日本パラ馬術界初のメダルを狙い結果を残すことで、一日でも長く選手でいられたら
稲葉 将 <INABA SHO>
出身地:神奈川県横浜市
生年月日:1995/5/23
障がいの種類:脳性麻痺による両下肢麻痺
競技名:パラ馬術
【競技実績】
●日本ランキング2位
●FEI世界ランキング(グレードⅢ) 26位
●強化指定選手
小学生の時は少年野球のチームに所属。リハビリを兼ねて始めた乗馬
─ 稲葉さんは、どんな経緯で馬術を始めたのですか?
稲葉さん(以下、稲葉):小学生の頃は少年野球のチームに入っていました。中学に入るころ、一緒にやっていた仲間の体格が大きくなり同じように練習ができなくなってきたので、新しいスポーツを始めてみようと思っていたら、母が家から通える乗馬クラブの記事を見つけてくれたんです。馬に乗ることは股関節のリハビリになるし、動物と触れあう事でリラックス効果もあるので、「行ってみない?」と誘われたのがきっかけです。 身体を動かすことが好きだったので、中学も高校も体育の授業はできる範囲で皆と一緒にやっていました。野球をやめた後も、土日に友達を集めて野球したりもしていました。
─ 最初から馬や馬術に興味を持っていたのですか?
稲葉:いえ、実はそうではないんです(笑)馬は普段関わる機会のない動物だし、大きいし、乗ってみたら目線が高くて怖かったので、正直に言うと「じゃあ来週からやってみよう!」という気持ちにはなりませんでした。本格的に始めた、"ここ"というタイミングははっきり覚えていないのですが、月に1度通っていたのが週1回になり、それが週2回(土日)になって、長期休みに一日おきに通うようになって、、、自然にという感じでした。
─ 競技として"馬術"を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
稲葉:ここに来てからは、最初から変わらずほぼ週5(水~日まで)で練習させてもらっています。16時が馬たちの夜のエサの時間なので、9時前から15時ぐらいまでクラブにいます。1日に多ければ4頭ぐらい乗っていますね。動物相手であまり長い時間は乗れないから、1頭につき30~40分ぐらいでしょうか。僕は自分で動けるので、馬に乗るだけではなく乗る前の準備や乗った後の手入れも自分でしています。馬と一緒に過ごす時間をできる限り多くしたいと思って気を付けています。 僕は先天性の脳性麻痺で、両下肢障がいを持っており、競技はグレード3になります。持っている障害の度合いによっても、どれぐらい練習できるか異なるのですが、今は僕自身しっかり練習できていると思います。振り返ってみると、練習量の多さが短期間でここまで成績を出せている所以かなと思っています。
週5日、9時~15時まで、みっちり練習。できるだけ多くの時間を馬と一緒の時間を過ごすため、準備や手入れも自分でやる
─ 毎日、どんな練習をしているのですか?
稲葉:ここに来てからは、最初から変わらずほぼ週5(水~日まで)で練習させてもらっています。16時が馬たちの夜のエサの時間なので、9時前から15時ぐらいまでクラブにいます。1日に多ければ4頭ぐらい乗っていますね。動物相手であまり長い時間は乗れないから、1頭につき30~40分ぐらいでしょうか。僕は自分で動けるので、馬に乗るだけではなく乗る前の準備や乗った後の手入れも自分でしています。馬と一緒に過ごす時間をできる限り多くしたいと思って気を付けています。 僕は先天性の脳性麻痺で、両下肢障がいを持っており、競技はグレード3になります。持っている障害の度合いによっても、どれぐらい練習できるか異なるのですが、今は僕自身しっかり練習できていると思います。振り返ってみると、練習量の多さが短期間でここまで成績を出せている所以かなと思っています。
─ お休みの日はどう過ごしていますか?
稲葉:自宅がある神奈川県に戻っていますが、最近は自由な時間が全然ないんです(笑)休みという休みがなくて・・・月に1回は、会社へ活動報告をしにいったり、後援会の方と一緒に競技や僕自身を知ってもらうための広報活動をしたりしています。
─ 馬術は、選手だけでなく馬も出場権を取る必要があるんですよね。
稲葉:はい。馬と乗る人とセットで規定を超えなければいけないんです。 先日、強化指定選手5人でオランダに試合に行ったのですが、その際は協会がリースして下さった馬に乗りました。その馬とは初出場だったので、決まった点数を超えて出場権をとらなければならないんです。その馬でも無事に出場権が取れました。 今僕は、4頭で出場権を持っています。最終的には一人一頭としか出られませんが、その時一番体調がよく成績が取れそうな馬を選びます。生き物相手なので、体調やケガもありますし、選択肢が多い方が良いんです。
─ 日本と海外のパラ馬術に違いはありますか?
稲葉:馬術はヨーロッパが主流で、イギリスやオランダ、ドイツが競合と言われています。海外の方が馬が生活に身近で、特にヨーロッパは競技人口も多く、馬のチョイスも多いです。
─ 競技を行う上で、どんな難しさを感じますか?
稲葉:先天性の障がいがあると、正しい体の動かし方がわからない中で競技をしなければなりません。後天的に障がいを持った選手は、元々馬に乗っていれば正しい体の動きを知っていて、どうしたら馬が動くか熟知されている方もいます。競技の成功のイメージがある選手とない選手ではスタートが違うと感じます。なので、どの競技でも当てはまることかもしれませんが、「先天性の障がいがあってもできる」という事をみてもらえたらなと思っています。
高価な用具たち。練習量が多いと、どうしても消耗が速くなる
─ 今、受けているサポートはありますか?
稲葉:協会からは強化選手費を頂き、障がい者アスリートとして企業にも雇用されているのでお給料も頂いています。ですが、馬術は今クラブに預けている2頭の馬のエサ代やケア代、試合に出る際のエントリー代や馬を運ぶ費用などとてもお金がかかります。自費で試合に出た月は、馬を預ける費用とでその月のお給料はなくなってしまいます。これまで2年半、なぜやってこられたのか不思議なぐらいです(笑)
─ 障がい者スポーツへの支援は行き届いていないと感じますか?
稲葉:馬術は、決してメジャーなスポーツではないですし、仕方ないのかなと思う部分もあります。アスリートは、最終的には絶対に結果を見られます。自分が先頭に立って、世界で通用する結果を残せれば、環境を変えるチャンスも増えるんじゃないかなという思いでやっています。まずは競技を知ってもらいたいですね。
僕の場合は、馬術にこれだけお金がかかるという事を知らずに始めました。馬を購入するのにかかる金額さえも・・・知らなかったんです。知らないからこそ突っ込めた部分だったのかなって。知っていたら、ここまで来られなかったと思います。僕はいつも、入り口は流れに身に任せています。純粋にやってみたい、やったら面白そうだな、という想いを第一にやってきました。入ってみて、どうするかは後で考えています。
─ 今後さらなる成長のために、どんな支援が必要でしょうか?
稲葉:用具は消耗品で一つひとつが高価なので、少しでも購入に充てられる費用があると嬉しいです。例えば、練習用のズボンは1着3~4万円、長靴(ちょうか)もオーダーになるので10万円ぐらいします。僕は歩くときにどうしても足を引きずってしまうので、なるべく長靴を履いて歩かないようにしているのですが、それでも消耗が速いです。他にも競技用のジャケットや手袋、ヘルメットなども、練習量が多いとすぐに消耗してしまうんです。
─ リクルートキャリアのアスリート応援プロジェクトからの支援も決まりましたね
稲葉:チャンスが確実に拡がる、選択肢が拡がる取り組みなので、僕も含めて選手にとってすごく良いことだと、ありがたいことだと思っています。
自己ベストの演技で、メダルを狙えたら
─ 今後の目標を聞かせてください。
稲葉:まずは次の大きな世界大会で、フリーに出るための8名に残りたいです。それには自己ベストの点数が必要なので、それに向けて準備しています。東京での開催なので、メダルも狙えたらって思っています。今後の試合で少しずつ点数をあげて、少しずつ自己ベストを更新し、本番で一番良い演技ができればと思います。
その後は、できる限り選手として長くやっていきたいというのが一番にあります。そのために、どうしたらいいか考えて動いています。辞めた後のことは全く考えたことがないですね。馬術は現役の選手で60歳を過ぎた方もいますし、同じ障がいの方もいます。元JRAの騎手さんがいたり、大学生もいたり、色々な方がいるんです。やれる環境があれば、ずっとやっていきたいと思っています。
※インタビューは2020年2月に行われました。
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