建設業界のデジタルシフト 建設×テクノロジーを実現するCon-Tech とは
国内スタートアップイベント「Tech Crunch Tokyo 2017」でも大きな注目を集めた建設系スタートアップ「Con-Tech」。アナログ中心に発展してきた業態でテクノロジーが何を解決できるか、事例を使って紹介する。
テクノロジーの進化は、ものづくりや非IT分野においてもさまざま形でデジタルシフトを起こしている。このシリーズでは、ITによって変化を起こしているさまざま分野を掘り起こしていく。
ここ2〜3年ほどで、日本各地で街並みが大きく変化してきている。街並みが変化しているということは、さまざまな建設工事が進んでいることを示している。実際、建設業界は国内市場で自動車産業の次に大きな規模を持っており、平成29年度の建設投資は、54兆9,600億円になる見通しだ。この巨大市場に、変化が訪れている。Con-Tech(Construction -Tech)と呼ばれる建設系スタートアップが次々と登場し、作業の効率化や合理化、課題解決が進んでいる。今回は8つの事例を紹介する。
オンラインによる建材の新しい比較・調達方法
建物は様々なパーツの組み合わせの集合体だ。コンクリート、壁材、床材、照明、取手、手すり、ドアなど、それぞれの機能を持ったあらゆる建材を組み上げていくことで建物は完成する。
これまで建材を選ぶ際には、紙のカタログが使われてきた。性能表記や写真の大きさなどはカタログごとに違うフォーマットなので比較しづらく、カタログの保管スペースも必要であった。メーカーも、カタログの制作と配布に膨大なコストをかけていた。
この問題を解消すべくメスを入れたのが、建材比較サービス「truss」だ。建材を法規や物理的条件からメーカーを横断して絞り込み、見た目や性能を比較しながら選ぶことができる。性能比較がひと目でできるように、グラフを用いた可視化も実施。お気に入り建材はクラウド上で保存・管理もできる。現在は、建築設計関係者のみを対象ユーザーとし、無料で利用可能だ。
流通面では、建設設業界向けのメルカリとも言えるサービスも登場した。建材や工具などのネットフリマプラットフォーム 「ビルドモール」だ。工事のあとに発生してしまう資材の余りは、廃棄するにも保管するにも費用がかかる。使用していない工具や重機が倉庫に眠っていることも多い。こういったものをオンライン上のフリーマーケットに出店し、販売できるのが同サービス。従来ならば廃棄していたであろうものを、必要とする相手に販売できるので、廃棄物削減の面で社会貢献度も高いと言える。
スマホで写真を撮影し、商品情報を登録するだけで出品ができ、スマホから購入できる。建築設計関係者のみならず、誰でも利用可能だ。支払いは同サービスが仲介し、発送は出品・購入者間で直接行われる。出品の手数料は無料で、成約した時だけ有料会員は8%、無料会員は10%が発生する仕組みだ。
モバイルを活用し、コミュニケーションロスを減らす
次に紹介するのは、施工にあたってのコミュニケーション業務をサポートするサービスだ。職人の7割近くがスマートフォンを持つようになったというデータもあり、モバイルアプリによる管理が可能になってきている。
「ANDPAD」は施工管理サービス。図面や写真資料、工程表や日報、見積もりスケジュール、など、施工現場で情報共有が必要なあらゆるものをアプリ内で管理でき、スマートフォンやタブレットを使って情報共有ができる。チャットによるコミュニケーションも可能だ。これまで主流だったFAXや電話によって発生していた多くのムダを解決する。
導入にあたっての不安を解消するため、全国各地で定期的にセミナーを開催。電話、メールでのカスタマーサポートも充実しており、基本的に当日中に回答する。
「イエクラウド」は、住宅設計において、営業担当と顧客のコミュニケーションをスムーズにするサービスだ。3Dモデル、図面データ、商品カタログ、完成イメージ図などをクラウド上に保管。アクセスコードをかけることができるので、顧客専用ページを作成できる。営業担当はタブレットひとつで施主に説明でき、顧客にとっては営業担当がいなくても欲しいデータを見ることができるため、比較検討がしやすい。また、営業担当者がこれまでの実績紹介としても使えるため、新規営業にも活用できる。
書類・図面づくりをサポートし、工数を削減
建設業界ではまだまだ紙ベースでのやりとりが多く、公的書類や図面などの資料作りに膨大な工数を要している。様々な書類や図面の作成をサポートする新たなサービスを紹介していこう。
公共事業などの大規模な土木工事の場合、受注は入札によって決まるため、正確な見積もりが必要とされる。規模の大きい土木工事では、膨大な工程と専門業者が関わり、様々な資材を組み合わせて進めていくため、見積もりづくりは非常に煩雑だ。
これをサポートするサービスが「Gaia9」。省庁や内容によって異なる基準やフォーマットへの対応、PDF設計書の取り込みなどにより、作業を効率化する。自動積算・学習エンジンを搭載しており、大量の文字入力を軽減できる。
「アーキテクトゼロ」は、住宅の設計における設計図の作成をサポートするサービスだ。2Dの平面図で間取りや建具などの情報を入力するだけで、3Dの数値とモデルを自動生成する。それら数値を用いて、法的に必要な書類も自動作成できる。
さらに、設計士だけでなく、営業担当の業務もサポートできる。施主にプレゼンテーションをするための、3Dモデルの画像や、模型の作成が可能。設計シーンと営業シーンでUIを変更でき、使い勝手にも配慮されている。
テクノロジーを活用し、リアルな空間体験を実現
最後に紹介するのは、顧客へのプレゼンテーションをサポートするサービスだ。建設事業は、大きな金額が動くにも関わらず、やり直しが効かない。そのため、施工前にできあがりを現実味をもってプレゼンテーションすることが営業面で非常に重要である。
「SYMMETRY」は3DのCADデータを取り込むだけでVR空間を再現できるサービスだ。市販のヘッドマウントユニットを装着することで、室内の広さ、高さ、奥行きなどをVR空間で疑似体験することができる。手がけたのは米国デラウェアに本社を置くDVERSEだ。現在、ゲーム配信プラットフォームの「Steam」から無料でダウンロード可能となっている。CADデータを取り込むと、VR上で模型が表示される。コントローラーでポイント指定すると、そのポイントからの景色を実寸で見ることができる仕組みだ。
「カタリノ」は、スマートフォンやタブレットで撮影した写真に合成処理を施し、その場で施工後のイメージを作成、見積もりまで提案できるサービス。外装材を提案したい場合、外壁を撮影し、張り替えたい場所をタップして、登録したカタログから材を選ぶと、合成写真を作成してくれる。カタログには価格情報も登録できるため、見積もりも作成できるわけだ。
ブルーオーシャンだからこそ、伸びしろがある
建設業界は、人手不足と高齢化という深刻な2つの問題を抱えている。長時間労働や賃金水準の低さなどがその要因だ。このままいけば、高齢の職人たちの技術が若手に継承されず、建設業界の質が下がってしまう。
テクノロジーにより、これまで慣例的に続いてきた作業が効率化できれば、労働環境の改善への兆しも見えてくるかもしれない。また、力仕事の軽減や特殊技術の再現が行えれば、必要人員の削減につながる可能性もあるだろう。
「TechCrunch Tokyo 2017」でおこなわれた「スタートアップバトル」のファイナリストには、最初に紹介した「truss」も選ばれている。職人気質でアナログなコミュニケーションが行われていた業態だからこそ、テクノロジーが課題解決できる範囲は広い。
現状ブルーオーシャンであるため、今後多くのサービスが生まれる可能性がある。世界的にも巨大な市場規模である建設業界におけるテクノロジーの進化に、今後も注目したい。