『東大発人工知能ベンチャーPKSHA Technology』代表取締役 上野山勝也さんのリクルート考

『東大発人工知能ベンチャーPKSHA Technology』代表取締役 上野山勝也さんのリクルート考

「個を生かす」ことへの愛情で 、人の可能性を証明して欲しい

リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

※リクルートグループ報『かもめ』2023年10月号からの転載記事です

人と共進化する対話型エンジンを提供

東京大学松尾研究室を経て、ソフトウエア自身がデータから学習する「機械学習・深層学習」技術を用いたアルゴリズムを提供する株式会社PKSHA Technologyを創業しました。

我々のビジョンは「人とソフトウエアの共進化」。研究開発事業との双翼である対話型エンジンのAI SaaS事業は、提供先の顧客やその先のカスタマーとともに成長・進化していくモデルです。例えば、コールセンターなど自動対応化のカスタマーサクセス領域や、社内対応窓口や組織連携を支援するエンプロイーサクセス領域などでの導入事例は2600社を超えています。

リクルートでは、『フロム・エー ナビ』CMキャラクター『パン田一郎』とLINEで会話できる仕組み(2018年11月サービス終了)の一部を担当させていただいた他、たくさんのプロジェクトでご一緒してきました。そのいくつかで ENGINE FORUMへのご登壇もあったと伺っていたので、今年は私自身もディスカッションに登壇できるのを楽しみにしていました。

※ENGINE FORUM:リクルートグループ横断で開催されるナレッジ共有イベントのテクノロジー部門

商売の基本を学んだインターンシップ

リクルートとの最初の出会いは、就職活動でのインターンシップ。「『じゃらん』カスタマーの不を解消せよ」というテーマのワークショップで、オーナーは、北村吉弘さん(現・リクルート代表取締役社長)、私たちのチーム担当は森 健太郎さん(現・リクルート執行役員)でした。そこで「商売の基本」を学ばせていただいたと思っています。

例えば「人のにおいが分かるまで『カスタマーの不』に近付け」や、料金が2倍異なる観覧車を例に挙げて、「何を売っているのか?を徹底的に考えよ(乗車券ではなく夜景を売っている…など)」といったお話は、今でも北村さんのプレゼン資料が思い浮かぶほどインパクトがありました。

当時は、『じゃらん』がネットへ主軸を移そうとするエキサイティングな時期。とにかく誰もが楽しそうに仕事をしていることも印象的でした。

そのチームメンバーのひとりはリクルート卒業後、弊社にジョインしてくれたり、付き合いの長い友人も多いです。仕事でもプライベートでもリクルートから大きな影響を受けてきました。

「共進化」の原体験は対話個性の数値化こそが競争優位

現在の自分につながるもうひとつの原体験はシリコンバレーでの経験。たくさんの起業家たちと出会うなかで、「対話」の力に気付きました。対話により相互作用が起き、双方に変化が生まれる。これこそが成長であり喜びである「共進化」です。自分が得意なことでこの「共進化」を実現したいと思い、人と共進化する対話型のAIアルゴリズムの開発、提供へと歩みを進めました。

ChatGPTを含め自ら学習し成長する生成系AIが主戦場になると、過去、ネットメディアが紙のメタファーとなった以上の大変革が訪れると思います。今度は、対話型AIが「ヒト」のメタファーとなる。そのために、人を数値化していくわけですが、その時に画一的なヒトの見方ではダメ。より一人ひとりの個性を読み解き寄り添ったサービスでなければ競争優位性はない。

こうした生成系AIを組み込んだサービスがコアになる次世代でも、リクルートが強いと思っている理由は、独特なヒトの見方です。創業から『心理学的経営』の「個をあるがままに生かす」という思想のもとに、学歴や成績などでなく、個性を丸ごと受け入れ、活かしていこうという発想を積み上げてきました。

例えば、求人サービスを生成系AIに組み込む場合、履歴書情報や希望条件など、何を軸に開発するかに企業独自の捉え方が表れると思います。そういった意味ではリクルートのヒトへの向き合い方は大変独特。一見、非合理に見えても経営理念のなかに脈々と受け継がれたリクルート流の人材観は、ある意味「偏愛」と言ってもよいかもしれません。

世界にはさまざまなテック企業がありますが、「偏愛」は模倣不可能。論理的なサービス開発だけでは競争優位は生まれない。これまで積み上げてきた「個を生かす」というリクルート的偏愛で、一人ひとりの違いから生まれる価値や可能性を証明していって欲しいと考えています。

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

上野山勝也(うえのやま・かつや)
『東大発人工知能ベンチャーPKSHA Technology』代表取締役

未来のソフトウエアの研究開発と社会実装をライフワークとし、人と共進化/対話をする多様なAIアシスタントを開発して創業10年目で累計約2600社以上に導入。ボストン コンサルティング グループ、GREE International,Inc.を経て、東京大学松尾研究室にて工学博士号(機械学習)取得後、2012年に株式会社PKSHA Technology(https://www.pkshatech.com/)を創業。内閣官房デジタル市場競争会議構成員、経済産業省『AI原則の実践の在り方に関する検討会』委員などに従事し、社会におけるAI/ソフトウエアのあり方を検討

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