結婚式は多様化する時代にどう変わる? リクルート ブライダル総研の2023最新調査から見えたもの
リクルートの調査研究機関『リクルート ブライダル総研』と結婚情報誌『ゼクシィ』は例年、結婚や結婚式について調査した「結婚総合意識調査」「ゼクシィ結婚トレンド調査」を発表しています。本調査から得られた2022年度の業界動向や考察、さらには今、注目されているライフデザイン講座について、リクルート ブライダル総研の所長 落合 歩に聞きました。
コロナ禍を経て結婚式は今どうなっているのか? 調査から分かること
―リクルートが毎年、結婚にまつわる調査を発表していると聞きましたが、どのような調査でしょうか?
落合:1993年の結婚情報誌『ゼクシィ』の創刊以来、この領域に向き合っているリクルートですが、『ゼクシィ』の創刊間もない頃から結婚や結婚式にまつわる独自調査を行ってきました。調査には毎年実施するものや数年に一度実施するものなど複数あるのですが、例年秋に調査発表を行っているのが、「結婚総合意識調査」と「ゼクシィ結婚トレンド調査」。これらの調査に携わっているのが、「リクルート ブライダル総研」です。
―なるほど。「結婚総合意識調査」「ゼクシィ結婚トレンド調査」はそれぞれどのような調査なのでしょうか?
落合:「結婚総合意識調査」は過去約1年以内の婚姻者に対して、意識面や行動面について行っている調査です。対象者には婚姻はしたが結婚式を挙げていない方も含みます。対して「ゼクシィ結婚トレンド調査」は、過去約1年以内に挙式または披露宴・ウエディングパーティーを実施された方を対象にした調査で、まとめた調査報告書を広く公開しています。
―調査ではどのようなことが分かるのでしょうか?
落合:「結婚総合意識調査」では、結婚式や披露宴などのウエディングイベントの実施率や何が実施に影響を与えているか、ゲストの参加意欲度や満足度、それらへの影響要素などを見ることができます。また、「ゼクシィ結婚トレンド調査」では、結婚式や披露宴の満足度や実施理由、招待客の平均人数や使用金額など実際に即したトレンドを調査しています。
ーこれらの調査結果はどのように活用されているのでしょうか?
落合:結婚式場などのブライダル事業者の方々に式場運営のマーケティングに活用いただくケースが多いです。式場が時流に合わせたプランを検討していく上で、本調査が出している婚姻者が求める結婚式のあり方やトレンドを参考にしていただいているようです。それを通じて結婚式が進化し、おふたりやゲストも含めて、満足度の高い場になればと思っています。
また、ブライダル業界に関するここまで大規模な定量調査はほとんどないため、銀行など金融機関も景気動向を把握するために活用されていると伺っています。それに結婚式を検討する方々の参考情報にもなっているかと思います。例年10月に発表を行っているのですが、「今年はまだですか?」とお問い合わせいただくこともあるくらい、関係者の皆さまの情報源のひとつとしてご活用いただけているなと実感しています。
ウエディングイベントの実施率はコロナ禍前水準に回復?
―今年も両調査が発表されましたが、2023年発表版で見えてきた兆しなどはありましたか?
落合:まず、今回発表した2022年度のウエディングイベントの実施率が78.6%とコロナ禍前の2019年度水準(80.1%・2020年発表分)程度まで回復し、さらに、披露宴やウエディングパーティーも回復基調であることが挙げられます。さらに披露宴やウエディングパーティーの招待客の人数平均は49.1人と昨年調査分に比べて5.9人増加し、総額の平均も回復しつつあります。ゲストの参加意欲も「コロナが理由で参加を迷った」と答えた人が大きく減少しており、コロナ禍の影響から脱しつつある状況が見えていますね。
結婚式は常識にとらわれない「NOノーマル婚」に…
―コロナ禍前水準まで実施率は回復しつつあるということですが、コロナ禍を経て結婚式そのものの考え方が変わったなどの変化はあるのでしょうか?
落合:もともとコロナ禍前より結婚式の変化はみられていましたが、ここ3年程で加速した印象です。一番のポイントは価値観の多様化を背景に、カップル自身のニーズや大切にしていることが結婚式に反映され、形式やしきたりにとらわれなくなってきているという点です。例えばゲストについて見ると、形式的に呼ぶ人よりも、身近な親族や大切な友人など、より大切な人を呼ぶようになってきています。つまり、慣習や形式として「呼ばねばらない」ではなく、「呼びたい」から呼ぶというように、形式からの解放が進んでいると言えます。
結婚式の意義についても、「親や友人たちに感謝の気持ちを伝える」といった軸だけでなく、「自分たちが楽しむ」気持ちも重視する方が増えてきており、特徴的です。さらにそれに合わせ、「担当プランナーから自分たちらしい結婚式になるような提案があった」といった声も多く、ウエディングプランナーの介在についても変化しています。
コロナ禍前も変化の潮流はありましたが、コロナ禍があったことでその速度が急速に早まり、より自分たちらしいあり方が広がっていくようになっています。今後もこの動きは広がると捉えており、2020年代は常識に捉われない「NOノーマル婚」が結婚式のキーワードになっていくのではと思っています。
自分がどうしたいのか、自分で考える時代を生きていくために
―落合さんは長年この調査を見ていらっしゃいますよね? 長年見るなかでの変化はいかがですか?
落合:私自身10年以上、本調査含め、結婚や家族に関する研究をするなかで感じているのは、結婚に限らず色々な場面で自分の価値観が重視され、選択する社会になってきたなということ。結婚することも、結婚のスタイルも、家族のあり方も、選択していく時代になったと思います。まさに、大きな転換点に立たされており、社会にとっても、業界にとっても、良い意味で進化に向けたチャレンジもしやすい時代だと言えます。
―価値観は本当に多様化してきていますね。リクルート ブライダル総研では、結婚式の調査だけを行っている訳ではないですよね?
落合:結婚式にまつわる調査以外にも、婚活実態調査や結婚後の夫婦関係を追った調査など年間5本ほどの調査を実施しています。また、調査だけではなく、ブライダル業界で働くウエディングプランナー・マネジャーの方に向けての研修・コンテストなども主催し、各種調査や分析、社外に向けての情報発信だけでなく、ブライダル業界全体の発展に寄与する企画の実施などを行っています。さらに、主に若年層を対象にしたライフデザイン講座を開催するなど行政等とも連携しながら、社会課題解決に向けた情報提供や提案なども行っていますね。
―ライフデザイン講座とは何でしょうか?
落合:先ほど触れたように、現代は価値観の多様化が進み、就職や結婚などライフイベントの場面で選択肢が広がっています。その際になんとなく選択するのではなく、自律的に選択してもらえたらと、学生さんなど若年層の方向けに取り組んでいる講座です。就職だけではなく、その先に続く結婚や出産、家庭について、客観的データを知ることや、主観的に考えていただき、自分なりのライフデザインを描いていただく機会をご提供しています。早めに自身の人生を長期的視点で考え、自分の価値観を知っておくことは、多様な選択肢が広がる時代において、納得感を醸成する大きな要素になるのではないでしょうか。実際に、全国各地で1万人を超える方に参加いただいており、「漠然としていた結婚や家庭といったライフイベントが具体的になり、前向きになれた」というようなお声をいただいています。
―あくまで今後の人生を主体的に歩んでもらうための活動なのですね。
落合:はい。結婚をする・しない、子どもを持つ・持たないなどはどちらの選択をするにせよ、人生の色合いを大きく変えます。ただ、これらの選択に対して、個々人がそれぞれ納得できる選択をできるかどうかは、必要な情報をきちんと得た上で、長期的にイメージできてこそだとも思うんです。そのために私たちリクルート ブライダル総研は、常に現状を調査し、それを提供していくだけではなく、それを活用してほしいとも思っています。
リクルート ブライダル総研が向き合っている結婚や家族、子どもといった領域は大きくとらえれば、誰かとの関わり合いのなかで生きることでもあり、それを望む人については応援したい。そう思って私たちは日々さまざまな活動を行っています。皆さんが選んだ選択に納得感を持っていただけるよう、その選択に至るまでに必要な情報を正しくお伝えし、機会を創っていくことで、関係する業界の発展だけでなく、一人ひとりが自律的に人生を歩んでいくことに、少しでも貢献できれば嬉しいです。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 落合 歩(おちあい・あゆむ)
- 株式会社リクルート リクルートブライダル総研 所長
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2007年にリクルート入社。マーケティング局宣伝企画グループなどを経て、2011年よりリクルート ブライダル総研に異動。これまで、未婚者の動向から結婚、結婚式、夫婦関係に関する調査・研究・提言を行い、2019年より現職