チャレンジは早ければ早いほど良い。Diver-X代表 迫田大翔が高校卒業後すぐに起業した理由

チャレンジは早ければ早いほど良い。Diver-X代表 迫田大翔が高校卒業後すぐに起業した理由
文:森田大理 写真:須古 恵

XR向けインターフェースデバイス『ContactGlove』などを展開。22歳の技術者兼起業家、Diver-X 迫田大翔さんが歩んできた道のりから、自分らしいキャリア選択の秘訣を学ぶ

自らの意思でキャリアを切り拓き、社会で活躍する現代の若者は、どのような出来事に影響を受け、どのような価値観を持っているのだろうか。今回登場するのは、Diver-X株式会社 代表取締役の迫田大翔(さこだ・やまと)さん。2002年生まれの22歳だ。

迫田さんは高校を卒業したばかりの2021年に、XR(クロスリアリティ)関連機器の開発や製造を手掛けるDiver-Xを設立。同社が手掛けるグローブ型のデバイス『ContactGlove』は、デジタル技術の国際見本市である「CES 2023」でイノベーションアワードを受賞しており、市場拡大と技術の進歩が目覚ましいXR分野の中でも注目の成長企業となっている。

Diver-Xを率いる迫田さんは、なぜ若くして起業という選択をしたのだろうか。迫田さんのこれまでの活動を振り返ってもらいながら、背景にある思いやキャリア観・人生観について伺った。

人間とコンピューターの“接点”の質を高めて、人の可能性を広げたい

― はじめに、迫田さんが代表を務めるDiver-Xの事業内容やミッションをご紹介ください。

Diver-Xの事業内容をひとことで説明すると、「ヒューマンインターフェースデバイス」の開発・製造です。現在はVR(仮想現実)デバイスを中心とした事業を展開していますが、僕たちが本質的に目指しているのは、人間とコンピューターの“接点”の進化です。

僕がこの“接点”に注目しているのは、AIを筆頭にこれだけコンピューターが劇的に進化しているのにも関わらず、人間とコンピューターをつなぐデバイスはマウスやキーボードなど、あまり進化していないこと。インプットもアウトプットも主流はまだまだ文字情報による伝達です。それは言わば、コンピューターの進化にインターフェースが追いついていない状態。人間がテクノロジーの恩恵を十分に受けられないボトルネックになっているかもしれません。

だからこそ、これまでにない革新的なインターフェースを世の中に提案することで、人とコンピューターの接点の質を上げたい。それによってテクノロジーを活用した体験をより豊かにしていくことはもちろん、人間のパフォーマンスを最大限に引き出すことにもつながり、労働生産性にも大きく貢献できる可能性があると考えています。

Diver-Xが手がけるプロダクトのグローブ型VRデバイス「ContactGlove2」
ContactGlove2(提供写真)

― 現在VRデバイスの開発に注力されているのはなぜなのでしょうか。

VR市場はまだ発展途上で、新しい技術やプロダクトが日々生まれているような状況。わずか1年で体験価値が劇的に向上することも珍しくありません。また、市場が未成熟だからこそユーザー層もアーリーアダプターが多く、期待や応援の意味でDiver-Xのプロダクトを購入してくださる方々も多いです。ユーザーをはじめステークホルダーと一緒に事業を育てていくムードになりやすいという意味でも、挑戦しがいのあるステージだと思っています。

― VR市場は発展途上とはいえ、大手メーカーやスタートアップが続々と参入していますよね。その中にあってDiver-Xはどんな特徴があるのでしょうか。

グローブ型のデバイス「ContactGlove」を例にお話しします。これはグローブ型デバイスという意味では当社は後発組なのですが、BtoC向けのカテゴリではトップシェアを誇ります。これは、「ゲームの操作に利用したい」という一般ユーザーのニーズにあわせて、操作性や没入感を追求した結果、多くのユーザーから支持をいただいたのだと捉えています。

このように、市場ごとのニーズを捉えながら、幅広く製品ラインナップやソリューションを模索しているのが当社の特徴です。はじめにお伝えした通り、将来的には全く違うプロダクトや技術を用いた事業に発展する可能性もありますし、特定のデバイスや技術だけを追求する事業運営方針ではありません。だからこそ、一般向けのコンシューマ製品から法人顧客向けのソリューション販売まで、複数のチャレンジを同時並行で進めており、それが事業上の強みにもなっています。

技術力を追求するだけでは、やりたいことが実現できないと気づいた

― では、ここからは迫田さんが会社を立ち上げるまでのストーリーを聞かせてください。少年時代はどんなことに興味がありましたか。

小さなころから電子工作が好きで、祖父が買い与えてくれたロボットキットでずっと工作をしているような小学生でした。その流れで中学に進学するときは、地元愛媛県で唯一「ロボコン部」がある学校を選択。部活を通してロボットを作ったり、大会に出たりという経験をしながら、機械や電気・電子の技術を学んでいきました。

― 早いうちから技術者としての素地を固めていったのですね。

ただ、自分が中高のロボコン部で学んだのは技術だけではなかったと思っています。

全国大会に出場すると、関東の強豪校など学校の外の人たちと交流することになって、自分の世界が広がっていく感覚がありました。例えば、自分たちでロボット開発のスポンサー集めをしているチームがあったり、ロボット関連の会社を起業している大学生の先輩にも出会ったり。そこで気づいたのは、ロボット開発(ものづくり)には資本力も必要なことです。競技でも、価格の高い高性能の部品を使っているロボットの方がやっぱり強くて……。技術力だけではどうしても勝てず、ロボット開発に必要な資金調達をするところまでが競技の一部という考え方が、ちょうど中高生の頃に広まっていった感覚があります。

でもそれは、単に資金力勝負の世界に変わったという意味ではありません。これまでは使われていなかったような新しい部品や技術が投入されるようになって、ロボコン界隈全体の技術レベルが上がっていったんです。そうしたポジティブな側面を知ったからこそ、技術力だけでロマンを追求するのではなく、技術やプロダクトの価値を換金していく「マネタイズ」を意識するようになりました。当時は開発資金を得るために賞金目的でコンテストに出まくっていましたね。

中高のロボコン部で学んだのは技術だけではなかったと話す、Diver-Xの迫田大翔さん

― なるほど、ロボコンによって技術を学んだだけでなく、“経営者”の感覚も目覚めているのですね。一方で、ロボットが好きだった迫田さんが「ヒューマンインターフェースデバイス」という分野に入っていくのは何がきっかけなのですか。

動機は大学受験です。実は僕、エンジニアリングは大好きで得意でしたが、それ以外の勉強はまるでダメな高校生だったんですよ。普通に受験したらなかなか受からないだろうと。それで色々と調べてたどり着いたのが、学外の活動で評価されて推薦・AO入試の出願資格を取ること。「未踏ジュニア」という小中高生や高専生向けのクリエータ支援プログラムで、スーパークリエータ認定を取れば、推薦枠で出願できる大学があると知り、これだと思いました。開発資金も援助してもらえるし、一石二鳥だな、と。

ただ、そこで検討の必要があったのがプロジェクトのテーマ設定でした。単にロボットをつくるのではなく、どんな目的で何を実現したいプロジェクトなのかを深く構想していく必要があり、最終的に自分が応募した内容が、「脳波や筋電などの生体情報を使ったインターフェースの開発」だったんです。

― いわば大学進学の手段として取り組んだプロジェクトだったのですね。では、なぜこの分野に関心を持ったのですか。

自分がハマっていたアニメ『ソードアートオンライン(以下、SAO)』の世界観を実現させられたら面白いなと思ったからです。『SAO』では、デバイスが人間の脳に直接働きかけることで仮想世界をまるで現実のように感じることができるという設定でした。テクノロジーの進化によっていつかは実現できるのかもしれないけれど、それを待つのではなく、試しに自分でつくってみたかった。きっかけは大学進学のためとはいえ、そこに自分の好きな要素を取り入れたことでものすごく興味が湧いてきたんです。

研究と事業を両立し、社会にプロダクトを投じることで、価値を磨く

― 未踏ジュニアでの活動もあって、迫田さんは2021年4月に大学に入学しています。一方で、Diver-Xの設立は入学直前の3月。学問や研究に専念しても良い時期に、なぜ起業という選択をしたのでしょうか。

一番の理由は未踏ジュニアですね。プロジェクトで取り組んだことを発展させて事業化していきたかった。ロボコンに夢中だった頃は純粋に競技で勝つことを考えていれば良かったのですが、未踏ジュニアでのチャレンジを通して、社会にイノベーションを起こすことや世の中にどんな価値を提供していきたいのかをたくさん考えさせられました。だからこそ、研究だけに没頭するのではなく、事業として実社会にプロダクトやサービスを投じながら価値を磨いていきたかったんです。そうしたほうが開発のリソースである人や資金も集めやすいし、世の中へのインパクトも大きくしやすいと思いました。

一方、会社の設立が大学入学のタイミングになったのは、チャレンジは早ければ早いほど良いと思ったからです。事業としてやるからには、従業員・投資家・ユーザー……と多様なステークホルダーへの責任が生じますし、それなりのリスクはあるけれど、もし上手くいかなくても早めに経験すればリカバリーが効きやすいじゃないですか。緻密に計画を立てての起業というよりは、「やってみたい」という自分の心に従った感覚ですね。

会社の設立が大学入学のタイミングになったのは、チャレンジは早ければ早いほど良いと思ったから。「やってみたい」という自分の心に従った感覚と話す迫田大翔さん

― 今や学生起業も珍しくない時代とはいえ、迫田さんの事業はリソースが少なくても参入しやすいWebサービスなどと異なり、それなりに資金や人手も必要ですよね。どうやって事業をはじめることができたのでしょうか。

まず人の面に関しては、ロボコンや未踏でのつながりに助けられました。学校の外にも自分の世界を広げる過程で自分のやりたい事業に必要な知識・技術力を持った人たちと出会い、アイデアに共感してくれる仲間を増やせたこと。僕と同じようにリスクを取ってでも面白いことをやりたいという気持ちで、スタートアップに参加してくれる仲間が多いです。

資金面についても同様ですね。事業資金・開発資金をご支援いただけるようなコンテストに積極的に出場し、支援団体の方々との接点を意識的につくっていました。そうやって表に出る機会を増やすうちに少しずつ実績を評価していただき、ファンドからまとまったご支援もいただいています。あと、設立初期の一番大きな出来事としては、クラウドファンディングをやったことです。先ほどお話した『SAO』に近い体験を実現するために、寝ながら使用できるVRデバイス『HalfDive』を発表。量産に向けた支援を募集したところ、3,000万円近い金額をいただいたこともありました。

自分の力で理想の世界に近づけていく。成長の過程が面白い

― 設立から4年の事業運営で、ターニングポイントがあれば教えてください。

事業としての大きな決断は、『HalfDive』のプロジェクトを凍結したことです。クラウドファンディングでも大きなご期待をいただいたのですが、最終的に量産に踏み切らなかった。会社の中長期を考えて、今はこのプロジェクトにアクセルを踏むべき時ではないと考えたからです。当社の事業規模だと2年はこのプロジェクトに専念せざるを得ませんでした。次々に新しい技術が生まれ、トレンドの移り変わりが激しいこのマーケットにおいて、それは正しい時間の使い方なのか。ギリギリまで熟慮して思いとどまることにしました。

その判断のもと、クラウドファンディングで集めた資金はすべて返金。リスクも労力もある決断だったと思います。でも、この決断があったから今の当社の主力製品である『ContactGlove』は生まれたんです。

『HalfDive』は寝ながら仮想現実世界にアクセスするというコンセプトで開発したデバイスでしたが、後々考えると寝たまま快適な操作を実現するためのインターフェースの構想が甘かった。そうした反省点がグローブ型デバイスを開発するきっかけのひとつになっています。『HalfDive』をキャンセルしたときには「がっかりした」「もうDiver-Xは終わりだ」と言われることもありましたが、この苦渋の決断があったからこそ、事業やプロダクトの方向性が定まりましたし、再びご期待いただけるようになれたかなと思っています。

― 一方で、経営者としての迫田さん自身のターニングポイントはありますか。

少しずつ会社の規模が大きくなり、組織としての体制を整備している今が、まさに僕自身のターニングポイントかもしれません。

設立3年目くらいまでは、大抵のことは自分がやった方が早いし、わざわざ説明しなくても思い通りにできるから、つい巻き取ってしまうことが多かった。けれど、そんなやり方を続けては従業員の能力を最大化させられないし、何より事業の価値が自分の想像の域を出ない。社長が事業の足を引っ張る存在になりかねないことに危機意識が芽生えました。

適切に権限移譲をしていかないと会社としての成長はない。また、実は今、事業に専念するために大学を休学しているのですが、学業と両立を目指す意味でも自分は経営者として一皮むけなきゃいけないと思っています。

少しずつ会社の規模が大きくなり、組織としての体制を整備している今が、まさに僕自身のターニングポイントかもしれません と話す迫田大翔さん

― 迫田さんにとって、もともと起業はやりたいことを実現するための手段でしたよね。でも、お話を聞いていると、今は経営自体に面白みを感じているように思えました。経営の何が魅力なのでしょうか。

本質的には子どもの頃から好きだった電子工作と似ている気がします。自分が理想とする状態に、自分の力で近づけられるところが好きなんですよね。人から与えられた理想ではなく、自らの意思で高い理想を掲げ、みんなの力を併せてどこまでも伸びていけるのが楽しい。その意味で、今の僕はプロダクトや会社の方向性を示す「コンセプトデザイナー」だと思っています。

― 最後に、迫田さんのモチベーションの源泉について教えてください。『SAO』の世界のように迫田さんが思い描いている理想を実現するには、まだまだ長い道のりが待っていそうです。それでもこのテーマに夢中になれる原動力は何ですか。

たしかに道のりは長いかもしれませんが、進化のスピードが早いマーケットでもあるからこそ、日々成長を感じられることが自分のモチベーションになっています。会社も自分もメンバーも、毎日何かしらのチャレンジを通して成長をしている。そうやって理想とのギャップが少しずつ着実に埋まっていくことが面白いから、自分はこの仕事に情熱を傾けていられるのかもしれません。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

迫田 大翔(さこだ・やまと)

Diver-X株式会社 代表取締役/ハードウェアエンジニア。慶應義塾大学在学中。 2019年、未踏ジュニアスーパークリエータ、情報処理学会・中高生情報学研究コンテスト 情報処理委員長賞等を受賞。2021年3月、Diver-X株式会社を設立し研究開発を行う。2021年度未踏IT人材発掘・育成事業スーパークリエータに認定される。2023年 Forbes 30 UNDER 30 Japan 選出。

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