高校生のビジネスアイデアに驚きの連続! リクルート『高校生Ring』審査の裏側に迫る
創業以来、起業家精神を大切にしてきたリクルート。従業員が自由に応募できる新規事業提案制度「Ring」からは『ゼクシィ』や『スタディサプリ』などの新サービスが次々と生まれてきました。そんなリクルートが2021年度から取り組んでいるのが、「Ring」を高校生向けにアレンジした、アントレプレナーシップ教育プログラム『高校生Ring』です。
高校生に身近な課題を解決するための新たなビジネスを考えてもらうことで、非認知能力(IQや学力テストなどで測れる認知能力と異なり、数値では測れない能力)を伸ばす一助になればと始まった同プログラムですが、提出されたビジネスプランの審査にはリクルート従業員が携わっているといいます。どんな従業員がどんな思いで審査に向き合っているのか。2023年度の審査員を務めたリクルート従業員の椛田紘一郎、笹子真未、佐藤 洵の3名が語ります。
148名の従業員審査員で行う『高校生Ring』の審査とは
― 今回、『高校生Ring』の従業員審査員は総勢148名に上ったと聞きましたが、この数は年々増えているのでしょうか?
笹子:『高校生Ring』自体、2023年度で3回目の取り組みになりますが、初回の従業員審査員は6名でした。そこから有難いことに年々『高校生Ring』への参加者が増え、それに伴って従業員審査員数も増加。今回は148名に上りました。
審査員は営業組織のマネジャーや、自らも新規事業起案経験がある従業員らを中心に募っています。今回私は『高校生Ring』の事務局担当者のひとりとして、審査のとりまとめを行いました。普段は『高校生Ring』の基となっている、リクルートの新規事業提案制度「Ring」の審査も担当しています。
― 笹子さんは『高校生Ring』の基となった「Ring」にも携わっていらっしゃると。椛田さんと佐藤さんはどういった経緯で審査員になられたのでしょうか?
椛田:私は普段、『スタディサプリ for TEACHERS』という学校向けにご提供しているプロダクトに携わっています。まなび領域に携わりたいと希望して、2022年に転職サイト『リクルートダイレクトスカウト』などを運営する全く異なる部署から異動してきた経緯があり、今回、普段の学校教育とは異なる高校生のチャレンジに関わりたいと、審査員に立候補させてもらいました。
佐藤:私は『カーセンサー』のプロダクトマネジメントを担当しているのですが、過去に「Ring」に起案して新規事業立ち上げを検討したことや、かねてから教育について興味があったため、今回審査に携わらせていただきました。
― 皆さんそれぞれ異なる背景をお持ちなんですね。審査員業務はご自身の通常業務外だったと聞いていますが、実際にどのように審査を進めていったのでしょうか?
笹子:そもそも『高校生Ring』とは、『ゼクシィ』や『スタディサプリ』などを生み出してきたリクルートの新規事業提案制度「Ring」を高校生向けにアレンジしたアントレプレナーシップ教育プログラム。「身の回りの半径5メートルに目を向け、自分が感じた“問い”からビジネスを考えよう」と呼びかけ、教材「高校生Ring NOTE」を使い、ステップを踏みながらビジネス起案に挑戦してもらうものです。
学校ごとに授業として取り組んだり、夏休みの課題にしたりと取り組み方は異なりますが、最終的には各クラス3案件までに代表案件を絞り、審査に出すことができます。審査は学校内審査、リクルート審査(書類審査)、三次審査と続き、2月末に開催される最終の「高校生Ring AWARD」には5組が選出され、ゲスト審査員たちの前でプレゼンテーションする流れになっています。
私たち従業員審査員は、学校内審査を突破した代表案件に対しての書類審査を担当しました。2023年度は全国2万5827人の高校生の皆さんに参加いただいており、代表案件約1100件がリクルートに届けられました。1案件につき従業員審査員3名が審査し、審査員ひとり当たり20件ほどの審査を各々の業務終了後などに2週間かけて行いました。
誠実であるためのブラインド審査
椛田:私は26案件を審査させていただきました。審査は学校名や氏名・性別等も全て伏せられた状態で行うブラインド審査になっていたのですが、これは少し珍しいことだと聞いています。
笹子:そうですね。『高校生Ring』では、案件を出してくれた高校生一人ひとりに対して誠実でありたいと、徹底したブラインド審査を貫いています。
― なるほど。本気度が伝わってきます。審査の基準はどうなっているのでしょうか?
笹子:実は審査基準というものは決まっていないんです。明確な基準を設けていない理由は、基準でガチガチに固めずともしっかりとした審査をしてくれるだろうと審査員を信頼していることと、評価の抽象度を高くすることで評価に多様性を持たせるためです。
佐藤:抽象度は確かに高かったです。それに、まなびの教育的観点と新規事業開発のビジネス的観点のふたつの観点で見るというところも審査のポイントなのかなと思いました。個人的には、起案者である高校生がなぜそのビジネスを考えたのか「起案に至った背景」についてもしっかり審査するところが面白いなと思いました。
椛田:それに実現性が低いからといって評価を下げるようなことはしないですよね。私も大人の色眼鏡で生徒やプランの可能性を潰していないか注意しながら、何に気づきを得たり、課題を感じてどのように解決をしようとしているのかをきちんと見るよう心掛けていました。
大事にしたフィードバック 直接大人から言葉をもらえる仕組み?
― 基準ではなく観点。審査ポイントについても考えられているんですね…。皆さん実際に審査してみていかがでしたか?
笹子:一言で言えば楽しかったです。それに、案件のバリエーションも製造系からIT系まで発想が幅広くて。私たちリクルートの人間は新規事業を考える時に、どうしてもITサービスを発想してしまいがちなのですが、高校生にはそれがない。変な固定観念がないからこそできる発想だと思いました。そのなかのいくつかには実現性の高いものもあったりして、柔軟な発想の本来のあり方に教えられることばかりでしたね。
佐藤:私はとにかく高校生の真っ直ぐさに圧倒されました。「自分や周囲の人がここに困っているからとにかく解決したいんだ!」と、思考が真っ直ぐなんです。大人の私が考えがちな「合理的に考えてここには手を出さないよな」とか、「現実問題無理だよな…」みたいな制限や制約のことを一切考えない、日常の“不”に対して真摯に向かっている案件が多くて、本当に胸に響きました…。
笹子:真剣に向き合ってくれているのが伝わってきますよね。今回の応募案件のなかに、ご自身の身体的特徴に絡めた起案をしてくださった方がいたのですが、その起案書は本人の自己開示から始まっていたんです。会ったこともない私たち大人に自分をさらけ出して、真剣にビジネスを考えてくれていて…。私も真剣に向き合わなくてはと身の引き締まる思いでした。
椛田:審査していて心が洗われるような気持ちにもなりますよね…。私は「この問題を解決すれば、街や社会のあの課題まで解決できるのではないか」というところまで提案を広げている案件も多いことにも驚きました。高校生の時点で視点を変えたり、視座を高めて物事を見ているのだなと。本当に凄いことだと思います。
佐藤:社会課題にまでつなげて考えられているかは大事なポイントですよね。私が審査した案件には、着眼点もプランもとても良いけれど、身内の話に閉じてしまっていて、「これが社会課題の解決にまで言及した提案になっていれば、もっといいのに!」と、もどかしさを感じる案件もありました。
― そのもどかしさは高校生に伝えられないのでしょうか?
佐藤:それが伝えられるんです! 審査員は案件毎にコメントを残すようになっていて、自分がどう思ったか、どうすればもっと良くなるかなど自由に書き込めるようになっています。私もプランに込められた思いをどう受け取ったのか、手紙の返事を書くような気持ちで一つひとつ丁寧に書かせていただきました。
笹子:ただ審査通過しました・しませんでしたではなくて、フィードバックを通して「良かった点は何だったか」「どんな改善すべき点があったか」をきちんと振り返ってもらい、この経験をそれぞれ昇華してもらえたらと思って、コメント制度を設けています。また、審査は複数人で行うため、コメントも複数付く仕様になっていて。様々なコメントを通して、いろいろな意見の大人がいるんだということも伝わればなと。
― 現役の社会人から直接フィードバックがもらえるのは、社会人やビジネスの世界との接点が限られる高校生にとって大きな機会になりそうです。
佐藤:従来の「Ring」も審査員の方から直接コメントをいただけるようになっていて、自分はそれに救われた経験があるので、高校生へのコメントは心を込めて書きました。ビジネスの世界には正解があるわけではないですよね。高校生たちは普段、どうしてもテストなどマルバツで結果を見られてしまう場面が、ビジネスの世界よりは多くあると思います。しかし、フィードバックを通して、そうではない世界も今のうちから経験してもらえたらと…。
個の可能性に期待するリクルートだからこその『高校生Ring』
― きっと伝わりますね。皆さんは『高校生Ring』の良さやリクルートが主催する意義はなんだと思われますか?
笹子:リクルートは創業より「起業家精神」を大切にしてきましたよね。長年新規事業開発に取り組み続け、ビジネスをつくる面白さを知るリクルートだからこそ、高校生の皆さんに伝えられるものもあるのではないかと思っています。
椛田:各種サービスを通して学習や進路、就職、転職などの選択肢を提供しているリクルートですが、どう選ぶかの支援は正直まだあまりできていないと思うんです。選択肢をどう選ぶかで人生は決まっていくのに、その選び方は伝えられていない…。非認知能力を伸ばす『高校生Ring』は、どう選ぶかを考えるための力を養う一助になるのではないかと思っています。選び方が分かれば、主体的でより良い選択ができるようになり、自分の可能性を広げていけるのではないでしょうか。私は個の可能性の最大化のお手伝いとして『高校生Ring』があると思いますし、そう信じて携わっています。
佐藤:リクルートが掲げるバリューズのひとつに「個の尊重―Bet on Passion」がありますが、「高校生Ring」は情熱を注ぐ対象を社外にも広げていくような取り組みなのかなと個人的には思っています。社内社外垣根無く、それぞれの思いに寄り添い応援することができたら良いなと。
― 皆さんの思いが伝わってきます。最後に『高校生Ring』への挑戦を考えている高校生の皆さんに向けて一言いただけますか?
笹子:以前『高校生Ring』に参加してくださったある高校生から「世の中の仕事は選ぶものだと思っていたけれど、仕事ってつくるものなんですね」という言葉をいただき、私もこの言葉に学ばせてもらいました。真剣に取り組めば何かしらの気づきが得られるプログラムになっていると思いますので、ぜひ前向きに挑戦してもらえたら嬉しいです。
佐藤:懐の深い挑戦の機会だと思います。何を投げても大人が真摯に向き合ってくれるはずです。なので、信じて全力で真っ直ぐぶつかって来て欲しいですね。それに応えられなかったら僕らもやる意義がないと思っているので。どんなに突拍子もないものでもいいんです。思いきり取り組んでくれたらと願っています。
椛田:高校生は大人と子どもの境目。子ども向けの曲って「何でもできる・何にでもなれる」と伝える歌詞が多いことに最近気づいたのですが、大人になる過程でそうではないと自らの可能性を狭めてしまう方も多いと思うんです。でも、そうではなく、「何でもできるし、何にでもなれる」というワクワクを抱いたまま大人になって欲しい。社会に出ること・大人になることにワクワクして欲しいから、私たち大人もワクワクする社会を実現できるように頑張っています。『高校生Ring』が皆さんのワクワクを探す一助になるかもしれません。ぜひ全力で機会を掴みに来てください。待っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 椛田 紘一郎(かばた・こういちろう)
- 株式会社リクルート プロダクトマネジメント統括室 販促領域プロダクトマネジメント室(まなび) まなび小中高プロダクトマネジメントユニット スクールプロダクトマネジメントグループ
- 笹子 真未(ささこ・まみ)
- 株式会社リクルート 新規事業開発室 インキュベーション部 事業開発1グループ
- 佐藤 洵(さとう・じゅん)
- 株式会社リクルート プロダクトマネジメント統括室 販促領域プロダクトマネジメント室(マリッジ&ファミリー・自動車) 自動車プロダクトマネジメントユニット 自動車プロダクトマネジメント2グループ