3万8千名超が受講。「自分らしさ」に気付く就労支援プログラム『WORK FIT』拡大の理由 

3万8千名超が受講。「自分らしさ」に気付く就労支援プログラム『WORK FIT』拡大の理由 

2024年7月に法務省と包括連携協定を締結した、リクルートが提供する非営利の就労支援プログラム『WORK FIT』。大学、就労支援機関、児童養護施設、少年院、刑務所などで、累計3万8千人以上が受講しています。さまざまな背景から「働くことに自信がない」「自分に合った仕事が分からない」といった状況にある人たちを支援するこの取り組みを、リクルートはなぜ行っているのでしょうか。プログラム立ち上げからの歴史や、活動を通じて見えてきた社会との対話の重要性について、『WORK FIT』を担当するサステナビリティ推進室の岡田佳恵に聞きました。

学生向けの就労支援が、多様な就労希望者の支援へと発展

― まずは『WORK FIT』について簡単にご紹介ください。

岡田佳恵(以下、岡田):『WORK FIT』は、全ての人が自分らしさを活かして働ける世界を目指して開発された、非営利の就労支援プログラムです。特徴は、自分自身の「好き」や「得意」を起点にして、仕事について考えてみること。小さな成功体験を重ね、一人ひとりの前向きなチャレンジにつながることを目指しています。

多摩少年院でのプログラムの様子。『WORK FIT』は目的に応じて90分~4日間までさまざまなプログラムがある
多摩少年院でのプログラムの様子。『WORK FIT』は目的に応じて90分~4日間までさまざまなプログラムがある

― なぜこのプログラムは始まったのでしょうか。

岡田:きっかけは、かつて世界経済が混乱したリーマンショックの影響です。採用市場が一気に冷え込み、そのしわ寄せが就労経験のない若者を直撃しました。働きたくても就職できない学生が増加し、社会問題に。リクルートの人材事業の担当者たちも、就職先が見つからなくて自信を失っている学生の姿を目の当たりにしていました。

創業以来、事業を通じて労働市場に向き合ってきた私たちに何かできることはないのか。検討を重ねるなかで生まれたチャレンジのひとつが『WORK FIT』でした。リクルートが培ってきた就職・採用のノウハウから、「自分の強みや可能性に気付くこと」「自分らしさが活かせる仕事を見つけること」を学びの中心に位置づけ、プログラムを開発。当初は大学生向けに提供を開始したんです。

― 2011年のスタートから、これまでの展開を教えてください。

岡田:立ち上げから翌年の2012年には、働くことに悩みを抱えている若者の支援機関「地域若者サポートステーション(以下、サポステ)」向けのプログラムを開始。2015年には少年院向け、2017年には児童養護施設向けと対象を広げています。2022年には刑務所向け、2023年には保護観察所向けのプログラムもスタートしました。

― そのように対象が広がっているのは、なぜなのでしょうか。

岡田:それぞれの人たちが置かれている状況は異なれど、本質的な課題は共通していたからです。例えば、サポステを訪れる若者には、長期間社会から離れていた人や就職しても長く続けられなかった人などがおり、彼らが抱えている「自分が働けるか自信がない」「自分に何が向いているのか分からない」といった悩みは、就活に苦戦して自信を無くしていた大学生と共通点がありました。

それは少年院や児童養護施設を経験した若者にも言えることで、「自分の可能性を信じられない」「安易な基準で仕事を選び、すぐに嫌になって辞めてしまう」といった特徴も、根本的な課題は同じだったんです。しかし、これは『WORK FIT』をスタートさせた当初から分かっていたわけではありません。活動を続けるなかでいただいた、社会からの声を基に気付いたことでした。

例えば、少年院での提供が始まったのは、サポステ向けのプログラムをたまたま法務省の少年院担当者が知り、「うちでも使えるのではないか」とお声がけいただいたのがきっかけです。そんなふうに、取り組みを通して社会と対話し、私たち自身の可能性に気付かせてもらったから、今の広がりがあると思っています。

行政・施設・企業…。多様な機関と連携することで価値を広げる

― 『WORK FIT』の対象が広がるなかで、プログラムの内容やあり方は何か変化しているのでしょうか。

リクルートの『WORK FIT』を担当するサステナビリティ推進室 岡田佳恵

岡田:当初リクルートは就労希望者に直接プログラムを提供していましたが、私たち単体の活動ではどうしても提供できる人数に限界があります。そこで現在は支援機関の担当者や施設の職員の皆さんなどに向けて『WORK FIT』のプログラムに関する研修を行い、支援者の皆さんにプログラムを進行していただく“支援者支援型”の提供を強化。『WORK FIT』のファシリテーターを務めてくださる方を全国に増やしています。

また、就労希望者それぞれの状況に合わせたプログラムへ柔軟にカスタマイズしていく意味でも、支援者の皆さんの意見を積極的に取り入れています。支援者の皆さんとの協働は、プログラムの改善に不可欠ではないでしょうか。

― 社会との対話によって内容も進化しているのですね。担当者としても、活動を続ける過程で気付きがあったのではないでしょうか。

岡田:実際の就労希望者や支援者の皆さんにお会いして話を聞く度に、自分にはまだ見えていない問題が多くあることに気付かされます。

例えば児童養護施設の若者は、施設を退所するタイミングで住む家と仕事を両方探さなければなりません。そのため、仕事内容よりも社員寮があるかどうかを優先して就職先を選ぶ傾向があるそう。そうした基準で選択すると、働き始めてから仕事内容や職場環境が「やっぱり違う」となり、早期離職をしやすい。仕事を辞めれば寮も追い出され、あっという間に生活が成り立たなくなることもあると聞きました。

このように、就労希望者が置かれている状況は複数の課題が絡み合っていて、『WORK FIT』による就労支援だけで解決できるほど単純ではないという現実を突きつけられました。だからこそ、行政や支援団体、同じ志を持つ他の企業と連携して、それぞれの強みを活かし合いながら支援していく形を模索しています。

一人ひとりが社会で輝くためには、「自分らしい納得感」が不可欠

― 具体的にはどのような連携・協働が始まっているのでしょうか。

岡田:2019年から公益財団法人 資生堂子ども財団との協働を開始。児童養護施設など社会的養護のもとで暮らす子どもたち向けに財団が主催する、自立支援セミナーのプログラムのひとつとして『WORK FIT』も参画しています。このセミナーでは、金融系の企業がお金の教育を担当したり、資生堂ジャパン株式会社が社会人としての身だしなみ講座を行ったりと、各企業が得意分野を持ち寄って多様な学びの機会を提供しており、こうした連携を今後も増やしていきたいです。

また、2024年には法務省と連携協定を締結し、7月には大臣への表敬訪問も実施。これまでは個別の施設との取り組みでしたが、全国の少年院・刑務所・保護観察所などへの展開も見据えて、プログラムの提供を加速していきます。

2024年7月の表敬訪問の様子
2024年7月の表敬訪問の様子

― もともと就職難の時代に始まった『WORK FIT』ですが、この10年超の間に人口減少による人手不足が一段と進んでいますよね。今後もますます不足していくのは明らかですが、それでも就労希望者の課題はあり続けるのでしょうか。

岡田:たしかに人手不足が進めば、就職はしやすくなるかもしれません。けれど、いざ就職しても本人が望まない形での早期離職につながってしまうケースもありますし、就職先とのミスマッチが起こることも少なくありません。だからこそ、これからの時代こそ「自分らしく活躍できる仕事を探す力」が重要になってくるでしょう。たくさんの仕事の選択肢から、本当に自分に合った仕事が選べるように、多様な支援機関に『WORK FIT』を届け、就労希望者に学びの機会を提供したいです。

― それでは最後に、『WORK FIT』を通じてどんな社会を実現したいのかを教えてください。

岡田:個人的には、働くことに対して前向きな人が増えると良いなと思いますね。『WORK FIT』の対象者に限らず、社会全体として仕事を知る機会やキャリアについて考える機会がまだまだ少ないのが現状だと思うんです。

若者の多くは、身近な大人の職業しか、知る機会がない。知らないせいで限られた選択肢から仕事を選ぶしかなく、働くことに後ろ向きになってしまう人もいるのではないでしょうか。もっとたくさんの可能性が広がっていることを知ってもらい、誰もが自分らしく働ける仕事に出会えるような社会にしたいです。

それは、リクルートが目指す「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現」にも通じること。誰かに決められるのでもなく、仕方なく選ぶのでもなく、「私の“好き”や“得意”が活かせる仕事はこれなんだ!」と納得して新しい道に進むことが、全ての人の人生を明るくしてくれるはずだと信じています。

リクルートの『WORK FIT』担当するサステナビリティ推進室 岡田佳恵

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

岡田佳恵(おかだ・よしえ)
株式会社リクルート サステナビリティ推進室 ソーシャルバリュー戦略部 社会共創グループ

文部科学省を経て、2020年にリクルートへ入社。サステナビリティ推進室にて、非営利の就労支援プログラム『WORK FIT』および、障がい者理解を広げる取り組み『パラリング』を担当している

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