従業員の好奇心から、社会課題を捉え、事業のサステナビリティ推進につなげる。リクルートの社会の時間とは?
リクルートは創業時から「個の尊重」という価値観を大切にし、従業員一人ひとりの社会課題を解決したいという思いを大事にする企業文化があります。その企業文化の体現のひとつが、2023年から始まった「社会の時間」という取り組みです。この取り組みは、従業員同士が時代のフェーズに合わせた社会課題に向き合い、課題を仲間と共有し、それを事業活動に活かすことのできる機会です。その背景と具体的手法を、企画を立ち上げたサステナビリティ推進室の和田花織に聞きました。
従業員のなかに眠っている好奇心や情熱は、事業活動の原動力にもなるはず
― はじめに「社会の時間」がどんな活動なのかを教えてください。
和田花織(以下、和田):「社会の時間」とは、リクルートの従業員に、社会視点や社会課題に対してのアクション支援を行っている取り組みです。
同じテーマに興味を持つ従業員同士が所属している部署を超えて出会い、語り合えるコミュニティを運営しているほか、社内外のゲストを招いた対話形式のイベントを定期的に開催。機会のなかから従業員がアイデアやヒントを得て、具体的なアクションに踏み出すための支援を行っています。
― なぜ「社会の時間」を立ち上げたのでしょうか。
和田:根幹にあるのは、リクルートが創業以来大切にしてきた「個の尊重」という考え方です。サステナブルな事業・サービスを実現するには、社会で暮らすあらゆるステークホルダーの多様な意見、ニーズを理解し、時代の変化に対応していく必要があると思います。そのためには、従業員一人ひとりが普段の業務では捉えきれない、まだ見つけきれていない社会の課題と向き合う機会が必要だと考えました。
― 事務局が主催する研修やセミナーではなく、「コミュニティづくり」や「対話」という形を重視しているのですね。なぜですか。
和田:理由は、リクルートの価値の源泉である個人の好奇心や情熱を発露しやすくするためです。私たちサステナビリティ推進室では、「社会の時間」を立ち上げる以前に、半年ほどかけてさまざまな部署・役割の従業員と対話を重ねてきました。
すると、従業員個人のなかに、「本当はこんなことがやりたい」「これが実現できたら社会はもっと良くなるのに」といった思いやアイデアが、たくさん眠っていることに気付いたんです。
元来、リクルートの事業・サービスはこうした従業員個人の「もっとこうあったらいいのに」という思いを起点に新たな価値を創造し、社会に届けてきました。しかしその裏には、上手く言葉にできず言い出せなかったアイデアや、所属組織の戦略に沿わないからと遠慮した意見もあるのではないか。そうした表に出にくい思いを、普段の役割とは関係ないフラットな場で発露し、共感し合える仲間と対話することで好奇心や情熱に火がついていく姿を目指しました。
そこで「社会の時間」では、個人の好奇心や情熱を起点に、多様な個人が社内外の枠を超えて縦横無尽に出会い、協働・共創することを目指して、コミュニティの運営にも力をいれています。これはリクルートが目指している「公園(CO-EN/Co-Encounter)」のような場の実現※にもつながっています。
※CO-EN:リクルートは「CO-EN」というコンセプトを掲げ、好奇心を起点に協働・協創が生まれる場の実現を目指しています。
社内外で対話の機会を増やし、共感や気づきを得ながら仲間と共創する
― ここからは、取り組みの具体的なポイントについて教えてください。従業員の好奇心や情熱を発露させるには、対話の場を用意するだけで良いのでしょうか。工夫していること、こだわっていることはありますか。
和田:大前提として大事にしているのは、「あなたは(社会のために)何をしたい?」と一方的に答えを迫るようなコミュニケーションにしないこと。好奇心や情熱って誰かに言われて絞り出すものではなく、内側から湧き出るものだと思います。だからこそ、自分が興味を持っていることを率直に言いやすい仕組みを意識しました。
例えばオンラインで自己紹介をする時は、気になっている社会課題を#(ハッシュタグ)で羅列し、プロフィールに記載。具体的なアイデアが固まっているかどうかに関わらず、関心のあるテーマでカジュアルにつながり、仲間との対話によってモチベートされ、アイデアが磨かれていく流れを大切にしています。
また、イベントの企画やゲストの企画については、事務局だけで決めるのではなく、コミュニティの参加者に意見を聞きながら進めることも重視。場づくりから参加してもらう共創型のコミュニティにすることで、主体的に意見やアイデアを言いやすい環境にしています。
― 社内外で志の近い仲間と出会い、対話を加速させるためのポイントはありますか。
和田:社内での出会いについては、コミュニティのなかで自然発生的につながる動きだけでなく、事務局側でも個人の志向や興味に合わせた接点づくりにこだわっています。特定のテーマでイベントを開催することはもちろん、5~6名単位の小グループでアイデアを発散する「よもやま会」の実施や、予想外の化学反応が起きそうな従業員の組み合わせを意識して、対話を促すこともあります。
一方で、「社会の時間」が従業員同士の対話と同じようにこだわっているのが、社外との対話の機会です。その理由は、社外の人からの率直な意見を聞き、「リクルートは社会にどう思われ、何を期待されているのか」を知って欲しいから。そして、対話を通じてパートナーシップを築き、リクルートだけでは実現できない価値を創出していきたいと思います。
現代の社会課題はさまざまな問題が絡み合い複雑化しているからこそ、「強みは違うけれど志は同じ人たち」協力することが重要。だからこそ、単に社外の方々をゲストに招いて講演をしてもらうだけでなく、イベント後に従業員との対話の機会をつくるなど、具体的な取り組みへの発展を促すような機会を設けています。
― 「社会の時間」を通じてどんな成果・兆しが生まれていますか。
和田:まだ立ち上げから8ヶ月ですが、約900名がこのコミュニティに参加しており、この場をきっかけに、数十件のチャレンジが始まっています。
例えば、HR(人材)領域の従業員Aさんは、「貧困による子どもの教育格差」に関心があったものの、普段の仕事とはやや距離があり、自分の思いを活かせないことに悩んでいました。
そんな時に「社会の時間」を通じて、『スタディサプリ』などを扱うまなび領域の従業員Bさんと出会ったことが転機に。「ひとり親家庭の教育支援」に取り組むBさんと意気投合したAさんは、一緒に社内イベントを企画したり、同じテーマに関心を持つ仲間と対話したりするなかで、「HR事業では実現できない」という無意識のバイアスが外れ、新たなチャレンジを始めています。
主役は従業員。サステナビリティ担当は機会を提供する“支援者”
― 「社会の時間」から生まれた取り組みを、リクルートの本業にどう活かしていくのでしょうか?
和田:リクルートは「事業を通じて社会に貢献する」ことを大方針に掲げています。創業時から、人々の抱える不安や不満、不便を解消することを核としてきた私たちの事業活動とサステナビリティは、分けて考えられるものではないからです。
また、事業とは別に取り組むよりも、既存事業がつくってきた世界観やプラットフォームを通じたほうが、取り組み自体の持続可能性を高め、よりたくさんの人に価値を届けられると考えています。
そのため、私たちサステナビリティ推進室は従業員が取り組みを前進させるためのサポーターとして介在。人や機会をつなぐことや、取り組みの火が消えないような後方支援を意識しています。「良いアイデアだけど既存事業では実現が難しそう」という時は、リクルートの新規事業提案制度「Ring」への参加を促したことも。そんなふうに、「影のプロデューサー」的な立ち回りを大切にしていますね。
― 「影の」と言うだけに、短期ですぐに終わるものではなく、中長期的かつ地道な活動だと感じました。最後に、今後の展望を教えてください。
和田:従業員一人ひとりが持つ「なんとなく気になっていること」「ずっと後回しになっていること」「違和感」こそが価値創造や事業成長のタネであるのでは、と今回の取り組みを通じて実感しました。だからこそ、こうした声を大切にし、育んでいくような組織運営が今後必要になってくると思います。効率的でシャープな戦略推進と、見過ごされがちな声に耳を傾ける余白。その両方が重要だという学びがありました。私たちとしては、引き続きこういった声に耳を傾け、一人ひとりが持つ違和感を基に好奇心や情熱を支援し、事業へとつなげていきたいと思っています。
今後は、より社会課題テーマと人が偶発的に出会えるように、社内のシステム部門と協力して仕組みづくりを模索しています。
また、社外の方とのつながりをさらにつくっていけるといいなと思います。さまざまな価値観の個人や会社同士が、枠を超えて横断で出会い、協働・共創を生み出す。それにより、社会課題の解決を実現していきたいです。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 和田花織(わだ・かおり)
- 株式会社リクルート サステナビリティ推進室 ソーシャルバリュー戦略部 社会共創グループ
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2012年にリクルートへ入社。住まい領域でディレクター、プランナー、マネジャーを経験。2022年にサステナビリティ推進室へと異動。現在は「社会の時間」をはじめとする、サステナビリティ推進に関する社内外のコミュニケーションや事業支援を担当している。今年度からはHR領域も兼務