『考えるエンジン講座』代表 高松智史さんのリクルート考

『考えるエンジン講座』代表 高松智史さんのリクルート考

「TASK」ではなく「論点」を思考できる大集団を目指せ!

リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2023年3月号からの転載記事です

考える力はスキル。「TASK」から考えること に要注意

ボストンコンサルティンググループ(BCG)から独立後、提供開始した『考えるエンジン講座』も2022年10月に丸10年を迎えました。リクルートをはじめ企業での研修はもちろん、個人での受講生をあわせて卒業生(弟子)は3000名以上。論点思考と論点ベースの働き方を伝授してきました。

論点思考とは、「問い」の質を高めるスキル。何かをアウトプットする際の最初の一歩は「問い」であるべきだと考えています。その対極は「TASKバカ」(=作業まっしぐら)、「打ち手バカ」(=課題を思考する前に、打ち手に飛びつく)。打ち手から考え始めると課題を深掘りできず、本質的な解決にはたどり着けないのです。

例えば、「相撲人気を高め、ブームを起こすには?」というお題があったとします。「TVCMをしましょう」「解説は若者に人気のタレントを起用しましょう」など、施策、解決策を起点に話し始めるのは「打ち手バカ」。相撲ブームを起こすために、「何の問いに答えればよいのか?」に向き合うことを起点とするのが論点思考です。

25歳でBCGに転職し、その年の暮れには「あいつは採用ミスだ」と烙印を押されそうになっていた自分が、元BCG日本代表の杉田浩章さんたちとの出会いで「考える力」はスキルであると気づきました。その後、杉田さんのチームの一員としてリクルートとのプロジェクトに次々とアサインされ徹底的に鍛え上げられるなかで、「考える力」を言語化・体系化していきました。

『考えるエンジン講座』代表 高松智史さん

当時の自分もそうでしたが、「地頭の良い人、天才にはかなわない」と思考停止している人が多いことに気づき、この「考える力」を伝えていきたいと独立をしました。

ウチでは卒業生を弟子と呼んでいますが、コンサルタントはもちろんのこと、起業家やベンチャーキャピタリスト、企業内でチームをリードしている方などさまざま。「答えのない」問いに向き合っている弟子たちからは、毎日のように「論点」についての相談や質問が入り、そのたびに、講座内容が磨かれる良い機会になっています。

二項対立を超えた問い「あなたは、どうしたい?」

印象に残っているのは、リクルートの経営会議。壁には「問い」だけが掲げられたパワーポイントが、リクルートの方によって投影されていました。

そもそも、経営とは複雑性を飲み込むこと。人かデータか、効率か価値か…といった二項対立に答えを出すことではありません。リクルートは常にこの二項対立を超えて複雑性を経営してきたからこそ、変革を成功させてきた。リクルートに類似企業がないのは、こうした分かりやすい二項対立を超越してきたからとも言えるのではないでしょうか。

他にも、現場で「あなたは、どうしたい?」という言葉が飛び交っているのも印象的でした。これは単なる打ち手の提案や確認ではなく、自分なりの論点提示が求められる問い。一人ひとりが組織長や経営者目線で論点を考え抜いて熱く語る。

もちろん、新人は新人なりの論点になりますが、論点思考は全てが相似形。良い論点は、どんなに小さい視座からでも経営者の論点とつながります。こうした論点思考を訓練できる場から経営者や起業家は生まれる。リクルート人材輩出企業と言われてきた所以でしょう。

今、「どうしたい?」と問われて、打ち手を口走りそうになったら要注意。TASKバカになっています。議論の後、ホワイトボードにタスクではなく「論点」が残っていたら「論点バカ」になれている可能性があります(笑)。

「論点バカ」を目指し、自社最適から日本最適へ

大規模なグローバル企業の一部では、本社のひと握りの経営だけが論点を考え、残りの大多数はタスクをこなすだけ。タスクに不要な経営視点や論点思考を持つことは生産性を落としかねないため、二項対立に明確な答えを出しタスクに集中させようとする経営判断もあります。

それはあくまで自社最適(≒強めに言えば、自社の利益が上がればよい)。例えば、リクルートは現場でも論点を議論してきたからこそ経営者が育ち、人材輩出企業としても日本社会をリードしてきた「日本最適型」企業。

今のリクルートはどうですか?TASKバカが増えていませんか? これからも、一人ひとりが「考える力」で不確実性と複雑性を歓迎し、社会をリードする気概を持つ「論点バカ」になり、日本をリードしていって欲しいと思います。

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

高松智史(たかまつ・さとし)
株式会社KANATA 代表取締役社長/『考えるエンジン講座』代表

2002年一橋大学商学部を卒業後、NTTデータに入社。2005年ボストン コンサルティング グループ(BCG)に転職。アソシエイト、コンサルタント、プロジェクトリーダーとして8年間、消費材、保険、銀行など幅広い領域にて、中期経営計画、新規事業立案、組織・文化変革などのコンサルティング業務に従事。2013年株式会社KANATAを設立。BCG在籍中に習得した、考える力/話す力を定義した『考えるエンジン講座』を提供開始して丸10年。塩野義製薬、三菱商事、リクルートやコンサルティングファームなどでの企業研修や個人研修参加者は3000名を超える。著書は2021年『変える技術、考える技術』(実業之日本社)、『フェルミ推定の技術』(ソシム)、2022年『「フェルミ推定」から始まる問題解決の技術』(ソシム)、『「答えのないゲーム」を楽しむ思考技術』(実業之日本社)など。登録者数11万人超えのYouTube「考えるエンジンちゃんねる」も運営。

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