法政大学・大学院教授 田中研之輔さんに従業員がインタビュー。「リクルートと人的資本経営。機会を自律的に活かす方法とは?」
人的資本経営の研究者であり「プロティアン・キャリア」を提唱する、“タナケン先生”こと、法政大学教授の田中研之輔さんに、リクルートが大切にしてきた人材観についてリクルートまなび教育支援Division姜 潤華さんがインタビューしました。
※リクルートグループ報『かもめ』2023年5月号からの再編集記事です
人口減少を続ける日本社会のなかで、人的資本の最大化が必須
―姜 潤華さん(以下姜):リクルートだけでしか働いたことのない自分にとって、多様な企業をご存じの先生から見えるリクルートの姿や世の中の動きをお伺いできることが楽しみです。今日はよろしくお願いします。田中先生は、今、日本社会の現状をどう捉えていらっしゃいますか。
田中研之輔さん(以下田中):日本経済の先行きに強い危機感を抱いています。2048年に日本の人口は1億人を割り込むと言われており、これからも人口が伸びていくインドネシアやフィリピンといった国々と競争する上では、もはや労働力では勝てません。これからの日本では働く私たち一人ひとりの生産性を高めることで戦っていかなければならない。人的資本を最大化させることに、企業も個人も真剣になるべき時代に突入していると感じます。
―姜:一方、次世代の働き手である若者たちの労働観も変化しているのではないでしょうか。学生との接点が多い田中先生の目には、現代の若者はどう映っていますか。
田中:今の若者たちは、文部科学省がここ10年本格的に導入してきたキャリア教育を受けてきた世代です。そのため、「自分らしく働く」「あなた軸で就職先を探す」といった考え方は比較的浸透している。だから、大学卒業前からベンチャー企業で働いたり、自ら事業を興したりするような人も少しずつ増えてきました。それなのに、いざ社会人になって企業に就職すると、上司や先輩が旧来の考え方で「会社の言う通りにやれ」と言ってくる。現実とのギャップに苦しんでいる人も多いんですよ。
自律的にキャリアを積める機会があることが、人的資本経営の一歩
―姜:そうした変化を踏まえて、田中先生はリクルートグループの企業文化などに対してどのような印象をお持ちですか。
田中:実は、私の両親はリクルート出身なんです。知人にリクルート出身の起業家がいますし、教え子たちの就職先でもあり、つながりは多いんですよ。そうした接点のなかで共通して感じるのは、社会問題の解決に挑戦しているイノベーターが集まっていることです。
ベンチャー企業とはいえない規模に成長してもなおベンチャーマインドが息づいており、当事者意識を持って社会のさまざまな問題解決に取り組んでいる。創業時からその文化が脈々と受け継がれている、ユニークな会社だと思います。
個人の成長支援を目指す制度や仕組みを使い倒せているか
―姜:人的資本経営の観点で、リクルートグループをどう評価しますか。
田中:個人の成長や能力開発に熱心な会社という印象です。リクルートグループで導入されている 『Will-Can-Must』シートではその人の志と、高めるべき能力を決め、目の前の仕事でどのように能力を磨くか考えると聞きます。他にも副業・兼業を認め、Ringのような新規事業提案制度もあり、卒業もアルムナイも歓迎の出入り自由な風土など、これからの日本が創ろうとしている企業文化のお手本がある職場だと感じます。こうしたさまざまな施策や企業文化は、いずれも個人が自律的・戦略的にキャリアを描くことを会社が推奨しているからこそ実現できているのではないでしょうか。誰かに決められた道を歩むだけでは、いずれキャリアは停滞します。私が研究・提唱しているプロティアン・キャリアという考え方でもそうですが、自分で進む道やペースを決め自律的なキャリア形成をしていくことが、これからの時代はとても大切です。思想と仕組みの両面が整っていることが、企業グループの強さの秘訣につながっていくのではないでしょうか。
リクルートはベースキャンプのような会社。居心地の悪いところで自分を鍛えて、また戻ってくる場所
―姜:田中先生がリクルートの従業員だったら、どのように働きたいですか。
田中:私には、リクルートが“宝の山”に見えるんです。人も制度も、機会も豊富。だから、自分の仕事や役割にとどまらず、社内のいろんなところに顔を出して知恵を借りたり仲間を募ったりしたいです。あとは、社内だけに閉じないこと。リクルートはあくまでもベースキャンプ。定期的に社外に遠征して、居心地の悪いところで自分を鍛えて戻ってくるような機会を自ら創りたいです。こうしたチャレンジができるのが、リクルートという環境なんだと、外にいる私からは見えていますね。
―姜:自分自身は本当に目の前にある宝の山を“戦略的に”活用しきれているのだろうか? とキャリアを見つめ直すきっかけにもなりました。自分の置かれた環境や制度を最大限に活用するために、日々の仕事に向き合うだけではなく、1日10分だけでも自分のキャリアに向き合う時間を作っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 田中研之輔(たなか・けんのすけ)
- 法政大学キャリアデザイン学部・大学院 教授
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一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事兼Glosa 代表取締役。一橋大学大学院(社会学)修了。日本学術振興会特別研究員を経て、メルボルン大学大学院政治学部社会学プログラムと、カリフォルニア大学バークレー校社会学部で、計4年間客員研究員を務め、2008年3月末に帰国。同年4月より法政大学に。これまでに一橋大学・慶應義塾大学・早稲田大学などで兼任講師としても教壇に立つ。行政・企業向けのグローバル人材育成・グローバルインターンシップの開発等の事業も手がける。『プロティアンー70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP)ほか著書多数
- 姜 潤華(かん・ゆな)
- リクルート まなび教育支援Div. 公教育支援推進部 公教育支援1グループ
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大学卒業後2019年4月リクルートに入社。『リクナビNEXT』のリテール新規営業を担当。20年7月にまなび領域に異動。自治体向けに小・中学校『スタディサプリ』の導入から伴走までをチームリーダーとしてメンバーとともに奮闘中。中学校社会・高校地歴・公民の教員免許を持つ