今の時代、一点突破はリスクじゃない――22歳の映像監督MIZUNO CABBAGE

今の時代、一点突破はリスクじゃない――22歳の映像監督MIZUNO CABBAGE
文:森田 大理 写真:須古 恵

Vaundyをはじめ、話題のアーティストのMV制作を続々と担当。映像監督/CGアーティスト、MIZUNO CABBAGEさんが若くして大きなチャンスを掴んだ理由を紐解き、現代ならではの生き方を探る

1990年代中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。

今回話を聞いたのは、2000年生まれの映像監督でありCGアーティストのMIZUNO CABBAGEさん。MIZUNOさんは、若者を中心に絶大な人気を誇るシンガーVaundyが注目されるきっかけとなった楽曲「東京フラッシュ」のMV制作を担当。その後も仲間と結成したクリエイター集団「UNDEFINED」として、RINA SAWAYAMAなど世界で活躍するアーティストのMVやWebCMの制作を手掛けている。

現在22歳。独学で技術を学び、一度も就職することなくフリーランスクリエイターの道を歩むMIZUNOさんは、なぜその選択ができたのだろうか。新たな世代ならではの可能性を探るべく、話を聞いた。

特撮好きが高じて、中学生にしてVFXを独学で学ぶ

―― MIZUNOさんは、どうして映像制作に興味を持ったのですか。

幼少期に家庭用のビデオカメラで遊んでいたのがはじまりなんです。特撮人形劇の『サンダーバード』を両親が大好きで、一緒に観ているうちに「僕も番組をつくってみたい!」と。家にあったミニカーや模型を使って特撮の真似事をしていましたね。でも、当時はまだカメラもアナログで。編集のやり方も良く分からなくて、「テープを良いタイミングまで巻き戻して上書き撮影する」みたいなやり方からはじまっています。

―― そこから本格的に映像制作の技術を学びはじめたのはいつ頃、どんなきっかけですか。

小学校高学年のときに、庵野秀明監督による特撮の展覧会を観に行ったんです。以前から庵野さんが手掛けられたテレビアニメ『ふしぎの海のナディア』にハマっていたので親に連れて行ってもらったのですが、そこで特撮づくりの裏側に触れ、自分も挑戦してみたくなりました。本当はリアルに火薬を使って爆発する様子を撮りたかったんですけど、さすがに危ないからと親に止められて。じゃあ別の方法でやろうと実写映像をデジタル技術で加工処理するVFXに手を付けはじめました。中学生頃からはAdobe Premiereを触るようになり、映像にエフェクト(特殊効果)を乗せたり、被写体と背景を別に撮影して一つの映像にするクロマキー合成をやったりするようになっていきました。

映像制作の道に進んだきっかけについて語るMIZUNO CABBAGEさん

―― 中学生が自力で学ぶには難しくなかったですか。

技術習得の難易度よりも、好奇心が勝っていた気がします。僕は特撮文化が大好きで、VFXを使えば現実の世界では実現が難しい映像表現も可能になる。自分の頭に思い描いた映像をつくってみたいという気持ちが原動力となって、そのための手段を手探りで身につけていった感覚です。

インターネットがあったから、自分の好きなことに正直でいられた

―― 遊びや趣味だった映像制作が仕事になっていく流れも教えてください。

中学生の頃には、作品をつくってはYouTubeで公開していたんです。そのときは純粋にできたものをいろんな人に観てもらいたい気持ちでしたね。すると、インターネットを通じて僕と同じような特撮好きや映像制作をしている人たちからコメントをもらうようになって、知り合いになれました。それが自分はすごく嬉しかったんです。だって『サンダーバード』や『ふしぎの海のナディア』のような昔の作品を、身近にいた同世代のほとんどは知らないですから。でも、ネットの世界には同世代でも自分と同じ興味を持つ人たちがいる。好きな作品で盛り上がったり、お互いのつくった映像を見せあったりして、刺激しあえる仲間が増えていったんです。

―― 「一人の世界から飛び出し、仲間ができたことで活動が広がった」ということですね。

一緒に好きなことに熱中できる仲間と出会えたことでよりハマっていったのは間違いないです。それで、高校生になるとTwitterなどでも映像を公開するようになっていました。SNSでバズるための映像表現を試行錯誤したり、ボーカロイドの楽曲に映像をつけた二次創作作品を発表したり。そうしているうちに、少しずつ名前を認知してくれる人も増えてきて、高校2年のときにボーカロイドの作家さんから「自分の作品のMVをつくってほしい」と声をかけてもらったのが、仕事のはじまりです。

映像制作が仕事になっていく流れについて語るMIZUNO CABBAGEさん

―― 自分のやりたいことや好きなことを発信していたら、仕事がやってきたんですね。

映像を仕事にしたいという気持ちは芽生えていましたし、MIZUNO CABBAGEとしてのブランディングも意識しながら発信はしていました。ただ、戦略的に仕事を取りに行ったわけではないんです。こういう映像をつくりたい、つくっています、と素直に発信をしたら、共感してくれる人に届いた。インターネットの世界だからこそ、まだ学生であるという立場や物理的な距離は関係なく、自分の熱意を受け止めてくれる人に出会えると感じました。

目標やこだわりを決めない。自立性と流動性を重んじるチーム

―― MIZUNOさんは個人でも活動する傍ら、2020年からは同世代の仲間と立ち上げたクリエイティブ集団「UNDEFINED」としても活動しています。なぜチームを結成したのですか。

映像の仕事は、小規模なものであれば個人でも完結させることは可能ですが、作品の規模が大きくなるほど一人で引き受けるのはなかなか難しいのが実情です。自分の仕事の幅を広げようと思うと、仲間同士で組むことは必然でした。それぞれの得意なことをかけあわせれば、作品のクオリティも上がりますしね。また、それぞれが個人でも映像界隈で少しずつ認知されてきたタイミングだったので、「あの人たちが手を組んだ」と期待してもらい、自分たちの可能性を広げたかったのも理由の一つです。

―― チームで大事にしていることやルールはありますか。

明文化されたものは特にないのですが、強いて言えば各々が自律的にスキルアップしていくことでしょうか。一般的な会社組織とは違って上司部下の関係性があるわけでもないし、それぞれが独立した個人のクリエイターでもあるので、誰かに何かを強制されることはありません。でも、映像業界は技術の進歩がとてつもなく早いですから、常に最新技術の動向に貪欲でないと、途端に表現が陳腐化してしまいます。誰かの指示を待っているようではこのスピードに追い付けない。個人が主体的に学び続けないと、チームとしても良い仕事が出来ない気がしますね。

―― 個人が自律的に学び・成長していくことが良い仕事に繋がるという発想は、リクルートが大事にする価値観「個の尊重」とも共通点があり、「UNDEFINED」の考え方には私たちも大きく共感します。チームとしてはどんな目標やビジョンを掲げているのでしょうか。

もちろん、良い作品をつくりたいという想いで繋がっている仲間なんですよ。ただ、それ以上の目標やビジョンは、これまで何度も話し合いを重ねたうえで、「(今のところ)確たるものは設定しない」ということで落ち着いています。というのも、世の中の変化のスピードが早く、次々にやりたいことが変わってしまうから。それに、クライアントやアーティストにあわせて柔軟に色づけできるチームでもありたいし、特定の役割にこだわらず作品にあわせて自分たちも柔軟に変化していきたい。こだわらないことにこだわっているのかもしれません。

選択肢が豊富な時代。チャンスの裾野は大きく広がっている

―― 最近は、MIZUNOさんのように一度も会社に就職せずフリーランスで働く「新卒フリーランス」という生き方も話題になっています。しかし、いきなり個人で仕事をするとなれば、何の後ろ盾もない中で大変ではなかったですか。

もちろん、テレビCMや映画などの規模の大きなものをいきなり任せてもらえるかと言えば、なかなか難しいかもしれません。けれど今の時代、映像系クリエイターの活躍の場はテレビや映画の中だけでなく、ネットコンテンツが無数にある。僕も同人系の作品からはじまっていますし、同世代のクリエイターはたくさんいますよ。すでに自分たちより下の世代の中高生クリエイターも頭角を現しはじめているくらいです。

―― たしかに、チャンスが多い時代かもしれませんが、MIZUNOさんのように話題のアーティストのMVを手掛ける機会は滅多にないことだと感じます。20歳前後でこうした仕事を掴めたのはなぜですか。

これもきっかけはSNSですね。VaundyはもともとTwitterを通して仲良くなった友人。クリエイター同士の信頼関係の中で「東京フラッシュ」のMVを依頼してくれました。そうした縁があって、UNDEFINEDの活動をはじめる際も、同じくVaundyのMV「life hack」を担当。これはチームのお披露目をする意味で、戦略的に話題性の高い仕事を持ってきた感覚です。狙い通り多くの人に注目していただき、話題のアーティストやクライアントからもご依頼をいただくようになっていきました。

―― 順調に実績を積んでいるMIZUNOさんですが、まだ10代の頃に就職せずにフリーで働くと決断できたのはなぜだと思いますか。

UNDEFINEDで共にしているメンバーの影響が大きいです。実は彼らに出会うまでは、学校を卒業したら映像制作会社に就職することを想像していました。そうするしかないと漠然と思っていたんです。でも、ある日、「自分たちはすでに映像の技術を実践で学んでいるんだし、進学や就職だけが道じゃないよね」と言われて、それもありだなって。自分は組織の意向に合わせて苦手なことの克服に時間をかけるよりも、得意なことの一点突破で生産性高く働く方が向いていると思ったんです。

―― とはいえ大多数の同級生とは違う道を進むことに不安はなかったでしょうか。

たしかに不安はありました。だからこそ、僕は常に失敗したときに備えて一手二手先のことを考えるようにしています。一昔前であれば、人と違う道を行くことには相応のリスクがあったのかもしれません。けれど、今は昔よりも仕事や生き方の選択肢は広がっているし、一つがだめでも第二第三の選択肢があるから、やり直しは効くと思うんです。なので、フリーで生きていくことにそれほどのリスクはないのではないかと思っています。だから、もし好きなことが見つかったなら、その興味に従って思い切り突き進んでいいんじゃないですかね。

クリエイティブチーム「UNDEFINED」のMIZUNO CABBAGEさん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

MIZUNO CABBAGE(みずの・きゃべじ)

2000年生まれ。14歳からVFXを独学で学び始め、これまで数多くのCG作品を発表。映像監督でありながら自身でも制作を行い、3DCGアーティストとしても幅広く活動。2020年、SNSを通じて集まった仲間と、クリエイティブチーム「UNDEFINED」を結成。チームリーダーを務める

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