『Airウェイト』、『Airリザーブ』の“待てないふたり”が挑む「待ち時間解消」方法とは?
コロナ禍の「3密回避」が後押し
事前予約と受付管理システムに脚光
コロナ禍で、3密を避けるための入場制限や店内の席数限定による事前予約制の導入が増えた。あるいは、スマホで待ち時間や順番をチェックし、入店可能な時刻まで他のことをすることができるウェイティングサービスを導入する店舗も増えていった。無計画にふらっと訪れ、行列に長時間並んだり、パンパンの病院の待合室で待ち時間を過ごしたりする「これまでの当たり前」も大きく変化した。
「待つ楽しみを知っている国民性」、「待つことに耐えられる国民性」というイメージもある日本人。しかし、既にスマホひとつで「待たなくてよい」ことを知っている若い世代はもちろん、コロナ禍を経て全世代で「待たなくてよい体験」をした人も増えている。
リクルートが提供している順番待ちの、受付管理システム『Airウェイト』プロダクト担当者 上原 渉と、予約システム『Airリザーブ』プロダクト担当者 蔦田慎史の“待てないふたり”が、待ち時間ゼロに近付く未来について語り合いました。
背景にある「待てないカスタマー」の実態。
スマホひとつで待ち時間回避のサービス開発は天職?!
―とにかく「待つのが嫌い」というおふたりですが、「待ち時間」はどう回避していますか?
蔦田:昔から待てなくて、電車を待つことすら無理(笑)。待つくらいなら、歩きや自転車で移動しちゃいます。ランチも12時に行くと混んでしまうから、11時にはランチに出ていました。普通に出社しているとお腹すかないんで、7時に出社していました。
上原:それは信念を貫いていますね(笑)。僕は、体調が悪い時に病院が混んでいて長時間狭い待合室で待ち続けた時のキツかった思い出があります。炎天下で人気店や話題の店に並んでいる人を横目に、自分は混んでいない店で済ますことが多いです。
カスタマーの声はSNSなどを通じて毎日拾っていますが、「行列待ちしているうちに期待値が上がり過ぎて、実際はがっかりした」とか、「予約せずに美容院に飛び込みで入ったら、順番待ち受付システムが使えたため、空いた1時間で一回自宅に帰ってご飯を食べてから出直せた」なんて話もあり、皆それぞれ、待つことでのデメリットを感じているのだなと思いました。
これは友だちの話ですが、奥さんの機嫌を取るために連れていったジュエリーショップが入店制限されていて、長時間行列に並び、余計にケンカになったという話を聞きました。「待たなくてよい世界」が創れたらいいなと、身をもって感じています。
―その「友だちの話」は上原さんのお話ですよね?
上原:違います!ということにしておいてください(笑)
消費者と店舗や企業の双方に拡大する好事例
待ち時間ゼロの「神体験」で、もう元には戻れない?
―カスタマーにとって、コロナ禍前は当たり前だった、予約なしで店に飛び込みで入ったり、行列に並んだり。それはそれで待つ楽しみもあったかもしれませんが、コロナ禍でカスタマーの行動や感覚が変わってきたことを実感されていますか?
蔦田:多くの方には「待つのは仕方ない」という意識がまだ根強いと思います。
ただ、コロナ禍で「3密回避」を目的にオンラインサービスが多くの人に浸透しているのを実感しています。銀行や病院、歯科医院などでも入店制限や事前予約、順番待ち受付なども当たり前になってきているので、あらゆる世代の方の意識や行動が変化しているような気がします。60代の自分の母親も「銀行の事前予約は、最初は億劫だけど、やってみたら待たなくてよいのでラクだった」と話していました。
―緊急事態宣言や感染症まん延防止等重点措置も解除され、この先訪日外国人が観光地に戻ってくれば、混雑や行列がまた当たり前に戻ってしまうと思いますか?
蔦田:確かに街は、人で賑わうようになりましたね。ただ、コロナ禍で待たずに済む経験をした人は、もうあの頃には戻りたくないという人もいるかもしれませんね。
上原:ぼくも蔦田さんと同感です。テーマパークや人気店も入場制限をしたことで、コロナ禍では事前予約がマストになりました。予約すること自体を煩わしく感じた方々でも、実際に入場後や入店後には、待たずにゆったりと時間を使える「神体験」を経験した方は多かったのではないでしょうか。もう、以前のように行列に並び、時間を無駄に過ごしていた生活には戻れない、と思う人たちは増えていく気がします。
―店舗や企業(以下、クライアント)の皆様もコロナ禍で変化があったということですね?
『Airウェイト』や『Airリザーブ』の活用先はどのような拡がりを見せていますか? 意外な使い方などありましたか?
上原:飲食店で順番待ち受付システムなどを体験し、待ち時間に別のことができたので、便利だったから、病院でも入れて欲しい…など、カスタマー側からさまざまな業態のサービスに要望が入るようになったようです。本当にありがたいことに、今、幅広い事業者の方から『Airウェイト』、『Airリザーブ』のご要望をいただけるようになりました。
蔦田:クライアントの方々からのお問い合わせから、僕らも「こんな使い方があるんだ」と驚いています。
『Airリザーブ』の場合、最初は飲食店や銀行での導入事例が先行していました。最近では、パーソナルジムや予備校の自習室、病院、結婚相談所や結婚式場などでも導入されています。
上原:『Airウェイト』では、例えば、倉庫業のトラックの荷積み・荷下ろしの順番待ちなどでもご利用いただいています。それと、面白かったのは、フリーアドレスのオフィスを持つ企業さんがオフィスの席予約に使いたいというものや、役員の捺印待ちの行列管理に使いたいという話もありました。
ー捺印をデジタル化したいところですが、そこはまだまだ過渡期ですね(笑)
デジタルネイティブの若者からシニア層まで
誰もが使いやすいサービス開発の課題とは?
―カスタマーとクライアントの双方に拡がりを見せたことで、サービス開発上どのような壁や工夫が求められるようになりましたか?
蔦田:病院や銀行などで導入され始めたことで、普段あまりITサービスを活用していないシニア層にもご利用いただきやすいサービスにしていかなければならないという使命を感じるようになりました。例えば、文字は老眼鏡を掛けなくてもはっきり見える大きさや色に変える必要があります。また、一般的なネットサービスでは当たり前の、「戻る」「進む」などを表す記号やマークが通用しないケースもあります。
自分たちがユーザ―代表ではないんです。だからこそ、「共感力」が必要だと考えています。
上原:幸いクライアントの皆様が、カスタマーの声を集めてくださっているので、くまなく目を通しています。使いづらい、といったサービスに対する不満の声から、高齢者のニーズまで共感力と想像力をフル活用して理解に努めています。
一方で、日頃スマホアプリやネットサービスを使いこなしているカスタマーにとって、分かりづらくなってしまったり、使いにくくなってしまったりしてはいけない。改めてユニバーサルサービスを開発することの難しさを実感しています。
だからこそ、誰にでも使いやすいサービスを実現できたら世界を変えられるかもしれない。そう思うとワクワクします。
“待てないふたり”の描く「待たない未来」
どんな便利な世界が待っているのか
―最後に「待てないおふたり」に、今後、開発に携わっているサービスを通じて、どのような未来を創っていきたいと思っているか聞かせてください。
蔦田:僕は「待てない」だけではなくて、「先の予定にも縛られたくない」タイプです。半日先の予定を決めるのもいや。今から行くなら、2時間前だけど予約しておこう、という気になります。もっというと、ふらっと店まで行って、待ち時間の順番待ちがサクッとできて、その待ち時間に「○○が今なら空いているから待ち時間にできますよ」「昨日できなかった○○をこの時間にしておいた方がよいですよ」、などとリコメンドしてくれるともっと嬉しい。『Airリザーブ』と『Airウェイト』を組み合わせれば、できるんです。
―それ、周りの人間からすると、蔦田さんの行動が読めなくて大変そうですね(笑)
上原:僕は、「無駄に待つ」という行為自体をなくしたいと思っています。
クライアントのお話を伺っていると、「理想の店づくり」の青写真を持っている方が多い。一人ひとりのニーズに合わせて、きめ細かく時間をかけて接客したい店舗では、カスタマーに来店前に予約してもらうスタイルが向いていますね。一方、カスタマーもいろいろで、蔦田さんみたいに計画的じゃない突発的な行動を好むカスタマーは(笑)、事前予約ではなく、インスピレーションで飛び込んだお店で、順番待ちの受付システムを使うほうが適している。待ち時間にも選択の幅があり、個人や店舗に合った時間の有効活用を支援できたらと考えています。
そんな自由にスタイルを選択できる世界の実現に向けて、サービスを支持してくださるカスタマーがひとりでも増えるように、あるいは1社でも多くのクライアントに導入していけるように、私たちも頑張っていこうと思っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 上原 渉(うえはら・わたる)
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株式会社リクルート プロダクト統括本部
『Airウェイト』プロダクト担当者SIerとして多くの企業の業務システムやアプリなどの受託開発を手掛けた後、2016年にリクルート入社。『Airレジ』『Airペイ』『Airシフト』をはじめとしたリクルートの業務・経営支援サービス「Air ビジネスツールズ」全体のセールスエンジニアとして、顧客と開発チームを橋渡しする役割を担う。2018年、『Airウェイト』専属のプロダクトマネジャーとして事業企画を担当し、2021年に現職。休日は完全なインドア派。漫画やサブスクの動画配信などを観ながら家族とゆったり過ごしている
- 蔦田 慎史(つただ・しんじ)
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株式会社リクルート プロダクト統括本部
『Airリザーブ』プロダクト担当者高校時代から乗馬競技で活躍し、高校卒業後は大阪の乗馬センターに勤務しながら4年間プロの馬術選手として活動。その後、米国UCLAに進学し、経済学とコンピュータサイエンスの学位を取得。2016年にリクルート入社と同時に、関連会社ブログウォッチャーにアサイン。位置情報データの商品開発、販売などを手掛け、17年技術開発グループの組織長を経験。21年『Airリザーブ』事業企画を手掛け、同年より現職。休日は時間があれば近所のビーチに通う