年齢でチャンスに差をつけるのはフェアじゃない。10代20代に積極投資するVC・THE SEED廣澤太紀
26歳で独立し、ベンチャーキャピタル「THE SEED」を創業。若手起業家にこだわって投資を続けてきた廣澤太紀さんの視点から、現代に生きる若者の可能性を探る
新卒でベンチャーキャピタルに入社し、2018年に26歳という若さで独立。自らファンドを立ち上げ、10代20代の若手起業家やその予備軍たちに出資・支援しているのが、シード向けVC「THE SEED」の廣澤太紀(ひろざわ・だいき)さんだ。
廣澤さんはなぜ20代半ばから若手起業家にこだわって積極投資してきたのだろうか。また、“これといった実績も経験もまだない”若者たちのポテンシャルをどう見極めて、機会を提供しているのだろう。廣澤さんのVCとしての考え・スタンスを紐解くとともに、多数の若手起業家を見てきた廣澤さんの目に映る若者の可能性を聞いた。
成功に年齢は関係ない。投資を受ける機会は若者にもっと開かれるべき
―― 廣澤さんは大学時代からベンチャーキャピタル(以下、VC)でのインターンを経験し、卒業後はインターン先に入社。3年半の経験を経て独立…と、一貫してVCのキャリアを歩んでいます。もともとはなぜVCを志したのですか。
少年時代に、ビジネスの成功とつまずきの両方を目の当たりにしたのが原点です。僕の両祖父母は飲食店や会社を経営していたんですが、2000年前後に上手くいっていたはずの事業が傾いてしまって。他方で、同時期には「ヒルズ族」と言われるような若手起業家がメディアを賑わせていた。それまでの僕は、ビジネス的な成功は年齢に比例するものだと漠然と信じていたので、若くして成功する人が世の中にいることに衝撃を受けました。その後、大学に入学した頃にはリブセンスの村上太一社長が最年少上場を果たして話題に。彼らはなぜ一足飛びに成功できたのか、その理由を単純に知りたかったんです。
自力で調べて行くうちに知ったのが、スタートアップ企業を支援している「エンジェル投資家」という存在でした。このキーワードで“ディグ”っていくと、シリコンバレーの起業家たちに根付いていたある考えに辿り着きます。それは、「成功した起業家が自分の得たノウハウや資金を投資し、次世代の起業家を育てていく」という考え方。その成功者が次世代にバトンを渡していくというエコシステムで重要な一端を担っているのがVCだと知り、一気に興味が湧きました。VCには投資先である何十・何百という企業の成功ノウハウが集約されているはず。投資先企業をスケールさせ成功に導くために何を考え、どんなことをしているのか、自分も経験してみたかったんです。
―― 26歳で独立して「THE SEED」を設立したのはなぜでしょうか。
大きく二つの理由があります。一つは、僕と同じようにビジネスに興味のある同世代の友人たちが、当時続々と起業していたことです。彼らと話をしていると、あくまでもVC企業のいち社員である僕と経営者である彼らでは「意思決定の重み」が違うように感じました。例えば、資金調達をするにしても経験やノウハウだけならVCとしていろんな企業を見てきた僕の方が語れるものが多いかもしれません。でも、実際にどうするか決めるのは経営者です。様々な葛藤や迷いがありながらも最終的に自らの責任で決断する彼らと、同じ重みを経験したいと思いました。
もう一つは、当時20代半ばだった同世代の起業家たちが、年齢を理由に資金調達の機会が得られにくいと感じたことです。優れた事業アイデアを持ち経営者としての資質が高くても、「まだ若いから」と30代40代の起業家よりも信用されにくい。ビジネス的な成功と年齢は関係ないはずなのに、フェアじゃないと思ったんです。
ですがこれは、ベンチャーキャピタリストの目利きの問題でもある。年齢が離れているほど、若い起業家のアイデアや価値観が理解しづらい部分もあるのかもしれない。でも、当時まだ20代だった僕なら同世代の発想やビジョンを理解し、若手起業家のチャンスを広げられる。それが、世の中に数あるVCの中で「THE SEED」の独自性を発揮できるところだとも思ったんです。
仮に事業が失敗しても、もう一度その人に投資できるか
―― 年齢に関係なく機会を提供したいという思いは、リクルートが大切にする価値観の一つ“個の尊重”にも通じるなと感じました。私たちもそんな社会であってほしいと共感します。一方で、10代20代の若者はまだ実績がほとんどない人が多く、いくら年齢が近くても「投資する相手」としての見極めは難しくありませんか。何を基準に投資判断しているのでしょう。
たしかに、僕が普段お会いする投資先候補の人たちは、「ビジョンはあるが、事業・サービスが明確に決まっていない」「アイデアはあるが具体的なプロダクトは出来ていない」といった、まだ実績と呼べるものがない段階の人が多いです。ただ、僕は事業内容やアイデアそのものを見ているというより、人を見ていますね。例えば一つの目安は、「本人が実現したいことのために、今出来ることをやり尽くしているか」。極端な話、持ち込んでもらったアイデアがイマイチだったとしても、実現に向けて行動している“実行力のある人”であれば、前向きに支援を検討したいです。あとは、“良いヤツ”かどうかですね。
―― 企業というよりも、個人に投資をしている感覚なのでしょうか。
これは僕たちが創業間もない“シード期”に特化したVCだから、判断基準にできるものがあまりないのも理由ではあると思います。実際に起業家個人に投資しているという感覚が強い投資先としては、株式会社New Innovationsの中尾渓人さんが象徴的です。彼は、現在23歳ですが、起業したのは18歳のとき。「root C」というAIカフェロボットを駅構内や商業施設・オフィスビルに展開しています。
正直に言うと、「AIカフェロボット」というビジネスアイデアを聞いたとき、僕はあまりイメージがつかなかったんです。まだプロダクトもできていなかったですし。でも、彼はそんな段階でも持ち前の度胸と大胆さで、大手デベロッパーや鉄道会社を前に堂々とプレゼンしていました。そうした姿を見て、「中尾さんならこの先どんな事業をやろうと応援してみたいな」と信じることができたんです。最終的にその事業が成功しても失敗しても、次の事業をはじめたときに再び投資したいと思える人なのか。これは自分の中の大きな判断基準です。
―― 10代20代はほとんどの人が“まだ何者でもない若者”であり、彼らの生み出す事業やプロダクトは上の世代には価値が分かりにくいものも多いからこそ、創業者の人間性が鍵になるのかもしれないですね。
経営者の人柄は事業の成否にも影響するものだと思っています。たとえば、投資先である株式会社AGRI SMILE代表の中道貴也さん。彼は農業DXに取り組んでいますが、農業は地域の強固なネットワークで成り立っているため、新興企業が入り込んでいくにはとても難しいマーケットです。若手経営者のスタートアップ企業なら尚更。
でも、先日中道さんがアジアを代表する30歳未満の人材として「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出されたことが発表されたとき、クライアントである農業関係者から中道さんへの祝福の連絡が次々と入ってきたんです。その光景を見て、AGRI SMILEの事業が今伸びているのは農業DXの先進性だけではなく、代表者がマーケットから信頼され、期待されているからなんだと思いましたね。
それに、どんなにVCがノウハウを持って介在したところで、最後はその企業の経営者や社員のみなさん次第ですから。伸びている会社ほど、社長や社員のみなさんがしっかりと事業の舵取りをしており、僕の介在余地は狭い。結局、ビジネスを成功させるかどうかはノウハウや経験ではなく、“人”なんだなと実感しています。
「伝える力」の高さは、今の若者たちが誇って良い強みだと思う
―― 年間何百人もの若手起業家たちと会っている廣澤さんは、今の10代20代にはどんな強みがあると感じますか。
世代で一括りにするのはちょっと難しいかもしれません。例えば最近ですと「Web3に関連した事業を立ち上げたい」という人が多いのは事実ですが、これは世代というより時代の違いなんだと思います。何に関心があるか、何を大事にしたいかという価値観も人それぞれですしね。
ただ、一つだけ自分や上の世代と明らかな差を感じることがあります。それは、プレゼンスキルの高さ。事業アイデアのプレゼン資料を見せてもらうと、要点が分かりやすく目を惹くように情報が整理されていることが多いです。話し方も上手いですね。なぜだろうと聞いてみると、全ての学校ではないものの、中学生くらいからパワーポイントやキーノートといったプレゼン資料作成ツールの使い方を教わったり、プレゼンテーションを学ぶ授業を経験したりしてきたそうです。デジタルネイティブであることや、学校のカリキュラムが変化した影響もあると思いました。
―― 確かに、学校での探究学習などのカリキュラムの影響はありそうですね。上の世代よりも「伝える力」を鍛える学びが重視された世代なのかもしれません。
学校だけではなく、生活の中でも鍛えられていますよね。僕らが子どもの頃までは、まだWebの世界ではテキストコミュニケーションが中心でした。それが2010年代にかけて、写真や動画のコミュニケーションが主流の時代に。その時代に育った今の10代20代は、「Instagramの1枚の写真やストーリーズの短い動画をどうデザインするか」に試行錯誤を尽くしてきた人たちです。自分たちよりもインタラクティブに物事を伝えるスキルを持っている。これって、事業の創業期に必要な「人を巻き込む」「お金を集める」「アイデアを形にする」のすべてに役立つ力ですから、現代の若者は起業家のポテンシャルが高いと言えるかもしれません。自分たちよりもアドバンテージがあると思います。
―― 今のお話からすると、廣澤さんもすでに10代20代とのギャップを感じはじめているのでしょうか。26歳でTHE SEEDを立ち上げて、今年30歳。年齢差が広がるのはこれからも避けられませんが、廣澤さんおよびTHE SEEDは今後どのような道を進んでいくのでしょうか。
やっぱりギャップを感じるシーンは増えていますよ。正しい投資判断ができるかという意味で、僕自身が担当する相手は25~35歳くらいへとシフトしていくと思います。その分、下の世代と近い感覚で判断できる20代のキャピタリストを育てていきたいですね。厳密に数値目標は立てませんが、会社として毎年何割か以上は若手に投資していくと決めるのも一つの手段だと思っています。
また、独立から約4年を振り返ってみると、僕の役割は自分自身が投資先に伴走することだけでなく、先輩起業家と引き合わせてメンターになってもらうことや、彼らにエンジェル投資してもらうことも大事でした。だから今後も引き続き、先輩たちや同世代の起業家に若手起業家を応援してもらうような機会を広げていきたい。若者はまだ上の世代とのコミュニケーションに慣れていない部分もありますから、世代を超えた関係づくりの部分をフォローしながら、これから引き続き投資を通じて若者にチャンスを提供することにこだわりたいです。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 廣澤 太紀(ひろざわ・だいき)
-
2015年シードVCに入社。新規投資先発掘や投資先支援に従事。2018年9月に独立し、シードファンド「THE SEED」を設立。2021年3月、2号ファンドの設立を発表。現在、1、2号で約16億円を運用。20代の若手起業家へ創業出資。無人カフェロボット「root C」、地域のJA向けDXソリューション「AGRISuite」やVR/AR事業など、約30社へ創業投資。20代起業家の招待制合宿「THE FUTURE」も開催している。