40代でリクルートに出戻り転職。好奇心でキャリア選択をするワケ
リクルートでは、「アルムナイ」という言葉が一般的でなかった時代から、出戻り従業員(再入社者)はごく自然にいました。 2021年からは会社を「公園(通称:CO-EN)」のような「出入り自由」な場にしたいと標榜し、実際に2022年度には約30人の再入社者を迎えています。
一度退職した人は、どのような機会を見出し、リクルートに再入社を決めているのか? 2023年4月に再入社し、リクルート経営コンピタンスマネジメント研究所(※)で部長を務める宗藤和徳に話を聞きました。
※リクルートグループの横断で事業のナレッジを集め、リクルート全体の強みやコアコンピタンスについて研究する組織。従業員一人ひとりにナレッジを提供することで、個人の成長につなげることを役割としている。
周囲から見ると出戻り、自分にとっては前進
― 2年ぶりにリクルートに出戻ったと聞きました。きっかけを教えてもらえますか?
宗藤和徳(以下宗藤):2020年にリクルートを退職後、グローバル展開する日系アパレル企業のデジタル経営部門で働いていました。それもそれで充実していたのですが、ちょうど40代に差し掛かかったところで、この先10年のキャリアで何にコミットするか、改めて考えるようになって。そんな折、リクルート在職時の元上司と飲みに行く機会があったんです。
― 元上司と接点が続いていたんですか?
宗藤:元上司と言っても、同じ釜の飯を食った仲ぐらいの感覚で、退職後も定期的に飲みに行ったりしていました。リクルートは元上司や同僚とそういった関係性の人は多いかもしれません。
話すうちに挙がったアイデアのひとつに、リクルートに出戻るというものがあって。最初は「出戻り」と聞くと、単にリクルートに戻って同じ仕事をするイメージで、後退するのは嫌だって言ったんです。すると、元上司から「そんなことない。宗藤が好きそうな刺激的なテーマがたくさんある」と言われ、好奇心をくすぐられてしまいました(笑)。
― 好奇心がくすぐられた…それは、どんなテーマだったんですか?
宗藤:お伝えできる範囲の話にはなりますが、リクルートの多岐にわたる事業を横断したナレッジマネジメントとその更なる進化です。元から企業競争力の源泉として事業活動や人材開発に関するナレッジを形式知化していくことへの関心が高く、もっとそうした考え方を世の中の企業経営に活かせないだろうか、と考えていたので、それなら没頭できる、と感じました。
― ナレッジ、企業経営…? もうちょっと分かりやすく教えてください。
宗藤:リクルートは創業以来、さまざまな人材育成や事業活動のナレッジを結晶化してきました。例えば、人材のエネルギーが最も発揮されるように、 本人がやりたいことを加味して仕事をアサインしたり、本人の成長可能性を軸にした異動、業務や役割の兼務によって、能力開発を促すといったことです。
これまでは、社内でそのナレッジを活用してきましたが、国内の多くの求職者や企業にご利用いただくプラットフォームを運営しているリクルートだからこそ、そのプラットフォームを通じて社会に還元できないだろうか、と考えているんです。特に今後の日本社会では、国内の生産年齢人口が減少するという課題が見えているので、人材の可能性を最大化するナレッジや挑戦機会を創っていくことは今まで以上に必要とされるのではないかと。
― リクルートにとっての意義は分かりますが、宗藤さんがなぜそのテーマをやりたいと思ったのか、気になります。
宗藤:これまでのキャリアで、デジタル化がもたらす恩恵を多く目にしてきたので、人材育成や事業活動でその知見を掛け合わせたら面白いんじゃないか、という好奇心からです。
例えば、一人ひとりのWill(将来やりたいこと)とCan(活かしたい強み)に寄り添い、個別最適の能力開発や、パフォーマンスを倍々にできるのではないか、なんて妄想しています。
デジタル化の性質としては「広くあまねく」と「一人ひとりに寄り添える」この2つを両立できることだと考えてまして、世の中の資源の中で「ヒト/カネ/モノ」この中で、これから最もデジタルの恩恵を受けるのは「ヒト」のところ。まだ出発点ではないかと。
・・・あとは、正直なところ直感です。大局的に捉えると、今後社会がますます急速に変化すると分かっているなかで、その社会課題に対峙する事業を持っているリクルート自体もさらに急速に変化していく必要があります。そのど真ん中にいられるのは面白いんじゃないか、とワクワクしたんです。
一貫して好奇心を軸にキャリアを選ぶ理由
― 40代になっても、好奇心を軸にキャリアを選択なんて、勇気がいりませんか?
宗藤:たしかに、40代になると一般的には「キャリアを積み上げて、何の専門家になるべきか?」と考えたり、組織の責任を担う仕事を選ぶ方が多いですよね。ただ、これまでの自分のキャリアを振り返ると、何かの専門家になることに執着してこなかった気がします。
― なぜですか?
宗藤:自分の内発的動機に従っていれば、おのずとキャリアはつながるのではないか、と思うからです。
「70歳現役社会」と言われる現代で、私たちは定年以降も働き続ける可能性が高い。それに、役割や評価を決めるのは、自分ではなく周囲のフィードバックですから、コントロールできないことでもあります。だからこそ、もっと好奇心に従ったり、ありのままでいた方が、エネルギーが枯渇せずにいられると思ったんです。
― そう思えるということは、そういう体験をされてきたからということでしょうか。
宗藤:そうかもしれません。2000年に新卒で印刷会社に入社し、出版企画の営業担当からスタートした私。マスメディアといえば、大量生産と流通力勝負の時代でしたね。それが、社会のデジタル化が進むにつれ、DTP制作やデータ伝送などデリバリーのスピードが劇的に速くなり、Webメディアが星の数ほど登場し、カスタマーにとって豊かな体験が増えたりすることを目の当たりにしました。
「技術によって、世の中はこんなにも便利になるのか」と衝撃を受け続け、そこから縁もゆかりも無かったデジタルの領域へ。日常接点からカスタマーを驚かせるワクワクを仕掛けたいと思って、2005年に広告代理店に転職、デジタル広告の事業開発に従事していました。
― その後、リクルートに1回目の入社をされています。その時の動機は?
宗藤:ビジネスモデルへの興味だったんですよね。広告代理店でデジタル広告の事業開発をしていた時に、技術力が高いからと言って、必ずしもビジネスの競争優位性が高まる訳でもないと実感しまして。そこで、目に留まったのがリクルート。同じ情報産業でありながら、汎用性の高いビジネスモデルを他領域に展開しインパクトを出している。「一体どんな仕組みなのか?」と気になって、飛び込んでしまいました。
― その時も“好奇心”だったんですね。実際に入社して、満たされましたか?
宗藤:やっぱり強さの源は仕組みにあると身をもって実感しました。社会変化に適応しながら、ビジネスの変化を常態化させられる体質にあると。入社直後からWebマーケティング部門を主な仕事としながら、現在のリクルート経営コンピタンス研究所という、強みの本質を徹底的に突き詰めて考える部門を兼任したことで、更に自分の中の好奇心に火が付きました。
2007年にリクルートに転職して以降、例えば多くのデバイスが登場し、通信回線も高速化するなど、社会やカスタマーを取り巻く情報環境が急変するなかで、リクルートの事業もさまざまな変化に迫られました。求められるスピードは苛烈で、自分たちのペースで勉強しながら進化していけば良い、などという甘いものではなかったです。
ひたすら成功事例の創出とデリバリーを急ぎ、その兆しをいち早く横展開し、ビジネスモデルの変革材料にしていく…。 提携先との交渉も一歩間違えば事業の死活問題というとても緊張度の高い仕事も多かったです。私自身の仕事もWebマーケティング、R&D、アライアンス、投資業務、事業統括、経営ナレッジマネジメント…と次々に変わりました。
― すごい仕事のふり幅と変化スピードです。
宗藤:こんなに飽きっぽい人間なのに、14年も在籍しました。変化を続けるリクルートには、それだけ惚れるテーマが沢山あったということです。
― そこまで思えるなら、なぜリクルートを辞めたのか、気になります…。
宗藤:うーん、これも好奇心でしょうか。2021年にリクルートが事業統合し、プロジェクトがひと段落した時、改めて自分が専門としてきたデジタル領域の介入効果が最も大きそうな産業に挑戦してみたかったんです。そんな時に、グローバル展開する日系アパレル企業のデジタル経営に目が向きました。
主には本社部門の仕事として、カスタマーの行動や購買データをもとにデータプラットフォーム(CDP)を構築し、それをもとに需要予測や販売計画、マーケティングに連携する仕組み作りを行いました。最終的には、グローバルの顧客基盤データをもとにした顧客関係管理(CRM)とデジタルマーケティングの統括を担いました。
経営戦略のひとつとしてデジタル基盤を推進し、グローバル展開初期の体制構築まで行えたことは、自身のキャリアでもダイナミックな経験でした。
2年ぶりのリクルートで感じた変化
― 一度リクルートを出て経験したことで、今の仕事に活きていることは何でしょうか?
宗藤:カスタマー(人)を解像度高く捉える力と、グローバル水準での仕事の取り組み方を知っていることでしょうか。
特に前職のマーケティング業務では、カスタマーの購買意思決定の因子に、感情面や心情変化といった流動的な観点も影響するので、動機を多面的に捉える必要がありました。
その経験を踏まえると、リクルートは、例えば人材事業のように、カスタマーの人生の意思決定を支援する事業を運営しているからこそ、何か一貫した軸があるものだと考えすぎる傾向にあるとも感じます。人の流動的な感情面をデータで捉えながら、カスタマーの解像度を上げられるポテンシャルがもっとあると感じます。
あとは、リクルートグループとしてグローバル化が進んでいますが、個人の仕事の取り組み方という意味ではまだ伸びしろがあると感じます。リクルートは、強いカルチャーから生まれる阿吽の呼吸が持ち味で、多くの秘伝のタレのような業務があると思います。
一方、グローバル展開する企業は、逆に人材の多様性と流動性が高く、文化の共有性が低い職場であるからこそ、業務平準化や平易な言葉(ローコンテキスト)が求められるので、リクルートとしても進化が求められる部分だと思います。
― 改めて、2年ぶりにリクルートに戻ってみて、どうですか?
宗藤:離れていたのはほんの2年でしたが、想像以上に浦島太郎の気分です(笑)。
とにかく「企業として変化し続ける」というスタンスが一貫していて、どの部署の動きを見ていても、その変化スピードが加速していると思いました。
― どんな時に、変化を感じますか?ずっとリクルートのなかにいると、意外と実感できません。
宗藤:身近な例では、オンボーディングやインナーコミュニケーション施策の進化は顕著だと思いますよ。再入社後、毎朝の社内メルマガを通じて、経営メッセージや社内ナレッジに触れられることに驚きました。リモートワーク環境でも、会社と人同士の距離感がぐっと近くなった感覚です。
各組織や個人が戦略実現に向けて、よりシステマチックにつながれるように支援する施策が増えた気がします。背景として、コロナ禍の間に、個人が自律的に柔軟な働き方を実践できる仕組みや、組織としてそのマネジメント手法が進化したのだと思います。
― 最後に、今後の展望を聞かせてください。
宗藤:従業員のCan(活かしたい強み)を土台として合理的に経営を考える企業も多いですが、リクルートはそれだけではありません。従業員一人ひとりがこれだけWill(自身の主体的な意志)や好奇心をもとに構想したり発露できる会社ですから、リクルートグループ横断のナレッジマネジメントを担う身としては、その実現力を高めるために、思考プロセスやケイパビリティの開発の支援をしてきたいと思っています。
何よりこれまでも自分自身が好奇心を軸にやってきたので、それを仕組みにして、組織に恩返ししていけるといいなと思っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 宗藤和徳(むねとう・かずのり)
- 株式会社リクルート スタッフ統括本部 人事 リクルート経営コンピタンス研究所 コンピタンスマネジメント開発部 部長
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2000年に新卒で印刷会社に入社し、広告代理店を経て、2007年にリクルートに入社。Webマーケティングの事業横断組織にてスマートデバイス対応の推進、R&D 部⾨で大手IT企業とのグローバルアライアンス推進などを歴任。また、12年にわたり、リクルート経営コンピタンス研究所を兼務し、社内のナレッジマネジメントや経営陣の課題言語化、意思決定を⽀援。2021年に日系アパレル企業に転職し、2023年5月にリクルートに出戻りで再入社。趣味は、猫と遊ぶことと、週末にロードバイクで出かけること