心の声を押し殺さない。九州を飛び出した28歳起業家が、地方の若者を後押ししたい理由

心の声を押し殺さない。九州を飛び出した28歳起業家が、地方の若者を後押ししたい理由
写真:須古 恵

学生時代に起業の道を志し、現在はフリーランス向け業務管理サービスを運営。九州で活動を開始した起業家・杉山裕磨さんはなぜ地方を飛び出し、ヒッチハイクをしてまで東京に拠点を移したのか?

学生時代、たまたま通ったエンジニアスクールでの出会いがきっかけで投資家向けのピッチコンテストに出場。そこで入賞したことが契機となり、杉山裕磨(すぎやま・ゆうま)さんは起業家の道を志したという。

起業当初、杉山さんは地元の九州で活動を続けていた。しかしある理由から、2018年に東京へ拠点を移すことを決断。そこには、地方で学生起業家として励むからこその葛藤と、杉山さんならではの価値観が大きく影響していた。

現在運営するサービス『Tooon』の事業成長はもちろん、かつての自分のように地方で活動する後輩起業家の後押しにも力を注ぎたいと話す杉山さん。その想いが生まれた背景を、杉山さんの人生の一端に触れながら紐解いていく。

「煩雑さ」から開放されれば、フリーランスはより力を発揮できる

── はじめに、杉山さんの現在について教えてください。いま運営されている『Tooon』とは、どのようなサービスなのでしょうか?

フリーランスにとって「あると便利なさまざまなツール」が、一つのプラットフォーム上でまとめて利用できるサービスです。取引管理やプロジェクト管理、プロフィールサイト作成や問い合わせフォーム作成などの機能を一括で提供しています。

フリーランスの方が事務作業の“煩雑さ”に時間を奪われすぎることを防ぎ、「得意なこと」に集中できる環境を実現したいと考え、このサービスを運営しています。

── 「フリーランスの方が『得意なこと』に集中できる環境を実現したい」と考えた背景には、どのような理由があるのでしょうか?

大学生の時に起業を通して経験したことが、きっかけの一つになりました。

当時、サービスの開発を進めるなかで、クリエイターをはじめフリーランスで働くさまざまな方と関わりを持つ機会がありました。その過程で何度も遭遇したのが、「得意ではないが、フリーランスとして働くうえで不可欠な作業」に必要以上の労力を費やしている場面です。具体的には、取引管理や事務手続き、案件管理、問い合わせ対応などに時間を要している人が多くいました。

それらの作業の負荷を下げられれば、より得意なことに集中でき、才能や実力をより発揮できるフリーランスが増えるのではないかと考えました。その発想をもとに作ったのが、現在運営する『Tooon』です。

まず「本質」を理解することが重要だと話す起業家の杉山裕磨さん

いきなり身体を動かさず、「本質」は何かを考える

── 実際にサービスを運営していくなかで、特に大切にしていることはありますか?

少し抽象的でわかりづらいかもしれないですが、利用者にとって“本質がつかみやすいサービス”を作ることを心がけています。

自分自身の経験から、覚えることが多く複雑なものごとについて学習するときこそ、まずはその“本質”を理解するべきだと考えていて。つまり、いきなり枝葉から学習するのではなく、どの枝葉にも通じる幹が何かの見極めから始めるということです。

『Tooon』のように多機能型のサービスを使いこなすうえでも、その考え方は重要になると思っています。さまざまな機能に共通する特徴や操作など、“本質”を理解したうえで利用するほうが、効率よく最大限に使いこなせるはず。だからこそ、利用者が“本質をつかみやすいサービス”を作ることを常に目指しながら、運営を続けています。

── 何か、“本質”を理解する重要性を知るようなきっかけがあったのでしょうか?

子どものころから続けている空手の稽古で知った、ある教えがきっかけです。それは、いきなり身体を動かそうとするのではなく、どんな動作をするにも重要となる“芯”は何かを考え、その扱い方から身につけていく必要があるというもの。

その“芯”とは一体なにか、言葉で説明するのは難しいですが……あえて表現するなら、「精神も含めた自分の内側からコントロールできるようになること」だと解釈しています。言い換えれば、“芯”に目を向けずただ頑張って手足を動かそうとしても、良い結果にはつながらない。空手だけに限らず、この教えにはその後何度も助けられてきました。

── たとえばどのような場面で?

大学生時代、留学に向け英語を本格的に勉強していたときがその一つです。英単語や文法を片っ端から覚えるのではなく、学習における“芯”の部分、つまり“本質”からまず理解しようと試みました。「そもそも英語が母語である人たちは、どういった頭の使い方をして英語を話したり、聞いたり、書いたりしているのか?」を学ぶことに時間を使ったんです。

子どもの頃から「勉強が苦手」という自覚のあった自分が、望んでいた学校への留学を最終的に叶えられたのは、こうした思考回路があったからこそだと今でも思います。

空手の稽古がきっかけで本質を理解する重要性を知った話す起業家の杉山裕磨さん

心の声を聞き、自身への過大評価に違和感を覚え東京へ

── そうした“本質”にまつわる経験が、起業の道を選ぶことにもつながったのでしょうか?

いや、そこは別ですね。起業家としての道のりは、文字通り「偶然の出会い」から始まったので。九州で過ごしていた大学生3年生の時に、『テックキャンプ』というエンジニアスクールに通い始めたことがきっかけでした。通い始めたのは、ふと「プログラミングをやってみたい」と興味を持ったから。半ば勢いで飛び込んでみた結果、大学のなかだけでは生まれなかったような出会いがたくさんありました。

そこで出会った友人の一人が、とあるベンチャーキャピタルが主催する学生向けビジネスコンテストの運営に携わっていて。その友人から「投資家向けのピッチイベントがあるから、参加してみない?」と誘われました。当時はピッチが何かさえも十分に理解していなかったのですが、勧められるがままに出場し、『テックキャンプ』の講義内で考えた音楽関連のサービスについてプレゼンしてみたんです。そこで予想外に入賞したことで、起業して一からサービスを立ち上げることに本格的に関心を持つようになりました。

── 自分の興味関心を尊重する姿勢は、リクルートが掲げる「Follow Your Heart」を体現しているようにも感じました。起業家として歩み始めた背景には、そんなきっかけがあったのですね。

はい。しかしいざ実行に移してみるとうまくいかず、悔しい経験をたくさんしました。特に学生の頃は知識も経験も今以上に不足していて、投資家の方と話していても全く手応えがない。あっという間に資金が底をつき、音楽関連のサービスをクローズせざるを得なくなりました。

ただ、それで終わりにするのではなく、状況を変えるべく自分にとっては大きな挑戦をしようと決めました。それが拠点としていた九州を出て、東京に行くこと。お金がなかったのですが、どんな手を使ってでも上京しようと決め、ヒッチハイクでたどり着きました。

── ヒッチハイクをしてまで拠点を移そうと決めた背景には、どんな想いがあったのでしょうか?

徐々に募っていた、心のなかの“違和感”を無視できなくなっていたからです。簡単にいえば「他者からの評価と自分の考えの間にギャップがある」と感じていたこと。自分自身の感覚としてはまだ何も成し遂げられていないし、事実として評価されるような成果も出せていない。しかし、地元だと行く先々で色々な人が自分のことをすごいと評価してくれる。ありがたいことではあるのですが、「学生起業家」として期待を感じる場面が少なくなかったんです。

というのも、東京に比べて九州は学生自体の数も少なく学生のうちから起業する人数も限られます。それもあり、自ずと評価や期待が高くなる傾向があったのだと思います。

結果として承認欲求は満たされるものの、狭い世界のなかで自分で自分を過大評価してしまうことへの恐怖のほうが、上回るようになってきた。それがどうしても苦しくて、環境を変えたいと考えたことがきっかけでした。

企業や上京の背景について話す杉山裕磨さん

まだ成功していない自分だからこそ、地方の後輩を後押ししたい

── 起業も上京も、ご自身の興味や違和感に目を向けた結果から生まれた行動の一つだったのですね。そうした過去の経験から学んだことや、気づいたことはありますか?

自分の心の声を押し殺してまで何かに取り組むことは、自分にはできない。逆に自分の心の声に従えている状況であれば、どんな環境でも、たとえ肉体的に辛くても、頑張れる人間なのだとわかりました。

勢いで九州を飛び出した結果、東京に出てきた当初はお金がなく、家もない状況でした。都内にある24時間営業の飲食店でコーヒーを一杯だけ買い、それで一晩中粘って居座ったり……そんな家なしの生活を、2ヶ月くらいは続けたと思います。

ただ不思議と辛くなかったですし、むしろ前向きな感情で満たされていたんです。その時の自分は、どこか違和感を抱え未来にワクワクできない九州時代とは違い、自身の心の声に従えている実感があった。どこで何をするにしても、自分の心を押し殺さず生きていこうと、改めて感じられた経験の一つでした。

── 最後に、ここまでの話も踏まえて杉山さんが今後取り組みたいことや挑戦したいことを教えてください。

まずは『Tooon』をより便利なサービスへと磨き上げていくこと、そのうえで事業をより成長させていくことには、もちろんこれからも挑戦し続けたいです。

加えて、地方を拠点に活動している若者を応援したい気持ちがあります。特に数年前の自分のように、違和感を覚えながらもどう行動すべきか見出だせていない若者を、少しでも後押ししたい。

自分自身もまだ成功したわけではないので、後輩の後押しをするなんてまだ早いのではないか……と思うこともありました。でも、自分が尊敬する方たちも、まだ明確に成功していないうちから、後輩たちを色々な形で支援していた。その歴史を知っているからこそ、今は自分もむしろやるべきだと考えるようになったんです。

なかでも一番尊敬しているのが、『SKY-HI』としても知られる日高光啓(ひだか・みつひろ)さんです。自分の悩みや葛藤を抱えて終わりにせず、それらを楽曲やプロデュースを通じて世の中に届けていく。そのうえで、アーティストとしても、経営者としても結果を出し続けている。自身の成長に常に向き合いながら、後輩たちを育てることにも挑み続けてきた日高さんの姿を見て、ずっと勇気をもらっています。

だからこそ、日高さんが挑戦を続けるように、自分も事業の成長と後進や地方への貢献の両方を追い求めたい。それがいま一番取り組みたいことであり、自分が「心から」やりたいと思えることだと感じています。

自身の事業の成長に加え地方を拠点に活動している若者を応援したいと話す起業家の杉山裕磨さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

杉山 裕磨(すぎやま・ゆうま)

1995年生まれ。熊本県合志市出身。長崎国際大学在学中に福岡県にてTooon株式会社を創業。2019年に同社を休眠し、株式会社クオンに入社。キャラクターのSNS戦略、企画を担当。退社後、Tooon株式会社を復活。フリーランスの業務管理ツール『Tooon』の開発・提供を進める。

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