リクルートの部長からプレイヤーに転換。キャリア選択の理由
リクルートで組織長を経験した後、プレイヤーに転換した大迫吉徳。社内報でそのキャリアに対するインタビュー記事が掲載されると、大きな反響が。その振り返りと社内報に掲載されたキャリアヒストリーを紹介します。
「社内報に初めて感想を送ります」という声も。
― リクルートの社内報『毎朝リクルート通信』で大迫さんが登場され、キャリアヒストリーをお話ししてくれましたね。社内報には読んだ従業員が感想を送る機能がありますが、社内からたくさんの反響があったのですか?
大迫吉徳(以下、大迫):自分なんかが登場して良いのかと、迷いながらインタビューを受けましたが、掲載後は普段接点のない方からもメールで直接、メッセージをいただきました。
「部長職になった後、もう一度プレイヤーになる選択肢があるということをこの記事で初めて知り、またその選択を行える大迫さんの覚悟や、リクルートの自由度に驚いた。自分が持っていた固定観念が覆りました」
「マネジメントを経験した後のプレイヤー経験は決してキャリアとして後退ではないと、とても前向きな気持ちに。柔軟にキャリアを考えていきたいです」
…と、私のところに届いた声には少なからず「驚き」が含まれていました。部長を経験した後にメンバーに戻るような働き方が、リクルートでできること。またそれを私がポジティブに捉えていることに驚く声が多かったです。
― 確かに、リーダー、マネジャー、部長と役職を上げ続けることが理想のキャリアだ、という自分の思いこみに気づかされた社内報でした。大迫さんは届いた一連の感想を読んで、どのように感じましたか?
大迫:本来キャリアは一人ひとり、それぞれ違っていいのだと思います。ですが、「あるべきキャリアイメージ」を基に自己規定してしまって、苦しんでいる人も多いのかもしれないと思いました。例えば、役職は上げ続けるもの、卒業(退職)の理由は独立・起業が格好いい、というイメージを持つ人もいるでしょう。無意識に自分もそのロールを演じなければと思うから、リクルートで長く働き続けることや、ロールチェンジなど役割を変えることに居心地の悪さを感じる人もいるのではないかなと。
― なるほど、本来多様なはずのキャリアの選択肢を、自分で狭めていることもあるのかもしれませんね。後悔のないキャリア選択をするために大迫さんが日頃から心掛けていることは何ですか?
大迫:そうですね…、自分の専門性や強みをメタ認知して言語化し、たゆまず磨き続けることでしょうか。私も部長をしている時に先輩に「社外でも活躍できるように、自分の経験やスキルを磨いたほうがいい」という趣旨のことをボソッと言われたんです。そのおかげで、マネジメント経験だけでなく、自分が社外に出た時に市場価値の高いビジネススキルを磨く必要があるなと、改めて危機感を持つことができました。
― 会社でのポジションや役職に縛られず、市場価値を意識して研鑽し続けることが、望むキャリアを選ぶために必要なことなんですね。ありがとうございました。では、改めて大迫さんのキャリアのお話を伺いたいと思います。
もともとは現場志向だが、マネジメントも経験してみたくて組織長に
― リクルート入社前はどんなことをされていたのですか?
大迫:麻雀と釣りばかりの学生生活を送っていました。今につながることだと、文芸誌の編集をしたり、ちょうど90年代後半にインターネットが流行りだした頃には自分のホームページで好き勝手なことを書いて、雑誌の取材を受けたりしたこともありました。ものごとの言語化が好きで比較的得意なほうだと自覚して、クリエイティブに携わりたいと考え、広告業界を志望。大学卒業後の2000年、リクルートグループの制作会社(現リクルート 制作・ソリューション推進室の前身)に入社しました。
キャリアの概要としては、大部分を企業のお客様の採用課題に向き合うHR(Human Resources/人材)領域の制作・ソリューション組織で過ごし、2012年から6年間はマネジメントも経験。うち後半の3年間は部長職を務めたのち、今はひとりのプレイヤーとしてHR領域の各種プロジェクトなどに携わっています。
― どのような経緯でプレイヤーから管理職を目指すようになったんですか?
大迫:20代の間は、企業のお客様一社一社の課題に向き合って、いかに良いアウトプット(広告)をつくるかが、最大のやりがいでした。マネジメントに挑戦したいという気持ちはほとんどなく、マネジャー相当のミッショングレード※(役割等級)になってからも「クリエイティブディレクター」という立場で、若手メンバーをリードしながら現場に立ち続けていたんです。
※リクルートでは年齢や入社年次、経験、性別に関わらず、任される職務に応じて等級(グレード)を決定する
しかし、30歳前後で、一度マネジメントをやってみたいと思うように。まだ先のキャリアは見えていなかったけれど、将来的にどこで何をするにしても、リクルートという比較的大きな規模の会社のなかで、組織運営をする経験はやっておいて損はないと思ったんです。マネジメントに前向きに挑戦したい思いを当時の上司に告げると、「ちょっと意外だね」と驚きつつも、マネジャーに任用してくれました。
多様なキャリアパスがあっていい。より顧客に近い場所で、理論と実践の両輪を回し続けたい
― 管理職になったからこそ経験できたこと、挑戦できたことは何ですか?
大迫:管理職を経験して良かったと思うのは、自分のいる組織に属する一人ひとりの多様な価値観や事情を理解する機会に恵まれ、制作パートナー企業を始め社外の方々との接点が増えたことです。それぞれの多様な個性・考え方を尊重し、いかにして組織全体の価値を高めていくかを考え続けるのは、組織長ならではの機会だったと思います。また、部長時代は所属していたリクルートコミュニケーションズ(現・リクルート)で男性育休制度が拡充された時代でもあり、私自身も1ヶ月の育休を取得するなど、組織長として新たなチャレンジに乗り出していく醍醐味を味わうこともできました。
ただ一方で、経験してみたからこそ「やっぱり自分はマネジメントよりも、顧客接点の最前線で新しい価値創造のために試行錯誤をするのが向いている」と再認識できたんです。このままマネジメントを続けるよりも、現場の第一線に戻るほうが自分の価値も高められるはずだと、覚悟が決まりました。
― メンバーに戻る選択をした時、あまり悩まず決断できたのでしょうか? 大迫さんのなかで何かマインドセットが変化したのでしょうか?
大迫:もちろん、部長からプレイヤーに戻ることに迷いが全くなかったかといえば嘘になるし、周囲の人たちからの見え方を気にする気持ちもゼロではありませんでした。でも、リクルートでは管理職に登用されることを「昇格・昇進」ではなく「任用」と言いますよね。これは役職は役割でしかない、という象徴だと思いますし、自分の役割が何かを理解し、他人の役割を理解・尊重して、価値を生み出していくようなマインドセットに変わっていたような気がします。部長の役割は自分以上に価値を発揮してくれそうな人に託し、自分が部長の仕事以上にもっと価値を発揮できる役割に挑戦しようと思えたんです。
2018年4月から主にHR領域のソリューションプランナーを務めています。その時々でさまざまなプロジェクトに携わっていますが、一貫しているのは、新しい理論を取り入れ、現場で使えるものに昇華させていくこと。例えば、2018~2019年頃は、従業員体験(Employee Experience=EX)といった概念や、リクルートワークス研究所が発表していたFESTimeリレーションという考え方を実際のお客様にご提案することに取り組みましたし、本当に実効性のあるBtoBマーケティングとは何か? ということも探求しています。
広くアンテナを張って見つけた情報のなかから価値を見出し、現場に適用できないかトライすることで、サービスの先にいるお客様や周りのメンバーが喜び、ポジティブな気持ちになれるように取り組んでいます。
“飽き性”の自分には絶えず変化を続けるリクルートの環境がちょうど良い
― プレイヤーとしての仕事に、組織長の経験は活きるのでしょうか?
大迫:再び現場で顧客接点を持つようになると、一度マネジメントを経験しているからこそ見えてきたものがあります。例えば、企業に何かを提案する際、目の前の担当者や決裁者だけでなく、さらに上位レイヤーの人がその提案をどう捉えるのかを想像しやすくなりました。人材採用を提案して人を増やせば現場は嬉しいかもしれないけれど、人件費で利益を圧迫すれば経営計画は達成できない。現場だけでなく経営層の考えにまで思いを馳せる力は、自身がマネジメントを経験していなかったら、培われていなかったかもしれないと思います。そういった意味で、現場志向の強い後輩には「もしチャンスがあるなら、1回はマネジメントも経験してみたら?」といろいろな機会に触れてみることをアドバイスするようになりました。
― 大迫さんは副業もされていますが、社外ではなくリクルートで働き続ける選択をしたのはなぜなんでしょうか…?
大迫:私の周りでは自分の得意なこと・やりたいことを追求するために卒業して独立・起業する同僚や先輩たちもいたのですが、私が次なるキャリアをリクルート内に見出したのは、失敗を恐れず新たなチャレンジがしやすいからです。もし独立していたら、事業で失敗するリスクを恐れて、自分の苦手なことは極力やらず、過去の自分のスキルの延長線上にある仕事ばかりを選んでしまっていた気がします。それは、元来飽き性の自分にとっては退屈な未来に思えました。でも、リクルートというアセットを活用し、自分の意思や経験を生かしたチャレンジができると思った。そういう姿勢を応援してくれるように感じていましたし、チャレンジから得られる失敗を糧に、成長し続けてきた風土の中でなら、自分のやってみたいことに挑戦ができる気がしたんです。
リクルートのように絶えず変化を続けている環境は、めったに出会えるものではないと思います。組織が変化すればするだけ、働く私たちにとっても新たな機会が生まれます。現に私が長年携わってきたHR領域は、まさに変革期を迎えています。そんな環境で価値を発揮することも、私にとって刺激的な挑戦のひとつだと捉えています。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 大迫吉徳(おおさこ・よしのり)
- 株式会社リクルート クライアントサクセス・制作ソリューション統括・ソリューション推進室 HRソリューションプランニング部 HRソリューション推進1G
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大学卒業後、2000年に入社。各領域のWeb制作や住宅領域の制作ディレクターを経験したのち、HR領域の制作ディレクターに。2012年よりマネジャー、2015年より部長を務める。2016年に1ヶ月の育休取得。2018年より再びプレイヤーとして活動。現在は主にHR領域のプランナーとして「販促領域とHR領域の横断プロジェクト」や「自治体との協業による地域全体の採用支援」、「中途採用領域における、大手クライアントの先行事例開発」などを担当