早くたくさん「失敗」することこそ、成功への道。パラレル 青木穰が挑戦を続けられる理由

早くたくさん「失敗」することこそ、成功への道。パラレル 青木穰が挑戦を続けられる理由
文:並木里圭 写真:須古 恵

「論理的に積み上げて本気で取り組めば、少なくとも自分が正解だと思えるものを導き出せる」いわゆる正解に頼らず、失敗から学び続ける姿勢をパラレル株式会社 青木 穰さんに聞く。

「“失敗”なんてそもそも存在しない」と語るのは、友達と遊べるたまり場アプリ「パラレル」を運営するパラレル株式会社 共同代表取締役の青木 穰さん。

大学生の時、中学生時代からの友人・歳原大輝さんと起業することを決め、アプリ開発をスタート。大きな成功には至らないまま卒業し、それぞれ異なる会社に就職した。しかし3年後の2017年、再集結した二人は、グローバルで通用するSNSを作ると決めてパラレル株式会社(旧:React株式会社)を創業。大手SNSプラットフォーマーによる寡占状況が進む昨今、「パラレル」は若い世代からの人気を集め、登録者数500万人を突破(2024年5月時点)、累計資金調達額は約29億円となっている。

いかにして苦難の道を乗り越え、現在に至ったのか。「そもそも『正解』があると考えているのが間違い」と語る青木さんの、「失敗」への向き合い方について聞いた。

コンテンツファーストではなく「ピープルファースト」

― はじめに「パラレル」がどのようなサービスか教えてください。

パラレルは友達と集まってみんなで遊べるたまり場アプリで、友達と遊ぶためのさまざまなコンテンツやコミュニケーション機能があります。例えば、僕らが友達同士だとして、この空間がいつものたまり場だとしたら、そこに置いてあるボードゲームで遊んだり、一緒にテレビを見たり、飲み物やお菓子を取り囲んでおしゃべりしますよね。パラレルでは、そういった体験をオンライン上につくり出すサービスです。

もちろんLINEやFacebook、Instagramなど、コミュニケーションを取る手段は他にいくらでもあります。しかし、それらを使って誰もが活発にコミュニケーションを取れているかというと、実はそうでない人も少なくないと思うんです。「結婚しました」「転職しました」といった大きなイベントがあれば連絡は取りやすいけれど、日常的にコミュニケーションをとるきっかけはなかなか生まれづらいのではないでしょうか。

だったら、もっと身近なコミュニケーションのきっかけをつくればいいんじゃないか?と考えたんです。例えば、友達と会うと「あの映画見た?」「あの動画見た?」「あのゲームやった?」とコンテンツを起点にコミュニケーションを取ることが多いと思います。人が集まった場所に共通の話題となるコンテンツを用意することで、コミュニケーションが生まれる。それをいかにオンライン上で実現できるか、パラレルでできることを常に模索しています。

「何をするか」よりも「誰とするか」の方に注目した、と「ピープルファースト」の考え方を話す青木穰さん

― コンテンツは、あくまでもコミュニケーションのための媒介であると。

そうです。もちろんそれ自体で人を惹きつけるコンテンツはあります。一方で僕は「何をするか」よりも「誰とするか」の方に注目した。この考え方を、僕は「コンテンツファースト」という言葉になぞらえ「ピープルファースト」と呼んでいます。

現在パラレルで遊べるコンテンツは、それ自体がリッチなものではありません。コンテンツの内容に力を入れるよりも、友達同士で集まってから「じゃあカラオケ行こうよ」「渋谷に出かけようか」とその時の気分でふらりと遊びに行くような体験を、オンラインを通じてつくりたいと思っているんです。実際にコンテンツ自体がリッチではなくとも、友達とおしゃべりしながら様々なゲームや動画などが楽しまれています。

偶然の出会いを計画的に求める若者たち

― 若い世代を中心にパラレルの利用者が増加しているとのことですが、その理由はどこにあるとお考えですか??

コスパやタイパを重視する世代だからだと思います。流行るSNSの特徴を調べる中で、友達とコミュニケーションを取る時には、直接連絡をするのではなく、まずSNSを通して間接的に今の自分を伝える。そして、投稿に反応した友達とやりとりをする……ということが多いとわかりました。

若い世代には、位置情報SNSで自分の居場所を常時共有したり、最近観た映画の感想を発信したりする人が多くいます。それは、自分の状況を知って興味を持った友達から、偶発的な連絡がくることを期待しているからだと思うんです。計画的な投稿を通してこういった偶発的なやりとりが発生する事象や価値観を、僕たちは「計画的セレンディピティ」と呼んでいます。

「友達と待ち合わなきゃいけない」とか「連絡して呼び出さなければならない」と思うと気が重くなる。断られたらどうしよう、怖い……といった心理的なハードルをなくし、よりコスパ・タイパ良く友達と遊べる方法を、若い世代を中心に多くの人が求めているのだと思います。

そして、そうした計画的で幸運な偶然の出会い––計画的セレンディピティ––は、これまでのツールでは、オンライン上で発生しづらかった。だからこそパラレルはこの領域でプロダクトを展開しているんです。

よりコスパ・タイパ良く友達と遊べる方法を、若い世代を中心に多くの人が求めているのだと思う、と話す青木穰さん

— 計画的セレンディピティを発生させるため、具体的にどのような工夫をされているのか教えてください。

一緒にその場にいなくても、同じコンテンツを共有しながら通話する、ということ自体は既存のツールでもできる機能ですよね。しかし、通話機能を使うことはわざわざ友達を呼び出すことになってしまうので、何かしらコミュニケーションの題材を用意しなきゃいけない。対して、パラレルはたまり場なので、取り立てて話題がなくてもふらっと参加できるんです。

僕がパラレルで遊んでいたら友達に通知が届いて、僕がパラレルにいることが伝わる。そこで友達がパラレルにきたら「オンラインになりました」と遊びにきたことがわかる。話しかけて一緒にゲームしても良いし、話す気分じゃなければ、それぞれが一人で遊んでいてもいい。

こうしたパラレルで提供しているたまり場のイメージとしては、学校の部室や放課後の教室みたいな場が近いかもしれません。「そこに行けば誰かいるだろう」もしくは「誰もいなくても、一人で何かしていればそのうち誰か来るかもしれない」というライトな場所。そこに行くのは誰かとコミュニケーションすることが目的ではないから、誰とも話さず、別のことをしていることもあると思うのですが、場を共有するだけで人との繋がりを感じられますよね。

起業と解散。そして再集結へ

— 続けて、創業の経緯について教えてください。共同創業者の歳原大輝さんと青木さんは中学生時代からの友人だと伺いました。お二人はどのような経緯で起業することになったのでしょうか。

ちょうど大学生の頃に普及し始めたiPhoneを使って一緒にビジネスをやろうと、歳原が声をかけてくれました。そうして二人でアプリをつくり始めたのが始まりです。ただ当時は、「酒の足しになるくらい稼げれば十分」くらいの温度感で、ちょっとしたミニゲームのアプリをつくって販売していました。

その頃、Facebookの創設ストーリーを描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』が公開されたんです。当時、僕も日常的にFacebookを使っていたけれど、誰がつくったのかまでは知りませんでした。それが、映画を観てみたらなんと創設者は大学生だった。

「まじか!大学生でFacebookがつくれるなら僕らにも何かできるはずなのでは」と思いました。学生なので難しいビジネス領域はわからないけれど、「人がどんなコミュニケーションに興味を持つのか」はわかる。だから、人と人とのつながりを扱う領域ならできそうな気がする、そこで世界中に使われるサービスをつくりたい──そんな思いから、歳原と本格的にこの領域でのアプリ開発をスタートしました。

株式会社パラレル 共同創業者の歳原大輝さんと青木穣さん
左から、共同創業者の歳原大輝(としはらたいき)さんと青木穰さん(写真提供:パラレル)

その後いくつかアプリを作ってはリリースしてみたり、ビジコンに出てみたりはしたものの、思ったような成果は出ませんでした。さまざまな経験不足も痛感したので、結局、歳原と「3年働いてまた一緒に起業しよう」と約束を交わし、それぞれ別の会社に就職。みっちり社会経験を積んだ上で再集結し、晴れて2017年7月7日にパラレル株式会社(旧:React株式会社)を立ち上げました。

— 最初の挑戦では思ったような成果が出なかったにもかかわらず、なぜ心が折れたりすることなく再び挑戦できたのでしょうか?

そもそも僕は意味のない「失敗」というものは存在しないと思っているからです。失敗は成功に至るための道のりの一つでしかなく、やり続けることが大事なのかなと。多くの人は、「失敗」を避けるために「正解」を探そうとすると思うのですが、そもそも「正解」があると思っていることが間違いだと思います。

僕の父は数学教授だったのですが、よく「数学を教えてやる」と言われて、参考書を買ってきて渡してくれました。でも、解答を探しても見つからない。聞くと、参考書を渡す前に解答を全部引きちぎって捨てたと言うんです。だから父も答えがわからない。そして、「お前が正しいと思ったものが正しい」と言われ、自力で試行錯誤をせざるを得ない状況に置かれていました。

そうして育てられたこともあり、「正解は自分が決めるものだ」という考えが染み付いているのだと思います。論理的に積み上げて本気で取り組めば、少なくとも自分が正解だと思えるものを導き出せると思うんです。

だからこそ、大学時代の開発も決してうまくいったとは言えませんが「挫折」や「失敗」だとは思いませんでした。当時の知識やお金、人脈ではそもそも起業は厳しい。ならば、就職してスキルを身に着けたり、お金を貯めたりしてから再集結すればいい。「次はどうするのか?」と考えた結果、3年後に再び立ち上げるという判断だったんです。

そもそも僕は意味のない「失敗」というものは存在しないと思っている、と話すパラレル株式会社の青木穰さん

成功を手にするには早く「失敗」した方が良い

— パラレルが今後目指していくことを教えてください。

僕らの野望は「世界中の人たちが熱狂するSNSを作る」ことです。パラレルというサービスで目指す「オンラインのたまり場」という世界観は、いずれどこかの企業が実現していくことだと思います。コロナ禍で会議がオンラインへ一気に切り替わったように、当たり前の流れとして、オンライン上で気軽に友達と遊ぶ世界にどこかで変わる瞬間がくるはずです。

あとはそれを誰が実現するか。今僕らはそこへ向かうプレイヤーとしては先陣を切っている自負がありますが、いつそのタイミングが来るかは分かりません。予測するのは難しいですが、会社としてサービスとして堅実に継続し続けられる体制を作り、やり続けてさえいればいつかその瞬間に立ち会えると信じています。

— とはいえ、単に「続けること」だけだとしても、決して簡単ではないはずです。実現に向けて、どのように道筋を描くのでしょうか。

道筋の「正解」はわかりません。だからこそ、これからもたくさん「失敗」を重ねていきたいと思っています。成功を手にするには早く「失敗」した方が良いんです。起業においてはアンチパターンを踏まないことが大事だと思っているのですが、それも自分で経験しないとわからない。

パラレルというサービスにたどり着くまでも幾度も失敗を重ねました。その結果から学びを重ね、アンチパターンを踏まずにやれたから、パラレルは立ち上がった。ただ、そのアンチパターンって振り返ると過去に読んだビジネス書とかには当然書いてあるんです。ボロボロになるまで読み込んだのに、そこに書かれていた言葉は自分には全然響いていなかった。失敗して初めて理解することばかりでした。だからこれからも失敗を繰り返して、学びながら進んでいきたいですね。

失敗して初めて理解することばかりだから、これからも失敗を繰り返して学びながら進んでいきたい、と話すパラレル株式会社の青木穰さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

青木 穰(あおき・じょう)
パラレル株式会社 共同代表取締役

2014年大学を卒業後、フリークアウトHDの新卒として入社。広告プラットフォームを開発・提供する子会社M.T.Burn株式会社の立ち上げ、セールスディレクター等を経て2017年4月、「好きな人たちと過ごす時間を最大化する」ためパラレル株式会社(旧:React株式会社)を中学生時代からの友人・歳原大輝と創業。友達と遊べるたまり場アプリ「パラレル」の開発・運営をしている。

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