『Airレジ』から10年。「商うを、自由に。」の実現へ、全国の事業者と歩み続ける
『Airレジ』が誕生して、2023年11月で10年目を迎えます。予約・受付管理、会計、決済から人材採用、シフト管理、資金調達まで、事業運営のアナログな業務にかかる、手間、時間、コストを軽減できる業務・経営支援サービス群として、 今では17サービス(2023年4月時点)を揃えるまでに進化した「Air ビジネスツールズ」。
10年前の小規模店舗では、レジスターが主流。POSレジアプリの認知度は低く、利用している店舗も非常に少なかった状況で 、Airレジの提供を開始 。今では、多くの事業者の方々にご利用いただくまでになりました。
今年5月には、そんな『Air ビジネスツールズ 10周年ブランドサイト』がリリースされました。サイトの企画・プロデュースをしたAir ビジネスツールズ ブランド担当の野村恭子が、手間、時間、コストを減らすという、いわゆる「店舗DX」の先にある、事業者の方々の「本当にやりたかったことの実現」にこだわり続けてきた10年間を語りました。
『Airレジ』誕生! 気づいたらブランド担当に?!
新サービスのブランド担当の苦労とは?
全国の事業者と目指す「商うを、自由に。」~心に残るさまざまな事例
17サービスを統括するブランド担当の今
10周年ブランドサイトに込めた思い~未来に向けて
『Airレジ』誕生! 気づいたらブランド担当に?!
―「Air ビジネスツールズ」は2013年の『Airレジ』の誕生から始まりました。野村さんがサービスに携わるようになった頃の状況や、野村さん自身が感じていたことをお聞かせください。
野村:私は新卒でリクルートに入社して長いので、だからこそリクルートの良いところも悪いところもよく分かっているつもりです。当時、『じゃらんnet』や『ホットペッパービューティー』などの販促系Webメディアのアライアンスを担当していた私に、Airレジのアライアンスを手伝って…と、サービス開始から間もなく声がかかったのが、私がAir ビジネスツールズに携わるようになったきっかけです。改めてその事業戦略や実現したい世界、そして今後の構想について当時の事業責任者から話を聞いた時にまず思ったのは、「これは、事業者の現場とリクルート、両方に大きな変化を起こす事業になりそうだ」ということ、そして「これから相当タフな道のりになるだろうな」ということでした。
―「タフ」と感じたのは?
これまでリクルートが60年以上にわたるメディア事業で培ってきた強みが活かしにくいと思ったからです。その理由としてひとつめは、Airレジをご利用いただきたい全国の事業者の数が莫大であること。リクルートの強みは営業である…と考える方も多いと思いますが、日本全体で中小企業者は約453万事業所※(※2022年6月末時点でマッチング&ソリューション事業が日本国内で提供しているSaaSの潜在顧客事業所数の当社推定。総務省・経済産業省「平成28年経済センサス-活動調査結果」及び中小企業基本法における中小企業者の定義等に基づく中小企業者の事業所数を潜在顧客事業所数)。お客様の数が多すぎて、人が介在する営業だけではとても追いつかないだろうと思ったこと。
ふたつめが、得意なマーケティング手法が活かせないかもしれない、ということでした。利用者を増やしていく方法は、既存事業とは全く異なるだろうと推察しました。『じゃらん』や『SUUMO』のように、ブランド名の認知もサービスカテゴリの認知も高く、さらにそのサービスを使うことで得られるベネフィットも既に広く知られているサービスでは、検索した「見込み顧客」を強みのあるネットマーケティングで効率良く獲得していける。しかし、Airレジは、ブランド名はおろか、サービスカテゴリもサービスの内容もほぼ知られていない。使うことで得られるベネフィット、つまり「レジを替えたら、自店舗の業務効率化や売上拡大につながる」などということは、(その時点では)想像すらされていない。となると、ネットマーケティングで利用者を増やしていく方法は容易ではなさそうだな、と感じました。このサービスが社会の「当たり前」になっていくまでには、ある程度の長い道のりになりそう…、と感じたことを覚えています。
このようなケースのブランディングでは、単にブランド名だけをやみくもに認知させるだけでなく、「このサービスをご利用いただくことで短期的に、中長期的にどのようなベネフィットがあるのか?」からカスタマーにお伝えする必要があります。シンプルでカンタンで使い勝手がいい、利用することで時間、コスト、手間が軽減される。それは、もちろん私たちが提供するサービスの「機能的な価値」です。でも、その先の真に感じていただきたいベネフィットは、テクノロジーの力で創出された時間、コスト、そして心理的なゆとりを、事業者さんが「もともとやりたかったこと、本来注力したかったこと」に充てることができる状態、なのです。 まさに、煩雑な業務から事業者の方々を解放して「商うを、自由に。」できる。こうした新たな世界観を広く伝えて、共感してくださる方を増やしながら市場自体を創っていく「ブランド」の構築が急務だと感じました。
ただ一方で、私自身は、このAirレジが目指す新たな世界観、いわば次世代の「当たり前」という世界観にワクワクしてしまって。とくに根拠もなく、なぜか「必ず成功する、成功できる」と思っていたんですね。当時本気でそう信じていた人は、当時の事業責任者と私以外にごく数人くらいだったのではないかと思います(笑)。
当時は5~6人から始まった、エンジニア中心のチーム。アライアンスの手伝いから始め、ブランドステートメント(ビジョン、ミッション、バリュー)の策定、初めての大規模イベント「Airレジ カンファレンス」の開催など必要だと思うことをどんどん手掛けているうちに、気づいた時には「ブランド担当者」になってしまっていました。
新サービスのブランド担当の苦労とは?
―そもそも“ブランド”とは何でしょうか?
Air ビジネスツールズのブランディングにおいて、苦労した理由はどんなことでしたか?
野村:“ブランド”はお客様への約束です。サービスの提供価値を分かりやすく、そして記憶に残る方法で一貫性をもって伝え、競合他社と混同されることなく明確に識別してもらえること。それが“ブランド”になっている状態です。ただ、Airレジの場合、先ほどお伝えしたように、今、ここにない市場を創る段階だったので、「ブランド構築」とひとくちに言っても、簡単ではありませんでした。“ブランド”は、ニーズとともに想起される状態が強い。例えば「お腹が空いた」というニーズが発生した時に、真っ先に思い浮かべられるブランド名は、ビジネス的に優位性がありますよね。Airレジというブランド名を、「売上を上げたい、コストを下げたい、スタッフの労働時間を減らしたい」というニーズとともに、想起されるようにしたい、と考えたのです。
Airレジは「POSレジアプリ」であり、今でこそ、それがどういうものなのかある程度知られていますが、当時は「POSレジアプリ」というカテゴリ自体の認知が非常に低かった。当時レジといえば、お金の計算と出し入れができるだけの一般的なレジスターか、機能は多いけれども、購入にもメンテナンスにも高コストの「高機能POSレジ」のイメージだったのです。
カテゴリが知られてないということはどんなニーズが満たされるのか分からないということであり、分からないものを人は欲しいとは思いません。そこで、まずは「レジをAirレジに替えるだけで、こんないいことがあります」を、リアリティをもって伝えることからのスタート。例えば、当時主流だったシンプルなレジスターでは売上管理ができず手書きの帳簿と併用する必要がある。一方、高機能POSレジではメーカーによっては200以上もある機能を誰もがすぐに使いこなすのは難しい。Airレジは操作がカンタンなのに、売上管理はもちろん売れ筋商品まで一目で分かるスマートさがある。つまり、レジをAirレジに替えるだけで、 売上アップの戦略も立てられる。しかし、当時は事業者の方々に利用経験や利用イメージがないなかで、こういった世界観を理解していただくのは本当に難しいことでした。試行錯誤していくなかで、「最も力があるのは、現在利用していて良さを実感してくださっている事業者さんの声。自分たちのことを自らで声高に喧伝するのではなく、事業者さんのリアルな声や実例でブランドを伝えていこう」と全国を走り回って事業者さんの実例を集めていましたね。
全国の事業者と目指す「商うを、自由に。」~心に残るさまざまな事例
―そんななかでAirレジのメリットを伝えるために、どんなことをしてこられたのでしょうか。
野村:ブランドのビジョン「商うを、自由に。」が、やはり全ての起点になっています。サービスのメリットを訴求する時につい「こんな機能がある」というところで終わってしまいがちなのですが、本当に大切なのは「その先」です。「大切だけれど、やらなければいけないアナログな業務」は事業の現場にはたくさんあります。私たちのサービスを使うことで、創出された時間やお金、そして心理的な余裕、ゆとりを、もともと思い描いていたことの実現に充てて欲しい。それが、自分自身の余暇の充実やリフレッシュでもいいのです。大切なのは、事業者さんそれぞれが、自分らしく、思いのままに、事業を、人生を営むこと。
事業者の方によって、何を大切にしているかはさまざま。私たちは、DXや効率化を一律に進めることが正しいとも思っていません。どんな状態が「商うを、自由に。」なのかは、事業者の皆様に決めていただくべきなのだと考えています。
例えば、こんな事業者さんがいます。「会計や決済はスムーズにしたいからAirレジやAirペイは使う。でも、顧客管理だけはアナログがいい。だって年末に名刺を一枚一枚見ながらお客さんの顔を思い浮かべて年賀状を書きたいからね」。デジタル化したい部分、アナログで残しておきたい部分、それは事業者さんが決めること。私たちが一律に「こうあるべき」を決めることはしたくないですし、そういう押し付けの一方的なコミュニケーションは、Airのブランドとして決してやってはいけないと考えています。 ビジョンの「商うを、自由に。」という言葉には、まさにそのような想いを込めました。
こうした私たちのスタンスや想いを伝えるにあたり、いつも本当に全国の事業者の方々に助けられてきたと思います。例えば、栃木県の梨農家では、直売開始に伴いAirレジとAirペイを導入していただきました。販売業務や売上管理の業務を効率化してできた余白で、もともと目指していた農業の組織化や経営に取り組まれました。また、島根県出雲市の神門通り商店街。シャッター商店街となってしまった商店街を盛り上げようと、地元で100年続く老舗和菓子店の方が先頭に立ち、商業施設「ご縁横丁」を開業。出雲の人気スポットとなった「ご縁横丁」では、Airレジ、Airペイを活用した業務負担の軽減、データ分析、キャッシュレス対応をすすめ、地域一体での魅力的なコンテンツづくりをされています。
Air ビジネスツールズを導入した「その先」のありたい姿を実現していくお客様の事例を通じて、Air ブランドのビジョン「商うを、自由に。」の世界観が世の中に少しずつ伝わっていっています。こうしたさまざまな事例をひとつずつ伝えていくことが、結果的にブランディングという意味でも大きな力になったと感じています。
17サービスを統括するブランド担当の今
―大変なことも多い10年間だったと思いますが、振り返ると、どんなことが実現できたと感じていらっしゃいますか?
野村:「実現できた」というよりは「できつつある」ことですが。ひとつは何と言っても利用してくださる事業者の方々が増えたことです。サービス開始4年目の17年に Airレジの導入事例集『レジは、Airレジ。』 を作った時には、まだ利用いただいている店舗を探すだけでもひと苦労で、見つけたら飛び上がって喜んだものでした。しかし、さらに19年には消費増税やキャッシュレス推進など国策に伴い、他社を含めたPOSレジアプリやキャッシュレス決済の浸透が加速。コロナ禍で予約管理や受付管理が一般化し、飲食店ではセルフオーダーも拡がりつつある今、私自身の近所の行きつけの多くのお店でも、Air ビジネスツールズをご利用いただけているのが嬉しいです。実際に利用件数も伸びていて、少しずつですが、「世の中の当たり前」になりつつあることを実感します。
もうひとつは、事業運営をご支援させていただける業務領域が増えたことです。Air ビジネスツールズは、最初に会計(Airレジ)、その後、予約・受付管理(Airリザーブ、Airウェイト)、決済(Airペイ)と領域を広げてきましたが、21年にAirワーク 採用管理で人材採用、そして22年にはAirキャッシュで少額資金調達が可能になるなど、人材とお金周りの支援までできるようになりました。このことは「商うを、自由に。」、つまり、“事業者の皆様が、心のままに、何にも阻害されずに、自分の思い描くことを実現できるように”に、また一歩近付けたということです。今では、事業者の方から、「何か困った時には、Air ビジネスツールズを調べてみれば、便利で役に立つサービスが見つかるかもしれないと思っている」という声をいただけるようになりました。
23年4月、大手クレジット会社の手数料率引き下げが報じられましたね。これまで引き下げが難しいと言われていたクレジットカードの事業者側の手数料引き下げは、Airペイも含めたキャッシュレス決済の拡がりによる貢献も相まって、 既存のルールに変化を起こせたのかもしれません。お店を経営される方々にとっては、手数料という負担が軽くなることで、またひとつ店舗経営における「煩わしさを減らす」ことができたと思っています。
10周年ブランドサイトに込めた思い~未来に向けて
―10周年ブランドサイトを作るにあたり、とくに意識したことは何ですか?
野村:「事業者の方々こそが主役」であるということを意識しました。実はこのサイトには、Air ビジネスツールズのブランドフィロソフィーを長々と紹介するコンテンツは作りませんでした。受け手である事業者の方々にどう思ってもらえているか。私たちが感じて欲しいことを、事業者さんが同じように感じてくれていたら、ブランディングができているということ。ですので、今回、全てのコーナーに事業者の方々の声を散りばめています。特に、Air ビジネスツールズの歴史をご紹介する「10年の歩み」のコーナーでは、私たちの10年間だけではなく、13年からずっとAir ビジネスツールズを使い続けてくれているある事業者さんの10年間もご紹介することにしました。事業に携わっている私たちにとって、この10年間は山あり谷あり、思い出いっぱいです(笑)。利用者の皆様にもさまざまな嬉しいこと、大変だったこと、いろいろなことがあったはず。サービスを通じてともに過ごした10年間の物語は、とても心に迫り、どんな人にも、どんな事業者さんにも、ぞれぞれの「10年」がある、と実感しました。
―今後、Air ビジネスツールズのブランド担当として実現したいことはありますか?
野村:Airレジが生まれた頃は、「新しさ」や「スマートさ」が魅力で、主に都市部で使われているイメージがありました。ですが、今ではAir ビジネスツールズは全国津々浦々で、そして、飲食、美容、宿泊、農業、運輸など、さまざまな業種でご利用いただいています。
ブランドイメージ調査でも「目新しい」「都会向け」「若い人向け」のイメージスコアが下降し、「誰にでも手が届く」「信頼できる」「誠実である」などが上昇してきています。
Air ビジネスツールズのブランドバリューのひとつに、「誰にでも手が届く」があります。これは、「使いたいと思ったら誰でも、どこでも、すぐに使える」というサービスにしたいという意思を込めています。さらに今後、幅広い年齢層、地域などでブランドバリューを実現するためには、例えば高齢の方でも読みやすい字の大きさや視認しやすいカラー、理解しやすい言葉遣いなど、「誰も排除しない」デザインやコミュニケーションを徹底していく必要があると考えています。
また、事業者の方から「助かっている」「ありがとう」という声を聞くことも増えてきて、とても嬉しく思っています。ですが、利用者の方が増えれば増えるほどサービスはインフラに近い存在に。もし仮に1分でも止まったら、大変なご迷惑をお掛けすることになるという重い責任も感じます。“Air”というブランド名称には、必要だけれどその存在を感じない空気のような存在でありたい、という想いが込められています。これからもその名の通り、「当たり前にそばにある」信頼を裏切らないようにしていかなければならないと考えています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 野村恭子(のむら・きょうこ)
- リクルート プロダクト統括本部 SaaS領域プロダクトデザインユニット Airブランドマネジメントグループ
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1996年株式会社リクルートに入社。人事部新卒採用グループで採用広報の制作業務などを経験し、社会人学習領域で編集者、季刊誌編集デスクを経てWebサイトのリニューアルプロジェクトに参画、2007年に編集長に。その後、『ホットペッパービューティー』『じゃらんnet』などのアライアンスチームを統括。14年からAirレジを含むSaaS事業でマーケティング、PR、ブランド周りの業務を担当する。現在はAirブランドマネジメントグループで、Air ビジネスツールズ全体のブランドの担当者を務める。Interbrandの「Japan Branding Awards 2019」のWinners受賞、一般財団ブランド・マネージャー認定協会 「ブランディング事例コンテスト2019」準大賞を受賞。一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会トレーナー