"好き"を"機会"に―リクルートの部活動「マンガ部」に熱中していたら仕事にも活きちゃった、わらしべ長者的な話
「旅でバビでブー」「ハイプロテイン謎肉」「BTS ARMY 部」「モンハンエンジョイ部」「純喫茶同好会」「焚火鑑賞部」「禊滝行部」「打ち切り漫画研究会」…これらはリクルートの部活動のほんの一例。リクルートには硬軟さまざまな402種類の部活動があり(2022年上半期実績)、従業員が趣味や交流を楽しんでいる。全力で“好き”を追求した部活動をきっかけに、意外な機会に出会った伊藤博典に話を聞いた。
マンガ部存亡の危機に立ち上がる
—社内報で見たのですが、伊藤さんは筋金入りの漫画好きと聞いています。
伊藤:はい、大学院では「漫画×機械学習」を研究したくらいです。デジタルと紙、両方合わせて3000冊は所蔵しています。マンガ部も立ち上げました。
—マンガ部、というのは何ですか?
伊藤:会社の部活動です。リクルートでは誰でも半年に1回、社内で部活を立ち上げられるんです。細かな条件はいろいろありますけど。2部署以上から計5名以上集まって、当たり前ですが公序良俗に反しない内容で、スポーツや、文化的で知的好奇心がもてる活動内容なら、一定の活動費が会社から支給されます。その制度を利用して(正確に言うと引き継ぐ形で)立ち上げた、私が部長をしている漫画好きのための同好会的な部です。
—なるほど。伊藤さんはマンガ部を引き継いだんですね。
伊藤:はい、もともと2019年に新卒で入社した時に入る部活を探していて、マンガ部を見つけて即、入部しました。でもコロナ禍で部活動そのものが一時休止になってしまいまして。2021年にオンラインに限定して部活動が再開された時に、以前所属していたマンガ部が再開されないことを知り、良い仕組みだし、当時も楽しんで参加していましたからもったいないなあと。元部長に相談して、部員同士がやりとりをしていたTeamsのチームやマンガ部の活動に関する資料など一部資産を引き継ぎつつ、体制や運用としてはゼロベースで立ち上げました。なかなか個人に閉じていると、新しい面白い漫画の情報って集まってこないんです。だったら集合知で簡単に情報に触れ合える機会を作り出せないかなと思い、立ち上げたというのがことの始まりです。
—口コミに勝るものなしですもんね。実際に部員を募集するとどうでしたか?
伊藤:20名以上の仲間に出会えました! 蓋を開けてみると組織も職種もばらばら。普通に生活していたら接点がない人たちでした。3ヶ月に1回のペースで活動し、オススメの漫画を持ち寄ってプレゼン大会をしたり感想を言い合ったり。皆情報が早いので「次に来るマンガ大賞」の作品は発表される前に既に読んでいることも多いです。
機会は雪だるま式に増やせる。取材の次は、コラボのお誘いも。
—情報が早すぎる素敵なコミュニティですね。活動を続けていると意外な機会があったとか?
伊藤:はい、それから1年くらい活動していたら、まずはリクルートのグループ報の担当者から声がかかりまして、グループ報の特集の座談会に出ないかと。それでその時の推し漫画『東京卍リベンジャーズ』について語りました。
—「いいチームとは何か?」というテーマの特集記事でしたね。
伊藤:『東京卍リベンジャーズ』はヤンキー漫画なのに主人公は喧嘩が弱い。でも「こうしたい」という強い情熱を持っているので、周りを感化して巻き込んでいく。お互いの強みを組み合わせ助け合いながら、チームで共通のゴールに向かっていくのが面白いんです! 他の参加者には別の部活動の主催者もいてBTS、ヤクルトスワローズ、ハロー! プロジェクトファンの人も。それぞれの“推し”から学んだチームワークを語り合いました。皆さんもすごい熱量でしたね。
—“推し事”が活発なリクルート…知りませんでした。
伊藤:で、次にグループ報担当の方の紹介もあって、リクルートのブランドマネジメントを担当する部署の方からチャットが来たんです。「グループ報を見たんですけど、部員の方含めて、『少年ジャンプ+』さんとのコラボレーション企画にご意見いただけないですか?」と。部活動では会社からの活動支援金もあり、好きなことをやらせてもらっているので、個人的にこういった機会では積極的に協力したいと思っていました。「是非に」と関わらせてもらい、部活のチャットで協力者を募集したところ、半数以上の13名が興味を持って、ミーティングに参加してくれました。自分も皆もワクワクしてその会議で意見を出し合って、チャットも盛り上がり、こういう活動も面白いなと改めて感じました。
会社で部活動をする意味は?
—会社の部活動の機能って、何なんでしょうか?
伊藤:組織や職種や役職に関わらず、タテ・ヨコ・ナナメのつながりを創れる役割は大きいです。でも組織活性の役割以外にも、特定の分野の知見ある人を集約したラベルとしても部活動が機能しているのは結構面白いなとも感じました。
—ある意味、部活動の数=専門家集団数ですもんね。
伊藤:普段の仕事は全然関係がないのに、職場で大好きな漫画に関われるなんてこのラベルがあってこそです。
—連の経験を通して、リクルートで「好き」を表現するメリットはなんだと思いますか? 社会人になると自分の趣味を職場で話すのをためらう人も多いと思うのですが。
伊藤:リクルートだと自分の好きなことが、思わぬところで活きることですかね。会社のカルチャーとして、割とフラットかつラフにいろいろな人に話を聞きに行ったり、頼ったりしやすい土壌があると思っています。ナレッジ共有も全社でも組織単位でも活発ですし、「よもやま」という雑談文化もあります。この土壌で、こと好きなものに関してさまざまな所で発信して種を撒いておくと、後々「自分の趣味・興味」と「会社が必要としている役割」が組み合わさって価値が出せる機会につながっていくのは面白いなと思いました。
—興味と役割が組み合わさって機会につながる。面白いですね。伊藤さんは仕事に関しても同じ考えですか?
伊藤:はい、「エンジニアリングだけじゃなくて、他の領域も経験しておきたいんです」とか、「世間にはこういう流れがあるので、会社としてもやっていくべきだと思うんです」といった表明を、時には資料なんかも見せながら、上司に話しています。そこまで考えているなら、と希望する仕事を任せてもらったことが何回かあります。例えば、異動者が出た際に機械学習の案件を引き継がせてもらったり、MLOps(機械学習オペレーション)を取り入れた開発を推進させてもらったりといった感じですね。あとは、「4年目なので成長角度を上げていきたいので、マネジメントはハードモードでお願いします」みたいなことも伝えたり(笑)。今いる組織は年次もあまり関係なく話をしますし、大学の研究室の延長のような雰囲気で言いやすいんです。基本的にどこにいても、興味や好きなことは周りに言っておいて損はないな、と自分は思います。
—育成の厳しさまで自分で要望するとは…!
伊藤:自分の意志って出さない限りは表に見えないものなので、汲み取ってもらおう・やってもらおうみたいな受け身でいると、いつまでも自分のワクワクすることって始まらないと思っています。自分から始めることもそうですが、リクルートの環境として、雑談だったり、勉強会だったりをフラットにやっているような職場なので、タイミングがあれば、積極的に種を撒いておくと、機会に結びつくんじゃないのかなと考えています。好きなことって基本的に義務とかに関係なく自然に生活のなかでやっているものが多いと思うんです。それが何か面白いことにつながれば、感覚としては“丸儲け”じゃないですか。やるべきことと、やりたいことの、両輪で走れると仕事も趣味も、いい感じになっていけるかなと。
—ワクワクすることは自らの発信から始まるんですね。では最後にマンガ部を代表して、最近の推し漫画を教えてください。
伊藤:『アオアシ』『ブルーロック』『ブルーピリオド』のブルー三兄弟と自分が勝手に呼んでいる漫画がオススメです。なかでも、『ブルーピリオド』は仮面を被って生きてきた高校生の主人公が、殻を破って絵を好きな自分を認めて芸大(東京藝術大学)を受験する話。自分の本当に好きなことを心のままに認めて、人生を選択していくって、すごくリクルートのカルチャーにも通じるところがありますよ。
—ありがとうございました!
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 伊藤 博典(いとう・ひろのり)
- 株式会社リクルートプロダクト開発統括室 データ推進室 データプロダクトユニット データプロダクトマネジメント1部
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大学院修了後、2019年リクルートに入社。データプロダクトグループに配属。『ホットペッパーグルメ』の機械学習案件のモデル実装や社内プロダクトの機械学習基盤開発を担当。現在は、旅行業務支援SaaS事業 などに携わる。リクルートの公式部活動、マンガ部の部長