建築家 大野友資さんの「仕掛けの種の育て方」~働く人たちにエールを
各界のプロフェッショナルに聞きました。“仕掛ける仕事”って面白いですか?
リクルートグループでは創業より「起業家精神」を大切に企業経営をしてきました。日々の多忙さに追われていたり、さまざまな制約条件のなかで、時には、新しいことへのチャレンジに億劫になってしまう時もあるかもしれません。
でも、日々の仕事のなかに、いつでも新しいチャレンジの芽は転がっています。今回、「仕掛ける」=「新しいことにチャレンジすること」と定義し、各界の学識者やプロフェッショナルの方々の「仕掛けの種を見つけ、育て、大きく拡げていく」ための、モノの見方や考え方、心掛けていることをお話しいただきました。日々の仕事の捉え方のヒントを見つけてみませんか?
※リクルートグループ報『かもめ』2022年10月号からの転載記事です
否定されたところにこそヒントがある。アイデアに固執し過ぎず、ワクワクを大切に
建築やインテリア、プロダクトデザインにとどまらず、幅広いものづくりに携わる大野友資さん。クライアントの「こうしたい」「こうなりたい」に向き合い、新たなものを生み出し、育てていく。その過程で大事にしている思いを聞きました。
興味を突き詰める日常。アイデアの種を実験してみる
建築家の仕事は、基本的に何かを「仕掛けたい」と思っているクライアントのニーズを掘り下げ、それが実現できるように建築的、空間的な観点からサポートすることだと考えています。素材開発やモノや風景の収集など、仕事とは関係なく日頃から興味のあることを自主的にリサーチしたり制作したりすることも多く、その両輪が重要だと考えています。
例えば2015年に発表した『360°BOOK』は、建築の仕事に当時導入され始めていた3DCADやレーザーカッターといったデジタル技術を使って遊んでいた時に思いつきました。360°に開くと立体のジオラマになる、空間的な「本のようなもの」です。
『360°BOOK』はフォーマットの提案みたいなもので、中のストーリーやオブジェクトは交換可能になっています。それ故にいろいろなコラボレーションのお誘いをいただくのですが、「ぐるっと開いて中に立体空間が現れる」という、余白のあるイメージで定着したことで、相手の発想を促すデザインができたのかなと思います。
使い方やイメージを限定し過ぎない、ある程度相手に委ねてしまう物やものづくりに興味があります。日常的にも、ホームセンターで買った筒状の金具を花器として使うなど意識的に使い方の誤読や曲解を楽しんでいますが、建築の仕事でも同じようなことをしています。
クライアントもチーム。向かい合わず“隣”に立つ
ものづくりの過程において私が大切にしていることのひとつは「対話」です。最近では、プレゼンテーションをできるだけしないようにしているんです。相手の要望を持ち帰り、プレゼンをするというやり方だと、自分と相手が対峙し、提案をする側・受ける側、という立場の違いが生まれます。向かい合うのではなく、居酒屋のカウンターで隣り合って「こんな面白いアイデアが浮かんだんだけど、どう思う?」という感じで案を見せるくらいのノリで話せたらいいなと思っています。
クライアント含め、一緒にひとつのことを成し遂げるチームとしてフラットに意見交換できる場を作ることが一番重要だと考えています。皆が、これは自分のプロジェクトだと思える仕事だといいですね。
東京ミッドタウンの芝生広場に、「地球と遊ぶ」というテーマの公園が期間限定で企画された時は、5組の建築家がそれぞれ、地球を構成する5つの要素をテーマに遊具をデザイン。私たちに与えられたテーマは「空」でした。クライアントや遊具メーカーのチームで会話を重ねるうちに「空」には「くう」とか「から」と表現するように、「“何もないこと”がある」という概念があると気づき、そこから“何もない”をテーマにした、空気を包んだ透明なエアバッグを使った遊具を考えました。
建築は、建築家が単身で全部を作るわけではありません。最近の例でいうと、札幌市の牧場に「牛舎・鶏舎や、卵の無人販売所もあるような施設を作りたい」というプロジェクトに参加する機会をいただきました。
しかし、サステナビリティを考えると、通常の建築の作り方で施設をデザインするという流れがしっくりきませんでした。このプロジェクトは生態系にどんな影響を与えうるのか、自然の中でエネルギーや運送・人的コストをかけない設計とはどんなものかなど、私だけでは答えが出せない問題が山ほどあります。そこで、協働する札幌の設計士、生態系の研究者、エンジニアなど、多様な領域からメンバーを集めてプロジェクトを進めることを最初に提案しました。
クライアントからのオーダーに設計者としてただそのまま応えるのではなく、プロジェクトとして面白くなりそうなチームをディレクターとして考えることも、建築家の重要な役割のひとつです。
リスクの大半はプライドの問題。仕掛けて唯一無二性を高め流動的な状態から自分なりの〝しっくりポイント〞を見つける
ものづくりには、クライアントの要望や予算、素材、環境などさまざまな制約や条件があり、最初は何を作るかぼんやりしたものしか見えません。ただ、もやもやした流動的な状態はむしろ、アウトプット(ボール)がさまざまな方向に転がっていく余地がある。そうして、考察を重ねて自分なりのしっくりくるポイントを見つけられると気持ちが良いですね。
ただ一方で、そのアイデアが否定されたとしても悲観はしません。ダメと言われることも、思いもよらないボールが来ることもありますが、逆に大きなヒントをもらったと感じます。なぜダメなのか、相手はどこにこだわっているのかを問うことや、アイデア自体にこだわりを持たず、ワクワクできるまで一緒に答えを探すことのほうが、本質的には大事なような気がします。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 大野友資(おおの・ゆうすけ)
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東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。カヒーリョ・ダ・グラサ・アルキテットス(リスボン)、ノイズ(東京/台北)といった国内外の建築設計事務所を経て2016年独立。DOMINO ARCHITECTS代表を務める。11年から東京藝術大学非常勤講師を兼任。一級建築士。建築を主軸としてさまざまなプロジェクトの空間設計に携わっている。そのひとつとして東京、六本木ミッドタウンのイベント「GOLDWIN PLAY EARTH PARK」(2022年5月29日終了)における遊具の設計や、北海道札幌市の放牧酪農、養鶏施設設置と森林再生を同時に実現する「FOREST REGENERATIVE PROJECT」への参画などがある