後もさらに増えていくと考えています。

―一方で、自分がもし、「あなたの強みは何ですか?」と聞かれたら、スキルや資格について聞かれている気持ちになり、「強みはないです」と答えてしまいそうです。リクルートエージェントではどうやって、その人らしさを引き出しているのでしょうか?

吉田:まさにその通りです。「強みは何ですか?」と伺ってしまうと、「強みはないです」と謙虚にお答えになる方が多いですね。

ですので、できるだけ「人と比べて少しだけ得意だなと思うことはありますか?」「夢中になれることは何ですか?」「つい集中してしまうことはありますか?」「人と比べて少しだけ早くできる、臆さずできるなど「得意」だと思うことはありますか?」「学生時代から続けていて、苦にならないことはあますか?」などと伺うようにしています。そうすると、パッとお顔が明るくなって、いろいろとエピソードを交えてお答えいただけることが多いです。

林:それ、とても分かります。私自身も、「強み」と聞かれるとしり込みしてしまいますが、「人と比べて少しだけ得意なことは?」と聞かれると思い当たることがあります。例えば、子どもの学校のPTA活動などでいろいろな方にお会いすると、「周りを巻き込んだり、割と人前で話すことには抵抗がないな…」と気づけます。長く働いている現部署のなかにいるとその“得意”に気づきにくいのですが(笑)。

吉田:現職では気づきにくいその方の得意分野も会社や業界、場を変えると素晴らしい強みになると気づけることも多いですね。先ほどお話しした妊娠中に求職活動をされていた求職者の方も、これまでのIT職としてのご経験に加えて、子育てと仕事の両立を生産性高くスケジュールを差配しながら進める工夫やスタンス、前向きな考え方なども、企業への推薦文に盛り込みました。企業側でも、新しい求職者が現状の組織に刺激を与えてくれる存在であり、ご活躍いただけるイメージがついたと伺っています。

採用支援を通じたDEI推進で、目指したいこと~一人ひとりの得意を組み合わせた新たな社会づくりを

採用支援を通じたDEI推進の拡大に向けて現状の課題と未来について語ったリクルート HRエージェントDivision 林 素子と吉田智春

―最後に、おふたりの今後のビジョンについて教えていただけますでしょうか。

吉田:私の実家は商売をしており、祖父祖母、父母、子どもたち含め全員野球で、それぞれができることを組み合わせて家庭と商売を切り盛りしているなかで育ちました。また、私自身も障がいを持つ子どもを含め3人の子育てをしながらのキャリアを続けながら実感しているのは、「働き方の柔軟性」や「得意を活かした組織つくり」というのは社会全体の活力を引き上げることにつながる、ということ。

子ども、シニア、障がい者…などという分類ではなく、その人が得意なこと、できることに着目すれば、一人ひとりができる仕事やイキイキできる場所が見つかると感じています。

まさに、「制約はあるけれど、働きたい」と考える人たちの声に応えることは、日本が直面している労働力人口減少の局面を乗り越えるヒントがあるのではないかと考えています。このプロジェクトを通じて、新しい社会への一歩に踏み出そうとする求職者の方や企業の方々のご支援ができるように頑張っていきたいと考えています。

林:私たちHRエージェントDivisionでは、「一人でも多くの人たちが『働く喜び』を膨らませ、『働く喜び』の輪が、新たな活力を生み出している社会をつくりたい」というビジョンを掲げています。私自身もふたりの子育てをしながらキャリアを重ねてきましたが、社内外含めて周囲にも、今の環境で働き続けることをあきらめてしまいそうになるという声や、離職後の再就職の難しさなどさまざまな声が届きます。ご相談に乗りながら、正直自身の力不足を感じるとともに、何か社会に対してできることがもっとあるはずだと感じる場面も多くありました。ひとりでも多くの方が、自分らしく働き、生きることの実現こそが、家族やチーム、企業の活力、ひいては社会への活力につながると感じていますので。

DEI推進プロジェクトとしても、社内変革のリードとともに、社外も含め「働きたい」と考える方々の声やニーズを企業や社会に届けながら、私たちのできることを、一歩ずつ拡げていけたらと考えています。

リクルート東京駅八重洲南口 リクルートオフィスにて対談を終えたリクルート HRエージェントDivision 林 素子と吉田智春

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

林 素子(はやし・もとこ)
リクルート HRエージェントDivision 顧客ロイヤルティ推進部 DEI推進プロジェクト グループマネジャー

2001年4月に株式会社リクルートスタッフィングに入社。03年リクルートエイブリック(現 HRエージェントDivision)に出向、05年に転籍。コンシューマーサービス領域にてリクルーティングアドバイザーを経て、マネジャーに。09年、一度目の産休・育休を経プロジェクト企画プランナーとして復帰し、時短勤務も経験しながら2子の産休・育休を経て、23年4月より現職へ。休日は、中3長男と小4次男のサッカーと野球のスケジュールの合間を縫って、アクティブに過ごしている

吉田智春(よしだ・ちはる)
リクルート HRエージェントDivision カスタマーサービス統括部 カスタマーサービス1部 インターネットCAグループ

1989年リクルート人材センター(現 HRエージェントDivision)に入社。営業企画、営業、キャリアアドバイザー、キャリアアドバイザーグループのマネジャー、スーパーバイザーなどを経て、現在はネット関連企業に勤務するカスタマーのキャリアアドバイザーを務める。3人の子育てをしながら、休日はボイストレーニングも楽しんでいる

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