オンラインの「参加型イベント」で活発な議論を実現するには
2020.6.23
新型コロナウイルス感染症の影響により、様々なリアルイベントの開催が難しくなる中、講演やセミナーなどは多くがオンライン開催に移行しました。リクルートキャリアが運営する社会人インターンシップ『サンカク』も、3月からオンライン開催を行っています。一方、「ワークショップ(※1)」「ミートアップ(※2)」「ハッカソン(※3)」といった双方向のコミュニケーションが必要な参加型イベントについては、オンライン化するにはハードルが高いと開催者には感じられているようです。
そこで、オンライン上でのディスカッションやワークショップを主催するにあたり、いかに場を活性化し、参加者同士の活発な議論を創出するかについてお話しします。このメソッドは、参加型イベントだけでなく、ビジネスの場面におけるオンラインでのディスカッションにも活用できます。ぜひ、参考にしてみてください。
※1【ワークショップ】もともとは、仕事場、作業場など協働で仕事を行う「場」を表す言葉。近年の日本では、参加体験型グループ学習を指す言葉として用いられる。参加者自らの積極的な意見交換や協働を通じて、実践的な知識や技術を学べるのが特徴。
※2【ミートアップ】同じ目的を持った人と出会い、交流することを目的としたイベント。積極的に情報交換を行うことができる。
※3【ハッカソン】ハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせたIT業界発祥の造語。同じテーマに興味を持った開発者が集まり、協議・協力しながらコーディングを行う催しだったが、近年ではオープンイノベーションの手法のひとつとしてIT業界以外でも活用される。
本解説は、社会人インターンシップを提供するリクルートキャリアのサービス『サンカク』の古賀 敏幹が「オフィスのミカタ」へ寄稿した記事を一部再編集して掲載しています。
リアルイベントの「熱量の高さ」は、オンラインでは再現不可能か?
執筆者である私、古賀は、ビジネスパーソンに対して他社での「社会人インターンシップ」の体験機会を提供するサービス『サンカク』を手がけています。新型コロナウイルス禍にあっても「個人の成長や出会い、イノベーションの機会を損失させたくない」という思いから、社会人インターンシップのオンライン化への取り組みを始めました。
発案した初期(2020年2月中旬)、複数の企業にオンラインでの参加型イベントの開催を提案したところ、熱量高いコミュニケーションがオンラインで実現できるのか懐疑的な声が多く聞かれました。
そこで私は、10を超える論文などから、リアルな場のコミュニケーションの設計とオンラインでのコミュニケーションの設計の違いを調査。オンラインでも議論を活性化させ、参加者の満足度を高める手法について仮説を立てました。これを試しに数回実践したところ、多くの参加者から「深く議論ができた」「面白かった」など満足の声をいただいたのです。その理論と、これまでの実証結果について、詳しくお伝えしていきます。
コミュニケーションの質を測る指標を13項目・6種類に分類
なぜセミナーはオンライン化がスムーズにすすみ、双方向のコミュニケーションが必要とされる参加型イベントは実現しづらいのか。それは、そもそもの目的が異なるからです。セミナーの目的は「情報の共有」。登壇者が発信する情報が参加者に正しく伝わればよいため、参加者同士のコミュニケーションは重要ではなく、偶発的な出来事もあまり起こりません。
一方、参加型イベントは「体験の共有」を目的としています。参加者同士がコミュニケーションをとり、予測不可能な出来事も頻繁に起こるからこそ、気づきや学びにつながります。そのため、コミュニケーションを活発化させ、ディスカッションの質と熱量を高める「場づくり」が重要ですが、オンラインではそれが難しいと思われているのです。
参加型イベントのオンライン化に向け、新型コロナウイルス感染症が拡大しつつあった2月中旬から、私は様々な学術論文を読み込みました。そこから見えてきた要素をピックアップして整理し、コミュニケーションの質を測る評価軸として独自に13の項目にまとめてみました。それをさらに6種類に分類したのが次の図です(※参考文献は本ページの最後に記載)。
コミュニケーションの質を測る評価軸に関する仮説
オンラインの課題は「相互理解」をいかに高めるか
これらの評価軸の中で、オンラインとリアルの間で大きく違いが生じるのが「1:相互理解」と「2:情報伝達」です。参考文献によると、「情報伝達」については、実はオンライン上の方が高くなる一方、「相互理解」が低くなると語られています。読者の中にも、オンライン会議の方がリアルに比べて「自分のプレゼンや説明がちゃんと相手に伝わっているか不安になった」という経験をされた方もいるかもしれません。
実際にはプレゼンテーションの際にパワーポイントなどの説明資料を使うことで視認性が高まり、情報が正しく伝わっていることが多いのです。しかし、オンラインでは、プレゼンテーション資料などを画面に表示している間、参加者の表情が見えず、発言している人は、他のメンバーのリアクションがわからないと不安になり、「伝わっている」という実感を持ちづらくなる傾向があります。
一方、聞いている側のメンバーも、モニター越しだと、目の前に相手がいるのと比べてリアクションが希薄になりがちではないでしょうか。結果、「相互理解」が進みにくくなります。「相互理解」の度合いが低い状況では、率直な意見が言いづらくなり、「自己表現ができた」という満足感も得にくくなります。
つまり、オンライン上では、メンバーそれぞれが発信する情報や意見は正しく伝わっているものの、本人は「伝わった」という実感を得にくいという傾向があります。「伝わっている」「お互いの理解が深まっている」と感じられる場にすることが、コミュニケーションの質を高めるカギといえるでしょう。
「相互理解」はファシリテーションの工夫で高まる
では、「伝わっている」「お互いに理解できている」と感じられるようにするためには、どうすればよいか。これは、ファシリテーション(※4)の工夫によって解決することができます。先ほどの評価軸の図の「4:議論進展」を活発化させるのです。
例えばAさんが発言したことに対して、ファシリテーターがBさんに意見を求める。BさんがAさんの考えを受けて意見を述べることで、Aさんは「ちゃんと聞いてもらえていた」「伝わっていた」と実感することができます。そして、Aさん、Bさんの意見について、Cさん、Dさんにも問いかけていく…というように進展させることで、相互理解が深まっていきます。新しい視点でのアイデアも出てくるため、「5:新規発見」の満足度も高まります。
コミュニケーションの質を測る指標のうち、「相互理解」「新規発見」「情報伝達」「議論進展」を以下の図のようにループさせていくことで、オンラインディスカッションの質と満足度を高めることができると考えています。
さて、ここで、イベント開催者の皆さまは、高度なファシリテーションの技術が必要なのではと新たな不安を抱くのではないでしょうか。
実は、そうではありません。「議論進展」は3つの「型」に集約することができます。「A:化学反応型」「B:相互理解促進型」「C:因数分解型」です。
この3パターンを押さえておけば、ファシリテーターとしてのスキルが乏しくても、議論を活性化させることができるのです。
※4【ファシリテーション】活動が円滑に運ぶよう支援し促進していくこと。会議で言えば進行役。
議論を進展させる3つの「型」でファシリテーションは容易に
参加型イベントをオンラインで実施する上で重要なのは、前述の通り、参加者の「相互理解」を深めることです。オンラインでは、対面しているときと比べ、表情やしぐさなどの「非言語コミュニケーション」が取りづらく、自分の発言が他のメンバーに伝わっているのかどうか不安になりがち。すると、率直な発言がしづらくなり、場の熱量も高まりません。
そんなときは、ファシリテーターが、1人の意見に対して別のメンバーに意見を求めるなどして「議論進展」を促すのが有効です。自分の意見に対する他者の意見を聞くことで、「聞いてもらえていた」「内容が伝わっていた」と安心感を得られるからです。
では、どのように議論を進めていけばよいのでしょうか。次の3つの「型」を踏まえて設計していくことで、議論を進展させることが可能なのです。
- A:化学反応型
DさんとEさんのアイデアをかけ合わせることで新しいアイデアにつながる発言を促します。
- B:相互理解促進型
DさんとEさんのアイデアが対立している場合、「何が違うのか」「なぜ違うのか」を考えさせます。
- C:因数分解型
抽象的なアイデアが出てきたときに、「具体的にはどういうことですか」など、深掘りする問いかけをします。
この3つの型を組み合わせることで、議論は進めやすくなります。最初にイベントを設計する段階で、「A:化学反応型」のようにかけ合わせをどんどん増やしていくか、「B:相互理解促進型」で対立が生まれるようにするのかを想定しておくことで、ファシリテーションの難易度は下がると思います。
「議論進展」があるオンラインワークショップは、参加者の満足度が高いという実験結果に
「『議論進展』を促すことで、相互理解が進み、オンラインコミュニケーションの質が高まる。」この仮説に基づき、実際のオンラインワークショップで実験を行ってみました。
ご協力いただいたのは2社(X社、Y社とします)。X社では「『議論進展』を促さない」、Y社では「『議論進展』を促す」と、進め方に差をつけました。いずれも、「テーマに対して参加者がブレスト的にアイデアを出す」→「質問があれば参加者が相互に聞く」という流れは同じ。しかし、X社では「一番良いと思ったアイデアに投票する」ところで終了し、Y社では「それぞれのアイデア同士をかけ合わせて、新しいアイデアを創出する」というように議論が進展したのです。
ワークショップ終了後、参加者にアンケート調査を行ったところ、X社の満足度は5点満点中、3.7点、Y社の満足度は4.4点と、大きな差が見られました。参加者から寄せられたコメントの一部をご紹介しましょう。
X社:「議論進展」なし
- 他の人のアイデアを知ることができたり、一番良いアイデアを出そうと競争したりする感じは楽しかったが、グループでアイデアを練り上げている、協働している感覚がなく、物足りなかった
- 知らない人同士で関係性が構築される感覚はなかった
Y社:「議論進展」あり
- 他の参加者のアイデアがあったおかげで、自分だけでは考えつかなかった新しいアイデアが出た瞬間が楽しかった
- チームで議論している感覚を味わえた
- リアルで議論しているときと差がないくらい熱量を感じた
このように、「議論進展」を促すことで場の熱量は高まり、参加者の満足度も高まるという結果を得られたのです。
テーマの「粒度」を適切に設定することが重要
「議論進展」を意識したオンラインコミュニケーションの設計をするにあたっては、大前提として議論のテーマの「粒度」を適切に設定しておく必要があります。議論テーマの粒度が粗過ぎると、それぞれのアイデアの軸が違いすぎて進展を生み出せず、「議論の空中戦」が発生してしまいます。
わかりやすい例を挙げると、「新型コロナウイルス感染症問題をいかにして終息させるか」というテーマ設定をしたとします。「特効薬の開発を急ごう」と言う人と「検査体制を強化しよう」と言う人がいたら、そもそもの前提が異なるため、意見が交わることもなければかけ合わせることもできません。この議論テーマは「粗過ぎる」ということです。粒度を細かくして、「特効薬の開発をスピードアップするためにはどうすればよいか」「検査体制をどうあるべきか」というテーマに設定すれば、議論は進みやすいでしょう。
なお、うまく運んだオンラインワークショップの設計の事例をもうひとつご紹介しましょう。テーマは「組織開発」。ここでは、あえて「対立」を生むようなテーマ設定をしました。「議論進展」の3つの型のうち「B:相互理解促進型」を想定してテーマを設計したのです。
実際のワークショップでは、「マネジメント層を育成すべき」「若手層を育成すべき」「チームビルディングを工夫してコミュニケーションの円滑化を図るべき」という3つの選択肢を用意して、参加者に「あなたはどれがいいと思いますか」と最初に投げかけました。すると、参加者の意見は割れ、それぞれの理由を語り合うことで議論が活性化しました。
このように、最初のテーマ設定を工夫することで、ファシリテーションスキルが高くなくても「議論進展」を促すことが可能になります。
その他オンラインでのワークショップやディスカッションを成功させるためのポイント
この他、オンラインでのワークショップやディスカッションを成功させるためのポイントとして、円滑に進行するための環境づくりと、議論を盛り上げる仕掛けをいくつかご紹介します。
1グループあたり、最大5人までにする
リアルな場でのワークショップ設計の経験から、1グループは5人以下が適切だと考えます。1グループあたりの人数を変えて実験した結果、6名以上になると議論に参加しなくなる人が出てくる傾向が見られたのです。また、それぞれの意見をかけ合わせていく際にも、人数が多すぎると複雑化し、時間もかかってしまいます。4~5人が適切な人数であることは、オンラインでも同様だと考え、現在のオンライン開催でも実践し続けています。
参加者はできるだけ周辺の音が入らない環境で参加する
周囲の雑音が入ると参加者の声が聞き取りづらく、集中力がそがれてしまいます。静かな環境から参加してもらうようにしましょう。周りの音が気になる場合は、マイクオフ機能を活用します。
資料の共有が別途できる場合、事前に行っておく
資料を画面に映し出すこともできますが、前のページに戻って確認することができないことも。事前に共有しておいた方が話に集中しやすくなります。
参加者がオンライン上で同時に作業ができるような「共有型ワークシート」を準備しておくのも有効。テキスト入力によって意見やアイデアを可視化することで、伝達度が高まります。
リアクションやちょっとしたコメントなどはチャットツールを活用する
ちょっとしたコメントやリアクションを発するにも、他の人と音声がかぶってしまうとストレスを感じるもの(発話衝突)。それを避けるために発言を控えると、どうしても盛り上がりに欠けてしまいます。そんなときはチャット機能が効力を発揮します。
あるオンラインワークショップの実験では、約20人の参加者が5チームに分かれてオンラインディスカッションを行った後、再び全員がオンラインで集い、各チームの代表者がアイデアを発表しました。
すると、最初のチームの代表者が発表するとき、そのチームメンバーの1人がチャットで発表者に対して応援コメントを入力しました。他チームメンバーも続けて「拍手」や「頑張れ!」などのエールの声が書き込まれて行きました。1時間程度、各チームでの議論を経て全体に戻ったとき、チームで応援コメントが飛ぶようになるなど、関係性も構築されていきました。参加する方々のそれぞれのキャラクターが垣間見えたやりとりで、場が一気に和んだのです。その後、各チームの発表の際にも応援コメントが自然と飛ぶようになりました。熱量のある議論によって構築されたつながりや関係性の温かさが、コメント機能を使うことでオンラインでも体感できる瞬間でした。チャットで寄せられたコメントを、ファシリテーターがラジオパーソナリティのように拾い上げるといった工夫も効果的です。
新型コロナウイルスの影響が長期化する中、自己成長や出会い、交流の機会を諦めるのではなく、状況に応じて新たなスタイルを築いていくことが重要だと思います。我々が今回考案したメソッドは様々な可能性のうちのひとつのパターンだとは思いますが、この記事を読んで、「自分も挑戦したい」と思っていただけた方がいれば、ぜひ今だからこそできることを一緒に考え、実践し、新たなスタンダードを創り上げていけると嬉しいです。(リクルートキャリア 事業推進室 インキュベーション部 HRマーケティンググループ マネジャー 古賀 敏幹)
3月29日開催オンライン社会人インターンシップの様子
※本記事内の図は、参考文献を基に独自に作成したものです
参考文献
大平雅雄『対面異文化間コミュニケーションにおける相互理解構築とアイデア創発の支援に関する研究』、2003年3月
大澤幸生、小橋りさ『日用品企画実験における対面・Web上の議論の効果比較 ~提供者と受容者の相互作用モデルの部分的検証として~』(マーケティングジャーナルVol.31)、2011年
奥田 訓子、尾野 明美、荒木 みさこ、茂木 俊彦『感情共有コミュニケーション尺度開発の試み』、桜美林大学心理学研究、2012年度
※当該文献の著者の掲載順序は論文内の表記に準じています
杉谷陽子『インターネット・コミュニケーションの優位性と課題について:心理学からの提言』(第3回ITコミュニケーション活用促進戦略会議)、2014年2月12日(PDF 558KB)