同じ心を持ち、熱量がある場を増やす『comcom』が描く理想的なコミュニティ

同じ心を持ち、熱量がある場を増やす『comcom』が描く理想的なコミュニティ
文:三浦 希 写真:小財 美香子

それぞれのオンラインコミュニティが目指す姿を、多角的な面からのアプローチで叶えていく。株式会社ニューピース プロダクトマネージャー・ひぐちなおやさんに聞く「理想的なコミュニティ」のあり方

「コミュニティ」の6文字を目にした際、またその単語を耳にした際、どんなことやものを思い浮かべるだろうか。

“共通の目的や興味などにより関係性を共にし、集まった人々” を指す、この言葉。特に、オンラインサロンをはじめインターネット上の場を想起する方も多いのではないか。今回は、そんな「オンラインコミュニティ」の活動促進やコミュニティマネージャーの支援活動をおこなうサービス『comcom Analytics』を手がける株式会社ニューピース・ひぐちなおやさんに話を伺う。コロナ禍を経て、オンラインで繋がることが一層あたりまえになった昨今、数々のコミュニティを見つめる中でみえる景色を訊いた。

コミュニティの価値観を支える『comcom Analytics』

─ はじめに、ひぐちさんの現在のお仕事について教えてください。

『comcom Analytics』の運営を通じて、ソフトウェアによるコミュニティ運用支援のサポートに携わっている、ひぐちなおやさん

株式会社ニューピースで、『comcom Analytics』というサービスの運営に携わっています。ニューピースは「企業や事業の本質的な課題に向き合い、ビジョンと戦略ストーリーを描いて形にするブランディングパートナー」を標榜している会社。おこなっている業務としては2つの軸があり、ひとつは、各社企業・事業のブランディング。そしてもうひとつが、私の担当する「ソフトウェアによるコミュニティ運用支援」のサポートです。

それぞれの企業が掲げる価値観や、目指す姿、理想的なあり方などを、コミュニティ運用の面で支えるのが、我々の仕事ですね。

─ 具体的には、どういったサポートをおこなっているのでしょうか?

DiscordやSlackといったWebツールを使用したコミュニティをお持ちの企業に対し、データを用いたコミュニティの活性化や、より良くしていくための検証・施策提案などをおこなっています。漠然とした「盛り上がり」や「場の熱量」のようなものを、より具体的な数値で可視化し、そのエンゲージメントを高めていくのが、私たちのミッションです。

コミュニティ全体の傾向に加え、メンバーの関係や各アクションのモニタリングや分析を1ステップで行えるダッシュボード「comcom Analytics」
コミュニティ全体の傾向に加え、メンバーの関係や各アクションのモニタリングや分析を1ステップで行えるダッシュボード「comcom Analytics」(写真提供:NEWPEACE)

─ コミュニティにおける「エンゲージメント」とは、どういったものがあげられるのでしょうか。

単純なもので言えば「発言数」はひとつの指標として捉えられますね。つまり、対象となるコミュニティにおいてメンバーの方々が積極的に発言できている状態。それは、活性化された場としてみなすことができるはずです。ただ、すべてのコミュニティが「発言数を多くしたい」と考えるかと言えば、それは違うはず。

たとえば、とある対戦型のオンラインゲームをプレイする人が集まったコミュニティについて考えてみると、きっと「コミュニティ内での発言量」が唯一の価値や盛り上がりを表す指標ではないと思うんです。コミュニティ内のメンバー同士で対戦が成立した数の多さであったり、年齢別メンバー数推移の数字であったり、そこでの “価値” は多岐にわたるはずですよね。

この例のように、それぞれのコミュニティがよしとしている価値観を多角的な面から見つめ、それらを叶えていくのが、私たちの務めだと考えています。

オンラインにとどまらない、多様な「コミュニティ」体験

─ ひぐちさんが「コミュニティ」をお仕事にしようと思われたきっかけはどういったものだったのでしょうか?

「コミュニティ」を仕事にしようと思ったきっかけを話す、ひぐちなおやさん

いくつかの要素があるのですが、大学の頃に専攻していた「景観工学」から受けた影響が大きいのかなと思います。ランドスケープデザインの視点から "場作り"を考え始め、そこから都市において人が集うことに興味を持って研究していました。都市とは様々な「人が集まる場」があり、いわば多層的な「コミュニティ」の集積と捉えられるのではないか。そんな観点を持ち、東京の人が集まる場と戦後の音楽文化の関係性を追求していていたんです。その研究がとても自分に合っていたのは、きっかけのひとつだったのかもしれないなと。

また、私自身、お酒と古着が好きなのですが、酒場や古着屋でのコミュニティ体験も影響しているかもしれません。ひとつの「箱」としてのお店で、偶発的にたくさんの人とつながり、体験をともにすること。それが酒場や古着屋では盛んにおこなわれていて。

僕は長野県で生まれ育ち、大学進学を機に上京してきたのですが、そんな若造の僕に対して、古着屋のスタッフさんはとても優しくしてくれたんですよね。「この街の〇〇というお店はすごく素敵だよ」なんて、お店を紹介してくれることもしばしば。また、お酒を飲むようになってからは、酒場に来ていた常連さんから、たくさん素敵なお話を聞かせてもらったり。そこで出会った方が他の酒場に連れていってくれたこともありました。

─ 昨今、オンライン上で人々が集う場を「コミュニティ」と呼ぶことが多いように感じられます。一方ひぐちさんにとってのコミュニティはオフラインがはじまりだったのですね。

まさに。振り返ってみると、当時通っていた大学も「学生たちが学びをともにする」という意味では「コミュニティ」でしたし、同じく古着屋も酒場も、同じ心を持った人々が集まり、そこで共有する何かがあるのなら、それは「コミュニティ」です。オフラインに自然と存在していたコミュニティ的な体験が、いまにつながっているんです。

コミュニティが抱く「理想」を、ひとつの形にしてゆく

─ では、ひぐちさんにとって「理想的なコミュニティ」とは、どういったものなのでしょうか。

表現が少し青臭いのですが、「バンド」はある種の理想的なコミュニティなのかなと思います。まず「バンド」のあり方は、実にコミュニティらしいと思うんです。たとえそれを構成するメンバーが変わったとしても、きっと、バンドとして標榜するものは変わらないはず。ある種の「理想」は、揺るがないはずですよね。

加えて、その理想を愛する「ファン」の存在が、ライブハウスのような「場」を作り上げているし、「バンド」としての形も支えていると思うんです。同じバンドを好きでいる、その共通項をもとにライブハウスへ足を運ぶファンの方々。なぜかライブが終わった際には、それまで見知らぬ人同士だったファンたちが、ちょっとだけ仲良くなっていたり。バンドが演奏する音楽を共に聴くことで、それぞれが言葉にできなかった感情を無意識に共有することができたり。

共通する想いがそこにあり、そのサイズは大小さまざまであっても、「みんなで共有した」という事実によって場が成り立ち続けていく。それもまた「コミュニティ」に他なりません。

「バンド」それ自体がコミュニティであり、そのバンドを中心にさらに「ファン」というコミュニティが存在する。そうした構造がある種の理想的なコミュニティを形成していると感じているんです。

─ そうしたコミュニティを生み出すために、必要な素養は何だと考えますか?

コミュニティ次第な部分はもちろんあるのですが、共通していると感じるのは「問いかけが上手な人はコミュニティを作るのがうまい」ことでしょうか。

一時期、コミュニティマネージャーのコミュニティを運営していたことがあったのですが、その中で必要なスキルの話になったとき「参加の余白を作れるうまい問いかけが大事」という話になったことがありました。いいコミュニティを生み出されている方は「考えたくなる問い」を立てるのがうまい。

正解がありそうでない、自分もその問いを考えたくなるし、誰かに共有したくなる。そんな温度感の問いを共有していけるとコミュニティの熱量は高まるんじゃないかと話しました。

─ 他方でそこにある「熱量」のようなものは、最初にひぐちさんがおっしゃっていた「具体的な数値で可視化すること」が難しい部分のようにも感じます。

「問いかけが上手な人はコミュニティを作るのがうまい」と話す、ひぐちなおやさん

『comcom Analytics』の課題は、まさしくそこにあるのだと思います。バンドのファンたちが抱く熱量のように、アナリティクスツールで可視化されないものが、オンライン上にもたくさんありますよね。ただ、その可視化されないものに価値があるのですが、それを追い求める行為、つまり「具体的な数値が見えないままコミュニティを運営し続けていくこと」は、なかなか難しいことかもしれません。

その中で、あるお客さまが話してくださったことで、私たちの支えになっているものがあるんです。「ゴールの見えない “コミュニティづくり” が、いわば “趣味的” な範囲にとどまってしまいかねないなかで、『comcom Analytics』によってコミュニティの価値を事業成長にもつながる指標で定量的に説明できることがとてもありがたい」というような言葉です。

「コミュニティをつくる行為」そのものが、私たち『comcom Analytics』の存在によって、価値のあるものだと考えられるようになった、と。

─ 「計測できること」が活動自体を認めてもらったり続けたりする上で、重要な要素になっている。

はい。他方で、この言葉をいただけたこと自体はとても喜ばしいものの、コミュニティには正解なんてないですし、正解のなさがコミュニティの良さでもある。計測できるものが全てではありません。それを理解した上で運営できないと、難しさや苦しさが拭えなくなる瞬間がきてしまうこともあります。

それぞれのコミュニティが抱く「理想」を叶えるためのお手伝いを、『comcom Analytics』として続けていけたらと考えていますし、今後も可能な限り具体的に計測された確かな価値あるコミュニティを、追い求めたいと思っています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

ひぐちなおや

1994年生まれ。東京大学工学部社会基盤学科卒業。大学では、都市コミュニティと文化の関係性などを探る。NEWPEACEでは、プロダクトブランドのPMなどを担当したのち、新規事業開発およびエンジニア組織の立ち上げを担当。現在はコミュニティマネージャー支援事業で「comcom Analytics」の事業開発とプロダクトマネジメントを行う。

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