『リクルートダイレクトスカウト』をリニューアル。よりシンプルでカジュアルな転職体験を届けたい
今、「キャリア情報を登録して企業やエージェントからのスカウトを待つ」という新しい転職スタイル、ダイレクトスカウトやダイレクトリクルーティングと呼ばれるサービスに注目が集まり、利用者が急増しています。
そんななか、リクルートが運営する『リクルートダイレクトスカウト』が2023年12月にリニューアルを実施し、求職者と企業の出会い方を大きく進化させようとしています。リニューアルの背景にある課題感や目指していることなどを、 プロダクト責任者の藤原暢夫に語ってもらいました。
1)なぜ急成長?「ダイレクトスカウトサービス」とは
2)『リクルートダイレクトスカウト』を始めた背景と、気づいた課題
3)『リクルートダイレクトスカウト』リニューアルの3つの挑戦
4)ダイレクトスカウトサービスの未来
なぜ急成長?「ダイレクトスカウトサービス」とは
―テレビCMなどでも、登録すると企業や転職エージェントの担当者から直接スカウトが来るという「ダイレクトリクルーティング」や「ダイレクトスカウトサービス」という単語をよく目にするようになりました。
藤原暢夫(以下藤原):そうですね。転職という選択肢を持ちながら働くことが社会全体として身近なものになりつつありますが、そのひとつの表れだと捉えています。転職することありきでの活動ではなく、良い機会があるなら検討したいという方が増えているからこそ、こうした企業との「ダイレクト」なコミュニケーションや「スカウト」が届くということをコアにしたサービスも増え、利用者も増えているのではないでしょうか。
『リクルートダイレクトスカウト』もここ数年で大変多くの方にご利用いただけるようになっており、自分のキャリア情報を登録して企業や転職エージェント担当者からのスカウトをきっかけに転職を検討する、というスタイルのニーズは強くなっていると感じています。
―リクルートでは、ダイレクトスカウトサービスだけでなく、転職メディア事業、転職エージェント事業などグループ内にもたくさんの転職支援サービスを運営していますね。
藤原:求職者と企業双方のニーズの変化に合わせてサービスを変化させたり、必要に応じて多角化してきた結果だと捉えています。リクルートグループでは経営理念として「社会への貢献」を掲げており、「Follow your heart」というビジョンのもとにサービスを展開しています。「働く」という現代社会に生きる人々にとって大事な要素を扱うサービスであるからこそ、日本社会や労働市場に対して何ができるのか? ということを日々真剣に考えていますし、今後も積極的に改善や開発に取り組んでいきたいと思っています。
例えば、求職者の方に、より個性やスキルを発揮できる企業とのマッチングを支援することができれば、求職者と企業にとってのメリットはもちろん、引いてみれば、労働力人口が減少する日本で求められるひとりあたりの労働生産性の向上にも寄与している、ということになります。
また、潜在的な労働力、例えば、不本意な理由で求職活動をあきらめてしまった方や退職して求職活動をしていない方などにも、ニーズに合う働き方や仕事内容を提示してマッチングすることができれば、労働人口が減少する日本で求められる働き手不足という課題に対するひとつのソリューションになりうるともいえます。
『リクルートダイレクトスカウト』を始めた理由と、気づいた課題
―2023年12月にリクルートダイレクトスカウトがリニューアルをしたと伺っていますが、背景にはどのような課題感があったのでしょうか。
藤原:ダイレクトスカウト型のサービスが生まれて、転職意欲の高さや緊急度に関わらず、幅広い求職者の方から「転職機会がより身近になった」という声が届く一方で、課題も生まれました。企業や転職エージェントからたくさんのスカウトが届くようになったことで、「どれが自分にマッチしたスカウトか判別しにくい」といった声も届くようになりました。同時に、登録したものの自分の希望に合うスカウトが届かない、という不満を持つ求職者もいらっしゃいます。
また、自分のキャリア情報を登録する際の書類の書き方が分からない、どういった経験やスキルを記載すれば企業や転職エージェントに評価してもらえるか分からない、といった悩みも、多くの求職者が共通して抱えていることも分かってきました。
―スカウトがたくさん届く分には良いのでは? と単純に考えてはいけないということなのでしょうか。
藤原:そうですね。当たり前ですが、転職マッチングは、求人情報サイトであれ、エージェントサービスであれ、ダイレクトスカウトサービスであれ、最終的には、求職者側と企業側の双方の希望が合致して、初めて成立するものです。
そうであるならば、企業や転職エージェントからのお声がけをきっかけとするダイレクトスカウトサービスにおいても、スカウトが大量に届けばいいということではないのは当然です。双方の希望の合致度が高いスカウトが送られるように後押しする、そこから始まる相互理解のコミュニケーションを後押しする、この2点を抜本的に改善したいと考えました。
その実現のためには、リクルートで約40年にわたって運営してきた人材紹介事業のノウハウにヒントがあるのではないかと思うようになりました。
『リクルートダイレクトスカウト』リニューアルの3つの挑戦
―先ほど話していた、今回のリニューアルに活かしたという、人材紹介事業のノウハウ…とはどのようなものでしょうか。
藤原:人材紹介事業では、キャリアアドバイザーが求職者のキャリアや希望条件などを、対話を通して引き出して一緒に整理していきます。この内容をもとに、たくさんの求人のなかからピックアップしてご紹介していきます。また、企業に伝えるべきポイントを応募書類に落とし込むアドバイスも実施しています。
また、なかなか希望に合致した求人が見つけられない場合には、求職者に対して希望条件の見直しを提案することもありますし、逆に企業側に求人内容の見直しを交渉することもあります。
―キャリアアドバイザーの方は、親身になって寄り添ってくれるだけでなく、そんな役割をしてくれていたのですね。
藤原:人材紹介事業も兼務で担当している立場の実感として、キャリアアドバイザーの役割を完全にオンラインで再現することは、少なくとも現時点では不可能です。それでも、そのエッセンスを盛り込んでいくことで、これまでにないダイレクトスカウトサービスにできるのではないかと考えました。
今回のリクルートダイレクトスカウトリニューアルで、特徴的なポイントを3点お伝えします。
ひとつめは、キャリア情報を登録する「レジュメ」の刷新です。経験やスキル、希望条件に関する質問に答えていくだけで、レジュメが完成します。 質問形式にすることで、これまでの文章を大量に書く方式と比較して負荷を大幅に下げることができました。また、この質問の回答は企業や転職エージェントにとっても、その求職者の特徴を見分けやすいというメリットがあります。
ふたつめは、AIを用いたマッチングのアシストです。求職者向けには、届いたスカウトに対して希望条件や経験のマッチしているポイントをハイライト、マッチする可能性の高いスカウトから優先的にご提案するような仕様を目指しました。併せて、スカウトを送る企業や転職エージェント向けにも、求人の募集条件と求職者の希望条件等の両面からスカウト候補者をおすすめします。これによってマッチする可能性の高いスカウトがより多く生まれることを促していきます。
最後のポイントは、これはとてもシンプルなのですが、スカウトは必ず具体的な求人を添付したものに一本化することです。これまでは、主に転職エージェントからのスカウトについては、いくつかの求人情報の一部を紹介する程度の内容も多く、具体的な求人情報が分からないので検討が難しい、という状況になっていたことは否定できません。スカウトを送る際に具体的な求人情報をひとつ必ず添付いただく仕様に変更することで、求職者は仕事の内容や求められる経験・スキルを詳しく知ることができるようにしています。
―届いたスカウトに対して、マッチする可能性を考慮して優先順位までつけて提案してくれるのですね。オンラインでどうやって実現したのですか。
藤原:リクルートの人材領域全体で推進しているマッチングテクノロジー開発によって実現することができたと思っています。特に、人材紹介事業では先行してマッチングテクノロジーの導入を行っており、求職者と企業双方からどういう情報をいただき、どう活用いただけばと良いのか、といったことの試行錯誤を繰り返してマッチングの精度を向上させてきました。
特に重要なことは、求職者側の希望条件、企業側の人材要件、どちらも変化していくものだということです。実際に、当初の人材要件を満たさない候補者に対して、企業が「こういう方にも会ってみたい」と興味を示すこともよくあります。逆に、当初の希望条件を満たさない求人に対して、求職者が「こういう仕事だったら希望とは違うけど興味がある」と応募することも頻繁に発生します。当初の条件で合致するマッチングはごく一部であるというのも現実問題としてありますが、こういった、実際の機会に触れることで気づきを得て、変わっていく双方の希望条件をなめらかにつないでいけるようなプラットフォームを目指したいと考えています。
-確かに新たな技術によって、求職者、企業の双方が気づいていなかった潜在的な出会いが生まれるのは嬉しいですね。
藤原:マッチングテクノロジーのことをご紹介してきたところで矛盾するようですが、転職という人生において重要な意思決定をするシーンにAI技術を活用することに対しては、慎重な姿勢も同時に持たなければいけないと考えています。そのため、リクルート全体として大変慎重に議論を重ね、信頼していただけるサービス開発、ガイドライン策定に努めてきました。
全社ガイドラインについては、社内外の識者とともに検討を重ねながら、2023年7月に「リクルートAI活用指針」を策定し公開しました。しかし、ここが信頼をいただけるゴールではなく、あくまでスタートだと考えています。今後も社会の変化や技術の進化により、ガイドラインやプロダクト開発する我々の考え方も常にアップデートしなければなりません。
リクルートダイレクトスカウトも、求職者と企業の双方の希望を叶える出会いの創出に貢献できているのかを常に問い直し、考え続けることが必要だと考えています。今後も利用者の方々の声に耳を傾け、日々モニタリングと改善を続けながら、より良いサービスのあり方、人とAIの協働のあり方を考えていきたいと思っています。
ダイレクトスカウトサービスの未来
―リクルートダイレクトスカウトが、今後目指していることを教えてください。
藤原:働く人全体に目を向けると、介護や育児、仕事以外に生きがいを見出すことも含め、単に働き方にとどまらず、「働くということ」に対する価値観も多様化しています。一方、企業についても、事業環境の変化が目まぐるしく、結果として人材採用の重要性が増し、必要な人材像の変化スピードも加速しています。
このように双方のニーズが複雑化するなかでは、そのニーズを詳細に汲み取り続けながら出会いの「きっかけ」を提供していくこと、その上で求職者と企業が希望の働き方や期待する役割をすり合わせていくコミュニケーションができること、このふたつが重要だと捉えています。
リクルートダイレクトスカウトは、未来に心躍るようなきっかけを創出するところはもちろん、実際に求職者と企業が笑顔で握手をする瞬間まで支援する、そんなサービスを目指したいです。求職者に、自分の「働く」に寄り添ってくれる、信頼できるパートナーのような存在だと感じてもらえるように、これからも改善を重ねていきます。
―求職者と企業のコミュニケーション支援まで考えているのですね。
藤原:そうですね。何よりもまず、リクルートダイレクトスカウトで生まれるきっかけの「質」が重要なことは間違いありませんが、そこで生まれたつながりは始まりにすぎないのもまた事実です。人材紹介事業においては、その後の面談や選考プロセス、内定時の条件交渉、入社日のタイミングや現職企業への退職交渉など、その後のプロセスの伴走も同じくらい価値があると感じています。これまで積み上げてきた人材紹介事業で有するエッセンスを、リクルートダイレクトスカウトにも載せていく改善をこれから積み重ねていかなければいけません。道のりは果てしないですが、「コミュニケーションも支援する」ということをサービスのポリシーとして持ち続けたいと強く思っています。
究極的には、きっかけを求める全ての求職者、出会いを求める全ての企業に、未来への期待あふれるマッチングが届けられ、両者間で相互理解のコミュニケーションが活発に行われているような状態が理想です。テクノロジーと人材紹介事業で培ってきたノウハウを存分に活用し、マッチングとコミュニケーションを、もっとダイレクトで、シンプルで、そしてカジュアルなものにしていきたいと思っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 藤原暢夫(ふじわら・のぶお)
- リクルート プロダクトマネジメント統括室 HR領域プロダクトマネジメント室 HRエージェントプロダクトマネジメントユニット ユニット長
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2011年リクルートに入社。HRメディア新規開拓営業、HRメディア商品企画、人材紹介領域の事業企画・プロダクト担当を経て、20年より『リクルートエージェント』『リクナビ就職エージェント』『リクナビHR Tech』などのプロダクト責任者。21年4月より現職。仕事で実現したいことは、テクノロジーの利便性と人肌感を融合させたサービスを創ること。