東京大学の大学生とともに深める「目的意識学」とは?リクルート人事 中村駿介に聞きました

東京大学の大学生とともに深める「目的意識学」とは?リクルート人事 中村駿介に聞きました

リクルートは、東京大学の「学術フロンティア講義」にて、2024年度後期から「目的意識学 ~自分らしい”未来”の見つけ方~」という講義を開講しています。社会の第一線で活躍する講師を集めたという「目的意識学」講義とはどういうものか、企画者のリクルート人事・中村駿介に話を聞きました。

大学生向け「目的意識」を深める講義とは?

― 本講義の概要について教えてください。

中村駿介(以下中村):学生の皆さんの学生生活や社会人生活がより実りのあるものになるように、「目的意識」を探求する講義です。

オリエンテーションで提示した本講義の目的
オリエンテーションで提示した本講義の目的 ※リクルート作成資料

全13回で構成され、そのうち10回は各界の第一線で活躍するゲスト講師を招いたオムニバス形式として進め、「ご自身がどんな目的意識で、社会にポジティブなインパクトを出されているか」についてお話しいただいています。

また、2回のワークショップを通じて、学生の皆さんには「目的意識を継続的に探究する視点・技法」を習得していただきながら、内省を深めていってもらいます。

― 学生の皆さんは、具体的には何をするんですか?

中村:各回で「ゴールデンサークル」という枠組みでゲスト講師の目的意識を自分なりにまとめてみることと、お話のなかで気づいた目的意識の構造や特徴を書き出してもらいます。これによって、既に目的意識を持って社会にインパクトを生み出している方々を実例に、目的意識を捉える練習をしてもらうという意図です。また、ワークショップでは自身の内面を客観的・批判的に振り返る手法である「リフレクション」の中から「認知の4点セット」という枠組みを使って、自分自身の価値観を捉える練習をしてもらっています。

目的意識を探求する視点と技法「ゴールデンサークル」「リフレクション」
目的意識を探求する視点と技法「ゴールデンサークル」「リフレクション」
目的意識を探求する視点と技法「ゴールデンサークル」「リフレクション」 ※リクルート作成資料

― なぜ、リクルートが東京大学でこのような講義を開催するに至ったのですか?

中村:元々は「東京大学メタバース工学部」で協働しているご縁から、大学の先生方とお話しするなかで、ある課題意識を伺ったことがきっかけです。

― 課題意識…?

中村:大学入学を一つの目的に受験勉強を頑張ってきた学生さんも多いと思うのですが、入学後に少しでも早く、次の目的を見つけるにはどうすればよいか、ということです。

特に東京大学は国内最難関校の一つということもあり、入学することが大きな目標となりがちです。一方で、先生方は入学後にこそ自分なりの目的を持って大学での学びを深めて欲しいと願っていらっしゃいました。

そこで、私自身のリクルートでの人材育成・組織づくりの経験から、大学教育においても「自分の目的を見つける力」を養う場が創れないだろうかと思い、「目的意識学」と題した講義を東京大学で開かせていただくことになりました。

― 自分自身の目的を見つける…いわゆる「アントレプレナーシップ教育」のようなものですか?

※自ら社会課題を見つけ、課題解決に向かってチャレンジしたり、他者との協働により解決策を探求できる知識・能力・態度を身につける教育

中村:もちろんアントレプレナーシップに繋がるものだと思います。ただ、仮にアントレプレナーシップ教育が「アントレプレナーとしての行動や思考・態度を教えるもの」だとすると、目的意識へのアプローチは「何に対してアントレプレナーシップを発揮するのか」に関わるものだと思います。

目的意識は、人によってその内容や粒度は大きく異なると思います。だからこそ、本講義では「何を目指すべきか」を伝えるのではなく、「目的を持つとは何か、目的というものが人生にどんな意味や効果を与えてくれるのか、経験を積むと目的はどんな風に変わっていくのか…」といったことを自分なりに客観的に捉え、理解を深めてもらう試みとして位置付けました。

― だから、「目的意識学」なんですね。

中村:聞き慣れない言葉ですよね…なぜなら、この講義から始まった学問だからです(笑)。講義の検討に先立って学術的なリサーチも行ったのですが、「人の意識」についての研究蓄積はたくさんあるものの、この講義で扱っている意味での「目的意識」についてはあまり研究されていないようでした。

そこで、本講義は体系化された情報を提供するのではなく、さまざまな登壇者の異なる事例を通じて、受講者自身が「目的意識」の構造や性質を理解しながら、自分なりの「目的意識学」を形成してもらうことにしました。受講生の皆さんには、その過程や気づきを通して、自分の目的意識を見つける力を高めていただき、まずは目の前の学生生活を、そしてその後の人生の充実を実現していってもらえたらと願っています。

人事の視点から捉える講義づくり

― ところで、リクルートで人事として働く中村さんが本講義を設計されたと聞き、なぜだろうと思っていました。

中村:私はリクルートの人事として18年以上働いていますが、特にこの5年ほどは会社の外に飛び出して活動させてもらっていました。その中で培った知見を広く社会に役立てる機会があればぜひ挑戦したいと常々考えていました。

実際に、2019年から長崎県・壱岐市という離島に移住して、持続的な地域社会の実現に向けて、市役所の政策立案や組織改革・人材育成に取り組み、2022年からは北海道の東川町で地域の教育改革に携わってきました。2024年からは社外と接点を持つ部署をいくつか兼務し、社会と会社がより良く変わっていくための新規性の高い取り組みを推進しています。
私にとっては、本講義もその試みのひとつ。「ゴールデンサークル」や「リフレクション」といった手法で個人の目的意識を掘り下げ行動変容を促していくプロセスには、過去の取り組みが活かされています。

― なるほど。手ごたえのあった手法を、大学生にも提供してみたということなんですね。実際に講義を開催してみて、どのような反響がありましたか。

中村:参加者にアンケートを取ったところ、全員が「ゲスト講師の話にインスパイアされた」と回答しています。なかには「これほど好奇心に従って、情熱を持って生きていくことができるんだ、それによって思いもしない人生の扉が開かれていくことにびっくりした」という声も。皆さんの思考の枠が外れているのだなと実感しています。

毎回の講義終了後、受講生はゲスト講師の「ゴールデンサークル」を分析し、目的意識について考察を行う
毎回の講義終了後、受講生はゲスト講師の「ゴールデンサークル」を分析し、目的意識について考察を行う ※リクルート作成資料

また、講義で話を聞いていると、学生の皆さん自身が生き方を相対化して捉え、より深い内観や自己理解をされている。それによって他者の生き方をさらに理解したいと意欲が引き出され、周囲にアンテナが立っているように感じています。本講義の目的であった「自身の目的意識を継続して探求し続ける視点と技法」が役立てていただけている感覚です。

組織づくりを通じて、個人の主体性を引き出す「社会の装置」を創りたい

― こうした講義への反響を受けて、中村さん自身の気づきはありましたか?

中村:これまで人事としての活動で実践してきた「ゴールデンサークル」、「リフレクション」という手法が、パワフルなものだと改めて実感しました。

長年にわたり人事をやっていると、「リクルートのように当事者意識を育むにはどうすればよいか?」と質問いただくことがあります。リクルートには、マネジャーがメンバーに対して「あなたはどうしたい?」と問いかけ、当事者意識を引き出すという伝統的なマネジメントのプロセスがありますが、これは独自の企業文化を土壌として成立する側面もあります。

しかし、「ゴールデンサークル」や「リフレクション」といった汎用的なツールを上手く組み合わせて使うことで、より多くの組織や様々な関係性においても、主体性や当事者意識を引き出す仕組みが作れるのではないかと期待しています。

― そうした仕組み作りを、社内に限らず、より多くの組織でも実践したいとパッションを持っているのはなぜですか?

中村:それこそ、すごく個人的な体験になるのですが…。入社9年目に受けた研修が大きな転機です。「自分はいつ、どんなリーダーになりたいのか」というお題に取り組んだことをきっかけに、自身の目的意識の輪郭が急に明らかになったことがありました。

それまでは「企業経営」について漠然と考えていましたが、これまで歩んできた道を振り返りながら、「自分が心から手ごたえを感じながら貢献できることは何か」と考えると、人事として人・組織に向き合ってきたことであり、その経験が自分の人生をいかに豊かにしてくれていたかに気づいたんです。「その人自身の能力、個性、人格、そういったものが最大限に尊重されて仕事ができるからこそ、その人の人生が充実する。そんな組織を創ることに自分のクリエイティビティを発揮したい」という自分の目的意識を自覚するに至りました。

― 「組織」にこだわるのはなぜですか?

中村:この社会に生きる人は多かれ少なかれ、何らかの組織に所属していますよね? もし家庭も一つの組織だと捉えると、赤ちゃんもその構成員です。ということは、いい組織を増やしていければ、一人ひとりにアプローチするよりも、何倍も多くの人を幸せにできるかもしれないと思うからです。

例えば、人が組織に所属したくなるのって、誰かに守ってもらえるとか、一過性のインセンティブがあるからだけではなく、そこにいる人との関わり合いのなかで自ずと「前向きになれる」とか「やりたいことを見つけよう」と思えて、互いの人生が豊かになっていくという側面も多分にあると思うんです。

そうした循環がある組織が企業に限らず、官民のさまざまな組織、または市民活動のサークル、その他小さな日々の活動に至るまで広がって、主体的でポジティブな動機で自走している人が増えたら良いなと思っています。

インタビューに答えるリクルート人事・中村駿介

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

中村駿介(なかむら・しゅんすけ)
株式会社リクルート 人事 CO-ENインクルージョン統括室 DEI推進部 統括グループ

株式会社リクルート入社後、人事部に配属され、一貫して人事領域の仕事に従事。2015年、株式会社リクルートホールディングス 人事戦略部 部長としてITとデータを活用したHRテックメソッドの開発とそれらを活用したリクルート全体の組織変革を推進。2019年に社会変革を実践する実験組織「ヒトラボ」を立ち上げ、持続的な地域社会の実現に向けた人事視点からの取り組みを推進。2024年より現職

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