従業員の自律性が高まることで「イノベーション」につながる リクルートの「働き方変革プロジェクト」が追求する選択肢とは

 従業員の自律性が高まることで「イノベーション」につながる リクルートの「働き方変革プロジェクト」が追求する選択肢とは

(写真は左から趙愛子、岩本亜弓)

*本記事はBLOGOS記事からの転載です。転載にあたり、一部記述を修正しております。

2017年2月からプレミアムフライデーが始まるなど、官民双方で「働き方を変えよう」という機運が高まっている。しかし、こういった施策はなかなか具体的に進展しないといったことも起こりがちだ。 そんな中、リクルートホールディングスでは、2015年より「働き方変革プロジェクト」に取り組んできた。リモートワーク実現のため、2017年3月末時点で首都圏の37箇所にサテライトオフィスを設けるなど徐々に変革は進んでいる。

プロジェクトを担当する同社働き方変革推進部の趙愛子は、このプロジェクトの目標を「働き方の変革でイノベーションのうまれやすい環境を作ること」だと言う。趙と、現場の声として同社の岩本亜弓に、プロジェクトの経緯や働き方を変える意味を聞いた。

「世の中と接点を持っていないと、良いものを生み出せない」

2015年4月に始まった働き方変革プロジェクトの取組みにおいて、最大のポイントは「目標設定の仕方」にあると趙は語る。

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「働き方を変えることで、最終的にはイノベーション創出を生み出し社会課題を解決する。それはすなわち、企業の競争力アップにつながるということ。社員と企業の双方にとって好循環を生み出せなければ、働き方変革は浸透しません。それを実現することで、世の中の働き方を変える起点になりたいと思っています」

とはいえ、本当に働き方を変えることがイノベーションや競争力アップにつながるのだろうか。この疑問に答えるのが、スタートアップや技術者・研究者を支援するオープンイノベーションスペース「TECH LAB PAAK」を運営する岩本だ。TECH LAB PAAKでは、リクルートと外部のスタートアップが連携して新規事業を開発する「MEET SPAAC(ミート・スパーク)」などのプログラムが行われている。

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「もともと営業をやっていた頃から、早く帰ることに力を入れていました(笑)。それは、少しでも多く世の中と接点を持っていないと良いものを生み出せないと思ったからです。また、多様な働き方の中から自分に合うものを選択できれば、もっと心の余裕ができて仕事に楽しさを感じられるはず。それは、感受性豊かにいろいろなものを見て仕事へ生かす力につながるのではないでしょうか」

加えて、オープンイノベーションが盛んになる未来においても、働き方変革が大きな意味を持つと考えている。

「未来の働き方は会社単位だけでなく、いろいろな組織から人が集まり、それぞれが持つ知見を合わせてプロジェクト単位で働くようになると考えています。いろいろな企業や人と組むということは、今まで以上に多様な働き方を受け入れなければなりません。その選択肢を今から企業が用意することが大切です」(岩本)

では、具体的にどんなことをプロジェクトで行ってきたのか。まずはリモートワークを推進する上で、セキュリティポリシーを全面的に見直した。個人情報のような絶対に持ち出してはいけない情報と、クラウドに上げて良いものを仕分けし、その情報のログをすべて取得可能に。また、チャットやクラウドストレージといったインフラを順次導入し、具体的な活用ノウハウを社員に示しながら、会議を減らすなど業務プロセスの見直しを進めている。

リモートワークについては当初は戸惑いの声も多かったが、フィジビリティ(実行可能性調査)の段階から社員の評価は高かったという。

「社員アンケートを行ったところ、『今後もこの会社で働きたい』という会社へのロイヤリティに関する項目のポイントが非常に上がりました。また、ワークライフバランスで言えば、『育児や介護が出た場合、仕事と両立できるか』の項目のトップボックスが12%から33%と約3倍に上がりました。印象的だったのは、既婚の女性社員から『妊活をきちんとやりたいと思えた』というコメントが何件かあったことです。」(趙)

働き方の自由度を上げるため、あえてKPIは設定しない

一方で、リモートワークは好むが、自宅では働けない・働きたくない社員もいる。そこで、外部のパートナーと提携し首都圏37箇所にサテライトオフィスも設けた。「ケースとして多いのは、営業職の従業員がお客様訪問と訪問の合間に帰社せずにワークをするという使い方です。オフィスに戻らなくてもよく、移動時間の削減につながる。また営業職以外の従業員でも、書類を広げて一人で集中したいという従業員が使っています」と趙は話す。

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岩本も、現在グループ内の3社を仕事の拠点としているが「固定席はない」という。また、スタートアップと対峙すると「彼らは本当にワークスタルがバラバラで、連絡ツールも人それぞれ」だが、ミーティングを設定せずとも、チャットなどで問題をすぐ解決できるスピーディな環境が実現しているという。

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変革を進める中で、マネジメントについての課題も出てきた。「顔を合わせる機会が減るため、マネジャーはメンバーの行動を管理できなくなることに不安をおぼえる。その結果、日報などでの報告業務が増えたりと、かえってメンバーが窮屈に感じるというケースも出てきました」と趙。その克服には「タスクの「管理」ではなく、メンバーが目指している姿を実現するための「支援」にマネジャーの役割は大きくシフトしていくことが、イノベーションの生まれやすい環境を作る上で必要」だという。働き方変革を起点にマネジメント業務の進化を実現することを「最大にして本丸の課題」に据える。

なおこのプロジェクトでは、「数年後にリモートワーク率◯%」といったKPIを定めていない。

「私たちが理想とするのは、自分で自分の働き方を選択できる環境です。KPIを設定するとそれが目的になってしまい、選択肢を増やす方向からずれるかもしれません。あくまでいろいろな働き方の選択肢を提示し、個人やチームに選びとってもらうことが主軸です」(趙氏)

働き方や働く場所、さらには生き方などの選択肢が増えて自由度が上がれば、社員一人ひとりのやりがいや内発的動機が高まる。それはイノベーションや競争力の向上につながり、さらに企業の導入が増えていく。これが働き方を変えるための理想的な流れだと考えている。

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そして働き方変革の取り組みが世の中に浸透するために、岩本はこんな期待を持っている。

「リモートワークなどは、どうしても最初に抵抗があります。でも、先陣を切る人がある程度出てくれば『私もやってみよう』と一気に加速するはず。何より、やってみて合わなかったら変えればいいのですから。いろいろな働き方に触れて、多くの人が一歩を踏み出せればいいですね」

働く人がアタリマエのように「働き方」を自分で選べる社会を実現する「起点」となるために、働き方変革プロジェクトはこれからも続いていく。

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