共生社会の実現を目指す『パラリング』では、学校向けに、障がい者への理解が深まる教材を無償でご提供しています。
2023年3月現在、教材をご提供した学校は全国で60校を超えました。兵庫県にある西宮市立高木北小学校はそのうちの1校。本記事では指導を担当された屋島先生にインタビューさせていただき、教材のご感想や子どもたちの反応、授業の今後の展開などを伺いました。
自分と関連づけて障がいのある方を深く理解する
2022年9月、総合的な学習の一環として、小学校4年生の3クラス、101名の子どもたちを対象に実施いただきました。屋島先生によると、これまで障がいのある方を理解するために、点字に触れる、車いすに乗るといった体験を取り入れてきたそうです。そうした中で課題と感じていたのは、子どもたちの意識が固定化されていること。「障がいのある方はかわいそう」という気持ちでとどまり、それ以上の理解が進まない難しさがあったといいます。
「身近に障がいのある方がいないこともあり、テレビの向こうでつらい体験をしている方をかわいそうに感じる気持ちに近いものがありました。自分と関連づけて考えるまでに至っていないので、家族や友達、そして自分自身が障がいを抱えることになったら?という想像もしづらいですし、違いを超えて誰もが自分らしく生きる共生社会を実現するために何が必要かといった考えを深めてゆくのも難しい状態でした。どのような教材を使い、どのように子どもたちに語りかけたら、指導する側の意見を押し付けたり、『助けてあげたい』という子どもたちの優しい気持ちを否定することなく、固定化された意識を変えることができるだろうと考えていたときに『パラリング』の教材と出会いました」と屋島先生。実際に活用いただき、子どもたちの意識が変わる実感が得られたとおっしゃってくださいました。
驚きや感動が、主体的な学びの呼び水に
多様なパラスポーツを紹介する『パラスポーツVR動画編』は、障がいのある方とない方が一緒に楽しめるルールや器具の工夫に着目した教材。共生社会を考えるヒントが詰まっています。屋島先生によると、視聴した子どもたちの反応は「すごい!」だったといいます。
「障がいのある方が圧倒的なパフォーマンスを披露するさまを見て、障がいのある方=助けてあげなければならない存在という意識が変わったようです。視点を360度切り替えることのできる視聴体験も新鮮で、強く印象に残ったようです。もっと知りたいという気持ちも芽生えたようで、別の授業にも影響が広がりました。そちらの授業は子どもたちが関心のあるテーマを自由に選び、自分で調べ、発表するといったものなのですが、パラスポーツを題材にした子ども、車いすに着目して一般用と競技用の違いを調べた子どもがいたのはうれしい反応でした。驚きや感動から生まれる主体性や深い理解は、指導する側が何度も繰り返し伝える以上の効果を生むことがあるのだと改めて感じました」と屋島先生。
一方、『パラアスリートの生き方編』には、子どもたちの視界が広がった実感があったといいます。「子どもたちは徒歩で通学しているので、バスや電車に乗る機会はほとんどありません。そうした中、村上選手が通勤で利用しているバスの仕掛けに驚く子どもが多かったです。車いすユーザーの方が一人で乗車できるよう、車いすを固定する機能がバスに備わっていることを知り、社会に対する見方が変わったようです。そして違いを超えて一緒に暮らすために何が必要なのか、考えを深めることができたようです」と屋島先生。
子どもたちの視界を広げたという点では、「配慮は必要だけど遠慮は要らない」といった村上選手の同僚の発言も子どもたちの心に響いたといいます。授業後のアンケートでは、同僚の「村上選手は車いすに乗っているだけで、自分たちと何も変わらない」という言葉を書き記す子どもが多かったそうです。
障がいのある方から学ぶ、生きる強さ
2つの教材を通じて最も大きかった気づきは「障がいのあるなしに関わらず一人ひとり違いがある。それぞれに人生があり、生き方がある」だったという屋島先生。「子どもたちは、障がいには先天性のものもあれば、事故など後天性のものもあり、その違いによっても向き合い方や乗り越え方が違うのだということに大きな気づきがあったようです。自分が事故などで障がいを抱えるようになったら、家族や友達にどんなふうに接してほしいだろう。そうした想像を巡らせる機会を持てたことで、より深く障がいのある方を理解したいという気持ちが芽生えたのではないかと思います。実際、足をけがしたことのある子どもが当時の心境を振り返り『みんなに普通に接してもらったのがうれしかった』と発言してくれたり、『相手の気持ちを確認せずに何でもやってあげることが優しさとは限らない』『授業で難しい問題に取り組んでいるとき、答えを教えてもらってもうれしくない』など、自分たちの経験を通して障がいのある方の気持ちを想像しようとする議論が生まれたのはとても良かったです。さらに、そうした議論を経て『障がいがある友達に、配慮は必要だけど遠慮は要らない。一緒に遊ぼうと誘いたい。一緒に遊べる工夫を考えたい』という声があがったのが本当にうれしかったです」とおっしゃってくださいました。
最後に屋島先生は「当事者のお話は、何よりも理解につながります。この教材は知識だけでなく、当事者の言葉から生まれる共感が、子どもたちの胸を打ち、より深い理解を醸成してくれました。その中には、障がいのある方が困難と向き合う強さもありました。子どもたちは、もし、自分が困難に直面したときにどう向き合うのかという強さも学んだと思います。折に触れて村上選手の生き方を例に引き、子どもたちの生きる力を伸ばしてあげたいです」とおっしゃってくださいました。
共生社会の実現を目指す『パラリング』は、この教材を通じて、障がいのある方はかわいそうという意識を転換し、障がいについて考えるきっかけをより多くの学校に届けてゆきます。教材をご活用くださった屋島先生、一緒に授業をしてくださった4年生の先生方、ありがとうございました。
子どもたちに、障がいについて考えるきっかけを提供できればという想いから、学校の授業で活用いただける、障がい者理解を目的とした教材を製作し、無償提供しています。
教材の提供については、下記ご案内よりご確認ください。
『考え方を変える=パラダイムシフト』で『つながりの輪を広げる』パラリングは、これからも障がい者理解のための プログラムを通して誰もが自分らしく生きる社会づくりに貢献します。
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パラリングとは?
「パラリング」とは「パラダイムシフト(考え方の変化)」と「リング(輪)」の造語で、障がい者理解を広めていくリクルートの活動です。リクルートは障がいの有無に関わらずそれぞれが活躍できる社会の実現を目指して活動をしています。