『慶應義塾大学大学院SDM研究科』委員長 白坂成功さんのリクルート考
時代が求めるシステムデザイン産業変革期をリードして欲しい
リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。
※リクルートグループ報『かもめ』2024年3月号からの転載記事です
宇宙工学で得たシステムデザイン手法
中学2年生の時に宇宙から地球を見てみたいと思い立ち、宇宙工学の道を志しました。三菱電機では15年間宇宙開発に従事、最後のプロジェクトは無人輸送の宇宙ステーション補給機『こうのとり』の開発でした。一般的な自動車部品は2万点、ロケット部品は10万点ですが、『こうのとり』は100万点。とにかく複雑で大規模で新たな開発手法の検討が必要でした。
その途中の2年間、米エアバス社(当時ダイムラークライスラー・エアロスペース社)で交換エンジニアとして学んだ、デジタルを軸とした最先端のシステムデザインの方法論が活かせました。
システムデザインとは、相互に影響を及ぼし合う要素から構成される、まとまりや仕組みの全体をデザインすること。開発にとどまらず、商品を取り巻く環境、組織・ビジネスのあり方全体を変革していく考え方です。あらゆる産業に応用できることから、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(以下SDM)開学にあたり教壇に立つことになりました。
地域が元気になると日本が元気になる
リクルートとの出合いは、SDMで地域活性化研究も手掛けるなかで、内閣府クールジャパン戦略室のイベントや委員会などで、じゃらんリサーチセンターの方とご一緒したのが最初だったと思います。システムデザインの考え方を地域活性に応用し、地域の持つ魅力や産物を海外に向けてどう磨き上げていくかも研究しています。
例えば、佐賀県嬉野温泉で成功しているティーツーリズム。お茶を知り尽くした地元のお茶農家の方から直接、季節や気温などを微調整した最高においしいお茶を淹れる方法が学べたり、その土地で育てた当人だからこそ知っているお茶の特徴に合わせた楽しみ方を体験できます。このような特別な体験は、受け入れ人数に限りがあり、常に需要過多で値段が下がりません。
「地域の人だからこそ持てる知識をシェアして高付加価値の経験を提供する」というシステムデザインを体現した事例として研究を深めることで、他地域への応用が可能となり、各地域の産業を活かしていく可能性につながると考えています。
人材輩出企業として新時代の産業創出を
今はエキサイティングな時代の転換点。日本航空宇宙学会の『宇宙ビジョン2050』の作成では、宇宙ビジネスのロードマップ検討の座長も務めていますが、2040年には宇宙空間に年間1千人から1万人の人が出ていく予測で、そこに一大産業が生まれることが期待されています。
また既に実現し始めていますが、テクノロジーは人をノンコア業務から解放し、コア業務に専念できるようにする。例えば、シェフは本当の意味でのコア業務であるレシピ考案に集中し、ノンコア業務である調理はテクノロジーによって誰にでも再現できるようになる。ソニー株式会社ではこれを目指した「録食(ろくしょく)」研究が始まっていますが、かなりの再現性が確認されています。
このようにノンコア業務をテクノロジーでカバーできるようになると、産業自体のあり方や、人の働き方も大きく変化していきます。シェフにとってノンコア業務だった再現部分だけを担ったり、近隣&短時間で働く方や職も増えたり、特定人材に価値が集中するリスクの低減につながり投資も入りやすくなるでしょう。
こうした産業変革期には、既存産業の組み換えと同時に異なる産業同士の連携による新産業も誕生します。これから大型の新産業と新たなビジネスモデルへの転換が同時に立ち上がってくるのです。まさに、リクルートのプラットフォーマーとしての知見が活き、チャンスが比がっていくように感じています。
例えば、宇宙に多くの人が出るようになると、地球で必要とされていた全ての産業、飲食、医療、教育などが宇宙空間でも必要とされるわけです。現在「宇宙産業」と総称で呼ばれていますが、今後はさまざまな産業で宇宙向け事業が立ち上がります。
例えば、宇宙で飲むビールは現在言われている宇宙産業ではありません。しかしながら、新たに無重力の宇宙空間用の商品開発が必要です。その他、流通・業務支援などの領域も新たに生まれてきます。
テクノロジーと共生したコア業務の新たな捉え方で産業変革が起こり、宇宙産業など大きな可能性を秘めている未来に、とてつもない変化とチャンスがあると考えています。リクルートには新たな時代をリードしていって欲しいと願っています。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 白坂成功(しらさか・せいこう)
- 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 委員長
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東京大学大学院修士課程修了(航空宇宙工学)、慶應義塾大学大学院後期博士課程修了(システムエンジニアリング学)。修士課程修了後、三菱電機株式会社にて15年間、宇宙開発に従事。『こうのとり』などの開発に参画。技術・社会融合システムのイノベーション創出方法論などの研究に取り組む。2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科非常勤准教授。2010年に准教授、2017年教授を経て2023年10月より現職。2018年宇宙ベンチャーの株式会社Synspectiveを共同創業。内閣府宇宙政策委員会委員、内閣府クールジャパン戦略プロジェクトなどの公職、出身地である広島県尾道市の他、浜松市・佐賀県・石垣市などで地域活性関係の委員も務めている