DEIを推進するふたりの原動力とは。一人ひとりのSOGIを尊重する企業へ
リクルートグループはSOGI*に関わらず誰もが自分らしく働ける職場づくりを目指しています。リクルートのDEI推進を担当する小野紘史と佐藤麻里緒は、一人ひとりの個性を構成するSOGIをテーマとしたイベントを企画。ふたりがイベントに込めた思いとDEI推進の原動力についてインタビューしました。
*SOGI:Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字。性的指向(好きになる性)と性自認(自分の心の性)を包括して表す概念であり、全ての人が持っているもの。
アクションまでを視野に入れた、SOGIに関するイベント設計
― SOGIをテーマにしたイベント(ワークショップ・研修)、お疲れ様でした。それぞれおふたりが中心となって企画されたそうですが、概要を教えてください。
小野:私が担当したのは「SOGI WORKSHOP」です。就職、家探し、結婚、飲食、美容、旅行などさまざまな領域でカスタマーやクライアントのお困りごとを解決してきた結果、多くのユーザーの方にご利用いただいているサービスをもつリクルートでは、サービスやプロダクトが世の中の人々との一次接点になります。だからこそ当イベントは、主な参加対象者を「カスタマー・クライアントとの接点を担う方」と設定。自身の担当するサービス・プロダクトにおいて、LGBTQ+当事者の方々がどんな体験をするだろうかと思いを巡らせ、業務に活かしてもらうことを目指しました。
佐藤:私が担当したのは、婚活・結婚・出産育児にまつわる情報を提供する「マリッジ&ファミリー領域」の組織長を対象とした「SOGI研修」です。小野の企画したワークショップが社外への影響を主眼においたものだとすると、私が企画した研修は社内に目を向けたもの。SOGIの観点から、自組織の心理的安全性を保てているか。約100名の組織長が理解と内省を深め、視座をアップデートすることで、メンバーの働きやすさにつながる行動に至ることができると考えました。
― どちらのイベントも「受講後のアクション」までを想定して、目標にしているのですね。そもそも、DEI推進室ではなぜSOGIを重点テーマに置いているのでしょうか。
小野:リクルートの"Follow Your Heart"というビジョンに関係しています。「一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生。本当に大切なことに夢中になれるとき、人や組織は、より良い未来を生み出せると信じています。」とあるように、私たちが目指すのは、一人ひとりが輝く豊かな世界。この「一人ひとり」全員が持つ概念のひとつにSOGIがあります。
リクルートを含め多くの企業はこれまで「男女二元論・異性愛」を前提として、社内外にコミュニケーションを取ってきました。これは、LGBTQ+当事者にとっては生きづらさの要因となります。でも、これは本当に当事者の方だけの問題なのでしょうか? そこで注目したのがSOGIという考え方。SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)とは、性的指向(好きになる性)と性自認(自分の心の性)を包括して表す概念であり、全ての人が持っているものです。SOGIを中心にすれば、全員が当事者としてダイバーシティの実現に向かうことができると思ったんです。
佐藤:DEI推進室はこれまでもLGBTQ+に関する講演会や全従業員向けeラーニングを提供してきました。2023年の8~9月にかけて実施したアンケートによると、「SOGIにまつわる残念な体験」を見聞きした従業員は、前年の約30%から約10%にまで減少しています。一方で、「SOGIにまつわる自分が起こすべきアクションが不明瞭」と回答している人もいるんです。このことから、「自分にどのようなアクションができるか想像できていないのではないか」と仮説を立てました。
― だから「アクション」にフォーカスしているのですね。
リクルートのDEI推進。課題の本音
― リクルートのDEI推進における課題として、何が挙げられるのでしょうか。
小野:ひとつ言えることは無関心層の巻き込みです。LGBTQ+の方がいるのは知っている、社会課題もある。でも、どこか他人事。「企業のDEI推進あるある」だと思うのですが、残念ながらリクルートにも同様の課題があります。しかし、課題意識がないと、傷つける意図がないのに誰かを傷つけるリスクは当然上がってしまいます。
小野:今回のワークショップは9割以上の参加者が満足してくれました。参加してもらえれば気がついてもらえることが分かったからこそ、カスタマーとの接点になる人たちが課題意識を持つ「一歩目」をどのようにデザインするか考えています。
佐藤:研修のなかでも、座学だけでなく、自身のバイアスに気づいてもらうセッションや、過去の自分たちの行動を棚卸しするディスカッションなど、コンテンツにも工夫を加えましたが、正直、何をどこまで伝えれば、このテーマの我がこと化が本当に進むのか、不安な部分もありました。ところが、受講後アンケートでは92.7%の参加者が「参加前と比べて、LGBTQ+当事者の抱える背景・悩みを理解できましたか?」に対して「とても理解できた/理解できた」と回答しています。
また、「他の人とこのテーマについて会話することで、初めて自分のなかのバイアスに気づいた」「指摘されたことはないが、無自覚に配慮のない発言をしている可能性があることにハッとした」という声も挙がってきました。こうした参加者からのフィードバックを見ながら、私自身もSOGI以外の領域で誰かを傷つけている可能性があるのかもしれない。そう気づけました。
小野:「自分の言動って、もしかして…」と気づくきっかけを提供していきたいですよね。
今リクルートはLGBTQ+以外に障がい者や日本語を母語とされない方、育児・介護・通院している方の働きやすさ実現にも取り組んでいますが、どの分野にも共通している話だと思います。
DEIを推進するふたりの原体験
― 課題と向き合うには相当なエネルギーが必要だと思います。おふたりがDEI推進に携わる原動力は何でしょうか。
小野:大学を卒業してから久しぶりにSNSを開いたら、ある投稿が目に入りました。それは「騎馬戦が嫌だった」というもの。私は男子校出身で、中学・高校の6年間、生徒が上半身裸になって参加する騎馬戦がありました。当時の私は、服を引っ張り怪我につながるリスクがあるから服を脱ぐのは当然だと思っていたし、「騎馬戦は全員が等しく楽しんでいる」というバイアスがありました。しかしその友人は、服を脱ぐことがたまらなく嫌だった。自分の楽しんでいることが、他の人にとっては苦痛になりうる。投稿を見て、初めて気づきました。
悪気なく誰かを傷つけないために、正しい知識のもと自身のバイアスに気づき、一人ひとりが尊重される環境を作りたい。これが、私の原動力です。
佐藤:リクルートの大切にする価値観である「個の尊重(Bet on Passion)」をより広げていきたいですね。昔からリクルートでは、一人ひとりの多様な働き方を認めています。例えば、私のリクルートでのキャリアは、関西でアルバイトとして入社し退社、その後もう一度、今度は東京でアルバイトとして入社して今は社員…と地域も勤務形態も変えながら、機会をいただいています。これからも、その時々の自分に最適な働き方を選んでいきたいと思っていますし、リクルートはそうした機会が数多くある会社だと考えています。
現在のリクルートは、好奇心を起点に協働・協創が生まれる「公園(CO-EN / Co-Encounter)」のような場の実現を目指していますし、私もリクルートを、自分に合った働き方を楽しめる、出入り自由な「公園」のような存在にしたい。働きたい人が年齢にかかわらず活躍できたり、会社に興味のある高校生がふらりと訪れて「リクルートって○○ですよね~」と気軽に言えたり。色々な人の、人生のさまざまなシーンに登場する企業になっていけたら嬉しいと思っています。
― おふたりの原動力からも、「個」を尊重しようとする姿勢が伝わってきます。
佐藤:一人ひとりが社会で自分らしく輝くことを阻む働きづらさ、価値観の押しつけはノイズです。DEIの文脈で社内の働きづらさを見直し改善することが、社会をより良くすることにつながると考えています。
だから私たちは、できることから始めていけたらと思っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 小野紘史(おの・ひろふみ)
- 株式会社リクルート 人事 DEI推進室 DEI推進部 支援推進グループ
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2020年リクルートに入社。飲食領域で『ホットペッパーグルメ』の営業、『Airレジ オーダー』のオンラインセールスを経験し、23年より現職。社内で行うDEIイベントの企画・推進を担当する
- 佐藤麻里緒(さとう・まりお)
- 株式会社リクルート コーポレートコミュニケーション企画統括室 コーポレートコミュニケーション企画1部 コーポレートブランド企画グループ
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2000年リクルートに入社。HR制作局、リクルートコミュニケーションズ広報担当を経て、現部署。23年より『高校生Ring』に携わる