お財布はもう出さない。会計DX「スマート支払い」開発秘話 『ホットペッパーグルメ』『ホットペッパービューティー』
「スマート支払い」は実店舗で“手ぶらでお会計“ができる新機能。『ホットペッパーグルメ』『ホットペッパービューティー』で2022年から23年にかけて提供を開始し、徐々に利用店舗・利用ユーザーが増えています。『ホットペッパーグルメ』のUXデザイナー・深海卓磨と、『ホットペッパービューティー』のアプリの開発エンジニア・和田陵佑に「スマート支払い」について話を聞きました。
「スマート支払い」とは? 財布もスマホも出さない決済体験
―「手ぶらでお会計」ができるという「スマート支払い」ですが、どのような機能ですか?
深海:飲食店や美容室を予約する際、事前にクレジットカードを登録しておくことで、来店時に現金やカードの受け渡しをせずに支払いができるサービスです。お会計の際に「スマート支払いで」とお店側に伝えていただくだけで決済完了となるので、財布もスマホも取り出さず、飲食店でご飯を食べたり、ヘアサロンで施術を受けたりすることができます。1回クレジットカード情報を登録すれば、その後は操作不要で「スマート支払い」をお使いいただけます。
―財布を出さないとなると無銭飲食みたいで少し不安になりそうですが、お客様もお店側も、お会計の時間が減るので楽になりますね。お客様にはどのようなシチュエーションで特に喜ばれていますか?
深海:「レストランでのお会計を食事相手に見せたくない」という接待やデートのお客様、財布を出したり待ったりするのが大変な、小さなお子様連れのお客様などに特に重宝いただいています。2023年12月時点で、1回以上「スマート支払い」をご利用くださったユーザーの総計は、約11万人になりました。ユーザーインタビューで「もうお会計終わったんだ」という感想をもらうこともあり、スムーズさに驚いてもらえた時はとても嬉しいですね。
―ところで、「スマート支払い」は事前決済みたいな機能と理解したのですがちょっと違うのでしょうか…?
深海:実は、そこが私たちも説明に苦慮しているところでして…事前決済とは異なり、お会計時に金額が確定する仕組みです。なので、金額が定まっているコース料理以外にもお使いいただけるんです。飲食店のお席だけ予約することも可能ですし、当日の追加注文による変更にも柔軟に対応できますよ。
―なるほど! そういう仕組みでしたら当日オススメされたメニューを追加オーダーもできますね。そして、飲食店だけでなく、『ホットペッパービューティー』での「スマート支払い」リリース後、美容室での利用もかなり増えていると聞きました。
和田:はい、『ホットペッパービューティー』では、お取引のある美容室のうち約16000軒が「スマート支払い」の機能を導入してくださっています(2023年10月時点)。美容室は予約者=支払者のケースが多いので、飲食店のお支払いよりはシンプルなのも利用者が増えている一因かもしれません。
「スマート支払い」機能開発の裏側。こだわったのはセキュリティと「予約後のスマート支払い切り替え」
―「スマート支払い」機能の開発ではセキュリティ面に配慮して開発されたと聞きました。
和田:ユーザーの方にクレジットカードを登録していただくサービスなので、安心・安全に情報を預けていただけるよう、慎重に開発しています。
―和田さんは前職で決済や金融関連のサービス開発経験があるなか、今回の開発にあたり特に難しかった点、注力した点はどこですか?
和田:例えばクレジットカード番号やパスワードの暗号化処理については何通りものやり方を試し、セキュリティ管轄部署と相談しながら、サイバー攻撃に対して強固なシステムを構築出来たかと思います。
―「石橋を叩きすぎる」くらい慎重な開発プロセスだったのですね。一方、ユーザーの皆さんにとって不快な体験を作らないよう開発側でも工夫されたとか。
和田:ユーザーの皆さんに決済実行に必要な情報を入力していただくところから、決済処理を行うまでのプロセスでは、裏側でさまざまなプログラムを動かしています。『ホットペッパービューティー』のアプリを決済システムにつなぐ設計の安全性にこだわりつつ、同時にユーザーの皆さんから見た時に快適な遷移や挙動になるよう工夫を凝らしました。詳細を説明するのはセキュリティに関わるため難しいのですが、「自分がユーザーだったらどう感じるか?」「この遷移はユーザーの皆さんにとって不親切なところはないか?」と批判的に、遷移先や表示する処理結果などを決めるようにしました。
―エンジニアチームのこだわりを感じます。一方、UXデザイナーの深海さんは2022年4月に新卒で入社された後、リリースされたばかりの「スマート支払い」サービスに携わったそうですね。こだわって企画された「予約後の『スマート支払い』切り替え 」はどのような機能ですか?
深海:私が配属された時、『ホットペッパーグルメ』の「スマート支払い」はサービスリリース直後だったこともあり、その時点では、1回予約が成立するとお支払い方法が変更できませんでした。予約時にクレジットカード情報を入力できる状況ではない方も多いので、ユーザーの皆さんにとってより使いやすくしたい、と前日までなら支払方法を変更できる機能を企画しました。配属直後に立ち上がったばかりの機能に携われるとは思っていなかったので少し驚きましたが、そういう仕事の任され方もリクルートのイメージ通りではありました。
お店が頭を悩ませる「無連絡キャンセル」「フードロス」など解決の一手にも
―ご実家が美容室を営まれている和田さんは、お店で働く方にとっての「スマート支払い」の価値をどのように考えていますか?
和田:幼い頃から実家の美容室で働くスタッフの多忙さや長時間労働を見てきたので、少しでも働くなかでの負担を解消できたら嬉しいです。会計の作業は、地味だけれど手間のかかる作業で、積み重なるとスタッフの方にとって大きな負担になります。
和田:「スマート支払い」ではお店側がボタンをひとつ押すだけで会計が完了するため、業務に集中でき、他の作業や休憩時間に充てられる時間が増えるのでとても良いサービスだと感じます。ただ、うちの実家で営む美容室には、『ホットペッパービューティー』は導入されていないのが少し残念です。父が自分でシステムを作ってしまったので・・・(笑)。
―システムを作ってしまうなんて、エンジニア・和田さんのルーツを感じました(笑)。他にも、飲食店・美容室に共通する「無連絡キャンセル」の減少に貢献できると聞きました。
深海:無連絡キャンセル(No Show)は飲食店の経営にとって大きな打撃です。飲食店では大人数の宴会が入れば大量の食材を購入し、仕込みもします。予約を無連絡キャンセルされたり、直前にキャンセルをされてしまうと大量のフードロスが発生することに…。お店側や飲食業界だけでなく、社会にとって大きな問題であるフードロスの減少にも一役買えれば幸いです。
「使って良かった」と思える体験とシステムをデザインする
―今後、多くの方に便利な体験を届けるために、力を入れて行きたいことは何ですか?
深海:「スマート支払い」は来店するお客様、お店側の皆さん、双方にとってメリットがあるサービスですが、まだ新しい支払い方法なので利用イメージがつきにくい方も多いと思います。使う方の不安をさまざまな角度から解消しながら、「スマート支払い」にして良かったという体験を作り上げていきたいと考えています。
和田:「スマート支払い」の利用がさまざまなシーンに広がっていくと、サービスを開発する側でもたくさんの試行をすることになります。トライアンドエラーを繰り返し、スピーディに開発すると同時に、決済・金融に関わるサービスの性質上、品質もおろそかにはできません。
手堅く守って早く開発する。これは相反するように見えますが、プログラミングの過程できれいなコードを書くことで実現できると思います。修正しやすく洗練されたシステムを作り上げ、サービス進化を下支えしていきたいと思います。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 和田陵佑(わだ・りょうすけ)
- 株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 プロダクトディベロップメント室 販促領域エンジニアリングユニット 飲食・ビューティー領域エンジニアリング部 ビューティープロダクト開発2グループ
-
高専本科卒業後、ITベンダーで金融サービス関連アプリなどの立ち上げを複数経験。2019年リクルート入社後、『ホットペッパービューティー』Androidのエンハンス・保守運用に携わる
- 深海卓磨(ふかうみ・たくま)
- リクルート プロダクト統括本部 プロダクトデザイン・マーケティング統括室 プロダクトデザイン室 販促領域プロダクトデザイン3ユニット(旅行・飲食・ビューティー・事業開発) 飲食・ビューティー領域プロダクトデザイン部 飲食プロダクトデザイングループ
-
大学卒業後、現部署に配属。「スマート支払い」のUXデザインを担当