サロンの課題は集客だけ?『ホットペッパービューティーワーク』が生まれた理由
現在、日本には約27万店の美容所があり、約57万人の美容師がいます(厚生労働省発表「令和4年度衛生行政報告例」より)。その数は年々増加傾向にあり、美容師だけでなく、ネイリストやアイリスト、エステティシャンなど美容やリラクゼーションに関わる職業や人材も増え続けています。
働く場所も働く人も増えている美容業界。そんな業界で働きたい方の就職・転職をサポートしようと2023年に生まれたのが、『ホットペッパービューティーワーク』です。2024年6月にはアプリ版もリリースし、多くのサロンに利用されていますが、『ホットペッパービューティー』がなぜ人材マッチングサービスにも進出したのか、その背景や思いをプロダクト責任者の島村 遊に聞きました。
求職者・サロン側双方にメリットのある『ホットペッパービューティーワーク』
― 『ホットペッパービューティーワーク』が2023年2月にリリースされてから、約1年半が経ちますが、そもそもどのようなサービスなのでしょうか?
島村:端的に言ってしまうと、美容業界で働きたい人たちの就職・転職をサポートする人材マッチングプラットフォームが『ホットペッパービューティーワーク』です。リクルートのHRマッチングメディアも含めて、世の中に同様のマッチングプラットフォームは多くありますが、『ホットペッパービューティーワーク』は美容・リラクゼーション業界に特化しているのが特徴。
国内最大級の美容領域の検索・予約サイト『ホットペッパービューティー』、ネット予約受付をはじめとしたサロン全体の予約管理や、顧客管理・CRM・会計・分析といった多岐にわたるサロン業務・経営を支援するデジタルツール『SALON BOARD』と連携しているというのが強みです。
求職者の方は求人検索から、サロンスタッフや人気メニュー、評価分布、クチコミ、客層などの詳細な店舗情報の収集、応募までをワンストップで完結できます。求人を出すサロン側にとっても、求人広告の作成は日々のサロン運営にご利用いただいているリクルートのサロン向け業務支援サービス『SALON BOARD』上でできますし、『ホットペッパービューティー』に掲載している情報は重複して入力する必要がなく、これまでよりも早く簡単に求人掲載を行うことができます。
サロンにあるのは集客課題だけではないと気づいた時
― 事前に詳細なサロン情報を得られることで入社後のミスマッチも防げそうですね。求職者・サロン側双方にとってメリットのあるサービスのようですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?
島村:2000年のフリーペーパーの創刊にはじまり、サロンのネット予約を可能にした『ホットペッパービューティー』サイトの運営等を通して、リクルートは20年以上、美容業界の集客のお手伝いを行ってきました。そのなかで、「人材採用」はサロン経営において、集客に次いで大きい課題だったんです。
美容室やネイルサロンをはじめとする美容業界は、基本的にマンツーマンで施術するため、スタッフの人数が売上に直結します。そうなるといかにスタッフの方を雇用できるかはとても重要。しかしながら、拘束時間の長さや専門性の高さ、報酬の問題などで、そもそもの採用が難しい上、離職率も高いのが現状です。
この採用課題を解決することを通じて、美容業界の可能性をもっと広げることができるのではないか、働きたい方が自分の理想のサロンに出会って、いきいきと働くことができれば、サロンを利用されるお客様もより満足度の高い施術を受けられる。結果、サロンのリピート率や利益も向上し、サロン運営も安定するような皆が嬉しい状態を作れるのではないか…。
そんなことを考えていた時に、求職者の多くが就職先探しに『ホットペッパービューティー』を見てサロンの雰囲気を掴んでいるという情報を得て、『ホットペッパービューティー』が運営する就転職サービスに需要があるのではないかと開発に動き出したんです。
― 集客課題の根底にある採用課題に踏み出したわけですね。開発はなかなか大変だったのでは?
島村:構想だけで数年を費やしました。具体的にどんな情報が求められているのかなどの特定はもちろんのこと、既に存在する就転職サービスとの差別化ポイントの検討に、法令順守のための制度の理解、社内調整など、考えるべきことは多岐にわたりました。
構想後の開発にも時間はかかりましたが、日本全国に約3000名いる『ホットペッパービューティー』の営業担当者が日々伺ってくるサロンの課題を何とか解決したい、年間約1.8億件のネット予約を扱う『ホットペッパービューティー』だからこそできるサービスがあるはずと自分たちを鼓舞しながら、ひとつずつ壁を乗り越え開発を進めていきました。
求職者・サロン側双方の意識が変わるきっかけにもなれば
― 長く美容業界に向き合っているからこその課題感や思いがあったのですね。2024年5月にはサロンが直接求職者にオファーを送れるスカウト機能の実装、6月にはアプリ版もリリースされましたが、『ホットペッパービューティーワーク』の反応はいかがでしょうか?
島村:有難いことに多くのサロンにご登録いただいております。アプリ版も私たちの予測を上回るスピードで求職者の利用が増えており、求められていたサービスだったのかなと実感しています。
利用された求職者の方からは「サロンで働く人や得意とするメニューだけでなく、クチコミも一緒に見られて比較検討に便利」、サロンからは「求職者もサロンの雰囲気などを事前に掴んだ上で応募してくれるので、採用後のミスマッチが減り定着率が上がった」「求職者に選ばれるサロンでありたいと思うようになった」などのお声をいただいていますね。
― 求人を出すサロン側の意識変化にもつながって良い循環が生まれそうです。アプリ版の実装は予定よりも早まったと伺っていますが。
島村:求職者の利用調査を行ったところ、アプリ需要が高いことが判明し、当初の想定よりもかなり前倒ししてアプリ版をリリースしました。アプリ版の利点としては、ウェブ版に比べ、ログインが必要となる頻度が少なく、検索条件の入れ直しなどの手間がより少なくなる点や、ページの読み込み時間もより短くなる点、さらに求職者が登録したレジュメに興味を持ったサロンからオファーがあった際にプッシュ通知が届くなどが挙げられます。皆様により快適に使っていただくために優先度高く取り組みましたが、少しでも早く出すために一部機能を後回しにした部分もあるので、今後より機能を拡充させていく予定です。
人材採用サービスに踏み込んだのは自然な流れ!?
― 今後、さらなる進化を予定されているとのことですが、開発や機能拡充にあたって一番大事にしていることは何でしょうか?
島村:美容事業で掲げているビジョンである「日本中の街にBeauty Smileを。」に沿うプロダクトであるか? 安心安全に使っていただけるものか? サロン・カスタマー皆にとって価値のあるものか? というところは常に意識しています。
私は2015年に中途でリクルートに入社したのですが、当時から美容事業では、このビジョンを掲げ、営業もプロダクトもスタッフも皆がその実現のために動いていました。とにかく皆、「サロンの課題を解決したい、カスタマーにより良い美容体験をお届けしたい」という思いが強いんです。
他社から来た自分にとってはカルチャーギャップとも思えるくらいの熱量が皆にあって、課題解決のために全てをかけることを厭わない。価値のある事業を創るということは、ここまで認識が揃ってこそなのかと驚いたのですが、今では自分もそのビジョンに突き動かされていますね。
今回『ホットペッパービューティーワーク』を作ったことで、社内外から「なぜわざわざ?」と問われることもあるのですが、ビジョンに忠実にそれぞれの持ち場で同じ意識を持ち、一丸となって取り組んできた結果が、『ホットペッパービューティーワーク』だっただけ。サロンやカスタマーの課題に向き合い、美容業界の発展のためには何をすべきかを考えていたら採用課題にも取り組むという判断が生まれただけなんです。
笑顔を広げていくために徹底的に考え抜く
― 突拍子もない選択だったわけではなく、ビジョンに照らし合わせれば、すごく自然な考えだったんですね。
島村:ええ。これまでも『ホットペッパービューティー』では、電話予約・紙台帳での予約管理が当たり前だった美容室利用を、24時間いつでもネット予約可能にしたり、予約・顧客管理や業績分析などを行える業務支援サービス『SALON BOARD』の開発を行ったりと、より良いサービス開発に邁進してきました。リリース直後から好調だったものばかりではないですが、ユーザーの皆様からのフィードバックを活かしながら改善を続け、今では多くの方にご利用いただいています。
多くの方にお使いいただいているという責任は大きいものですが、そこにしっかり応えつつ、どうすればより求められ、喜ばれるサービスを作れるのか、徹底的に考え抜く。それが自分の仕事だと思っています。『ホットペッパービューティーワーク』をはじめとするサービスの開発や機能拡充を通して、求職者の方やサロンの方だけでなく、サロンを利用されるお客様も含め、皆さんにとって、より良い美容体験やより良い状況を作れるお手伝いができたら。笑顔が広がる状況を作っていくために、これからも考え抜いていきます。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 島村 遊(しまむら・ゆう)
- 株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 販促領域(旅行・飲食・ビューティー)ビューティープロダクトマネジメントユニット Vice President
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IT企業でのエンジニアを経て、2015年にリクルート入社。ビューティー領域で『SALON BOARD』、飲食領域で『レストランボード』などのクライアント向けプロダクトの企画を経験後、2018年4月に飲食クライアントソリューショングループのGMに任用。その後飲食プロダクトマネジメントグループのマネジャーを経て、2024年4月より再びビューティー領域に戻り、現職に