キャリアアドバイザーの転職事例コラム
~「お客様に貢献したい」 価値観に気づき、異業界へ転職したKさん~
2020.11.17
リクルートキャリアの転職支援サービス『リクルートエージェント』のキャリアアドバイザーが、持ち回りで転職事例をご紹介します。
新型コロナウイルス感染症の影響により先行きが見えない日々が続くなか、「転職したいけれど、一歩を踏み出せない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このコラムでは、この状況下でさまざまな不安を抱きつつも懸命に転職活動を行い、転職を実現させた方の事例をお伝えします。その姿勢や活動プロセスに見られる「転職実現のポイント」を、ぜひ参考にしてみてください。
今回の事例を紹介するキャリアアドバイザー
椿 彩花
主に、第二新卒(企業によって定義が異なる)の営業経験者を対象とする転職支援を担当。金融業界の支援実績も多数。
転職活動を支援する上で大切にしていること
何をもって「転職成功」といえるかは、お一人おひとりポイントが異なります。それを的確につかむこと、そして転職活動を進める上で何が障害となり得るかを想定した上で、アドバイスすることを心がけています。
転職を実現した方
Kさん/20代前半/男性
大手金融機関の営業職 → IT企業の営業職
年収の変化:前職水準を維持
転職の軸:「顧客への貢献」を実感したい
Contents
「自分は営業に向いていない」――その裏側にあった価値観
「営業職はもうこりごりです。僕は営業に向いていないと思います」
大手金融機関で営業職を務めて2年、転職相談に訪れたKさんは現職への不満を語り始めました。少し話を聞くと、どうやら自分の考えをまだ整理できていないご様子。
「転職するべきかどうか」を迷っている状態で、転職するにしてもどんな業界や企業を選べばいいかわからない。漠然と「成長したい」「スキルを磨きたい」という思いはある――第二新卒層の方によくあるお悩みでした。Kさんのお話をよく伺ったうえで、考え方を一緒に整理するところから始めました。
初回のご相談の時点でモヤモヤした状態であることは決して少なくありません。モヤモヤの正体を突き止め、ご自身でも気づいていない価値観が見えてくることもあるので、丁寧に対話をするようにしています。
これまでの仕事のご経験をお聞きし、「どんなときに楽しかったか」「どんなときにつらかったか」などを語っていただく中で、繰り返し出てくるキーワードに注目します。
Kさんとの対話の中でも、印象的な言葉に出会いました。
「自分のためだけに売っている気がする」
その気持ちにフォーカスして詳しく伺ってみると、Kさんの志向が浮かび上がってきました。
Kさんが不満を抱いていたのは、上司から「この商品を売りなさい」と指示されたものを顧客に案内しなければならないこと。「このお客様にとってはメリットがないのでは」と思っていても、営業目標達成のためには売らざるを得ない状況にジレンマを感じていたのです。
「入社したときは、お客様の役に立つ商品を提案できる仕事だと思っていたのに」――その言葉に、彼の価値観がしっかりと表れていました。
1社しか経験していないと、「営業とはこういうものだ」と思い込んでしまうのも、無理はありません。「当初、営業は嫌だ」と言ったKさんですが、彼が本当にやりたいことは別の営業職で実現できると感じました。「営業にもいろいろなスタイルがある」と伝え、さまざまな異業界の営業職の求人を紹介しました。
コロナ禍で決意。「この会社では長く働いていけない」
自分が仕事をしていく上で大切にしたい価値観を認識したKさん。異業界の営業職を中心に数十社をご紹介すると、その中から興味がある10社強に応募されました。
転職活動を進めている最中、新型コロナウイルス感染症が拡大。
業務が通常通りに進まなくなる中、Kさんは現職の組織体制・体質にも不安を抱き、「今の会社で長く働き続けていける気がしない」と感じたそうです。新型コロナウイルス禍によって以前から持っていた違和感が決定的なものとなり、転職への決意が固まったのでした。
複数社の面接を経て最終的に選んだのは、IT企業の営業職。Kさんが望む通り、「自社商品を提案する」ではなく、「顧客の望むものを提案する」、課題解決により貢献できる仕事です。
「もう営業はやりたくない」と語っていたときとは打って変わり、意気揚々と入社したKさん。おそらく半年前には、自分がこんなキャリアチェンジをするとは想像していなかったでしょう。
根本的な価値観に目を向けてみると、思いもよらない業界や企業に活躍の場を見いだせることもあるのです。Kさんの選択に立ち会い、それを改めて感じさせられました。
在宅勤務となり上司に会えない――「退職交渉、どうする!?」
新型コロナウイルス禍は、Kさんの転職活動の最終局面で思わぬ困難をもたらしました。
「上司と退職交渉したいが、在宅勤務になっているので会って話ができない!」
上司との関係は良好とのこと。それだけに、直接会わずに退職の話を進めるのは失礼だろう……と、Kさんは悩みました。
しかし、ここで立ち止まっていては、新しい会社でスタートを切ることはできません。そこで、リモート環境であっても誠意が伝わるような進め方をアドバイスしました。
メールで伝えるだけでは、事務的で冷たい印象を持たれるかもしれません。
Kさんは、まずはメールで「電話でお話しする時間を設けていただけますか」と切り出し、電話で退職の意思を伝えました。感謝の気持ち、申し訳なく思う気持ちは、「声」でもしっかり伝えられるものです。
その後、電話で話した内容を改めてメールで送りました。電話だけでは「言った」「言わない」で後々トラブルが生じることもあります。退職意思を告げた「記録」を残しておくことが大切なのです。
Kさんの退職交渉中は、日々状況を私に共有いただきながら、上司に送るメール文面や次に取り掛かることをアドバイスしながら進めていました。
退職交渉をすると、引き留められることも多く「考え直してみないか?」と言われると、その選択で本当によかったのかと戸惑う事もあるでしょう。悩まれる方が多いポイントですので、退職交渉もスムーズに進められるようしっかりと伴走いたしました。
キャリアアドバイザーが振り返る、Kさんの転職実現のポイント
第二新卒の皆さんが転職活動でつまずきがちなのが、「転職理由」の説明です。
「なぜ、せっかく入社した会社を短期間で辞めるのか?」――面接で必ず聞かれるこの質問に、相手が納得するような話ができなければ相手の心は掴めません。
「会社のせい」「周りの環境のせい」など、不満の要因を「他責」だけにしていると感じられると、心証が悪くなってしまいます。「なりたい自分」「ありたい自分」をベースに、転職活動の「軸」を明確にし、自身のスタンスや熱意を面接で伝えることが大切です。
Kさんの軸は、「顧客への貢献を実感できる仕事がしたい」でした。
しかし、それだけでは、ありきたりに感じられてしまいます。その「根拠」を、具体的なエピソードとともに伝える必要がありました。
今の仕事に就いてから感じてきたことを伝えるのはもちろん、さらに説得力を高める材料を探すため、私はKさんの学生時代までさかのぼり、印象に残っている体験をたずねてみました。
すると、こんな原体験が語られたのです。
「学生時代の部活動で部長を務めていたとき、自分や部員の改善点を洗い出し、それに沿った練習メニューを提案して実践した結果、大会で好成績を残すことができたんです。このとき、問題を抱えている人を自分のアドバイスによって助けること、人の成長に貢献することに喜びを感じました」
この体験エピソードは、「他者に貢献したい」という思いを裏付けるものとなります。これを聞いた面接官は、彼の「本気」を感じたのではないでしょうか。
企業は、新型コロナウイルス禍のこの時期の採用に慎重になっている場合もあり、それだけに志向や価値観などの相性をより慎重に見極めています。一方でこの傾向は、求職者が自分に本当に合う企業かを確かめる機会にもなると捉え、前向きに転職活動に臨んでいただければと思います。
焦って転職先を決めるよりも、いろいろな企業をじっくりと見ながら、相性が合う企業や、自身が成長できそうな企業を一緒に見つけていきましょう。