リクれぽ 特別編集:「大卒求人倍率」をひもとく

202086日にリクルートワークス研究所より発表された「大卒求人倍率調査(2021年卒)」(※1)。新型コロナウイルス禍における新卒領域の変化などをお伝えするため、この「大卒求人倍率調査(2021年卒)」をリクルートキャリアがひもとき、現場の声や市場動向などの情報を加えながら詳しく解説していきます。

加えて今回の特別編集では、苦難が続く21年卒の就職活動に励む学生の皆さま(以下、学生)に保護者はどう向き合うべきなのか、ということに関して調査をもとに解説しています。また、就職活動が後ろ倒しになっている中で歩みを止めてしまう学生に向けて、「就職活動が思い通りにいかなくても、あきらめるのはまだ早い」と題し、学生はこの状況をどう捉えて行動するべきなのかについて、人事・経営誌「HRmics」の編集長である海老原 嗣生氏より、心理学的な観点からもアドバイスを送らせていただきます。

※1 リクルートワークス研究所 大卒求人倍率調査(2021年卒)

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大卒求人倍率から読み解く、新型コロナウイルス禍の就職活動の変化と在り方

新型コロナウイルス禍で、自分が思い描いていた就職活動や就職活動準備が出来ていない学生も少なくないと思います。また一部では、「就職氷河期の到来か? 」などと悲観する論調も見られ、不安に思う学生もいるでしょう。そんな中、「大卒求人倍率」という就職活動の現状を示す一つの指標がリクルートワークス研究所から発表されました。今年は6月時点で「1.53倍」。学生はこの数値をどのように捉えればよいのでしょうか。今回はリクルートワークス研究所の茂木 洋之さんに就職みらい研究所の増本 全が、大卒求人倍率から読み解ける新型コロナウイルス禍の就職活動の変化と在り方について、疑問をぶつけます。

  • リクルートワークス研究所 研究員 茂木 洋之
    2013年大学院終了後、大学や経済系シンクタンクでの勤務を経て、2018年よりリクルートワークス研究所に所属。企業の採用動向(新卒・中途)や日本の労働市場全般に関する調査・研究に従事。経済学とデータ分析のスキルを用いて、社会課題の解決のため日々活動している。最近は研究所から、パワハラに関する報告書をリリースした。
  • 就職みらい研究所 所長 増本 全
    株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所所長。入社以来、新卒採用や就職支援に係る業務に従事。2018年10月より現職。全国求人情報協会新卒等若年雇用部会事務局長や文部科学省「令和元年度大学等におけるインターンシップ表彰選考委員会」委員など複数の公職を務める。

増本 まず、大卒求人倍率はどのような数字なのでしょうか?

茂木 民間企業に就職をしたい学生一人当たりに対してどれぐらいの求人があるかを見る数字です。2021年卒は、1.53倍(2020年卒:1.83倍)なので、学生一人当たりに1.53件の求人があるということです。6月時点で全国の民間企業の求人総数は、68.3万人(2020年卒:80.5万人)。2021年卒学生の民間企業就職希望者数は、44.7万人(2020年卒:44.0万人)で求人総数が23.6万人分就職希望者を上回っている状態です。

増本 企業の求人総数が12.2万人減少していますね。これについてはどの様に考えたらよいでしょうか。

茂木 確かに前年比-15.1%でリーマンショック以来の落ち込み幅ではあります。しかし、ここ数年続く人手不足の影響により、求人総数はもともとが高い水準でした。そのため、-15.1%の減少とはいえ、2015~16年卒と同水準を維持しています。

増本 2020年卒の大卒求人倍率は1.83倍でした。2021年卒は1.53倍だったので、0.3ポイント落ちたことになります。これは、2021年卒の学生は就職するのが難しくなったということでしょうか?

茂木 事実として数字が落ちたのは確かです。求人倍率が大幅に低下した2010年卒の時(対前年度で0.52ポイント低下)には及ばないものの、10年ぶりに0.3ポイント以上低下しました。しかし、リーマンショック(2012年卒:1.23倍)、バブル崩壊後の経済停滞期(2000年卒:0.99倍)で底を打った時より高い状態です。これまで増加していた第一志望群への入社は難易度が上がる可能性はありますが、悲観的な状況ではないと考えられます。

増本 悲観する必要はないとはいえ、数字は落ちています。リーマンショック、バブル崩壊の話が出ましたが、その時の状況とどのように違うのでしょうか?

茂木 新型コロナウイルス禍も、経済の停滞という意味では、リーマンショックやバブル崩壊の時期と同じです。ただ何に起因するかが大きく違う。リーマンショックやバブル崩壊は金融の機能不全が大きな要因でした。それが経済活動全体に波及し、業種問わず採用に影響があったのが特徴です。また企業規模でいえば、従業員が300人未満の企業が採用を大きく減らしていました。反対に従業員が5000人以上の大手への影響は限定的でした。

それに対して、新型コロナウイルス禍では、業界や業種によって影響がまだらであることが大きな特徴です。例えば、航空業界などは大手でも採用を一部停止していますよね。その一方で、IT業種では、ベンチャーなど小規模な企業ほど小回りが利き、すぐに選考をオンラインに切り替えるなどして、採用を伸ばしていたりもします。また、採用を減らしている業界でも減らし方にかなり差があります。

増本 なるほど。業界ごとに差があるということが特徴なのですね。新型コロナウイルス感染症による経済への影響を考慮すれば、大卒求人倍率でより厳しい数字が出てもおかしくないと思っていました。1.53倍より下がらなかった要因は何かあるのでしょうか?

茂木 理由は大きく3つあります。一つ目は、過去の経験からの学びです。バブル崩壊後の経済停滞期に新卒採用を一気に抑制した企業が多くありました。しかしその結果、10~20年後に、マネジメント層を担うはずの30~40代の社員がいなかったり、企業内の年齢構成が崩れ、技術・ノウハウ継承など世代交代がうまくいかなかったりと、多くの企業で問題が起こりました。こうした経験もあり、新型コロナウイルス禍では景気状況が悪くても新卒採用を維持している企業は多いでしょう。

二つ目は政府が雇用を維持しようとかなり強力に働きかけていることです。バブル崩壊後の経済停滞期に卒業した世代はその後も不安定な雇用に就くケースが多いなど、多くの社会問題を生みました。国はこれらの問題を、今回は未然に防ぎたいと強く考えており、同様に地方行政も力を入れています。そういったムードが企業にも波及しているといえます。

三つ目は中長期的な人手不足が予測できていることです。少子高齢化による人口減で今後日本は労働力不足に陥るといわれています。その状況は新型コロナウイルス禍においても変わりません。そのため中長期的な事業成長を考えると、たとえ新型コロナウイルス禍の影響で景気が悪くなったとしても採用を継続し、人材を確保する必要があると判断しているのだと考えられます。

増本 人手不足の影響や今までの企業の経験から、多くの企業が採用を維持しようと努力しているということですね。

茂木 その通りです。

増本 今後、大卒求人倍率が上がる可能性はあるのでしょうか?

茂木 今回の大卒求人倍率は、6月に調査しています。実は今年の5、6月は新型コロナウイルス感染症の影響で、様々な統計数値が底を打っていた状態でした。また、人手不足など日本の労働市場が抱える中長期的な構造はあまり変わっていません。そういった状況に鑑みても、今後緩やかに回復していくことは考えられます。しかし、もちろん新型コロナウイルス感染症の第二波がくる可能性など不確実性が高い状況であり、求人倍率が落ち込む可能性もあります。先行きに関しては見通せない状態です。

増本 学生は、「果たして自分は志望する企業に入れるのか?」に関心があると思いますが、学生が今までと比べて第一志望の企業に入りづらくなるということはあるのでしょうか?

茂木 どこの業界を目指すかによって変わってきます。先ほども申し上げましたが、例えば航空業界は採用を止めている企業もあります。業界の志望があるのであれば、事前に業界ごとの情報を収集しておくことである程度就職する際の難易度が分かるのではないでしょうか。そのためにもインターンを活用したり、業界の景況感を考察したりすると良いのではないでしょうか。

増本 特に大企業や人気企業を志望する学生からは「新卒で志望の企業に入れなかった、この先もう志望通りの仕事はできないのでは?」などという悲観の声も聞かれます。こうした質問に対して、茂木さんはどのようにお答えになりますか?

茂木 そういった考え方はしなくていいと思います。確かにバブル期から2000年代にかけては、「大企業に新卒で入ることが大切」「入れなかったら、やり直しは利かない」という考え方があったのは事実です。ですが、もう20年も前の話です。そもそも現在は「大企業だから安心」ではないですし、中小企業ならではの働く魅力もあります。人材育成に力を入れている中小企業もあります。副業でスキルアップをするなど、以前と比べてより柔軟にキャリアを形成できる可能性も高まっています。大企業に新卒で入れないことや希望の企業に新卒で入れないことと、将来的な自身の成長は、まったく別の話と考えてよいでしょう。

増本 確かに、学生の皆さんは働いた経験がほとんどないですし、知らない企業ばかりです。現在知っている企業の中の志望企業に入れなければ志望通りの仕事ができないというのは少し短絡的かもしれませんね。

茂木 その通りです。確かに新卒でどこに入社するかが大事にされる風潮も未だにあるとは思います。しかし、新卒で志望の企業に入れなくても、自己分析しながらベストを尽くして成長していけば、自分の望む方向にキャリアアップしていくことが柔軟にできます。

増本 中途入社でも志望の企業に入社するチャンスが広がっているということでしょうか?

茂木 社会変化から即戦力を求めるニーズは高まっており、中途採用で経験やスキルのある人材を柔軟に採用する機運が高まってきています。実際に中途採用の比率を高めていくという動きも出ています。また厚生労働省「雇用動向調査」をみても、転職で賃金が増加する人の割合は増えています。特に20代や30代にこの傾向は顕著です。スキルのある人は好待遇で転職できるケースが増えています。中途採用で経験やスキルのある人材を柔軟に採用する機運が高まっているわけです。自分が望むキャリアを長期的に描きながら、新卒で入社した企業でしっかりと力をつけることで、その後のキャリアステップに繋がる土壌ができるということです。

就職活動に励む学生に保護者はどう向き合うべきなのか

新型コロナウイルス禍で就職活動や就職活動準備に臨む学生の保護者の皆さま(以下、保護者)の中には、どのように接し、向き合えばよいのか分からない方も多いと思います。ついつい「お父さんが学生の頃は・・・」「お母さんは安定しそうな●●業界がいいな・・・」などと意見してしまいがち。そのせいで言い合いになる場面もあるかもしれません。しかし、3つのポイントを理解することで、学生にとって「最良のサポーター」として寄り添えるはずです。そのポイントは、「現在の就職環境を理解すること」「就職環境の変化を理解すること」「保護者が求められている役割を認識すること」の3つ。以下で具体的に解説していきます。

現在の就職環境を理解すること

新型コロナウイルス感染症の影響を示す一つの指標に「大卒求人倍率調査(2021年卒)」が挙げられます。本レポート冒頭の『大卒求人倍率から読み解く、新型コロナウイルス禍の就職活動の変化と在り方』でも紹介しておりますが、2020年6月時点は1.53倍という数字でした。

まず、1.53倍という数字は、1人に対して1.53件の求人があるということを意味しているのです。つまり、学生に「席」は十分に用意されているとご理解ください。業界別や会社の規模別で見るとばらつきはあり、第1志望群の企業や業界への入社は難しくなる可能性はありますが、まずは「席」がある事実をしっかりと認識することが肝要です。さらに付け加えると、1.53倍は、就職氷河期といわれるバブル崩壊後の経済停滞期(0.99倍/2000年3月卒)やリーマンショック時(1.23倍/2012年3月卒)ほどの低水準でもありません。

加えて、就職活動の手法の変化についても知っておいてください。これまでは対面での選考が主流でしたが、今年は4月に緊急事態宣言が発令されて以降、Web面接が取り入れられつつあります。実際に、就職みらい研究所による調査で内定取得企業の最終面接の形式を聞くと、Web面接が41.5%にのぼりました(※2)。この状況はしばらく続くことが予想されます。そのため、ビデオ通話が安定してできるように家庭でのインターネット環境の整備や、学生がストレスなく静かな空間で面接に臨める部屋の環境の整備など、保護者ができる支援や配慮は少なくなさそうです。

さらに、就職活動の時期の遅れもご認識ください。新型コロナウイルス感染症の影響が出始める前、当初は、東京2020オリンピック・パラリンピックなどの影響から、4社に1社の割合で企業は採用選考を早めて実施する計画を立てていました(就職みらい研究所「就職白書2020」)。そのため、4月1日時点の内定率の変化を見ると、前年よりも高い数値で内定率が推移していました。しかしながら4月に緊急事態宣言が全国で発令されると、採用活動を中断したり規模を縮小して実施したりする企業が多くみられ、2020年8月1日時点の内定率の推移をみると、例年よりも1カ月程度遅れて就職活動が実施されていることが分かります。そのため、多くの学生が、今年は特に長い就職活動だと感じていることでしょう。保護者も、この時期の変化を把握しておくことで、過剰に焦ることなく構えられるでしょう。

就職環境の変化を理解すること

年功序列や、一つの企業に勤めあげる終身雇用などのこれまでの就労形態への期待を前提にすることは、もはや過去の通念となりつつあります。先行きが不透明で「解」がない時代と言われる中で、長期的に結びつく直線的なキャリアは見通しづらくなっています。よって、これまでより短期的な約束が求められてきています。企業は多様な個人に合わせたキャリアや成長の機会、働き方を提供する。個人は社会の変化に合わせ、学び続けながら貢献していくという繋がり方が求められてきているのです。

同様に、保護者世代が想定しがちな、「大企業だから安心」「サービス業より製造業が安定」などという考え方も要注意です。現在は、中小企業や成長力の高いベンチャー企業の中にも、大企業にない魅力がある企業が多数存在します。

では、学生の志向の変化についても見ていきましょう。就職先を確定する際の決め手として、学生は、「自らの成長が期待できる」(56.1%)を一番に挙げています(※2)。労働市場では、「グローバル化やテクノロジーの進化による競争激化」により企業寿命が短くなる中でも、個人は「人生100年時代」「職業寿命の伸長」という現象が起きており、「定年まで一社に勤め上げる」「新卒で入社した企業は一生安泰」という志向にも変化が見え始めています。不確実な社会の中で、自らの成長こそが社会における安定につながると、学生は考えているのです。学生が置かれている社会的な環境や、志向は変化し続けていることを、強く認識することが重要です。

求められている役割を認識すること

就職活動における保護者とのかかわりに関する調査によると(※3)、就職活動における保護者とのかかわりで「よかったこと」は、「金銭的・物質的援助をしてくれた」(60.4%)がトップでしたが、次いで「普段と同じ態度、見守り役、聞き役に徹してくれた」(44.7%)、「個性を尊重し、自分の活動を肯定してくれた」(43.6%)と続いています。ここから分かるのは、学生が保護者に求めるのは、学生の決断や行動を受容する「サポーター」の役割であるということです。一方で、保護者とのかかわりで「嫌だったこと」の上位は、「志望業種について意見された」(13.5%)や「志望職種について意見された」(10.3%)、「ライフプラン、キャリアプランについて意見された」(10.0%)などです。つまり、「志望している企業は合っていないのではないか」「ここまで決まらないのは努力が足りないのではないか」など頭ごなしに否定し、考えを押し付ける発言には注意が必要です。学生を励まし、支え、聞き役に徹することで、学生自身が考えて決断できるよう促してください。学生の決断を肯定し、尊重することを心がけて接するのが大切なのです。

一方で、その決断を客観的に見て感じた感想などは、ぜひ共有してみてください。学生自身の判断だけでは、視野が狭まる可能性があります。特に何か意見を求められた際には、考えを開くことで学生の自己理解が深まるきっかけにもなるでしょう。その時に、保護者という立場よりも、「社会人の経験者」として接すると、より効果的かもしれません。

新型コロナウイルス感染症の影響はまだ続くでしょう。仮に終息したとしても、何かしらの環境変化が訪れるかもしれません。その中で、学生が納得できる就職先に出会う一助となるよう、保護者ができることもあるでしょう。今回ご紹介したように、就職環境の現状を理解し、就職活動を取り巻く環境の変化を捉え、サポーター役に徹することを心がけてみてください。

  • ※1 リクルートワークス研究所発表「大卒求人倍率」とは
    「大卒求人倍率調査」は、全国の民間企業の大学生・大学院生に対する採用予定数の調査、および学生の民間企業への就職意向の調査から、大卒者の求人倍率を算出し、新卒採用における求人動向の需給バランスをまとめています。2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、2月と6月の2度調査を実施しています。
  • ※2 株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所「就職プロセス調査(2020年6月12日時点)」
  • ※3 株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所「就職活動状況調査2020年卒(2019年12月調査)」

識者インタビュー:就職活動が思い通りにいかなくても、あきらめるのはまだ早い

今年の学生は例年とは異なる状況に手探りの状態で就職活動に挑んでいるでしょう。一部の学生からは、「志望業界の門戸が狭まったから、今年の就職活動はあきらめて留年する」「内定がもらえないから卒業後はアルバイトでいい」という声も聞こえてきています。

しかしキャリアの専門家は「今、あきらめるのはもったいない」と訴えます。厳しい環境の中、なぜ就職活動をあきらめないほうがいいのか、自身の「夢」「理想」とどう向き合えばいいのか、長期的なキャリア形成のためにどう行動すればいいのか、について解説いたします。

志望業界・職種への道を見失い、「運が悪い」と嘆く学生にとって、新たな気付きになると思います。

今年の採用活動には遅れが。10月で就職活動をあきらめてしまうのはもったいない。まだまだチャンスは続く

今回は、「働く」をテーマに独自の視点で発信している雇用ジャーナリスト・海老原 嗣生(えびはら・つぐお)さんにお話を伺いました。

  • 海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
    雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人事・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。著書に本記事で紹介した「クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方」など多数。

海老原さんは「10月の時点で就活をあきらめないほうがいい。チャンスは3月まで続く」とアドバイスします。

「リクルートキャリアによる『採用活動中間調査』のデータによると、9月で新卒採用活動を終了する企業は昨年の2020年卒で66.2%。新型コロナウイルス感染症の影響で採用活動が遅れている今年は、55.1%と見立てています。つまり10月以降も多くの企業が新卒採用活動を継続するということなのです。」

これに対して、「大手企業の多くは今年の採用は終了しているだろう」という声も上がるでしょう。さらに、「何としても新卒で大手企業に入社しなければ」と考えている学生も多くいると思います。

「新卒の就職活動によって入社する会社が人生の全てということにもなりません。実際、過去の就職氷河期に中小企業に新卒入社した人が、数年後「第二新卒」対象の中途採用によって大手企業やより条件の良い企業に転職を果たしたケースも多数あります(※下図ご参考)。最初の就職先が自分の志望する企業でなくとも、そこで得た経験・スキルは、必ず次のチャンスにつながり、先々のキャリアの土台になる。だから、与えられた機会を大切にしてほしいと思います」

海老原さんは、そうメッセージを送ります。

機会を受け入れることで、夢は「代謝」されていく

海老原さんは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授によるキャリア論『計画的偶発性理論(プランド・ハップンスタンス・セオリー)』をベースに、こう解説します。

「クランボルツ教授は『キャリアの8割は予想しない偶発的な要素で決定される』と論じています。偶然の出会いを前向きに受け止めることで、新たな発見があり、変化が生まれます。そうした偶然を意図的に増やしたり、設計したりすることで、よいキャリア構築につながっていく、という考え方です」

「そもそも夢や目標、興味の対象はどんどん変わっていくもの。例えば、中学時代は野球に打ち込んでいたけれど、高校からはテニスに夢中になることもあるでしょう。テニスに移っても、野球で鍛えた筋肉はなくならず、テニスに生かせる。野球で頑張っただけ、テニスに生かせるものは多くなります」

つまり、過去の経験は必ず役立つから、巡ってきた機会を利用して多くの行動をしておいたほうがいい、ということです。

そして、海老原さんは「夢が叶わなくても、行動を続けていれば『叶う夢』が見つかる」と言います。

「行動を続けていれば、機会にたくさん出会うことができます。その中には、自分の能力を生かせる『特別な機会』を引き当てることができます。また、その『特別な機会』を生かすためには、真剣に取り組む必要があります。しかし、『特別な機会』も出会った瞬間は数ある『機会』の一つ。見分けることはできないのです。だから、出会った機会の一つ一つに真剣に取り組む必要があります。そうしていれば自分の能力を生かせる機会が見つかった時にものにできる。『この仕事しかやりたくない』『志望した仕事じゃないからやらない』というスタンスでいるのは、自ら『特別の機会』との出会いの可能性を捨ててしまっているようなものですね。

「夢の種」を手に入れるために必要な5つの要素

計画的に偶然の出会いを増やし、そこから「夢の種」を引き出すためには、どう行動していけばいいのか。クランボルツ教授は5つの要素を挙げています。

  1. 好奇心
    新しいことに興味関心を持つ。面白そうと思うこと
  2. 持続性
    飽きずに続ける。納得いくまでやってみる

  3. 柔軟性
    他人の意見や新たな視点を受け入れ続ける。成功しても新しいことに取り組む

  4. 楽観性
    くよくよし過ぎない。多少の不満・不安は受け流す、失敗しても立ち直る
  5. 冒険心
    失敗を恐れず、新たな領域へ踏み出す。やってみようと思える心

「面白そう(好奇心)→やってみよう(冒険心)→ちょっと失敗したけど大丈夫(楽観性)→納得いくまでやってみよう(持続性)→他のやり方も試してみよう(柔軟性)→面白そう...。このサイクルで進んでいけば、人生にいくつもの花を咲かせられます」

今、学生が置かれている環境は厳しく心が痛む瞬間も多いかもしれません。それでも途中で投げ出すのではなく、そして立ち止まることなく、次の機会に向けて動き出してほしいと強く願います。海老原さんの詳しい解説は、今後『就職ジャーナル』で全編公開予定です。

お知らせ

『リクナビ2021』で「コロナ状況下でも積極採用継続中の企業特集」を掲載しています

現在就職活動を行っている学生向けに、新型コロナウイルス禍でも積極採用継続中の企業特集を2020930日(水)より掲載開始しました。『リクナビ2021』にログイン後、TOPページに、「採用予定人数を1カ月以内に更新した企業」、「あなたがチェックした企業で説明会を開催中の企業」、「WEB説明会・WEB面接を開催中の企業」の3つが表示されます。例年と異なる状況下で就職活動を行っている学生が少しでも効率的に活動を前に進め、納得度の高い進路決定ができるよう支援してまいります。

『リクナビ2021』

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リクれぽ Vol.8:夏のインターンシップ総括と、 『リクナビ』からの提案

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リクれぽ Vol.7:留学計画が白紙になった学生は何を自己PRできるのか

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リクれぽ Vol.6:学生に必要な「就活PDSサイクル」とは

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リクれぽ Vol.2:今年の就職活動についてお伝えしたいこと

2月13日

リクれぽ Vol.1:これからの『リクナビ』が目指す姿

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