『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』著者 安斎勇樹さんのリクルート考

『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』著者 安斎勇樹さんのリクルート考

“強い個”の鎧を脱いでみませんか?『心理学的経営』のアップデートに期待

リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2022年9月号からの転載記事です

人や組織の可能性が開花する「ポテンシャル」フェチに

私の会社MIMIGURIは、組織の創造性を活性化する最新理論を基盤とした、デザイナー、ファシリテーター、コンサルタント、エンジニアなどの専門家集団です。リクルートとは、教育事業の効果測定プロジェクト、婚活事業のチームビルディング、幹部候補者研修、組織長研修など、さまざまなプロジェクトでご一緒させていただいています。

実は、リクルートとの最初の出会いは、就職活動をしていた2007年の大学生向け「サマージョブ」。新規事業提案を競う仕立てで、仲間にも恵まれて優勝することができました。今でもその仲間とは関係が続いています。

ちょうどその後、自身が開催したワークショップに繰り返し参加していた吃音の少年との出会いが、進路を決定づけました。半年間一言も発話しなかった彼に、私がたまたま投げかけたある「問いかけ」がきっかけで、堰を切ったように話し始め、チームの雰囲気が一気に変わりました。まさに人と組織のポテンシャルが開花する瞬間を目撃しました。

そこから、すっかり「ポテンシャル」フェチに。創造性のメカニズムを科学するために大学院に進学し、博士号を取得。研究者とビジネスを両立しながら、今に至ります。

ゴールや正解が成長を止める 揺らぎを起こし続ける役割

安斎勇樹さん

ファシリテーション」という英語は「容易にする、整理する」と訳されます。しかし、ファシリテーションの本質は真逆。ファシリテーターの役割は、物事を整理したり、決めたりすることではありません。二者択一では選べないような相反する価値や制約に対し、その矛盾を受容して、納得解を探り続けること。

白黒はっきりしない状態は、不確実性が高く、ストレスフルです。ゴールを決め、結論を出せばスッキリする。しかし、結論を出した途端に思考停止になり、進化は止まる。

だから、ファシリテーターは、矛盾のなかで揺らぎを起こし続けること、組織が学び続ける状態に寄り添い続けることが役割。その本質は、「経営」と全く同じだと考えています。

個性や信念も疑い、外に出て新しい可能性を探し続けよう

リクルートは『心理学的経営』の人材・組織開発思想に基づいて創業されたという話を伺い、強い興味を持ちました。まさに「個をあるがままに生かす」という言葉通りだと思います。

最初は、こんな「個が強そうな人たち」をファシリテートできるのか、正直自信が持てなかったのですが、一人ひとりと話すと、内面には非常に“愛らしさ”があると感じました。大きなミッションを背負っている方々も、心のなかに、個人的な原体験や感覚も大切に温めていて、それが人間的な魅力につながっているのを感じます。

個の力をさらに活かすには、外側に武装された「鎧」のようなものを一度疑ってみるといいかもしれません。役職が上がるほど責任も重くなり、プレッシャーに抗うために鎧も強化されていきます。しかし時には鎧を脱ぐことが、個々がチームでシナジーを生んでいく上では必要です。自己脱皮し続けることに前向きなリクルートの方々なら、大きな発見と出会えるはずです。

さらに精度高く“個”を捉えて組織に活かす方法論を

今、心理学も、すごい勢いでアップデートされています。研究対象は「個人の心や認知」から、「集団のダイナミズム」へ。状況のなかでそれぞれのパフォーマンスをいかに発揮させるか、が中心に。心理学と経営学が融合しつつあるともいえるでしょう。

1960年代に世界でも先進的だった『心理学的経営』をベースに、「強い個」を育んできたリクルートの企業文化。今後は、精度高く、個の多様性をチームとして活かす方法論を、学問的、実務的に確立していく必要があると感じています。

既に多様性研究では、男女、年齢、居住地などのスペックの多様さだけでは、チームの創造性には必ずしもつながらないということが分かっています。重要なのは、互いの「ものの見方」の違いを認識し、活かそうとし合うこと。Will(やりたいこと)をひとつとっても、実は立体的。その動機の背景、真の目的、活かせる個性などが包含されているのです。

『心理学的経営』の解像度をさらに上げ、精度高く「個の力を組織に活かす方法論」を科学していくこと。企業文化の根幹を、さらにアップデートし続けていくことを期待しています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

安斎勇樹(あんざい・ゆうき)
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
東京大学大学院 情報学環 特任助教

東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。企業経営と研究活動を往復しながら、「人と組織の創造性を科学する」ことを目指し、人と組織の創造性を引き出し、多様性を活かした人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究。多くの企業で経営者研修、コンサルティングを手掛ける。主な著書は、HRアワード2021最優秀賞受賞『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(2020年6月)、『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』(2021年12月)、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』(2021年4月)、『ワークショップデザイン論』(第1版2013年6月、第2版2021年1月)など

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