『BUSINESS INSIDER JAPAN』統括編集長 浜田敬子さんのリクルート考
リクルートグループは社会からどう見えているのか。
私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
リクルートグループ報『かもめ』2018年7・8月号からの転載記事です
志とスピードが強みのアスリート集団。グローバルメディア界でも躍進を
私が『AERA』でリクルートを最初に特集させていただいたのは『R25』というフリーペーパーが全盛期の頃。AERAの巻頭特集でR25のビジネスモデルを取り上げました。その後、何度もAERAや今の『ビジネスインサイダージャパン』で取材し、リクルートのカスタマーとクライアントをマッチングする「リボンモデル」を知りました。編集長として収益責任を負っているので、メディアで収益を上げることの難しさを実感していました。
私たち報道メディアは読者が関心の高いテーマや社会変化の兆しを取材、記事にします。収益は購読料と広告売上で成り立っているのですが、取材やデザインにコストをかけても必ずしも売上につながるとは限らない。デジタルメディアは今、無料のものが多いので、ますますビジネスの創り方が難しくなった。そんなボラティリティの高いメディアビジネスに挑戦しているからこそ、時代の変化をむしろ追い風にして成長していくリクルートの強さと秘密を知りたいと思うようになりました。
実際にいくつかのプロジェクトをご一緒させていただきました。AERA編集長時代には、『ゼクシィ』と一緒に結婚に関するムック本を出版、『SUUMO』と「住みやすい街ランキング」を作り、『スタディサプリ』(当時 受験サプリ)とはタイアップの広告企画なども手掛けさせていただきました。リクルートの方は、若くてエネルギッシュ。志とKPIの両方のバランス感覚が良い方が多い印象です。20代の社員でも相当の裁量権を持たされていて、とにかく決断が速いことに驚かされました。達成すべきKPIも明確。この企画でアクセスは伸びるか、売上は上がるのかといった結果への執念は、メディア界にはない。若いうちからこれだけのプレッシャーにさらされたら、個人の成長も早いだろうと感じました。
ここ数年、リクルートはグローバルにも大きく踏み出し、これまで社会が持っていたリクルートのイメージを大きく変えていると思います。先日、取締役の池内省五さんに取材しました。同席した弊社の若手社員は、リクルートを次々とM&A を成功させているグローバルなインターネット企業だと捉えていましたが、私はそれはリクルートの一面に過ぎないと思っています。
何人もリクルート、およびリクルート出身の友人がいますが、やはり私がリクルートの底力だと感じるのは、足腰の強さ。現在は事業会社の経営陣になられている方々も、入社した当時は飛び込み営業などで徹底的に鍛えられてきたと聞きました。その時代に困難を乗り越える胆力を鍛えられているからこそ、新規事業や責任のある立場を任せられ、ビジネスを成功させられるのだと感じています。
私は2017年に、世界17ヶ国で1億人以上のミレニアル世代の読者を持つグローバル経済メディア『ビジネスインサイダー』というデジタルメディアの日本版創刊のタイミングで、朝日新聞社から移籍をしました。紙からデジタルへ、ドメスティックメディアからグローバルメディアへと大きなキャリアチェンジをしました。ですが、これまで同様、メディア作りの核は、一つひとつ良い記事を世の中に出していくことだと思っています。
経済メディアなので、企業取材も多いですが、良い記事とは企業側にとっても新たな視点を提示できるものだと思っています。企業にとって都合の良い記事だけを書いていると読者だけでなく企業も離れていってしまいます。記者と企業の緊張関係は保ちつつも、逆に認め合い信頼関係が成立するという感じですね。
海外では業界内での人材流動も激しいので、記者個人の持つ人脈や取材テーマ、業界知識が価値になります。どこの媒体かよりも、この記者の取材だったら応じるということが多い。署名原稿が多いので、より個人の力を磨く必要があります。この記者は手強いけれど、鋭い記事を書くとか、批判でもこの記者が書くなら仕方ないというくらいの関係になっていないと、本当の意味での良い記事は書けないと思っています。一方で力のあるメディアは、広告媒体としても有益です。
リクルートのビジネスの基本は「世の中の不をなくしたい」ということですよね。例えば教育格差をなくしたいなどの志は、私たちがメディアを通じてやりたいことでもあります。私たちは報道という文脈でやりますが、リクルートはビジネスという文脈で目指している。広告などでは親和性が高いとも感じています。これからもいい緊張感ある信頼関係を築き続けていければと思っています。
プロフィール/敬称略
- 浜田敬子(はまだ・けいこ)
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BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長 AERA 前編集長
1989年に朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年AERA編集部へ。2004年にAERA副編集長、編集長代理を経て14年編集長に就任。16年5月より朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーを経て、17年3月末退社。同年4月より世界17ヶ国に展開するオンライン経済メディアの日本版統括編集長に就任。『羽鳥慎一モーニングショー』や『サンデーモーニング』などにコメンテーターとして出演。