美容業界からWeb業界へ。異業種転職で成果を出し続けられた思考法

2015年に入社し、現在は「データ戦略ユニット」の責任者を務める渡辺竜大。これまで、ヘアメイクアーティストやWebディレクターを経て、リクルートに入社しました。一見、異色のキャリアですが、「未経験の分野だとしても、結果を出し続けたい」と語る渡辺に、仕事に向き合うスタンスを聞きました。
業界が違っても大切にしたい、仕事への向き合い方
― 渡辺さんは、ヘアメイクの仕事をされていたとか?
渡辺竜大(以下、渡辺):そうなんです。早く社会に出て世の中を見たいと思っていたので、大学進学は考えていなくて。高校卒業後は美容系の専門学校に進み、ヘアメイクの仕事に就きました。
高校生の頃に通っていた美容室の美容師さんを見て、「人に喜んでもらえる仕事っていいな」と思ったのが、きっかけです。
― ヘアメイクの仕事で、有名人の方も担当されていたと聞きました。華やかな世界、というイメージです。
渡辺:私自身は華やかなタイプではなく(笑)、最初の頃は失敗ばかりでした。特に印象に残っているのは、ヘアメイクアシスタントとして初めて現場に行った時のことです。有名人の方の髪を巻く役割を任され、学校で技術を習いましたし、手先が器用だという自負もありました。ところが、その方に「全然ダメ!」と言われ、その場の空気を一気に凍らせてしまったんです。
すぐにメインで入っているヘアメイクの方がフォローに入り、やり直して事なきを得ましたが、「学校で学ぶことと、現場で通用する技術は全く別物だ」と痛感。また、限られた道具で、どうにかして相手の要望に応えなければならない場面も多くありました。
期待以上のクオリティを提供し続けなければ、次の仕事にはつながらない。その厳しい現実を知った経験から、どの仕事でも「プロとして結果を出すこと」を何より大切にするようになりました。
─ 仕事に対する姿勢は、そこが原点になっているんですね。その後は?
渡辺:ヘアメイクの仕事はとても楽しかったんですが、撮影現場にいる時間が長く、まとまった休みも取りにくい状況。そこで、結婚を機に、パソコンがあればどこでも仕事ができるWebデザイナーへの転職を決意。ヘアメイク時代の経験から、学校で勉強をするよりも現場で必要なスキルを身につけるほうが圧倒的に成長が速いと考えて、Webデザイナー未経験でも応募可能な会社を探して転職しました。ただ、最初の研修でデザインとコーディングの両方を学ぶうちに、コーディングの楽しさに目覚め、エンジニアとして配属されることになりました。
─ Web系の知識に、もともと長けていたのですか?
渡辺:いえ、そういうわけではなかったです。ひたすら勉強して、得意分野だといえるように努力し、集中して取り組みました。新たな知識をより早くインプットして、だんだんと難しい仕事を任せてもらえるように。その後、自分の気質として、要件通りに製作するよりも、企画に関わりたいと思うようになり、Webディレクターになったんです。
─ その後、なぜリクルートだったのでしょう?
渡辺:クライアントワークだと、納品がゴールとしてまず役割があり後ろの工程になかなか関われない。自分としてはその後の結果や改善にこそ、関わりたいと思うようになりました。 自分で企画を考え、リリースし、その結果にも責任を持ちたい。そこで、2015年にリクルートに転職。
入社後は、『ホットペッパーグルメ』のUX改善やOne to Oneマーケティングなどに取り組み、3年後の2018年、データマネジメントグループのグループマネージャーになりました。

未経験からのスキル習得。学びを成果につなげる方法
─ データマネジメントグループに異動した時の心境は?
渡辺:マネジメントの仕事はもちろん、データを専門に扱う部署の仕事も初めて。ふたつの“未経験”が重なり、自分にかけてくれた期待に応えたい思いと不安が錯そうしていました。
できないことが多く、大変なのは事実。でも、裏を返せば「伸びしろしかない」ということ。未経験の領域でマネジメントを行う機会を、「新しい知見をインプットしながら、自分の強みを活かして組織に貢献する機会」 と捉えました。
ヘアメイクの仕事からWebエンジニアになった時も、未経験で現場に入り、「できること」を一気に増やした成長経験があったので、短期間で集中して学ぶしかないと心を決めたんです。
─ 具体的には、どのようなことに取り組みましたか?
渡辺:まず、データ分析に関する専門知識がなかったことから、難易度の高い研修を受講することにしました。マネジメントをするという役割なので、初心者向けの内容から順番に勉強して、自分が応用まで理解する時間を周りは待ってくれないかもしれない。時間をかけるのではなく、インプット→業務でアウトプットのサイクルを早くすることを心がけました。
─ 新しいことを始める時は、「基礎から学ばなくては」と思ってしまいそうですが?
渡辺:もちろん、「基礎」もすごく大事です! 基礎があるからこそ、応用ができて、新しいものが生まれるので。
ただ、何を目的にするかだと思っていて。私の場合は、目的から逆算して必要なものを形にすることを考え、難易度の高い研修を受けたことで、基礎から応用まで短期間で一気に学べました。
実際に自分でも手を動かし、研修で学んだツールを使って分析したり、メンバーが取り組んでいる業務を実践したりしました。机上の空論ではなく自分自身が各論まで理解することで、「なるほど、このためにこういう分析をしているのか」と分かり、業務についてメンバーと会話ができる状態へと変化していきました。
─ 確かに、ある程度の業務知識がないと、メンバーと会話するのは難しいですよね。
渡辺:そうですね。日々インプットをするなかで、「上手くいったこと・いかなかったこと・その要因」を言語化し、概念を整理したメモを残すことでアウトプットする。知識と経験をひもづけて整理して、自分の思考や取り組みを客観視するとともに、詳細な情報を整理してストックすることで、次の機会に活かす材料として貯めていきました。周囲に役立ちそうな経験や気づきをナレッジとして抽出し、スライドにまとめて共有することもありました。
─ ナレッジ共有ができるほど、短期間で知識を習得。すごいスピード感です。
渡辺:今まで以上に多くのことを学び、成長スピードをさらに上げることができたのは、ふたつの“未経験”に同時に飛び込むという貴重な機会だったからこそ。そして、リクルートはこういった新しい挑戦に向き合う姿勢と経験を通して、成果を出し続けることで信頼され、また次の機会がやってくる場だと感じました。
─ 未経験のフィールドに飛び込みたいけれど勇気が出ない、という人にアドバイスをするとしたら?
渡辺:自分への「問いの立て方」を変えてみるといいと思います。「一歩踏み出すことは大変。うまくいかなかったらどうしよう」という不安がある。私もそうでした。それを“できるかどうか”ではなく、 “どうやったらできそうか”という思考に変える。できない理由を探してひるむよりも、どうすれば最短でできるようになるかを考えて行動するほうがいい。
あと前提として、自分がやりたいと思っているかどうかも大事。やりたいことなのであれば、不安を洗い出して「こうやったらできそうだ」と、できない理由を潰していく。悩むのではなく考える、ということが大切だと思います。

プレイヤーからマネージャーへ。チームを動かすために変えた思考
─ 業務に関する知識は猛スピードで勉強されたとのことですが、同時に未経験だったマネジメント面はどうでしたか?
渡辺:マネージャーになった当時は、約80名のメンバーがいました。自分よりもメンバーの方が、データプランナーとしてもエンジニアとしても知識と経験が豊富。さらに受け持つ領域も、飲食・美容・旅行・SaaSなど幅広い。何も分かっていない自分のような人がマネージャーになることは、メンバーにとっても、とまどいがあったと想像します。
一人ひとりと対話しながら、自分に求められているものを探ってみましたが、人によって全然違うんですよね。自由に任せて欲しい人もいるし、ある程度方向性を示して欲しい人も…。どうしたらいいだろうと混乱した時期もありました。
プレイヤーとマネージャーでは、求められる役割が大きく異なります。その気づきのなかで、マネージャーとして「人に頼れるようになった」というのが、大きな変化でした。
─ プレイヤー時代の渡辺さんは、自分でやって成果を出していたのでギャップがありそうです。
渡辺:そうなんです。マネージャーになった当初は、「ぜんぶ自分でやらなくては」と抱え込んでいたところがありました。
でも、私の役割は「それぞれのメンバーが、何が得意でどんなことをやっていきたいのか」と、「組織として出したい成果」をうまくつなげること。そのうえで、「ここの部分は任せるよ。このタイミングでは共有してね。ここに悩んだら教えて」など、必要に応じて伝えています。会社としての目標に到達するためには、それぞれの分野で、得意な人に頼るほうが結果も出やすいと感じました。
─ 新天地での業務インプット、さらには初めてのマネジメントも、ご自分のやり方を見つけていったんですね。
渡辺:会社に期待してもらって任用されたと考えているので、その期待に応えたいと思いました。ありがたいことに、リクルートは多様な人材がいる環境。先輩や周りの仲間が持つ観点を吸収することで、自分自身も成長することができる。仕事を通して、最終的にカスタマーやクライアントに価値を提供することにつながっているか、ということは常に意識しながら、自分にできることを増やしていきました。
─ 最後に、現在の「データ戦略ユニット」での仕事を通して、実現したいことを教えてください。
渡辺:データ戦略ユニットの責任者として、データを経営戦略にどう活かすか?と全社視点で考えています。戦略を考えるプロセスはどうなっているのか? どんなロジックで考えているのか? できるだけ新しい視点をインプットして、戦略的思考をもつように意識して鍛えていきたいですね。
どんな機会があっても、最大限活かせるかどうかは自分次第。目の前の機会と貪欲に向き合いながらデータに関する専門性と経営戦略をつなぐ翻訳者としての力を発揮し、事業の成長に貢献できたらと思っています。

プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 渡辺竜大(わたなべ・りゅうた)
- 株式会社リクルート プロダクト統括本部 事業戦略 プロダクト戦略室 データ戦略ユニット Vice President
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ヘアメイクアーティスト、Webディレクターなどを経て、2015年に入社。『ホットペッパーグルメ』のUX改善を担当。年間200件以上のABテストによるCVR改善に取り組んだ後、データを活用したOne to Oneマーケティングのプロジェクトリーダー、データプロデュースリーダーに。2018年からデータマネジメントグループやデータソリューショングループのグループマネージャー、2022年からSaaSデータソリューション部の部長を務め、2023年より現職