コロナ禍、デジタル化、Z世代…変化する生活者の行動と考え方に迫る『よのなか調査』始めました
リクルートから2022年9月に発表した「よのなか調査(生活者編)第1回」に続き、第2回調査結果を2023年2月に公開。コロナ禍、デジタル化、Z世代、などさまざまな社会変化のなかで、生活者の意識や行動の実態、変化について調査しています。担当者であるリクルート調査室 相島雅樹と富井眞理に話を聞きました。
・社会変化やライフステージで変わる生活者の意識。『よのなか調査』企画の背景とは?
・デジタルサービス浸透の兆し。 激動の2022年の「生活者意識の実態」
・今後の展望~これからについて話そう!「調査」が創る未来
社会変化やライフステージで変わる生活者の意識。『よのなか調査』企画の背景とは?
―幅広い生活者の行動や考え方を調査したのが『よのなか調査』ですね。その他にリクルートでは、事業領域ごとにも調査を実施し発表をしていますね。
相島:リクルートには各業界に特化した調査組織も複数あります。私も、住宅領域の調査・研究組織であるSUUMOリサーチセンターにも所属していて、リクルート調査室を兼務しています。
事業領域ごとの調査組織で実施されている調査は、各事業でリクルートのサービスを利用しているカスタマーやクライアントの声を基に企画されているものが多いです。省庁や公的機関などの発表している公的調査だけではつかめない、カスタマーの変化の兆しやアクションの背景にある意識やインサイトを発見しているものがたくさんあります。
リクルートから発信されている調査結果は、カスタマーの動向や事業全体の変化の兆しを把握することもできると、各業界のさまざまなステークホルダーにご活用いただけているようです。一方、各事業領域を横断した調査や、リクルートが手掛けていない事業領域も含めた調査があまりなかったため、各領域をつなぐ横断調査があれば良いと感じていました。
―今回2回目の調査結果を公開した『よのなか調査(生活者編)』ですが、企画の背景を教えてください。
富井:ここ数年で社会は大きく変化しています。例えば、コロナ禍のなかで、スマホ決済を利用する人が増えたり、ネットを介した交流が増えたり、オンライン会議も以前より一般的になりました。金融のデジタル化やオンラインサービスなどに対する生活者の意識も変わりつつあります。また、世代間の違い、あるいは同じ年代でも、時代に応じてライフスタイルが異なっていることなども顕著になっていると感じていました。
リクルートでは、毎日の生活や人生のターニングポイントに関わるサービスを多数展開し、一人ひとりの選択を支援できるようなサービスを目指しています。変化の激しい社会全体をより複合的な視点で、俯瞰的に把握できたら、より良いサービス提供につなげられるのでは、と思っていました。そこで、リクルートの事業とは直接関係しない領域も含めたより広い“よのなか”における生活者と事業者の“行動・考え方”を調査し、社会構造の変化を明らかにすることを目的とした、新しい試みに挑戦することにしました。
相島:先ほどお話ししたように、事業領域ごとにカスタマー調査を発表してきましたが、領域横断で社会全体の動向や変化を捉えた調査に挑戦する意味も見えてきたと思っています。
よく、「うなぎの生態」に例えるのですが、ひと頃までは、地域ごとのうなぎの漁獲量は分かっていても、うなぎがどこで産卵しているのかがよく分かっていなかった。しかし、持続可能な生態系には、うなぎの仔魚がどこでどのように産まれているかの把握も重要です。同じように、進学選択、就職・転職の選択、住宅購入の選択…などそれらの人生の選択の核が、いつ、どのような理由でその人のなかで生まれるのかを把握することが将来のサービス開発に欠かせない、という思いがあります。
調査結果からつかんだ小さな兆しから、生活者の変化や考え方、社会のありようをイメージしながら、生活者と対話し続けていくことで、より、生活者のニーズに寄り添うサービスの開発にも役立てていけるのではないかと考えています。
デジタルサービス浸透の兆し。激動の2022年の「生活者意識の実態」
―これまで2回実施してきた『よのなか調査(生活者編)』の結果で、おふたりが気になっている「生活者の変化の兆し」はありますか?
富井:個人的には、年代層別のデジタルへの受容度が印象的でした。特に10~20代のネットでの動画視聴(週1以上)が約9割、QRコード等を使ったデジタル送金の利用経験が10代が5割、20代が約4割と予想よりも高かったこと。一方、60代のシニア層では、ネットバンキングの利用率が約6割と高かったですね。若い世代がスマホを介して生活サービスを使いこなしている様子が見て取れます。
相島:「変わる兆し」と「変える兆し」があるとすると、私は「変える兆し」に興味があります。第1回目の調査では、ライフイベントとなる「行動(アクション)」において、その行動を取ろうと思う「思い立ち」と、その行動が完遂に至る割合を調査してみたところ、思い立ちから何かしらの行動には至るものの、完遂に至りづらい行動群が浮かび上がってきました。転職、自分のキャリアアップ・仕事のための勉強、副業の開始、住まいのリフォームなどがこれにあたります。こういう結果を見てみると、新たなサービスが生まれてくる余地がまだまだあることを感じました。
―『よのなか調査』はどのようにリクルートの社内で活用されているのでしょうか。
相島:まだ開始したばかりの調査なので検証中の部分もありますが、各領域の調査・研究との接続や、サービス開発の検討などの際に参考になれば良いと考えています。この『よのなか調査』では、リクルートのカスタマーに限らず、広く生活者の分布やマインドも把握できる設計になっているため、社会を広く俯瞰的に捉えることにも役立ちそうです。
例えば、私の所属しているSUUMOリサーチセンターでは、住宅購入検討者および実施者を対象にした調査では、購入検討した理由は分かるのですが、なぜ今の住まいに不満があると回答していても、住み替えようとは思わないのか…についてはシャープな結果が得られにくいです。そこで、『よのなか調査』の結果と掛けあわせて分析をしていくことで、自宅に不満はあっても住み替えの検討には至らない理由はどんなところにあるのか、住宅購入以外の本人や家族のライフイベントとの関係性などに気づくことができるのではないかと考えています。
富井:今、この調査結果の社内共有を進めています。カスタマーの実態を俯瞰して知りたいという各領域の開発の担当者、人事、サステナビリティ担当者などとも会話しています。
―社内での調査結果の共有後には、どのような声が上がっていましたか?
富井:改めて、データで生活者のありようを俯瞰してみることで、発見や驚きがあったという声が出ていました。DEI(Diversity Equity and Inclusion)に関する情報に多く触れ、社会をフラットに理解していたつもりでも、「自分のなかのアンコンシャスバイヤスが残っていることに気づけた」、「身近なコミュニティの固定概念を常識だと思い込んでいたと気づけた」、「データは一定の事実。真摯に向き合っていきたい」、などという意見もでていました。改めてデータの“チカラ”を感じました。
リクルートは、旅行、美容、グルメなどの生活情報や、進学、就職、結婚などライフステージにまつわるさまざまな領域にサービスを展開しています。そして各サービスは、カスタマーでつながっているともいえます。例えば、高校時代に『スタディサプリ』を使っていたカスタマーが、旅行を予約したり、美容院も利用する。その後も就職活動や住まい探しなどさまざまな人生のステージでサービスを利用してくださいます。こうしたカスタマーのライフステージごとに変化する意識やニーズには、どのような領域を担当する従業員も感度高く、話を聞いてくれます。時には、仕事を忘れて、いちカスタマーとしての質問も受けたりします(笑)。
サービス開発や展開に携わりながら、従業員一人ひとりもカスタマーとしての感覚を忘れないことはとても大切なことだと感じています。
今後の展望~これからについて話そう!「調査」が創る未来
―おふたりは「調査」が好きですか? 「調査データ」にはどのようなチカラがあると思いますか?
相島:調査データは、「思考停止しないための燃料」だと思っています。「自分にはよく分からないことだから、考えるのを止めよう」と、人は不透明なことに対して思考停止しがちです。調査データによって、断片的だとしてもひとつの事実を把握できると、思考を前に進めるきっかけになると思うのです。
例えば、仮に「旅行によく出かける人は、人間関係が豊か(人と頻繁に会い、多様な人と会っている)」という調査結果があるとします。このように回答する人たちに特有のプロファイルはあるか? 自分の周りに該当する人はいるか? 例えば、今期の連ドラの登場人物のどういうタイプの人か? など、ひとつの調査結果から、その裏にあるイメージを具体的に想像していきます。こうして思考し続けていくと、社会で起こっているさまざまな事実や、他の調査結果とのつながりが見えてきます。「社会」、「生活者」といった最初は茫漠としていた大きなものが、次第に像を結び、仮説が浮き上がってきます。そういう意味では、自分は「調査」が好きです(笑)。
富井:確信はないけど、思っていること…ってありますよね。こうしたモヤモヤを解消して前に進む力を与えるのが、調査のチカラだと思っています。
先ほど、調査結果の社内勉強会参加者から、「データに真摯に向き合いたい」という声が出たとご紹介しましたが、まさに、データに向き合うことで、課題認識を深めることができたり、仮説を深めて施策の方向性に自信が持てたりもします。そして「もっと、こんなことは分かりませんか?」という新たな発想や探求心につながる瞬間もあります。まさに調査が、誰かの「モヤモヤを解消」したり「前に進む力」になれた時に、調査って楽しいな、今度はこんな調査をしたいな、と私もワクワクした気持ちになれますね。そういう意味では、私も調査が好きなのかもしれません(笑)。
もうひとつ、多様な人たちが目線を合わせてチカラを合わせるきっかけを作るのが「調査」だと思っています。リクルートはこれまで生活者の毎日の生活や人生の大切な節目の選択に寄り添うサービスを目指してきました。一方、生活者はデジタル化、グローバル化など、情報と選択肢が爆発的に増えると同時に、今、目の前の選択が先々どう影響するのかも考えられるようになり、結局、何を選択したら良いのか迷ってしまっている人も増えているのではないかと感じています。
事業領域ごとに情報提供をしてきたリクルートのサービスがつながって、カスタマーに寄り添うことができれば、より良い生活や人生の応援団になれるのではないかとも思っています。カスタマーが納得できる選択ができるように、リクルート全領域が力を合わせて応援できれば良いと思っています。こうした領域を横断した生活者を俯瞰して理解できる調査が、各サービスをつなぐための一助となると嬉しいと考えています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 相島雅樹(あいじま・まさき)
- リクルート SUUMOリサーチセンター 研究員、調査室
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2012年に株式会社リクルートに入社し、『SUUMO(スーモ)』や新規事業のプロダクト開発に従事。2018年よりSUUMOリサーチセンターへ。不動産テックなどを中心に調査・研究を担当。過去に住民実感調査や賃貸契約者動向調査、『住まいの売却検討者&実施者』調査を担当。20年調査室を兼務開始。
- 富井眞理(とみい・まり)
- リクルート 調査室 、サステナビリティ推進室、HRエージェントDivision 顧客ロイヤルティ推進部
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大学卒業後、メガバンクに入行し、CSR推進、協調融資組成などに従事。2013年にリクルートに入社し、リクルートエージェントサービスの営業企画として、業務推進、組織長育成、要員配置、顧客価値経営推進などに携わる。2018年より全社のNPS調査を担当し、2021年より調査室へ。現在、7歳女児の子育てと仕事を両立中