キャリアアドバイザーの転職事例コラム
~「すぐ決まる」より「やりたい」を貫いたママNさん~
2020.8.18
リクルートキャリアの転職支援サービス『リクルートエージェント』のキャリアアドバイザーが、持ち回りで転職事例をご紹介します。
新型コロナウイルス感染症の影響により先行きが見えない日々が続くなか、「転職したいけれど、一歩を踏み出せない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このコラムでは、この状況下でさまざまな不安を抱きつつも懸命に転職活動を行い、転職を実現させた方の事例をお伝えします。その姿勢や活動プロセスに見られる「転職実現のポイント」を、ぜひ参考にしてみてください。
今回の事例を紹介するキャリアアドバイザー
寺田 南津衣
ヘルスケア領域を手がけるグループにおいて、食品業界・化粧品業界研究開発~マーケティング、製造職など幅広いの転職支援を担当。これまでに第一次産業から第三次産業まで幅広い業界への転職支援実績がある。
転職活動を支援する上で大切にしていること
求職者にとっては不安が多い転職活動のパートナーとして、安心感を持ってもらえる存在でありたいと思います。役に立てること、力になれることを大切にし、活動のモチベーションを保てるようにしています。
転職を実現した方
Nさん/30代後半/女性
消費財メーカーのデザイナー
→ 消費財メーカーのデザイナー
年収の変化:約20万円アップ
転職の軸:好きな仕事であること/長期的にキャリアを積めること
Contents
「この際、どんな仕事でもいい」――本当にそう思っていますか?
「とにかく転職を急いでいるんです。勤務時間・勤務エリアの条件が合う企業であれば、業種・職種にはこだわりません。正社員でなくても構いません」
5月初旬、オンライン面談で初めてお会いしたNさんは、切羽詰まったご様子でした。
消費財メーカーでパッケージ・カタログ・リーフレットなどのデザインを手がけてきたNさん。
第1子を出産後、育児休暇をとっていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で職場復帰が困難に。転職せざるを得なくなり、保育園への入園条件を満たすために、一刻も早く就業しなくてはならなかったのです。独自に転職活動を始めたものの、うまく進んでいないようでした。
「18時までに保育園にお迎えに行ける勤務時間・エリアなら、どんな仕事でもいい」と考えていたようです。「時間に制約があるママの転職は厳しい」と、覚悟していたのでしょう。
それに加え、「新型コロナウイルス感染症の影響で企業の業績が悪化し、採用を行っていないのでは」という不安も抱いていらっしゃいました。
とはいえ、「どんな仕事でもいい」は本心ではないはず……そう感じた私は、こう問いかけてみました。
「目の前の条件は一旦取り払うとして、本当はどんな仕事がしたいですか? 5年、10年、20年先、自分はどうなっていたいと思いますか?」
じっくりお話をしてみると、Nさんはこれまでも自分の「キャリア」にしっかり向き合ってきた方だとわかりました。そして、今後についても、「好きなことを仕事にしたい」「長期的にキャリアを積みたい」という思いが浮き彫りになったのです。
そこで私は、その実現をゴールに据えて、転職活動に伴走しようと決めました。
「やりたいこと」を軸に、可能性を広げてみる
「デザインに関わる仕事がしたい」というのがNさんの希望。これまでの経験をそのまま活かすなら、パッケージやカタログなど印刷物のデザイン職がぴったりマッチします。しかし、その求人だけをピンポイントで狙うのでは、時間がかかりすぎる可能性があります。
そこで「デザイン」を軸に、求人の選択肢の幅を広げてみることをご提案しました。まず、デザイナー求人として主流となっている「Webデザイン」。また、これまでターゲット像を踏まえてデザインの企画をしてきた経験から、販促ツールの企画を手がける「マーケティング」部門でデザインに関われる可能性もあると考えました。
Nさんはいずれの道にも興味を示されたので、さっそく該当しそうな求人を探しました。Webデザインの経験はなかったNさんですが、勉強を始めていらっしゃったようです。
ご紹介したのは、業種問わずメーカーの宣伝部門やマーケティング部門、広告代理店、Web制作会社など。その中から興味を持てる求人を選んで応募→不採用になったら新たな求人をご紹介するサイクルを繰り返し、トータルで300件ほどの求人をご紹介しました。転職を急がれているNさん個人のご事情もあり、60件ほどの求人への応募に踏み切られました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって苦境に立たされたNさんですが、ここで思わぬメリットがありました。
感染拡大防止のため、ほぼすべての面接がオンラインで行われていたのです。本来の「対面面接」では、育児中の彼女にとって面接のために外出することは難しく、制限がかかっていたでしょう。
しかし、Web面接であれば、家にいながら何時でも面接を受けられます。だからこそ、可能性を広げて数多くの求人にチャレンジすることができたのだといえます。
異職種へのチャレンジに際し、職務経歴書の書き方を工夫
これまでの経験とは少し異なる領域の求人にも応募する場合、「何ができる人なのか」を応募企業がイメージできるように職務経歴書を工夫することが大切です。そこで、次のようなアドバイスをしました。
経験内容を「定量的」に伝える
営業職などの場合、売上目標の達成率や新規顧客獲得件数など、実績を「数値」で示しやすいのですが、そうではない職種も多数あります。それでも定量的に表現することは可能です。
デザイナー職であるNさんには、次の項目を整理・記載していただきました。
- 制作物の企画・リリースのペース(月に*回など)
- プロセスごとに関わった関係者の人数、それぞれの役割(社外/社内)
- 制作にかける期間・スケジュール
「当たり前のもの」と捉えて省略している経験も明文化する
転職相談者の皆さまに経験内容をお聞きしている中で、「それは素晴らしいご経験ですね」と伝えても、「そうなんですか? 当たり前にやっていることなんですが…」という反応が返ってくることがあります。ご本人は、その経験・スキルの価値に気づいていないことも多いものです。
Nさんの場合は、社外のパートナーとの連携も経験されていました。それは「コミュニケーション能力や折衝力を身に付けている」というアピール材料にもなります。
このように、ご本人が強みとして認識していないご経験も洗い出し、職務経歴書に記載することをお勧めしました。
応募先企業ごとに、自己PRの内容をカスタマイズする
「印刷物のデザイン」「Webデザイン」「マーケティング」と、異なる領域の求人に応募するにあたり、応募先によって経験・スキルのアピール内容と志望動機を変えて記載していただきました。
応募企業が求めている職種・役割に応じ、そのポジションで活かせそうな経験・スキルをピックアップし、強調してアピールするようにアドバイスしました。
キャリアアドバイザーが振り返る、Nさんの転職実現のポイント
転職活動の結果、Nさんは2社から内定を獲得。いずれもデザイナー経験を活かせるポジションです。さまざまな側面から検討し、最終的には消費財メーカーのデザイナー職を選ばれました。前職より上流の工程にも携われるという点で、キャリアアップにつながるでしょう。年収も20万円アップとなりました。
Nさんの転職活動を振り返り、これから転職活動に臨む皆さまの参考になりそうな行動や考え方をご紹介します。
落ちてもめげずに「継続応募」
不採用が続くと、自信をなくして落ち込んでしまう方が多くいらっしゃいます。「否定されたわけではない。合わなかっただけ」とお伝えしても、次もまた傷つくことを恐れて、行動を止めてしまうのです。
しかしNさんは、不採用が続いてもあきらめず、根気よく応募を続けました。「こんな時期なのだから、打率は低くて当然」と冷静に状況を理解。強い精神を保って行動し続けたのです。
「自己認知」し、意志を持って選択
転職活動開始当初のNさんは、育児環境を整えるための「勤務時間」「勤務地」だけを条件としていましたが、視野を広げて多くの求人を検討する中で、「やりたいこと」「やりたくないこと」を素直に感じ取り、「自己認知」を高めていかれました。
もともとこれまでのキャリアの中で、自分のこだわりに向き合ってきたNさん。切羽詰まった状況で一時は「条件」に流されかけたものの、応募行動を続ける中で自分の「意志」を取り戻したのです。
内定を得た企業のうち、実は辞退した企業のほうが好条件でした。しかし、Nさんは将来的なキャリアビジョンを見据え、条件面よりもやりがいを選択したのです。
自己を認知し、意志にもとづいて行動・決断する――その大切さを、改めてNさんから気づかせていただきました。