多様な“ふたり”を応援する 『ふうふのきほん宣誓書』が話題に。ゼクシィ編集長の想いとは
1993年に創刊し、今年30周年を迎えた結婚情報誌『ゼクシィ』。法律婚に限らず、カップルがともに生きていくことを宣言する宣誓書を企画し話題になるなど、多様なカップルの「結婚」を後押ししてきました。そこに込められた想いについて、『ゼクシィ』統括編集長の森 奈織子に聞きました。
付録『ふうふのきほん宣誓書』に込めた想い
─“夫婦”ではなく“ふうふ”とした『ふうふのきほん宣誓書』は、どのようなものですか?
森:2023年5月発売号の『ゼクシィ』に掲載した、一緒に生きていくと決めた“ふたり”が“ふうふ”になる宣誓書です。法律婚に限らず、異性・同性の事実婚などのカップルにも使って欲しくて、“夫婦”ではなく“ふうふ”としました。
読者の方のなかには、挙式の結婚証明アイテムや、結婚式のウエルカムボードにしてくださった“ふうふ”がいます。新居に飾るといった使い方もいいですよね。
─制作に至った背景を教えてください。
森:2022年に『ゼクシィ』は「The Happiness Story of ME&YOU 『あなたとあなたの大切な人の幸せ』を、誰もが認め合い、応援できる世界を。」というビジョンを掲げたんです。
そのビジョンのもと、改めて編集部で、さまざまなふうふ(同性婚・事実婚など)の当事者の方々にお会いし、声を聴き続けました。
皆さんの結婚にまつわるストーリーをお伺いするなかで気づいたのは、ご自身の生き方や幸せについて周囲に伝えることをあきらめている方が少なくないこと。そういったお話を伺うたびに、自分たちの掲げたビジョンが確信へと変わり、これは必ず推進していくべきことなのだと強く思うようになったんです。そんな気持ちから生まれた企画が、この『ふうふのきほん宣誓書』になります。
─これまでも、同性婚カップルを誌面で取り上げるなどされてきましたね。
森:2012年ごろから、姉妹誌『ゼクシィPremier』で、LGBTQ+カップルの結婚式、障がいのある方の結婚式など、さまざまなスタイルのウエディング事例を紹介してきました。
『ゼクシィPremier』は2020年に休刊して企画も途絶えてしまっていたのですが、2023年度から『ゼクシィ』の編集記事で改めてウエディング事例紹介に加え、結婚の枠組みを広げつつ、多様なスタイルを紹介する企画を増やしていこうと決めたんです。
―創刊30周年を迎えて、改めて多様性を応援するメッセージを積極的に伝えようとしているのですね。
森:はい。過去30年間、結婚と結婚式を見てきた『ゼクシィ』だからこそ、今の時代のカップルに伝えられることをいろいろお届けしていきたい、と考えています。例えば、異性・同性の事実婚、さらには遠距離婚、親に反対されているなど、さまざまな不安を持っている方々の力になりたいと思っています。
読者からの声「勇気をもらった」「違和感を話すきっかけに」
─『ゼクシィ』が発信するメッセージに、読者からの声はどのようなものがありましたか?
森:宣誓書に関しては、「家族について考えさせられ、パートナーとしっかり話し合いができた」「お互いに言葉や文字に起こして確認し合えることの大切さがあると思った」というコメントをいただき、おふたりの門出に寄り添えていることを実感できて、とても嬉しく思いました。「表記を“夫婦”ではなく“ふうふ”にしてくれたんだ」と気づく方もいました。
―他にも、同じ想いで取り組んでいる企画はありますか?
森:2023年4月発売号では、多様なスタイルを紹介した『結婚の手続き・届け出サポートBOOK』を制作しました。
こちらは、“ふたりのスタイル”を考えることを提案した冊子です。事実婚、妻の姓になったなど、さまざまな結婚スタイルを選んだふうふの背景や考え方、決めたことなどのインタビュー記事を掲載しています。
読者の方からは、「いろんなふたりの形を見て、固定観念が取れて選択肢が増えた」「事実婚という選択肢、それぞれのスタイル、さまざまなふうふの形があることが理解できた」という声がありました。
事実婚を選択した方からは、「多様なカップルの“結婚”を後押しされていることに励まされます」とのメッセージをいただき、力が湧きましたね。
さらに、「なぜ夫の姓にならなくてはいけないの?」と隠していたモヤモヤに気づいて勇気を出し、違和感を話し合うきっかけになったという方もいました。
誰かと一緒に生きる決意を、応援したい
─一方で昨今、結婚に否定的な考えも増えています。
森:「お金もかかるし、結婚して幸せ? 離婚も多いでしょ?」という声、よく聞きます。ひとりで生きていくスタイルを選ぶことも選択肢のひとつです。ですが、だからと言って結婚を否定から入ることは、勿体ないと考えます。
誰かが誰かと一緒に生きていきたいと想う気持ちは、合理的かどうかという以前に、素敵なことだと思うんです。そしてふたりが、10歳離れた人同士でも、3回目でも、同性同士でも、そのことによって想い合う気持ちが否定されるべきではありません。私たち『ゼクシィ』はこの「誰かと一緒に生きる決意」を全肯定でハグしたいのです。
―新しいビジョンを掲げた『ゼクシィ』。これから、どうしていきたいですか?
森:たくさんの方々にインタビューさせていただくなかで、私が想像していた以上に、結婚も、住居選びも、引っ越しも、制限されてしまっているケースがとても多いことを知りました。困っている以前に、あきらめている方も多かった。
例えば、 同性カップルの方が『ゼクシィ』を購入してくださり、すごく楽しい時間を過ごしたと話してくれました。でも読み物としては楽しめたものの、 誌面には、おふたりのスタイルに合った結婚式情報が載っていなかったそう。「(ゼクシィには)そこまで期待していないので」と仰られる2人のお話を聞いて、本当に目の前の人たちに寄り添いきれているのだろうか…と現実を知りショックを受けました。
読者のなかには、『ゼクシィ』を婚約記念品のように大切にしてくださるカップルの方もいて、その方々にとっては『ゼクシィ』を手にする喜びが人生の幸せなイベントのひとつになっているんですね。同じ体験を、”ふうふ”のあり方の違いであきらめて欲しくない。結婚、住居選びなどはもちろんのこと、『ゼクシィ』という媒体も、あらゆる“ふうふ”に公平に幸せになる瞬間を届けなくてはいけないと思っています。
─公平なメディアをつくる上で、気を付けることはありますか?
森:同性婚・事実婚・法律婚など含めて、さまざまな方に話を聞かせていただきますが、最終的に誌面でどのカップルを紹介するかを選ぶ時は、おふたりのエピソード重視で選ぶようにしています。
─今後の企画をお聞かせください。
森:結婚情報誌『ゼクシィ』では、2023年12月発売号で、さまざまな幸せのカタチを紹介する誌面を企画しています。さらに、『ゼクシィ』では、多様な幸せを応援する取り組みを東京都渋谷区で実施予定です。
東日本大震災後に、「結婚は人生の人と人とをつなぐライフラインだから、『ゼクシィ』は必需のサービスです」と仰ってくださった方がいらっしゃいました。電気や水とは違うけれど、結婚を応援している『ゼクシィ』は世の中に必要なサービスだと。その言葉は私にとって強い支えとなっています。
これまでもこれからも、『ゼクシィ』は人と人が結ばれる瞬間に役立つメディアサービスのひとつでありたいし、“結婚”という枠組みをもっと広げて「この人と一緒に生きていきたい」の決意に寄り添い、応援するサービスでありたいと思っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 森 奈織子(もり・なおこ)
- 株式会社リクルートプロダクト統括本部 プロダクトデザイン・マーケティング統括室 プロダクトデザイン室 情報誌編集ユニット ゼクシィ編集部
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2006年に株式会社リクルート入社。『赤すぐ』『妊すぐ』(現『ゼクシィBaby』)で営業を経て、2009年にゼクシィ編集部へ配属。ゼクシィの編集記事制作や付録制作に加え、全国花嫁カスタマー調査等を担当。2014年4月西日本版、東日本版、首都圏版編集長を経て2022年4月より現職