「企業経営において仲間は必要?」ビジネススクール教授に聞きました

「企業経営において仲間は必要?」ビジネススクール教授に聞きました

リクルートグループのカジュアルなコミュニケーションを通じた仲間づくりは、新しい価値創造を目指す企業経営にどのような影響を与えているのか?

『共に働くことの意味を問い直す―職場の現象学入門―』の著者・中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授の露木恵美子さんに話を伺いました。

※リクルートグループ報『かもめ』2024年5・6月号からの転載記事です

リクルート従業員の仲間という言葉への反応

リクルートで実施したアンケート※1の「社内に頼れる仲間がいますか?」という質問に対し「YES」と回答した従業員が95%もいるという結果には驚きました。これまでいろいろな企業を見てきましたが、一般的には良くて50%くらい。そもそも一緒に働く人は「同僚」であっても、「仲間」として見ていないと思われます。リクルートの皆さんが、「仲間」という言葉にこれだけ反応すること自体、素晴らしいなと思いました。

※1 リクルートグループ報『かもめ』2024年5・6月号特集「リクルート的 仲間考」従業員アンケート回答数:138名

私の元ゼミ生にリクルート出身の方がいるのですが、その方の話からの印象は「リクルートは、自律的に動く人たちの集団」であること。仲間にならないと仕事ができないわけではありませんが、自分でいろいろ動いて周りからフィードバックをもらいながら、自らネットワークを構築していく企業文化ですよね。アンケート結果を踏まえても、リクルートには仲間と呼べるくらい親しく、いろいろなことを話し、時には批判し合える関係性があるのだろうなと思えます。

昨今、職場のなかでの心理的安全性が重要だと言われています。心理的安全性が高い職場とは、「対立したり批判したりしても、信頼が壊れることはない」と信じられる関係性があること。「たとえ喧嘩をしても大丈夫」なのがひとつのポイントです。

人間性を否定されないから、自分の言いたいことが言えるわけで、単なる仲良しであることが心理的安全性の本質ではありません。「否定されない」が入口になり、まず皆が言いたいことが言えるようになるケースもあるとは思いますが、心理的安全性が高い職場を作る本来の目的は、付度ない議論を重ねた先に、企業として顧客に対して新しい価値を提案すること。

しかし、最近は心理的安全性を作ることが目的になってしまっているケースをよく見かけます。まず何のための心理的安全性なのかをきちんと考えるべきではないでしょうか。

心理的安全性について語る露木恵美子教授

心理的安全性を高めるメリット

経営の観点でも、心理的安全性が高い職場にはふたつのメリットがあります。ひとつの大きなメリットは、心理的安全性は、市場に対するアンテナを高めるということ。多様性にも関わることですが、一人ひとり異なる感性のアンテナを社内外に張り巡らせ、活用することが、組織全体の創造性を生み出す基盤となります。

ある楽器メーカーでは、従業員の皆さんの多くが、週末に何らかの楽器演奏の活動をしており、なかにはプロ並みの演奏技術を持ちコンサートやライブを開く方もいました。でも、仕事では、職場で求められている役割に自分を閉じ込め、音楽好きの顔を全然見せないのです。こんなにもったいないことはありません。

社外での音楽活動においてそれぞれが何を感じたかという情報が何百、何千と集まれば楽器のプロモーションに役立つことも出てくるかもしれません。役割を演じ仕事の話しかしない職場とそれ以外の話もする職場、どちらが創造性に富むか?

明らかに後者です。一人ひとりが持っている多様な感性のアンテナに引っかかった情報が職場にあふれ、周りの創造性が触発されるなかで生まれた商品やサービスだけが、市場に投入するに耐えうるものになると思うのです。

もうひとつのメリットは、リスクヘッジにつながる点です。問題が起きる時は必ずシグナルがあり、それに気づいている人がいます。でも、それを言えない関係性であったり、気づいてもおかしいと思わないくらい感覚がマヒしていると、隠蔽されたり、表面に出てきません。おかしいことをおかしいと感じ、それを言える関係性はトラブルの芽を摘みます。

問題が小さなうちなら対応策も検討できますが、対応できないくらい大きくなるケースが少なくない昨今の様子を見ていると、心理的安全性という信頼関係が抜け落ちていることが多いです。

イノベーションを生み出すための心理的安全性

生成AIの潮流も含め日々大きく変化するなかで、私たちは創造性を発揮しないと顧客に価値を提供できない時代を生きています。イノベーションを生み出すために心理的安全性が土台となり、ひとりではなく複数名の創造性を高めることでしかイノベーションは生まれません。そして、イノベーションが生まれる前には必ず危機が訪れます。それを創造性の危機と呼びます。時に傷つきながらも仲間と一緒に危機を乗り越えるなかで、自分も仲間もプロダクトも成長していきます。

心理的安全性が保たれた職場で、互いに本気で思いや考えをぶつけ合う。人間は本気で接すると、そこに対し本気で応えようとする生き物でもあります。リクルートの皆さんには、勇気を持って世界に向けた価値創造にチャレンジしていって欲しいです。

リクルートへの期待を語る露木恵美子教授

登壇者プロフィール

※プロフィールは取材当時のものです

露木恵美子(つゆき・えみこ)
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

博士(知識科学)。専門は組織論、戦略論、ベンチャー起業論。知識経営論の野中郁次郎氏に師事。株式会社前川製作所、独立行政法人産業技術総合研究所ベンチャー開発戦略研究センターなどを経て2011年4月に中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)に着任。研究テーマは「場と共創」。組織における創造的な場のあり方、組織変革プロセスを多面的に研究している

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