20年目のリニューアル。国内旅行の現状が分かる『じゃらん観光国内宿泊旅行調査』とは
日本に観光庁が設置されたのは2008年ですが、リクルートではその前の2005年から「じゃらんリサーチセンター」を立ち上げ、日本の観光や地域振興に関わる調査研究・発信を行ってきました。
なかでも一番長く続いている調査が『じゃらん宿泊旅行調査』。2005年から毎年行われてきた同調査ですが、20回目となる2024年、『じゃらん観光国内宿泊旅行調査』と名前も新たにリニューアルしました。
どう変わったのか、その背景にはどんな思いがあるのかについて、じゃらんリサーチセンター主席研究員の森戸香奈子に話を聞きました。
― 20回目となる今回、『じゃらん宿泊旅行調査』がリニューアルしたとか。
森戸:2024年発表分の調査から『じゃらん観光国内宿泊旅行調査』と名前を変えました。『じゃらん宿泊旅行調査』は元々、じゃらんリサーチセンターが2005年から毎年行っている定期調査で、都道府県魅力度ランキングや旅行市場動向などを調査・発表してきました。
しかし、調査開始から20年となり、その間に世の中も大きく変わったことから今回リニューアルを決断したんです。
― 何を変えたのでしょうか?
森戸:まずは調査方法です。これまではPCでの回答を想定したインターネット調査を行ってきましたが、現在はスマートフォンの普及が顕著。そこで、より幅広い方にご回答いただくために、スマートフォンでも回答いただけるような仕組みに変更しました。変更にあたっては数年かけて検証を行い、調査の持続可能性を考えてリニューアルに踏み切りました。
また従来の『じゃらん宿泊旅行調査』という名前では、「出張や帰省、修学旅行での宿泊も含むのか」「海外旅行は含むのか」などが一目では分かりにくかったため、あくまで国内の観光旅行を対象にした調査であるということが分かりやすいよう、『じゃらん観光国内宿泊旅行調査』と名前を変えています。
― 『じゃらん観光国内宿泊旅行調査』では何が分かるのでしょうか?
森戸:国内宿泊旅行を実施した人の割合や行き先、世代別の行動傾向、同行者の有無や費用総額、回答者の居住ブロック別の傾向など、国内の観光を目的とした国内旅行の実態が地域別に分かります。
2024年発表分(2023年度調査分)でいうと、コロナ禍の影響が落ち着き、観光目的での国内旅行実施率が49.5%に上ったことや、男性若年層によるひとり旅の実施と現地消費額の高さのほか、食や宿泊施設、アクティビティなど、どんなことを求めて各都道府県を訪れているのかなども分かるようになっています。
よく、『じゃらん』利用者を対象にした調査だと思われるのですが、そうではなく、全国の18歳~79歳の男女を対象に広く実施しています。今回は1万5520人の方に本調査にご協力いただきました。
― どういうふうに活用できるのでしょうか?
森戸:旅行市場動向以外にも、都道府県魅力度ランキングなども出していて、こうしたランキング結果を地域の観光メディアや観光施設の方がPRに使用したり、データを活用して自治体の観光基本戦略立案時の参考にしていただいているようです。
そもそも地域のキャパシティは決まっていますよね。隣県の観光資源が豊富だからといってよその観光資源をもらうことなんてできないわけです。今あるもので勝負するしかない世界が観光業。だからこそこの調査が、限られたリソースをどう使うのか考える観光戦略立案の一助になってくれたらと思っています。
― 活用いただくためのセミナーも実施されていますよね?
森戸:あくまで使っていただくための調査だと考えているので、本調査だけでなくじゃらんリサーチセンターで行っている各種調査結果を携えて、毎年7・8月を中心に全国で『観光振興セミナー』を実施しています。実際に研究員が全国8会場に出向いて、調査で得られた地域観光の状況をご説明したり、データの読み取り方などをエリア別にアレンジしてお伝えしています。
ありがたいことに「実際に足を運んでくれる上に、無料でここまでの分析結果や提言をくれて嬉しい」と喜んでいただけることも多く、私たち研究員のやりがいにもつながっています。
変わる地域の力になれたら。調査で願うこと
― なぜそこまでやりきれるのでしょうか?
森戸:じゃらんリサーチセンターが設立された当初からある理念なのですが、 私たちは日本中の地域の「変わる決意」に寄り添い、力になりたいと思っています。
最近、景観が有名になって観光客が集まりすぎた結果、地域住民や観光客の安全を考えて、その美しい景観に目隠しをするという事例もあったように、本来、観光振興とは、自分たちの地域に何があり、何を大事にしたいのかを自分たちで考え、決めなくてはいけないもの。地域の意思が求められ、試されるものなんです。
だからこそ私たちは、地域の皆さんが自分たちの意思で決められるような判断材料を少しでも提示できたらと思って調査を重ねています。
― 地域が自分たちで決めるお手伝いをしたいということなんですね。
森戸:はい。観光に詳しい専門の事業者と共に進めることも大切ですが、事業者に任せきりになり、一時的に効果を上げるような施策が長続きしない事例は数多く見てきましたし、やはり自分たちがどうなりたいかが肝。ですが、どのような旅行者に来て欲しいか・どのように楽しめるか・楽しんでいただきたいかなど、どうなりたいかを決めるには判断材料が少なく、なかなか動き出せないのが地域観光の現状だと思うのです。
私がじゃらんリサーチセンターで調査に携わるようになったのは、2007年からですが、その前は長くマーケティングを専門にし、『じゃらん』編集部で全国の観光地も見ていました。着任当時、マーケティングの視点で見ると、観光領域のマーケティングは他領域に比べ遅れていました。今でこそ観光庁も調査を行っていますが当時はそれも無く、判断材料に乏しかったのです。
だからこそ少しでも判断材料を提示する調査に携われて嬉しい。ただ、自分でやってみて思ったのは、一般的なマーケティングに比べて、地域のマーケティングは難易度が高いということです。観光事業者、住民、旅行者、世相など考えるべきファクターが多く、設計も難しくて…。ですが、どうしたら良いのか分からない、踏み出す勇気がない方をそっと後押しできたらという思いで取り組んでいます。
私は全ての都市が似たようなものになってしまうのは寂しいと思っています。本来、地域ごとに特色があるからこそ、観光は成り立つ。そう思うからこそ私たちは調査を重ね、求められれば、全国各地に100名以上いる地域創造部の営業メンバーが各地域の歩みに伴走もしています。
「調査を通して少しでも地域の力になれたら」、そう願ってこれからも微力ではありますが進んでいきたいです。早速今年も、全国各地で待ってくださっている皆さんに調査結果をお伝えすべく、全国8会場で開催する『観光振興セミナー』に情熱を傾ける夏になりそうです。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 森戸香奈子(もりと・かなこ)
- 株式会社リクルート 旅行Division じゃらんリサーチセンター 主席研究員
-
1998年リクルートに入社。調査専門の関連会社(当時、株式会社リクルートリサーチ)へ出向し、調査の設計および分析を担当。リクルートの旅行事業『じゃらん』編集部、広告制作を経て、2007年4月じゃらんリサーチセンターに着任。2022年4月主席研究員に着任。担当研究に日本人の国内旅行実態を調べる『じゃらん観光国内宿泊旅行調査(旧じゃらん宿泊旅行調査)』など。書籍や業界紙への執筆活動、また各地域での講演や委員なども務める
関連リンク
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