“メンズ美容”市場も急成長!『ホットペッパービューティーアカデミー』の美容業界調査から読み解く
リクルートの調査機関『ホットペッパービューティーアカデミー』では、毎年美容業界調査「美容センサス」を行い、カスタマーのサロン利用実態やカスタマーニーズの可視化、業界課題の解決に向けた分析・提案を行っています。本調査から得られた2023年度上期の業界動向や考察について、調査員・田中公子に聞きました。
13年目を迎えた美容業界調査から、美容業界の今を知る
ー『ホットペッパービューティーアカデミー』で毎年行う調査があると聞きました。どのようなものでしょうか?
田中:「美容センサスですね。6つの美容サロン領域「ヘア・ネイル・アイ・エステ(フェイシャル/痩身)・脱毛・リラク」のカスタマー利用実態に関する調査です。本調査を開始したのは2011年。それまでも『ホットペッパービューティー』の利用者調査などをお客様に提供していましたが、カスタマーのサロン利用実態を中立的に調査・提供する取り組みとしてはリクルートで初の試みでした。調査開始以降、全国の人口20万人以上の都市に住む方のうち、15~69歳の男女1万3,200人を対象に、過去1年間における美容室・理容室の利用に関する実態について、毎年同条件で消費者動向を調査し、経年比較しています。
ーかなり大規模な調査ですが、これはどのように活用されているのでしょうか?
田中:最も多いのは、サロンの店舗マーケティングに活用いただくケースです。サロン独自の強みを活かしたメニュー内容や価格設定を検討するうえで、本調査が出した業界水準やトレンドを参考にしていただいています。また、サロンのマーケティングでは「地域差」も重要な観点。一般では「トレンドの起点は東京」という印象が先行し、都市規模と消費が連動する印象を持たれる方が多いのですが、実は美容消費には女性の共働き比率や、世帯の同居率、地域の慣習などとの相関も高いんです。過去には「美容室での利用金額が多い県」のトップ2を北陸エリアが占めたという例があるほど。こうした地域傾向を捉えてマーケティングを行うことも重要ですので、2020年度からは「地域差」に着眼した都道府県版のセンサスも発行しています。他にも、本調査に紐づけて発行した「データブック(データ可視化ツール)」や「研究員コラム(調査解説記事)」を、美容サロンの従業員向けの教材として活用いただいている例もあります。
注目の業界トレンドは “男性美容市場の急成長” ジェンダーレスに広がる美容意識
ー2023年度の「美容センサス上期」では市場規模は2.5兆円、前年から微減傾向と推計されていましたが、そんななか『ホットペッパービューティーアカデミー』が注目するトレンドは何でしょうか?
田中:2023年度のポイントは主に3つと考えています。美容サロンの値上げ、サロン選択・継続利用基準の変化、男性美容業界の好調です。
■美容業界の市場規模
ーひとつずつ詳しく伺いたいと思います。まず値上げについて。昨今の物価高をうけて、美容サロンの値上げも進んでいるということでしょうか。
田中:はい、美容業界も漏れず、高単価層向けのサロン(客単価10,001円以上)を中心に値上げするケースが増えています。一方で、「値上げされた場合の利用意向」として、高単価層ほど値上げに対する受容度が高いという結果も出ています。理由として、そのサロンにしかない価値、例えば技術・サービス、担当者などに拘りたいといったカスタマーニーズがあります。また、別調査からは、提供価格に変わらず「顧客満足が高いサロンほど、顧客離れが起きにくい」という結果からも、顧客との信頼関係が値上げに大きく影響していることが分かります。
■【美容室・女性】値上げ状況、値上げされた場合の利用意向
田中:ふたつ目の、カスタマーの「サロンならではの付加価値を重視する」という観点は、サロン選定・継続利用基準の変化にも表れています。2023年度上期の調査では、男女ともに初めてサロンを選ぶ際は「自分に合いそうなスタッフがいるか」が決め手になっていた他、継続利用理由でも「スタッフの顧客理解があるか」という点が重視されていました。近年、サロンには技術力に加えて、接客クオリティが付加価値として求められているため、サロンでは「どのような担当者に施術してもらえるか」を疑似体験できる発信が重要になっています。
ーそして3つ目の「男性美容業界」。近年 “メンズ美容”として脱毛やメイクが話題になっている印象です!実態はどうなのでしょうか。
田中:統計上でも、メンズ向け美容サロンの市場規模は9,133億円、前年比では379億円と大幅に増加しています。背景として、男性のサロン利用率上昇、客単価(1回あたり利用金額)上昇があります。
■男性向け美容サロンの市場規模
■男性が美容室を利用する際の平均利用金額
ーここまで盛り上がっているのはなぜでしょうか?
田中:ジェンダーを問わず、美容意識が段階的に高まった結果だと考えます。元々2011年頃から、若年層・ビジネス層の男性を対象としたスキンケア市場は既に拡大していました。さらに、2018年以降に大手化粧品会社がメンズ向けファンデーションを発売したことを機に、各社でメンズ向けメイクアップ用品が本格的に展開されるようになり、男性のインフルエンサーがSNSやYouTubeを通じてメイク技術を発信するようになったことから一般化しています。2020年代の韓流アイドルブームもさらに追い風になっていますね。
また、コロナ禍でも男性美容について興味深い結果が出ています。メイクアップ習慣がある方を男女で比較すると、女性はメイクアップの頻度・時間が「減少」傾向にあった一方、男性でメイクをする方はそれらが「変わらない」傾向にあったんです。リモートワークのWeb会議で自分の顔を見る機会が増えたことから、さらに美容意識が高まったと言います。
■【男女】コロナ前後でのメイクアップ頻度・時間の変化
■【男女】メイク頻度が増えた理由
ー世の中の美容意識が、どんどん変化していますね。
田中:今後も美容市場は女性に限らず、ジェンダーレスにさらに成長すると考えています。現状として女性向けのほうが市場規模自体は大きいですが、伸び率を見ると実は女性向けは横ばいで、男性向けが圧倒的に伸びています。社会におけるジェンダーレスな価値観の需要も相まって、美容はジェンダーを問わず「なりたい自分に近付ける」手段になっていくと思うんです。
サロン経営者の方に、最新ナレッジを提供し伴走 “美容”が持つパワーを、より多くの方に届けたい
ー『ホットペッパービューティーアカデミー』では、こうした取り組みを通じて、美容業界にどのように貢献していきたいですか?
田中:より多くの経営者の方に、サロン経営に関して学ぶ機会を提供していきたいと思っています。美容サロンは約8割が「個店」と呼ばれる比較的小規模型のサロンです。『ホットペッパービューティーアカデミー』では、サロン経営に役立つナレッジ提供やオンライン学習用のコンテンツを提供しています。いつでもどこでも、施術の合間に手軽に視聴・活用いただけるように、ブラッシュアップを重ねています。「美容センサス」についても、調査リリース形式のみでは活用できる方が限られてしまうので、調査データを属性別に検索しビジュアライズできるツール(データブック)を導入したり、研究員が調査結果・トピックスを解説したコラム・短尺動画(メンズ編/サロントレンド編)など、情報の届け方については年々バリエーションを増やしています。
ーナレッジとして届くよう毎年進化しているんですね。その先に、どんな世界を実現されたいですか?
田中:実は私自身、小さい頃から髪のくせ毛にコンプレックスを感じていました。そんな時、美容サロンでの施術やスタッフさんの技術によって、思い描くような髪や肌に仕上がった時は、本当に嬉しくてわくわくするんです。『ホットペッパービューティー』の口コミを通じて、カスタマ―の方からそういったお声をいただけることも、私の活力になっています。美容には、人を前向きな気持ちにしたり、自信をつけることにつながったり、明日への活力を生み出す力がありますよね。そういったパワーを持つこの業界・サロンで、より良い価値を提供するためのナレッジを発信していくことで、業界の発展や関わる方々の豊かな生活に少しでも寄与したいと思っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 田中公子(たなか・きみこ)
- 株式会社リクルート Division統括本部 ビューティDivision リサーチ&アカデミーグループ
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経営コンサルティングファームでIT業界の業務改善に携わった後、2006年リクルート入社。『ホットペッパービューティー』の事業企画を経て、2012年から現職。調査研究員として、「美容センサス」をはじめとする美容サロン利用調査や美容消費の兆しを発信。セミナー講演、業界誌・一般誌・テレビなど取材多数。共著に『美容師が知っておきたい50の数字』『美容師が知っておきたい54の真実』(女性モード社)ほか